【BARKS×楽天ミュージック特集】清春が語る、変貌するリリース形態の現在・過去・未来「求められるのは広さよりも深さ」
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■日本におけるロックの世界での
■目指すべき権威みたいなものもあるといい
──つまり各々のお店の在庫がクロスオーヴァーしていくのではなく、お客さんが訪れる専門店の数が増えていけばいい、ということですか?
清春:そうですね。結果、たとえば“ヴィジュアル系の店とラウド系の店の客層がダブってるね”ということになるなら、それでいいと思うんです。ひとつの場で、ジャンルの壁を越えながら何かを薦められたりすることというのもリスナーの側にとって魅力的なのかもしれないけど、むしろそこで求められるのは広さよりも深さというか。フェスとかのラインナップのあり方についても、同じようなところがあると思うんです。そういう意味では、一時はボーダーレスであることがクールだとされていたけど、むしろジャンル分けを徹底的にしたほうがいいんじゃないかと僕には思えてしまう。何でもかんでも出ているフェスよりも、好きなものだけが出演してるフェスに行きたいわけじゃないですか。服とかについても同じですよね。僕自身もアパレルやってますけど、僕みたいな人は、服を買うのに百貨店に行こうとは思わないですもん。何でも広く浅く揃えてる店よりも、好きなものしか置いてない店に行くわけです。路面店でも通販でもそれは同じことで。だから配信の未来としては、ひとつひとつの専門性を深く追求するようであって欲しいというか。あり得ないくらいマニアックなところまで品揃えが及んでたら素敵ですよね。一般の店ではもう買えないものが手に入ったりとか。実際の路面店の場合はスペースの都合で、抱えられる在庫の量も決まってくるけど、配信の場合はその制限が無いとまでは言わないにしても、とてつもなく大きいわけじゃないですか。そこで、“今、まだ活躍してる人”のアイテムしか買えないというのは、ちょっと違うんじゃないかという気がするし。
──それは、面積の限られたお店でもできることですからね。
清春:うん。手に入りにくいものが手に入ってこそ、というのがあると思うんです。しかも日本のロックには今のところ“ロックの殿堂”みたいな権威づけというのがないじゃない? 野球で言うところの名球会みたいな。そうしたものが設けられて、殿堂入りを果たしたことである程度の“格”みたいなものが保証されるんであれば、そういうポジションを目指して頑張っていこうという気にもなれると思うんです。そういう権威みたいなものが定着すれば、僕らみたいな世代が目指すべきものも見えてくるんじゃないのかな。ちなみに増田さんは僕よりちょっと先輩ですけど、やっぱりダウンロードするよりも“盤”で欲しいほうなんですか?
──そうですね。僕の場合、モノとして欲しいという物欲もあるにはありますけど、それ以上に仕事上の理由で“アルバム”という単位自体が重要になってくるというか。アーティストがその単位を基準に作品を作っている限りは、単体としての楽曲をたくさん聴くこと以上に、その単位で音楽を聴くことが取材をするうえでも必要ですし、それに伴うアートワークやクレジットひとつをとっても大事な資料ということになってくるわけなので。
清春:そうですよね。棚に並べたいから、とかだけではないんですよね。でも、好きなCDを並べるとか、好きな作家の本を並べるというのも大事なことだと思うんです、人間にとって。パソコンのなかに全部取り込めちゃうんだけど、ある意味、それがその人の人生を豊かなものにしてくれる。そういう感覚を持っている人が多ければいいな、と思うんです。そういう意味では、配信サイトからそのまま盤の購入へと誘導される、というやり方については歓迎したいですね。もちろん僕としては“CDは廃れていっちゃうんだろうな”と思うのと同時に、従来とは違う感じで残っていくはずだとも思ってる。たとえばどんなにネット通販が発達しても、旅行に行った時にお土産屋さんに寄るじゃないですか。そういう感覚で立ち寄るものになっていくのも、CDショップのこれからの可能性のひとつだと思う。それこそ海外から来る人たちにとっては、日本に来れば日本にしかない音楽があるわけで、それを買いに行きたいっていう感覚もあるはずだと思うんです。爆買いまでするかどうかはともかく(笑)、日本にしかないものを外国の人たちは求めてるわけで。そういう需要に応える場になればいいんじゃないかな、とも思うんです。そういう意味でも、日本ならではのアイデンティティのある音楽であることって大事だと思う。でも、今の日本でいちばん売れてる音楽は、そういうものじゃないからね。
──ええ。とはいえ清春さんがこれから先、いわゆるジャパネスク路線に進もうとしているということではないんでしょうが(笑)。
清春:どうでしょうね(笑)。それよりもまず、あとどれくらい続けていくのか、というのが……。僕の場合、清春という日本語の名前で、ツアーのタイトルにも今回は日本語を掲げてるわけですけど、日本人としての自分の心情を伝えるからといって、富士山とか相撲とか寿司とか、そういうものについて歌うわけじゃないわけで(笑)。そういうのもあっていいんだろうけど、コンセプトとしても行き過ぎだと思う。だけど自然にその音楽に日本人としてのアイデンティティが入ってしまうというか、それ自体が日本人にしか作れないものになっていくというのはあるはずだし、そこに自信を持ってやっていくことが素晴らしい、ということになっていけばいいなと思っていて。もちろんそこにイギリスやアメリカのロックへのオマージュもたくさん入っていていいと思うんだけど、それが結果として“これは日本人じゃなきゃあり得ない完成形だよね?”っていうものにごく自然になっていければいいんじゃないかなと思う。洋楽に負けないクオリティで、日本人ならではのものを作れるようでありたい、というかね。洋楽のほうが絶対的に素晴らしいとか、洋楽だからすごい、みたいな風潮ってずっとあったじゃないですか。そういう考え方はもう絶対ダサいんですよ。ダサいというか“洋楽っぽいからクオリティが高い”みたいな価値観というのは、次世代のことを考えるべき人たちにとってはもう古いものであるはずで。
──そういう発想自体、洋楽コンプレックスの表れでしかないですもんね。
清春:まさに。そういう意味でも、日本におけるロックの世界での、目指すべき権威みたいなものもあるといいと思うんですけどね。
──レコード大賞とかそういったものとは違う次元のものとして、ということですよね?
清春:うん。“このアーティストは何年間にわたり活動して続け、何枚をリリースし、これまで何本のライヴをやってきた”とかね。そういうことがきちんと“賞”のような形で評価される場ができればいいのにな、と思う。そういうことについて“殿堂入り”みたいなわかりやすいものがあれば、たとえば若い子たちに対して自己紹介するときでも「僕、殿堂入りしてますんで」の一言で済むじゃないですか(笑)。
──CDのケースにも“殿堂入り”のシールが貼ってあるとか。
清春:いいですね、それ(笑)。一目でわかりますもんね。そういうシステム、作って欲しいんですよ。そういうのがないと、ベテランたちは辞めていっちゃうし、若い子たちも永く続けていくことを目指しにくくなっていくはずで……。とはいえ僕はまだマイペースで続けますけどね(笑)。
取材・文◎増田勇一
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