【レポ】音楽もウォークマンも、理屈よりも直感が大事
すでにお伝えした通り、10月9日(日)、福岡のソニーストア福岡天神にて、<フラッグシップモデル体験会>が開催された。間もなく発売予定の最新のウォークマン「WM1シリーズ」と最新のヘッドホン「MDR-Z1R」を実際に使って音質を確かめることができ、KIRINJIの堀込高樹とソニー開発担当者のトークショーも行われたこのイベントには、多数の応募の中から抽選で選ばれたラッキーな30人が招待された。ウォークマンやヘッドホンの開発秘話が飛び出し、彼らの「よい音」にこだわる熱い想いも伝わった、内容の濃いトークショーの様子をお届けする。
ソニーストア福岡天神2Fに設けられた会場には、ウォークマン「WM1シリーズ」と「MDR-Z1R」がいくつも用意されていた。このウォークマンとヘッドホンが参加者に手渡され、まずは試聴タイムからイベントの開始だ。ウォークマンに入っているのは堀込高樹が推薦したアルバムからの楽曲で、KIRINJIの「The Great Journey (feat. RHYMESTER)」とビーチボーイズの「God Only Knows」だ。みんな一心不乱にヘッドホンから流れる音楽に耳を傾けている。このウォークマンを使うのは初めてのはずだが、操作に迷う人は見当たらない。インターフェイスが使いやすく改良されたおかげだろう。そして試聴が終わった参加者は、配られたアンケート用紙に回答を記入していく。これには堀込高樹や開発者への質問を記入する欄があり、このイベント中に本人たちに質問をぶつけることになっている。
■堀込の印象は「音楽を聴くのが楽しい。とにかくクリアな音」
試聴タイムが終わると、司会のBARKS烏丸編集長に呼び入れられ、ソニーの開発担当者の寺井孝夫氏(ウォークマン開発担当、以下敬称略)と潮見俊輔氏(ヘッドホン開発担当者、同)とともに、KIRINJIの堀込高樹が登場。会場は熱烈な拍手で包まれた。いよいよトークショーの始まりだ。まず司会の烏丸が、新製品のウォークマンとヘッドホンをしばらく試用していたという堀込高樹に感想を訊く。
▲KIRINJI堀込高樹
──堀込さんにはしばらく両製品を使っていただいたんですが、いかがでしたか?
堀込:よかったです!普段はヘッドホンはあまり使わないんです。仕事でオーバーヘッドタイプを使うことはあるんですが、そういうときに使うのはあまり音に色気がないんです。
──モニター用というやつですね。
堀込:そうです。今回のこのウォークマンとヘッドホンの組み合わせは、それとは違って、ホントに聴くのが楽しいんです。とくに音が色付けされている感じはないんですが、ちゃんと音楽的な再生ができるんですね。それと、普通は音量を上げていくと音が飽和してしまうんですが、この組み合わせだとそれがない。かなり音量を上げてもちゃんと聴けました。とにかくクリアだったのも印象的で、画像でいえば解像度が高い感じ。メガネ屋さんでメガネを洗浄してもらうと、すごくクリアになるでしょう(笑)?あんな感じなんです。
とても感激した様子で興奮気味に話す堀込の言葉を聞いていた開発担当者が、笑顔で口を開く。
寺井:今のお話、作られた音をきちんと伝えたうえで音楽を感じられるというのは、製品を作る側からすると成功だったといえますね。
潮見:ミュージシャンの方が表現したい音に「何も足さず、何も引かずにありのまま伝えたい」という気持ちがあったので、それを感じていただけたならホントにうれしいです。
これまでにない高音質を実現した両製品。その秘密が徐々に明かされていく。まずは、自らも音楽好きという開発者が、今回のフラッグシップモデルのコンセプトを明かした。
潮見:簡単にいうと、臨場感を再現したいという想いで設計・開発しました。堀込さんたちミュージシャンがスタジオで録った、その雰囲気が伝わるようにしたかったんです。
寺井:ミュージシャンの方が作った音楽を、私たちは正確にかつ楽しく伝える。つまり“音楽を楽しむ”というのがもっとも大きなコンセプトです。私たちも、ミュージシャンが音楽を作るのと同じく、音楽を楽しめるように、と思って作っています。
──それにしても今回の製品は、どちらも突き抜けた設計になってますよね。
潮見:実は私たちも音楽が大好きで、演奏したり歌ったりという経験があり、ライブにもたくさん行ってその場の臨場感も体験しています。だから伝えたいものが自分の実感としてあるんですね。今回は、それをすべて注ぎ込み、できることはすべてやろうという、意地のようなものもありました。
寺井:その結果、ちょっと重くなってしまって(笑)。
潮見:ヘッドホンもちょっと大きくなってますけど、それも全部意味があるので。
▲ウォークマンNW-WM1ZとヘッドホンMDR-Z1R。
■音質を極めたからこそ重くなったウォークマン
ウォークマン「WM-1シリーズ」は手に持ったときにズシリと来る重さがある。とくにゴールドの「NW-WM1Z」は455gとかなりの重さだ。この日初めてウォークマンを手にした参加者もみんなこの重さには驚いていた。しかしこれは音質を極めた結果なのだという。
▲WM1シリーズ開発者の寺井孝夫。
寺井:かつてソニーは、ウォークマンを“世界最小最軽量”ということで売っていたんです。
──ですよね。CMでもそれを謳っていました。
寺井:でも今は、ペットボトル飲料程度の重さ。ウォークマンとして手に取るとちょっと驚きますね。でもそれは、音楽をきちんと伝えるため、それだけ音質を重視した結果なんです。内部的にも新しいデジタルアンプを開発したり、使いやすさを向上させたり、新しいことは色々ありますが、私たちの音楽表現ということでこの形になりました。
潮見:ヘッドホンも、普通はここまでコストをかけられないんですが、楽しく聴いてもらうために、できることをすべて注ぎ込んだ。だから意味がある大きさなんです。最高の音で楽しんでもらいたい、最高のウォークマンの出す最高の音をちゃんとヘッドホンで鳴らし切りたい、そういう想いでこうなったんです。
──ミュージシャンは人生をかけて音楽を作り、レコーディングやミックスをしてますよね。でも、リスナー側でもきちんとそれを再現するものがなければその音を楽しめない。ミュージシャンとしては、そこの部分は頑張って開発してもらいたいところですよね。
堀込:僕は、どんな環境で聴いても楽しめるように作っているつもりです。それでも、環境によっては聴こえ方が違うこともあるでしょう。こちらから“こうやって聴いてほしい”とは言えませんからね。だから、意図した通りに聴ける環境を作ってもらえるのは、うれしいことです。
──今回、そういうのをソニーが本気で作ったと。
寺井:いつもその時点での最高の物を作っていますが、今回はとくに突き抜けたもの、ボディとか電気設計とかUIとか、すべての面でとにかくやってみようと。
「NW-WM1Z」は、なんと銅の塊を削り出してボディを成形している。今回は、削り出す前の銅の塊と削り出しの途中のボディがいくつか用意されていて、客席にも回された。実際に持ってみると、とくに削り出す前の銅の塊は本当に重い。これにもみんな驚いたようで、手にしたとたんに“アッ”と声を上げる参加者もいた。
寺井:これは無酸素銅なんです。スピーカーのケーブルなど、音質をよくするために使われる素材です。この塊はもともと1.8kgあるんですが、そこから削り出しで作っているんです。
堀込:この本体の重さというのは、音質にはどのように影響してくるんですか?
寺井:重ければよいわけではないと思いますが、前のフラッグシップ機がアルミだったので、今度は実験的に無酸素銅でやってみようと。実際やってみたらすごくよかったんです。
堀込:このボディに電気信号が直接流れていなくても、音質に影響が出るんですか?
寺井:実は、グランドをボディに落としているので、回路の一部として使われていることになりますね。無酸素銅だから抵抗が小さいんです。重さもそうだし、そういう色々な要素が絡み合って、音質が向上しているんだと思います。
──オーディオって昔から“重さが正義”みたいなところがありますよね。「重いほうが音がいい」とよく言われていました。
寺井:昔の大きなステレオなどは重かったですね。スピーカーから出る音を拾って振動してしまうと音に悪影響を与えるので、重たくして振動しないようにしよう、ということも含めた設計でした。でも今回は振動を防ぐために重くしたのではなく、無酸素銅で抵抗値を下げるというのが目的のひとつです。
▲約1.8kgの無酸素銅ブロックを削り出してシャーシを整形、金メッキ処理を施して、NW-WM1Zの筐体が完成する。
■耳の平均サイズより大きいドライバー、新開発のハウジングも採用のヘッドホン
一方、ヘッドホンの開発のために“人の耳の型を取っている”という潮見は、リアルな耳の形をしたピンク色の“耳型”を取り出して見せた。
▲MDR-Z1R開発者の潮見俊輔。
潮見:こういう耳型が会社には500個以上あるんです。ヘッドホンの装着性のために必要なものなんですが、こうして調べると、平均的な人の耳の縦の長さがだいたい65mmなんです。それで今回は70mmという、それより大きいドライバーを採用しました。小さいものが鳴っていると音が点で聞こえるんですが、大きいものを鳴らせば平面の波…普段音を聞いているのに近い状態になるんです。この70mmというサイズは世界最大級だと思います。ただ、ヘッドホンは身につけるものなので、やたらと大きくできないのが難しいですね。
堀込:でも、見た目の印象からするともっと重そうなのに、意外に軽いですよね。
潮見:もちろん見えないところで軽量化の努力もしていますから。
次に堀込が、“今回のヘッドホンで、僕はこれが面白いと思った”と、ヘッドホンのハウジングのパーツを取り出した。従来のヘッドホンのものと同じグレーのパーツと、今回採用した通気性のある音響レジスターを使った黒のパーツだ。
潮見:たとえば貝殻を耳に当てると波の音がする、というのがありますよね。ゴーッと音がする。ヘッドホンも同じなんです。つまりアーティストが作った音に余分な音が乗ってしまう。それを取り除きたいと思って、新しいハウジングを作りました。
堀込:コレ、比較するとホントに面白いです。
潮見:グレーのものが普通のヘッドホンで使われている密閉型のハウジングです。これを耳に当てるとゴーッとかシュワシュワといった音がします。でもこの新しいほうは、面全体から少しだけ空気が抜けるようになっているので、ヘッドホンの内部で発生する音を抑えて、再生している音そのものが耳に届けられるんです。
■こだわりの素材選び、すべては“いい音”を実現するため
会場全体がさらに驚いたのが、音質のためにパーツの素材選びにもこだわったという話。その徹底ぶりはすさまじいものだった。
潮見:ヘッドホンの中には紙のような部品が使われてるんですが、この素材は北緯45度以上限定のカナダ産のパルプです。繊維が長くてしっかり絡み合うので。
堀込:北緯45度以上って! そこまでしてるんだ!
潮見:しかもそのパルプをすくときに使う水は、東北地方の雪解けの地下水で。
堀込:もう酒造りじゃないですか(笑)。
──ソニーはそんなことまでやってるんですか?
潮見:地下水は年間通して温度もpH(ペーハー/水素イオン指数)も安定している。だから品質管理にも有利なんです。この紙は開発に10年以上かかっていて、やっと完成して商品に乗せることができたんです。
──ミュージシャンが音にこだわるのと同じように、開発の方もこんなにこだわって作っていたなんて、あまり知られていないですね。
堀込:やっているとは思ってましたけど、ここまでとは。だって木と水ですよ(笑)。
潮見:実は作る場所も特別なんです。大分県にある、プロフェッショナルのヘッドホンやマイクを作っている工場なんですが、そこには熟練の職人さんがたくさんいるんです。
寺井:堀込さんがおそらくいつも仕事で使ってらっしゃる「MDR-CD900ST」というヘッドホンもそこで作ってますよ。
堀込:どこのスタジオにもあるアレですね。
潮見:ヘッドホンって、アコースティック楽器に近いところがあるんです。電子回路がなくて空気が入ってるだけという。だから職人技がかなり要求されるんです。
■それぞれにとっての“いい音”とは?
次に、各人の考える“いい音”へと話題が移った。ここでは堀込も開発者も、ケーブルの違いによる音の違いなど、細かいところまでこだわっている点で意見が一致し、一段と話が盛り上がった。
──音に対するミュージシャンのこだわりって相当なものだと思いますが、堀込さんにとってのいい音とは?
堀込:これは難しいですね。たとえば楽器を単体で聴くのと、アンサンブルの中にミックスして聴くのとは別物なんですよね。単体ですごくいい音だと思っても、ミックスするとあまり前に出てこなかったり、逆にショボい音だと思っても曲の中ではいいこともあるので。ただ、色々な選択肢がある中で、こっちのほうがちょっとだけいい音がするね、と選んでいく。そのちょっとずつの積み重ねが、トータルでいい音かどうかの大きな差になるんじゃないかと思います。差はちょっとなんだけど、そこでどのアンプを使うかとか、それこそギターをつなぐシールドケーブルとか電源とかにもこだわったり。さっきの木と水の話と同じで(笑)。
寺井:ケーブルといえば、ウォークマンではヘッドホン端子のところに、スピーカーケーブルで有名なアメリカのKIMBER社のものを使っています。
潮見:ヘッドホンのほうでも、先ほど試聴してもらったときについていた銅の色のケーブルが、KIMBER社のものです。
──ウォークマンの内部だと、ほんの数センチもないようなパーツですよね(笑)。それでそんなに違うんですね?
寺井:これが違うんですね。それと「NW-WM1Z」と「NW-WM1A」では使うケーブルも変えています。機種ごとにどのケーブルが一番いいのか、耳で確かめて選びました。ただ高級なケーブルだからって使うのではなく、もっともマッチするものを選んでいるんです。
潮見:ウォークマンは、インナーイヤータイプのヘッドホンと同じフロアで設計してるんです。そこでヘッドホン用に作ったKIMBER社のケーブルをこっそり持ってきて、ウォークマンに入れてみたら音が良かった(笑)。それで採用になったという経緯があるそうです。
──ケーブルによる音の違いとか、理屈ではよくわからないところもありますよね。
寺井:これはオーディオより、楽器のほうが差が出るような気がしますね。僕はベースを弾くんですけど、5mと10mのケーブルでは音がかなり違うと感じます。
堀込:ケーブルでずいぶん変わる気がしますね。僕はなるべくケーブルは短くしたいんです。ステージであまり動かないし(笑)。長くするとなんとなく音がやせたような気がしますね。以前、なかなか音が決まらなかったことがあって、よく見たらいつものケーブルと違う。スタッフが気を遣って長いものに替えてくれていたらしいんですが(笑)。
潮見:伝送のロスがないのであれば、ケーブルの長さは関係ないはずなんです。でもある程度長いほうが好き、という人もいますよね。
堀込:そうなんですよ。それが好みの分かれるところで。カールコードが好きな人もいるじゃないですか。あんなグルグルしてるの絶対よくないはずなんだけど(笑)。だから、組み合わせなんですね。どんな楽器、どんなアンプにどんなケーブルを使うかという。
──気のせいではなく、確実に音が変わるんですね。
潮見:おそらく、機械で測定すると大した差はないはずなんです。不思議です。
堀込:電気に詳しい人は、そんなことで変わるわけがない、と言いますね。電源が240Vと100Vとでは全然音が違うと思うんですけど、電気的にはそんなことないと言われる。でも実際違いますよね?
寺井:違いますね。後ろに240Vって書いてあるアンプのほうがいい。
堀込:いい気がします。いや、気がするじゃなくて、いいです(笑)。
──ミュージシャンにとっての作品、開発者にとっての製品の正解は、結局人の耳と経験で探すしかないんですね。
■ひたすら調整を繰り返したうえで耳で判断、直感で採用された技術も
パーツに使う素材の選択も音質の調整も、何度も繰り返し行われたという。それはミュージシャンが音楽を作ることにも通じるようだ。
潮見:このヘッドホンは、ニューヨークのマスタリングスタジオまで行って、エンジニアの人と一緒に音を聴きながら調整してきました。会社と違って測定器はないので、音を聴いて耳だけで判断して、その場で分解して調整して、というのを繰り返しやりました。
堀込:それはどこのスタジオですか?
潮見:バッテリースタジオという、マイルス・デイヴィスやハービー・ハンコック、ボブ・ディランとかのマスタリングをやったところです。そこである程度詰めてから日本に持ち帰って作り直しました。
──色々なことを試しながら調整を繰り返してきた、と。それは音楽を作る場合にも通じるものがありますよね。
堀込:やはり、何かやってみてダメ、別のことをやってまたダメ、というのを繰り返していくしかないのかな。というか僕、さっきの木と水の話がすごく気になっていて(笑)。素材についてもできる限りの選択肢を試したということですか?
潮見:そうですね。たとえば日本の紙幣に使われているミツマタという木も試したり、色々試した中で、カナダ産のパルプがもっともよかったんです。
──ウォークマンについても同じですか?
寺井:はい。ボディも色々な素材を試しました。やはり繰り返し実験してみるというのは、いいものを作るために必要なことだと思います。その意味では、曲を作るのと同じかもしれないですね。
堀込:コード進行とかメロディの流れで、こうすればこういう感じになるというパターンみたいなものはありますよね。でも、その通りにやってもあまり面白くなかったりするし、型通りのものでもグッときたりすることがある。だから、理屈よりもむしろ直感が大事なんじゃないかと思います。
潮見:直感と言えば、今回ドライバーユニットのグリルに、こんな形状のものを採用してるんです。
モニターに、フィボナッチパターンが施されたグリルが映し出される。
潮見:これは自然界にあるパターンで、ひまわりの種の配置やオウムガイの渦などが、こんなふうに数学的な一定の数列に基づいて並んでいるです(フィボナッチ数列)。たまたま数学の本を読んでいたときに、音も自然現象のひとつなので「これは応用できるんじゃないか」と直感してやってみたんです。実際、とても自然な音になりました。
▲フィボナッチパターン。
■「この組み合わせが、音源をちゃんと聴くのに最高のシステム」(堀込)
残り時間も少なくなり、最後は参加者からの質問に答えるコーナー。まず、ヘッドホンを買うときにどこに着目すべきか、という質問にはヘッドホン開発担当の潮見が回答。いいと言われているものでも、使いにくければ意味がないので、どういうときにどう使うのかを考えて選ぶとよい、使いやすさを重視するとよい、とアドバイスした。
続いて、今日聴いたウォークマンとヘッドホンは素晴らしい音だったが、今後これ以上を目指すとすると、どんなものになるのか、という質問。これには開発者は二人とも、具体的にはわからないけれど、つねにその時点での最高の技術を注ぎ込んでいるので、将来はさらに高音質の製品ができるはず、と口をそろえた。
続いて、ヘッドホン、ウォークマンは音楽を“個”で楽しむことを飛躍的に進めたが、音楽を共有することについてはどう考えるか、という質問。これに対して潮見が、最初のウォークマンにはヘッドホン端子が2つあって二人で聴けるようになっていたとコメント。これには会場から驚きの声も上がった。
寺井:今はSNSがあるから、この曲がよかった、といった感想を共有するのはあると思いますが、ウォークマンが音楽の共有を技術的にどうするかは、課題ですね。
堀込:ウォークマンはそれを背負わなくていいと思いますよ。目的が違うから。
潮見:今はライブにたくさんの人が行くようになって、フェスも盛り上がっている。ライブの音は、家では体験できないですよね。エンジニアとしては家でそれを聴けるように頑張ってますが、やはり生の音のすばらしさというのがある。
堀込:ライブって、スタジオの音をそのまま再現することはできない。でもそれが面白いところなんだと思いますね。あと、CDだと可聴域以外の音がカットされてますけど、ライブだともっと広い範囲の音が出ていて、聴こえない音も身体で感じることができる。それが大きな違いですね。
次に、ハイレゾになって音作りで意識することはあるか、という堀込への質問。
堀込:こだわりがあると思われているようですけど、あんまりないんです(笑)。ハイレゾだからってとくに意識することはないですね。
潮見:出来上がったものを聴いて今までと違うところってありますか?
堀込:96kHzという周波数より、ビット深度が24ビットになったことが大きいと思いますね。48kHzでも24ビットになると「お、違うな」って感じますから。
──ちょっと難しい話になりましたね。音のきめ細かさという話ですよね。
寺井:音を表現するときに、1秒間を何分割して切り取るかがサンプリング周波数。堀込さんが今おっしゃったビット深度は、音の大きさを何段階に分けるか、ということです。24ビットだと音の表現の幅が広いので、より微妙な音の大きさの違いを表現できるんです。
さらに堀込に、好きな楽器の音は?普段どんな環境で音楽を聴いているか、という質問。
堀込:好きな楽器は色々ありますけど、木管楽器とか聴くと気分がいいですね。自分の作品ではなかなか使えないですけど。あと、今使ってるギターがギブソンの1972年製くらいのレスポールデラックスなんですけど、甘い音がしていいんです。自分のレコーディングスタジオは、たいしたシステムではないですけど、遮音がきちんとされているのがいいところですね。ほかの音が入ってきたり、部屋が鳴っちゃったりするのが何より嫌なことなので。以前、すごいアンプとかオーディオのある知り合いの家で聴いたことがあるんですけど、部屋が鳴っちゃってて。ここでこれ聴いても意味ないじゃんとか思って(笑)。だから、今回のこのヘッドホンとウォークマンの組み合わせは、音源をちゃんと聴くのに最高のシステムなんですよ。スタジオだとしても、スタジオの部屋鳴りがあるし、スタジオのスピーカーの音なんです。でも、余計なものが加えられないこのシステムなら、レコーディングされた通り忠実に聴けると思うんです。
──今回のこのウォークマンとヘッドホンの組み合わせは“最高レベルのスタジオを持っているようなもの”、と言えるかもしれませんね。
と、ここでイベント終了の時刻に。
──今日は色々なお話を聞けましたが、やはりいい音を出すには開発コストも時間もかかっていると思いますが、その裏にはそれぞれ携わった人たちのこだわりがあり、耳で確かめていたんだということがわかりました。そして最終的に最高峰のものが出来上がったわけですね。ところで堀込さんは8月にリリースしたばかりの新作『ネオ』を引っ提げての全国ツアー中ですが、調子はどうですか?
堀込:絶好調です。短いケーブルで頑張ります(笑)。
以上でイベントは終了。最新のウォークマン、ヘッドホンには徹底して音質を追及するための数々のこだわりが秘められていることがよくわかったし、開発者たちの音質にかける情熱も伝わってきた。音楽を緻密に構築することで知られるKIRINJI堀込高樹も、音にこだわる“同志”として共感するところが多かったようで、とても熱心に話を聞いていたのが印象的だった。参加者にとっては、製品開発者、そして堀込高樹の音に対する本音を間近で聞くことができた、とても貴重な時間となっただろう。
なお、このイベントで使われたウォークマン「WM1シリーズ」とヘッドホン「MDR-Z1R」は、10月29日に発売となった。
【NW-WM1Z】
・メモリー容量:256GB
・信号圧縮形式(音声圧縮形式):MP3/WMA/ATRAC/ATRAC Advanced Lossless/リニアPCM(WAV)/AAC/HE-AAC/FLAC/Apple Lossless/AIFF/DSD(DSF, DSDIFFフォーマット対応)※ 著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生不可
・ディスプレイ:4.0型(10.2cm)、FWVGA(854x480ドット)
・Bluetooth標準規格 Ver 4.2対応
・対応Bluetoothプロファイル:A2DP (Advanced Audio Distribution Profile)、AVRCP (Audio Video Remote Control Profile)
・対応Bluetoothコーデック:SBC、LDAC
・本体動作対応OS:Windows Vista(Service Pack 2以降)/Windows 7(Service Pack 1以降)/Windows 8.1/Windows 10/Mac OS X v10.8-v10.11
・充電池:内蔵型リチウムイオン
・USB充電 充電時間:約7時間(満充電)、約6時間(約80%まで)
・充電池持続時間:約33時間(MP3 128kbps再生時)、約30時間(FLAC 96kHz/24bit再生時)、約26時間(FLAC 192kHz/24bit再生時)、約15時間(DSD 2.8224MHz/1bit再生時)、約13時間(DSD 5.6448MHz/1bit再生時)、約11時間(DSD 11.2896MHz/1bit再生時)
・ヘッドホン実用最大出力(JEITA 16Ω/mW)::60mW+60mW(アンバランス出力)、250mW+250mW(バランス出力)
・外形寸法[JEITA](幅×高さ×奥行/mm):約65.3 × 約123.4 × 約19.9 mm
・重量(充電池含む)[JEITA](g):約455g
【NW-WM1A】
・メモリー容量:128GB
・信号圧縮形式(音声圧縮形式):MP3/WMA/ATRAC/ATRAC Advanced Lossless/リニアPCM(WAV)/AAC/HE-AAC/FLAC/Apple Lossless/AIFF/DSD(DSF, DSDIFFフォーマット対応)※ 著作権保護された音楽ファイル(ダウンロード購入した楽曲など)は再生不可
・ディスプレイ:4.0型(10.2cm)、FWVGA(854x480ドット)
・Bluetooth標準規格 Ver 4.2対応
・対応Bluetoothプロファイル:A2DP (Advanced Audio Distribution Profile)、AVRCP (Audio Video Remote Control Profile)
・対応Bluetoothコーデック:SBC、LDAC
・本体動作対応OS:Windows Vista(Service Pack 2以降)/Windows 7(Service Pack 1以降)/Windows 8.1/Windows 10/Mac OS X v10.8-v10.11
・充電池:内蔵型リチウムイオン
・USB充電 充電時間:約7時間(満充電)、約6時間(約80%まで)
・充電池持続時間:約33時間(MP3 128kbps再生時)、約30時間(FLAC 96kHz/24bit再生時)、約26時間(FLAC 192kHz/24bit再生時)、約15時間(DSD 2.8224MHz/1bit再生時)、約13時間(DSD 5.6448MHz/1bit再生時)、約11時間(DSD 11.2896MHz/1bit再生時)
・ヘッドホン実用最大出力(JEITA 16Ω/mW)::60mW+60mW(アンバランス出力)、250mW+250mW(バランス出力)
・外形寸法[JEITA](幅×高さ×奥行/mm):約65.3 × 約123.4 × 約19.9 mm
・重量(充電池含む)[JEITA](g):約267g
【MDR-Z1R】
・型式:密閉ダイナミック(耳覆い型)
・ドライバーユニット:70 mm、ドーム型(CCAW ボイスコイル)
・感度:100 dB/mW
・マグネット:ネオジウム
・再生周波数帯域:4 Hz - 120,000 Hz
・インピーダンス:64 Ω(1 kHzにて)
・最大入力:2,500 mW(IEC)
・コード長:ヘッドホンケーブル(約3 m、銀コートOFC線、金メッキステレオミニプラグ)、バランス接続ヘッドホンケーブル(約1.2 m、銀コートOFC線、金メッキL型バランス標準プラグ)
・コードタイプ:両出し
・入力プラグ:ヘッドホンケーブル(金メッキステレオミニプラグ)、バランス接続ヘッドホンケーブル(金メッキL型バランス標準プラグ)
・質量:約385 g(ケーブル含まず)
◆NW-WM1Z製品情報
◆NW-WM1A製品情報
◆MDR-Z1R製品情報
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