【インタビュー】イモレイション30年の集積、デスメタルかくありき

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30年のキャリアを誇るアメリカの伝説的デス・メタル・バンド、イモレイション。「イモレイションってどんな音楽をやっているの?」と聞かれたら、答えはひとつしかない。デス・メタルだ。

◆イモレイション画像

デス・メタルという音楽が生まれた80年代中期から活動しているイモレイションは、まさにデス・メタルというジャンルを開拓したバンドのひとつ。そしてその後30年間、一切ブレずにデス・メタルにすべてを捧げてきた成果が、すべて2月24日に発売になる10枚目のニュー・アルバム『アトーンメント』に注がれている。

『アトーンメント』は、2017年世界に漂う不穏な空気を音楽で表現したようなアルバムだ。とにかく暗く、激しく、そして重い。デス・メタル・マニアはもちろん、デス・メタルってどんな音楽なんだろうと興味を持たれた方にも自信を持ってお薦めできるデス・メタル・バンドによるデス・メタルと形容すべき王道アルバムだ。

『アトーンメント』について、ベース/ヴォーカルを担当するロス・ドランに話を聞いてみた。


──ニュー・アルバム『アトーンメント』がリリースになりますが。

ロス・ドラン:今回で10枚目のフル・アルバム、Nuclear Blastに移籍してから3枚目だけど、ファンは間違いなくこの作品を気に入ってくれると思うよ。今回もPaul Orofinoと一緒に、ニューヨークのMillbrook Sound Studiosで録音したんだ。ミックスとマスタリングも、前回と同じようにZack Ohrenにお願いした。アートワークもおなじみのPar Olofssonによるものだよ。さらにブックレットにはZbigniew Bielakによるアートワークも掲載されているし、このアルバムはビジュアル的にも非常に優れていると思う。音楽と歌詞、そしてアートワークがひとつの世界を作り出しているんだ。

──なるほど。音楽的にはどんな感じに仕上がっていますか。

ロス・ドラン:全体として、このアルバムはイモレイションの最高傑作に仕上がったと思う。出来ばえには非常に満足しているよ。本当に暗くて不気味なアルバムなんだ。イモレイションが28年間かけて定義したユニークな要素をすべて含んでいる、パーフェクトな作品になった。非常に激しくてカオティックなセクションから、ユニークな雰囲気を作り出す暗く催眠的なリズムとか、それぞれの曲に特徴がある。音楽的に、非常にバラエティに富んだ作品になっている。それぞれの曲がイモレイションのお馴染みの要素を色々と持っていて、おそらく音楽的にも歌詞的にもイモレイション史上最高の作品じゃないかな。

──過去の作品と比べて、最も進歩した点は何だと思いますか。


ロス・ドラン:音質についても、間違いなくイモレイション史上最高のものだ。オーバープロデュースで無機的なサウンドになることなく、それぞれの楽器に呼吸する余地が残っている。暗く、不吉な音質が音楽の原動力となり、すべてのダークな要素を本当に輝かせていて、イモレイションとして最高の音を作り上げているよ。素晴らしい音質のおかげで、この作品は過去の俺たちの作品と比べ物にならない出来になっている。『アトーンメント』のレコーディングを開始するにあたって、俺たちが一番注意したのがドラムのサウンドだったんだ。前作『Kingdom of Conspiracy』のドラムの音は、正直なところファンも俺たちも気に入っていなかったからね。あれはちょっと処理しすぎて、デジタル臭くなりすぎてしまった。だから、今回はその点にとても注意を払ったんだ。スティーヴのドラム・キットの音を自然に、かつきちんと捉えられるようエンジニアのZackと緊密に作業をした。結果として、今回のドラム・サウンドは非常に自然かつ激しく、ヘヴィで華やかなものになったと思う。曲の中で、ドラムが他の要素を覆い隠してしまうようなこともないし。やっぱりこのドラム・サウンドの改善が、今回のアルバムの一番の改善点だと思うよ。

──アルバムのタイトルを「アトーンメント=贖罪」としたのは何故ですか。タイトル曲は、イスラムの問題についてともとれますが。

ロス・ドラン:アルバムのタイトルは、あらゆる宗教における過激思想を持つものについてだよ。特定の宗教を取り上げているわけではなく、人の過ち、破壊的な道へと人を導く現実からの乖離のような広いトピックさ。タイトル曲は、この題材について深掘りしていて、実を言うとこの曲の歌詞の一部が、アルバムのアートワークのインスピレーションにもなっている。「憎しみの天使が今お前の翼を広げ お前のトゲを俺たちに降らす かくも赤い清き聖水を塗り 俺たちから可能な限りすべてを奪い」というところさ。この部分を読んでもらえれば、アートワークのコンセプトがどのように生まれたか、何を意味しているのか、Par Olofssonがいかにうまく、これを可能な限りダークに表現したかがわかるだろう。俺たちはこのアルバムの見ばえや感触の出来について、最高に満足している。『アトーンメント』というタイトルも、今日の世界の状況を表す完璧なものだと思うよ。これは初期の(イーヴルな)歌詞のコンセプトにも、『Unholy Cult』以降の(社会的な)方向性のどちらにも合うものだしね。

──歌詞では現代社会について歌われていますが、今日の社会における問題とは何だと思いますか?資本主義でしょうか、それとも宗教なのでしょうか。

ロス・ドラン:『アトーンメント』の歌詞は、俺たちを取り巻く世界や、人々をコントロールし誤った方向へと導く様々な方法について、非常に批判的に見ている。今日世界は様々な問題に直面しているけれど、一番の問題は俺が思うに世界のあらゆるところに染みわたっている、人々を仲違いさせようとする力さ。こういった不和は様々な形、色々な顔を持って現れる。そして不和を起こそうとするのは、たいてい宗教であり、また人種問題、政治などだ。アルバムでは宗教的過激思想だけでなく、これらの問題や、人間性の非常に暗く狡猾な面についても触れている。俺たちがこのアルバムで扱うトピックは多岐に渡っているけれど、それらはどれも非常にリアルで関係が深いものだ。そしてそれらはすべて今日の世界をよく表しているものさ。

──「デストラクティヴ・カレンツ」は何について歌っているのでしょう。


ロス・ドラン:あれは群集心理についてさ。いかに人々が、暴力や人間の根源的発言を引き起こすような嘘だらけの風潮に操られてしまうのか。こういう破壊的な風潮は人々の恐怖や不安につけ込んで、人々を憎しみ合わせ、戦いへと駆り立てる。こういうことについて、歌詞として成立するように書き上げるのは簡単ではなかったけれど、仕上がりにはとても満足しているよ。

──不協和音的というか、無調的なリフというのはイモレイションのトレードマークのひとつとなっていますよね。特に今回のアルバム冒頭のリフは、非常に印象的なものです。こういうリフというのはどこからインスピレーションを得ているのですか。メタル以外の音楽なのでしょうか。

ロス・ドラン:曲はすべてボブ(ロバート・ヴィグナ/ギタリスト)が書いているのだけど、彼はメタル以外の音楽から多くのインスピレーションを受けているようだ。ジャズ、クラシック・ロックにブルース、ポップスやダンス・ミュージック、実験音楽まで、非常に幅広い音楽が好きだからね。結局は彼のスタイル、作曲方法としか言いようがないね。彼が使う多くの不協和音は、イモレイションというバンドに非常にマッチしている。こういうリフというのは、音楽にとても暗くて不安な感触を与えるだろう。不協和音と幾重にも重ねられたギター・セクションが、暗くてエピックな雰囲気を作り出すんだ。冷たくて恐ろしいフィーリングも保持したままね。これはイモレイションのサウンドにとって非常に重要な要素さ。

──結成当時はどのようなバンドから影響を受けていたのでしょう。

ロス・ドラン:皆と同じようなものさ。クラシック・ロックを聴き始めて、その後Iron MaidenやJudas Priest、Dioといった初期のメタルの名作を聴くようになった。その後Venom、Slayer、Destruction、Sodom、Kreator、Celtic Frost、Possessedのような、さらにヘヴィなバンドを発見した。もちろんMetallica、Exodus、Nuclear Assaultなどのように、当時のヘヴィ・ミュージックの限界をさらに推し進めたスラッシュ・クラシックスも聴いていたよ。やはりイモレイションの音楽を作る上で影響を受けたバンドということになると、Possessed、Slayer、Dark Angel、Destruction、Kreator、Sodomあたりかな。

──来日を期待する声も大きいですが。

ロス・ドラン:そうだね、イモレイションをずっと追い続けてくれているダイハードなファンたちのために、そろそろ日本に行かなくてはいけないな。日本でライヴをやったことがある友人たちから、日本について素晴らしい話は色々聞いている。『アトーンメント』がリリースされたら、ぜひとも日本でもライヴをやりたいね。

──では最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

ロス・ドラン:長年のサポートに、とても感謝している。一日も早く日本のファンに、俺たちの音楽的暗闇を撒き散らす機会がやってくることを期待しているよ。その時まで、ニュー・アルバムを楽しんでくれ!

取材・文:川嶋未来/SIGH


イモレイション『アトーンメント』

2017年2月24日 世界同時発売
【通販限定CD+Tシャツ】¥5,000+税
【CD】¥2,500+税
※日本語解説書封入/歌詞対訳付き
1.ザ・ディストーティング・ライト
2.ホエン・ザ・ジャッカルズ・カム
3.フォスタリング・ザ・ディヴァイド
4.ライズ・ザ・ヘレティックス
5.スローン・トゥ・ザ・ファイア
6.デストラクティヴ・カレンツ
7.ローワー
8.アトーンメント
9.アバヴ・オール
10.ザ・パワー・オブ・ゴッズ
11.エピファニー
12.イモレイション(ボーナストラック)

【メンバー】
ロス・ドラン(ヴォーカル/ベース)
ロバート・ヴィグナ(ギター)
アレックス・ボウクス(ギター)
スティーヴ・シャラティ(ドラムス)

◆イモレイション『アトーンメント』オフィシャルページ
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