ブロックを叩いてなぞって曲作り、誰でも弾けるおもちゃみたいな電子楽器ROLI BLOCKSデビュー
タッチセンサーにより多彩な音色変化が表現できるシリコン製サーフェスを持つキーボード「Seaboard RISE」で話題を集めたイギリスのROLIから、「BLOCKS」というまったく新しい楽器が登場した。表面を指で叩いたりなぞったりして演奏や曲作りが楽しめる、手のひらに乗る小さいブロック=BLOCKS。「すべての人をミュージシャンに変える」というBLOCKSの魅力をチェックした。
■iOSアプリと組み合わせて使う楽器、接続はワイヤレス
BLOCKSは、無料ダウンロードのiOS用音楽アプリ「NOISE」と組み合わせてプレイするのが基本。NOISEは多彩な楽器音を揃えたソフトウェア音源や演奏を記録するシーケンサー機能を持ったアプリ。一方、BLOCKSのハードウェアは音源は持たず、あくまでもコントローラーとして機能する。iOSデバイスとの接続はBluetooth LEによるワイヤレス。本体サイズは縦横ともに9.45cm、厚さは2cm、重量は250g。iPhoneといっしょに手軽に持ち運べるコンパクトさも特徴だ。
▲BLOCKSのメインデバイス「Lightpad Block」。充電池内蔵で、奥のUSB Type-Cコネクタで充電を行う(USB Type C-USB 3ケーブルが付属)。手前のボタンは電源&Bluetoothのペアリング用、左側面にはパート切り替えのボタンがある。各側面の左右の金属端子はほかのBLOCKSモジュールを接続するためのもの。複数台の「Lightpad Block」をつなぐことも可能だ。
iPhoneでNOISEを起動、BLOCKSのハードウェアを認識させれば、すぐに演奏が楽しめる。NOISEの画面には4×4または5×5といった色の付いた四角いボタンが表示されるが、BLOCKSにも同じ配置で色の付いた四角が表示される。BLOCKSの表面はタッチセンサーを内蔵したシリコン製、そこには無数の穴が空いており内部のLEDの光を通すようになっている。NOISEでの演奏は、iPhoneの画面のボタンを押してもいいし、BLOCKSを叩いてもいい。でも表現力があるのは圧倒的にBLOCKSの方だ。まずは公式ムービーで独特な演奏方法のイメージをつかんでほしい。
BLOCKS表面のセンサーは、叩いた際の強弱はもちろん、その後押し込んだ力の強さの変化、指を上下左右にスライドした動き、そして指を離した時の速さを検出。これらが楽器演奏の表現力を生み出す。強さは音量を、左右に動かすジェスチャーは音程変化を、上下のジェスチャーは音色変化をといった具合(効果は選んだ音色により異なる)。一般的なパッドコントローラーとは違い、チェロやサクソフォンといったアコースティック楽器のように、発音してからの時間的な変化を自在に操れるというわけだ。しかも、これらの変化は1音1音別につけられるのもポイント。たとえば、MIDIキーボードでドミソと3つの鍵盤を押した状態でピッチベンドすると3音すべてが同じように上下するが、BLOCKSではドはピッチを下げ、ミはそのまま、ソは上げるといったことが可能になる。これはROLIのキーボードSeaboardと同じ。こんな小さなボディのBLOCKSにもSeaboardと同様の5D Touchのテクノロジーが使われているのだ。
▲BLOCKSはiPhone、iPadと組み合わせて使用する。iOSデバイスとBLOKCSの表示は連動しており、右の写真ではiPhoneで操作した際の指の動きの軌跡が、BLOCKS側にも表示されているのがわかるはず。
「でも、そんな演奏ができるのは経験のあるミュージシャンだけじゃないの?」 ごもっとも。確かにそこまでの演奏をビギナーがいきなりできるわけではない。しかし、NOISEには音楽未経験でもカンタンに演奏が楽しめる仕掛けが用意されている。
■ドラムもメロディも誰でもカンタンに演奏できる!
▲NOISEのメイン画面となるInstrument View。画面上部の丸いボタンが並んだ部分は左右にスワイプすることでさまざまな機能にアクセス。起動時は(左)は再生/録音/Learn(デモ画面)/Back(アンドゥ)などのコントロール。右上はクリック/オクターブ/サスティンペダル、下はスケール/コード/アルペジオ。下の四角いボタンはパートの選択。アルペジオではパターン(Up/Down/Up Down/Down Down Up/Randomなど7種類)、ゲート(発音の長さ)、タイム(付点2分音符~三連32分音符まで)、オクターブの設定が可能。
NOISEは4つの楽器パートがあり、各パートで異なる楽器音色が選択可能、その音色で演奏を重ねていくことで曲を作る。1つめのパートはドラム用。4×4のボタンそれぞれにバスドラムやスネア、効果音などが割り当てられたドラムキットが複数用意される。BLOCKSをドラムパッドとしてリズミカルに叩けばトラックが作れるというわけだ。
ここで注目は、Groove Kitと名付けられたキット。こちらは一般的なキットとは違って、各ボタンにリズムループが割り当てられており、押している間音が鳴り続ける。あるボタンはバス・ドラムの4つ打ち、別のボタンはハイハットの刻みが入っている。リズム感がなくても、好きな分だけボタンを押し続けるだけでリズムトラックが組み立てられる。さらに、押した指を上下左右に動かせばフレーズや音色も変化、多彩なバリエーションが生み出せる。次々に変化するリズムを自分の指で生み出す感覚は、これまでの楽器やソフトでは味わったことのないものだ。
▲写真はそれぞれBLOCKSの表面とNOISEの画面の組み合わせ。ドラムキットは4×4(左)のほか、2×2のキット(右)も用意。キット内の色分けはバス・ドラムが青、スネアが水色、オレンジは金モノといった具合にある程度見た目でわかるようになっている(キットにより異なる)。
ドラム以外のメロディ楽器パートの演奏もNOISEならではの工夫がある。それは調(=スケール)に合った音だけが光るというというもの。音楽理論がわからなくても、ここだけを弾いていれば音を外す心配はない。スケールから外れた、光っていない(=黒い)ボタンも叩けば鳴るので、わかっている人ならあえてそれを弾くのもあり。また、スケールから外れる音を隠す設定もあり、これならどのボタンを押してもOKだ。スケールはメジャー、マイナーはもちろん、ブルースにペンタトニック、アラビアンやチャイニーズ、RyuKyuなど19種類が用意されている。
▲メロディパートでは、スケールの音階が飛び飛びで表示される(左)。初期状態ではCメジャーで、ルートが白になっている。設定によりスケールから外れる音を非表示にすることもできる(右)。この写真は見にくいが実物はもっとはっきり色がわかるのでご安心を。
このほか、アルペジオやボタン1つでコード演奏ができる設定も用意。この2つの設定は演奏記録後でもON/OFFでき、それがまた予想外のフレーズとなるのもおもしろい。
■Song Viewでループを組み合わせてアレンジ
演奏したフレーズは、4小節を1単位の「ループ」としてレコーディングが可能。ここまでがInstrument Viewという画面での操作だ。上下スワイプの操作で画面をSong Viewに切り替えると、各パート12のループスロットが用意されている(iPhoneでは4スロット×3画面の切り替え)。各スロットにループを記録していき、これらを自在に組み合わせることで曲を展開させるのが、Song Viewでの操作になる。色の付いていないスロットをダブルタップすれば、Instument Viewに切り替わり新たなループをレコーディングできる。
▲左がSong Viewの画面。色が付いているスロットがレコーディング済み。タップで選択されたスロットはほかのスロットをタップするまでループ再生される(再生中のスロットのタップでミュート)。中は歯車アイコンで開くセッティング画面、右はプロジェクトを選んだり新たに作成する画面。NOISE.fmへのアップロードもここで行う。
ループ主体の曲作りとなるので、NOISEだけでポップスを作るというのはちょっと難しいが、EDMやテクノなどダンスミュージックを作るにはばっちり、シンプルでわかりやすい仕様だ(ちなみに内蔵音源もシンセサウンドがメイン)。
出来上がったループはNOISE.fmというソーシャルネットワークサイトにアップロードが可能。気に入ったループにコメントや「いいね」を付けることもできる。「NOISEでどんな曲ができるの?」と思っている人はまずはこちらをチェックするのがいいだろう。
■複数のデバイスを組み合わせて使えるモジュラー式楽器
BLOCKSのもう一つのキャッチフレーズは「モジュラー・ミュージック・スタジオ」。モジュラーというと、モジュラーシンセのようなたくさんのケーブルをつないで音作りをする難解な楽器を想像する人もいるかもしれないが、BLOCKSの「モジュラー」はまったく別物。四角い箱状のデバイス同士を上下左右にマグネットでつなげることで、機能をカンタンに増やすことができる。どちらかといえば、おもちゃのブロックのようなイメージだ。
デバイスは3種類あるが、ここまで紹介してきたのがBLOCKSの中核を成す「Lightpad Block」というデバイス。これだけでも十分楽しめる。このほかに「Live Block」と「Loop Block」というモジュールあり、これらを使うとワンクリックでNOISEのさまざまな機能にアクセスできるようになる。NOISEの操作に慣れてくると、機能を呼び出すの際のスワイプによる画面切り替えが面倒に感じることもあるが、「Live Block」と「Loop Block」がそれを解消してくれるというわけだ。ライブパフォーマンスを考えているならぜひこちらもゲットしたい。
▲Live BlockとLoop Block。Lightpad Blockの上下だけでなく、右の写真のように左右に取り付けられる。
■ROLIによるローンチイベントが開催
BLOCKSは12月14日より全国のApple Store限定で販売が開始されており、年明けからは国内代理店を通じた一般発売が始まる。日本での販売スタートにあわせてROLIのスタッフが来日、16日にBLOCKSのローンチイベントが開催された。
▲イベントはパリージ兄弟のライブでスタート(左)。「アコースティック楽器でできたことをデジタルでもできないか?」と画期的な楽器を作るにいたった経緯やBLOCKSの機能を語ったのはROLIのダニー・サイガー氏(右)。
イベントでまず語られたのは、同社の最初の製品について。「Seaboardはスティービー・ワンダーやハービー・ハンコックをはじめ世界中のアーティストにいろんなところで使われています」とSeaboardが世界中のアーティストから高い評価を受けていることを紹介。「しかし、我々はプロフェッショナルなアーティストのみならず、誰もが音楽を作れるような製品を作ることをミッションとしています」と続ける。「音楽は世界の共通言語と言われますが、誰でも音楽を聞いて楽しむことはできるものの、音楽を話す=弾いてそれを伝えることができるかというとそうではありません。でも、このBLOCKSのリリースによって初心者でも音楽を作って楽しむことができるようになります。もちろん、プロフェッショナルな音楽家も制作に利用して、より幅広い表現ができます」とBLOCKSの魅力をアピールした。
▲小さなデバイスで多彩な演奏表現ができることを紹介(左)。ハンズオンスペースではMacとの組み合わせも用意(右)。BLOCKSは汎用MIDIコントローラーとしても使用可能、デモはSeaboard付属のシンセEquatorやGarageBandで行われていた。なお、付属のUSBケーブルによる接続も可能なので、Bluetooth MIDI(BLE MIDI)非対応の古めのOSでも使用が可能だ(ちなみにWindowsでも使用できた)。
続いて披露されたプロミュージシャンのマルコ・パリージ、ジャック・パリージのパリージ兄弟によるデモ演奏は圧巻。チェロ、サックスの音色でBLOCKSをまるでアコースティック楽器のように表現力豊かに演奏。リズムやシンセ、リードなどさまざまな音色を次々に重ねて曲作りをするプロセスも見せてくれた。また、アコースティックドラムキットの音源を使ったリズムのレコーディングでは、叩く強さにで音量が変わるだけでなく音色も変わることを説明、「まるで本物のドラムを叩いているような表現がBLOCKSできる」「さらに強く押したり指を揺らしたりすることで、ドラムの音色でさえモジュレーションをかけることもできる」と、BLOCKSならではの演奏表現の魅力を語った。
作った曲をシェアできるサイトNOISE.fmはスタートしたばかりだが、今後の展開も興味深い。アップロードされた曲を他のユーザーがダウンロードしてリミックス、それを再びシェアするといったソーシャルネットワークならではの楽しみ方ができるようになるという。また、ローンチのタイミングでスティーブ・アオキやウータン・クランのRZA、Grimesなど世界の著名なアーティストが参加、彼らが作った音楽をダウンロードしてユーザーがリミックスするようなことも可能になる。さらに、彼らの制作によるサウンドキットも発表、NOISEで使えるようになる予定だ。
BLOCKSによる演奏や音楽制作は非常に楽しく、「すべての人をミュージシャンに変える」というキャッチフレーズも納得できるもの。とはいえ、この感覚は実際に触ってみないとなかなかわからないかもしれない。BLOCKSが店頭に並んだら、ぜひその独特なスタイルの演奏を試してほしい。もちろん、まずはアプリのNOISEを試すというのもありだ。今回紹介した機能はNOISEだけでも存分に楽しめる。しかもNOISEは無料だ。演奏すること、音楽を作ることの楽しさをこの機会に味わってほしい。
製品情報
価格:21,800円(税別)
◆Live Block
価格:9,800円(税別)
◆Loop Block
価格:9,800円(税別)
発売日:2016年12月14日