【ロングレポート】雨天続きのフジロック'17が映し出したもの
自己中心だと本当の意味では楽しめないから、フジロックはおもしろいのだと思っている。ギブ・アンド・テイク、もしくは、ギブ・アンド・ギブの精神のほうがずっと楽しめるのがフジロックであり、だからこそ、人生を体験しているという感覚がこの数日間にはあるのだろう。体はとことん疲れるし、さらに言えば大自然のなかで命の危険もあるから、自己が丸出しにされていってしまう。出演アーティストはステージ上でライブをおこない“矢面に立つ”が、我々オーディエンスだってそれぞれの人間性が試される瞬間を味わうことができるのだ。人間性が鏡のように映る。特に今年は雨天。もし目の前の子供が倒れたら、救い起こすことができる余裕が自分にあるか? 雨という悪条件でも可能な備えができているか? 常にたくさんの人で賑わっていたキッズエリアの浸透もあってか、年々、子供連れの参加も確実に増えているのだ。
そんなことを自問自答していたのは、雨がずっと降り止まず、だがしかし会場内を歩き回っていた2日目のことだ。フジロック公式ファンサイト「FUJIROCKERS.ORG」でのSMASH代表・日高氏のインタビューで紹介されていたアメリカのバンド、ウェスタン・キャラバンを観にヘヴンに向かっているときである。生粋のカントリー・ミュージックが初めてフジロックに登場するというこの機会には、思い思いに演奏を楽しんでいるいかにも音楽ファンな人々が年代問わずたくさん集まっていて、ペダル・スティール・ギター含む7名が、心に染みるバラードを響かせたりホンキートンクな空間を作っていた。その光景にはフジロックならではの音楽的な豊かさがあり、なかなか激しく振っている雨量も自ずと気持ちよさに変わってしまう。
▲フィールド・オブ・ヘブン
幸せな気分でそのまま奥地へ歩みを進めていくと、アバロンのエリアにたどり着く。そう言えば、ホワイトからアバロンへと向かうこの道の脇には切り株の椅子がいくつか用意されており、森の中に身を置ける休憩スポットができていて、会場はいまだにアップデートされていることを教えていた。レッド・マーキーの天井にも今年から新しい照明がつき、コンピュータ制御のLEDライトで「キネティックライト」と言うそうだが、とてもカラフルに変化し、今年充実していたクラブ系アーティストの各パフォーマンスをさらに盛り上げていた。
▲レッド・マーキー
アバロンは、フィールド全体の電力をバイオディーゼルや太陽光等のソフトエネルギーでまかない、CO2排出量の削減に取り組んでいるエリアであるが、ライヴ・ステージであるジプシー・アバロンを中心に、NGO村や、エコ雑貨などを販売するオーガニック村、ワークショップなどが集結している。ここで同じくSMASHが主催するキャンプイン・スタイルの秋フェス<朝霧JAM>のボランティアが運営する朝霧食堂の存在を認めると、「フジロックの3日間が過ぎ去っても次は朝霧がある」と自分を慰めた。特に今年の朝霧は(10月7日〜8日開催)、ベルセバ、サチモス、カール・クレイグ、UA、エゴ・ラッピン、ウィルコ・ジョンソンなどなど豪華なラインナップを誇るのだ。
フジロックの会場はエリア間に距離がありながらもこうして感じるものも多く、そうこうしているうちに辿り着いたオレンジ・カフェは、清々しいほどの泥地が広がりながらも(笑)、避難するには最適なフジロック唯一の屋根付きの大型フードコートには案の定溢れんばかりの人々が安らいでいた。昨年から登場したエリアだがさらにスペースが広くなったようだ。そんな景色の先で賑わいを見せていたのが桑田研究会バンドで、彼らは茅ヶ崎市公式行事に毎年招聘される実力派であり、昨年のオレンジ・カフェのパフォーマンスが話題になったサザンのトリビュートバンド。突然聴こえてきたクオリティーの高い「勝手にシンドバッド」の享楽に、つい15分前に聴いていたカントリー・ミュージックとのギャップを存分に味わい、その振り幅はいかにもフジロックらしかった。“トリビュート”という音楽史に脈々と受け継がれるスタイルも体現していた。しかもこの直前の同ステージには、まねだ聖子が、この後には王様が登場していたのだからフジロックは多様で自由だ。
加えてその意味では、今年から客席が少し広くなってちょっと見やすくなった苗場食堂で観た“むぎ(猫)”も、「意外とよくMCするんだ」と驚きつつも、演奏がはじまるととても曲がよく、これだけ子供も大人も笑顔にする理由をダイレクトに知れたアクトだった。
▲苗場食堂
雨と言えば、2日目のグリーンでトリをつとめたエイフェックス・ツインのステージは、まるで演出のように雨脚が強くなっていき、一瞬の油断も許さない怒涛のような音とゴシップネタまで網羅したVJの攻撃性を高めた。刺激的な空間のなかでタガが外れたように踊り狂う人の姿も認められた。その後も、7年ぶりにフジロックに出演したLCDサウンドシステムで私たちは共に歌い踊り、さらにレッド・マーキーのMONDO GROSSOでは満島ひかりが登場するわ、AM1時30分というピークタイムに現れたニーナ・クラヴィッツが信じがたくクールだわで、今年のラインナップの厚みを思い知った。余裕を持って3日間を過ごすべきだとわかっていながら、場内を歩き回ざるを得ないことが理解してもらえるだろう。▲エイフェックス・ツイン
▲LCDサウンドシステム
そのためのダイレクトな栄養補給がフェスごはんになるわけで、フジロックのごはんは特に量と味に定評があるのでできるだけ食すべきだし、お気に入りがきっと見つかると思う。だから今回のフジロックで個人的な一番の番狂わせも、ここ最近必ず食べていた「博多もつ鍋うみの」のちゃんぽんが本店の閉店により食べられなかったことだった……いつまでもあると思うな◯◯的な切なさを知りながらも、今まではカレー系しか食べたことがなかったオアシス・エリアの人気店“ジャスミン・タイ”のタイラーメンの美味しさに気づき喜びもした。
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