【ライブレポート】<VISUAL JAPAN SUMMIT 2016>3日目後編「またみんなと会えるよう、俺たちも頑張っていくから」
午後5時40分。タイムテーブル上に記されたLUNA SEAの開演定刻が訪れると、場内に手拍子が自然発生する。そしてその場が暗転し、お馴染みの「月光」が聴こえてきたのは、それから6分ほどを経た頃のことだった。ミラーボールに反射する光が、会場の無機質な天井全体を星空へと変えていく。
公演初日にあたる16日のステージには、白を基調としたコスチュームで登場してどよめきを誘った5人だが、この日はいわば正調のダークないでたち。RYUICHI(Vo)が一歩前に歩み出て「幕張、行くぞーっ!」と雄叫びをあげると、次の瞬間にパイロとともに爆裂したのは、意表を突く「ROSIER」。ライヴの終盤、すでに燃え広がった火の海に油を注ぐのがこの曲の常ではあるが、もちろん起爆剤としての効力も抜群だ。そして続くは「BELIEVE」で、RYUICHIのMCを挟んでの3曲目は「END OF SORROW」。どちらも初日のステージでは演奏されなかった楽曲だ。改めて言うまでもないことだが、誰もが聴きたいはずのマスト・チューンを厳選して並べただけでも、このバンドの場合はそれが1時間には収まりきらない。今回のように出演日が2日あるのであれば、双方のステージを通じてなんとかそれらをほぼ網羅することが可能になる。もちろん前述の「ROSIER」をはじめ両日の演奏メニューに重複した楽曲もありはしたが、終演後に改めてそれを数えてみると、「ROSIER」と「I for You」、そして「TONIGHT」と「WISH」の4曲にしか過ぎなかった。
第一夜と第三夜のセットに明確なテーマ分けがあったわけではないのだろうが、この第三夜のステージは結果的に『SHINE』~『LUNACY』期のシングル曲群が目に付く演奏内容になっていた。また、第一夜、ステージ上に大量の炎を噴出させながら披露された「FACE TO FACE」が僕としては非常に印象的で、こうした楽曲がいわゆるヒット・シングルとは別の意味において不可欠なのだということを実感させられたのだが、この第三夜においてそれと同じ印象を抱かされたのが「Sweetest Coma Again」だったことも付け加えておきたい。
今回のVJS出演がLUNA SEAにとっての今後の時間の流れにどのような影響をもたらすことになるのかはわからないが、このステージ上でRYUICHIが〈加速度〉という言葉を幾度か口にしていたことが僕には印象的だった。それは単純に、持ち時間の限られたステージだからこそそれを大事にしたいという意味合いで発されたものだったのかもしれない。が、僕にはこれからの活動のあり方をも示唆する言葉のように感じられたのだ。
最後の最後、「WISH」の余韻のなかで、ステージ上もフロアもみんな手を繋ぎ、ひとつになってジャンプを決める。RYUICHIは「幕張、愛してるよ! バイバイ!」と告げ、INORAN(G)は「最高の満月の夜だ!」と叫び、その場を後にする。J(Ba)はピースサインを掲げて「最後まで盛り上がっていけよ!」とメッセージを残し、ステージ中央で深々と礼をしたSUGIZO(G)は投げキッスをして去っていった。午後7時56分のことだった。
続いてはVISUAL STAGEが最後の出演者を迎える。己龍の登場だ。そのヴィジュアルやバンド名のみならず、サウンドや歌詞の面にも“和”のテイストを取り入れている彼ら。オープニングSEについてもそうした色は貫かれているし、まばゆい光のなかで炸裂した1曲目の「天照」もまさにそうした楽曲。こうした多数のバンドが出演する催しというのは、〈いつか機会があれば観てみたいと思っていたバンド〉のライヴ・パフォーマンスに一度に触れられる好機でもあるわけだが、僕自身にとってはこの己龍もそうした存在のひとつだった。つまり〈とにかく勢いがある〉といった評判は耳にしていたものの、これまでに一度も観たことがなかったのだ。
が、この夜のライヴに触れてみて、彼らがいわゆるライヴハウスのシーンに収まりきらない支持を集めていることについては納得ができた。このバンドについて検索をかけて調べてみると、たとえば〈和製ホラー〉といった言葉にも出くわすが、確かに楽曲のタイトルや歌詞などにもそれは表れているものの、5人それぞれに色分けされたそのキャラクターは、むしろ〈和テイストのゴレンジャー〉的でもある。そんな色とりどりのメンバーたちが、歌詞的にも見せ方の面でもフックのある楽曲を演奏し、振り付けや扇子を掲げる動きなどでオーディエンスを束ねようとするのだから、盛り上がらないはずもない。
しかも彼らは、この場で未知の客層に自分たちの特色を知らしめるのみならず、ある種の大胆不敵さをも印象付けた。「憧れ続けていたLUNA SEAとX JAPANの狭間で……」と語り始めたフロントマンの黒崎眞弥は「幸せを感じています」と語り、「馴染み深い曲、親しみを込めて」と次の曲へと観衆をいざなっていく。そこで披露されたのは、なんと「ピンクスパイダー」だった。しかもそこに、しっかりと彼らなりの色が反映されている。これは見事だった。そのうえで「大本命が控えているのはわかるけども、どうかあと1曲、僕らに付き合ってはくれませぬか」と言いながら「百鬼夜行」でとどめを刺す。最後は深々と礼をして去っていった彼らだが、この不敵さ、なかなかのものである。
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