【ライブレポート】→Pia-no-jaC←音探しの旅、集大成
→Pia-no-jaC←が完全に新たなステージに立ったことを改めて感じさせる素晴らしいアクトを見た。2016年3月21日、<BLOOD TOUR 2016>最終日、中野サンプラザ。→Pia-no-jaC←2人のパッションが、それを受け止めるオーディエンスと完全に呼応し、これまでの→Pia-no-jaC←のステージからは正直想像もつかないような高い場所へと昇華されていた。こんな現場に居合わせられたことをとても幸福に思う。
◆→Pia-no-jaC←画像
この<BLOOD TOUR 2016>が始まったのは、今年の1月11日の横浜公演。初日を観させてもらったとき、その“音楽そのもの”に対する彼らの集中度の高さから、このツアーはこれまでのツアーと確実に何かが違う…言うなれば、→Pia-no-jaC←にとってとても大きな分岐点になるようなツアーになるのではないかという予感はあった。それから2ヶ月が経ち、全国24カ所を廻ることでブラッシュアップされたステージがどれほどのものになっているのか楽しみにしていたが、ツアーファイナルで見せられたものはその予想を超えた、凄みのようなものさえ感じさせるステージだったのだ。
オープニングは「METROPOLIS」。総立ちでクラップを贈るオーディエンスに迎えられ、2人はのっけから気合い十分のステージングを見せる。エモーショナルなプレイにバラエティーに富んだアレンジが散りばめられ、これまでより曲の魅せる表情が豊かに感じられた。「会いたかったぜ中野ー!」とHIRO(カホン)が叫び、続く2曲目は「BLUE BLOOD BOOGIE」。「METROPOLIS」でギリギリまで高まった会場の緊張感を少し解していくように、ブギーのリズムに乗せて観客の体を揺らしていく。生き生きと音をハネさせた力強い「組曲『』」の後は、ツアー後半の今月になってからステージに導入されたグランドピアノにHAYATO(ピアノ)が移動。今の季節にことさら胸に迫る「夜桜」が披露されるが、エレキピアノでプレイされていたときよりも格段に楽曲の美しさが強調され、会場を包み込んだ。
言葉のない音楽、インストゥルメンタルミュージックを手がけるミュージシャンとして、海外でプレイすることは夢のひとつだったというHAYATO。新作「BLOOD」を制作する上で非常に重要なファクターとなった昨年のヨーロッパツアーでのエピソードが和やかに語られたあと、パフォーマンスグループ“enra”とのコラボレーションがカンヌ国際映画祭で披露され、全世界に生中継された記念すべき一曲「FILMS」がプレイされた…ものの、曲間で遊び心を見せてくれるのもまた、→Pia-no-jaC←の変わらない魅力だ。
ヨーロッパでたくさんのクラシックを体験してきたという2人。しかし、そんな王道のクラシックは彼らにとってあくまでも原点でしかないようだ。「俺たちはクラシックでみんなを踊らせたい!ピアノジャックらしく明るく楽しくクラシック!」というHIROの選手宣誓のあと披露されたのは「交響曲第9番『合唱』第四楽章」、そして最近ライブのキラーチューンとしてすっかり定着した「アイネクライネ」。ダイナミックなグルーヴでオーディエンスをさらにヒートアップさせていく。
その中で演じたオリジナル曲「Nostalgia」の美しさは格別だった。タイトル通り郷愁を誘う物憂げな楽曲であるものの、その力強いプレイはどこまでも光を感じさせる。大切な思い出を抱えて生きていくことは、人が前を向くための尊い希望なのかもしれないとステージを見ながら思い、少し目頭が熱くなった。
しかしそんな感傷に浸る暇もなく、続いてプレイされたのは前曲とは対照的な「Tears」。HIROの白熱したプレイが一気に観客の熱を上げ、そこから叙情的な世界へと会場を落とし込んでいく。そのコントラストを魅せていく手腕は見事だ。
そしてこの日のクライマックスは間違いなく「TASOGARE」だった。ひりひりするような切迫感と研ぎ澄まされた世界にオーディエンスは固唾を飲んでステージを見つめる。しかし→Pia-no-jaC←の2人は絶対に観客を置いていかない。オーディエンスの心の深いところに音楽で寄り添いながら、高揚させていくさまは圧巻だった。このスケールこそが、今の→Pia-no-jaC←のひとつの到達点なのだ。
本編の終盤はお馴染みの「美しく青きドナウ」、オーディエンスと一体となって楽しむ「風雅」で会場を明るく盛り上げる。「(ヨーロッパツアーという)今までと違う環境に行くことは勇気のいることだったけれど、新しい景色を見ることができました。これからも新しい音楽や景色を届けたい。俺たちの旅は続きます」というHAYATOのメッセージのあと、壮大なバラードである「Sicilia di mare aperto」という美しいエピローグで、本編は終了した。
アンコールでは代表曲「台風」をプレイ。この日プレイされた「BLOOD」以前の曲すべてが、様々なアドリブとリアレンジにより生まれ変わっていたのが面白い。その後のMCでは、昨年企画され大きな話題となった「ONE NIGHT STRINGS」が秋に東京、大阪で再演されること、さらには6月、HAYATOが初のソロコンサートを開催することがアナウンスされ、会場からは大歓声が起きた。そして「PEACE」で会場に笑顔を咲かせたあと、「Jack」でHIROの大熱演のソロ、HAYATOの3Dピアノが登場するなどツアーファイナルらしい盛りだくさんなクロージング。こうして会場の熱覚めやらぬまま「BLOOD」ツアーは幕を閉じた。
さて、こんなステージを見せられたら、本人たちに話を聞かないわけにはいかないだろう。公演終了直後の“すべて出し切った”という表情が印象的な2人に話を聞いた。
──お疲れさまでした。とにかく素晴らしいステージでした。
HIRO:今回のツアーはショーを作り上げる、ということをとても集中してやってきたので、全国を廻ってきて、このファイナルで自分の求めてきたもの完成できたと思います。
HAYATO:今回は“音と向き合う”というのをテーマにしてやってきて、自分の中でも新しい発見があったツアーでした。その分楽しみも緊張感もあったツアーだったんですけど、お客さんがすごくて(笑)。お客さんが俺らを煽る、っていうスキルを身につけてた(笑)。
HIRO:ヨーロッパに行ったときにね、向こうのお客さんって結構楽しみ方も自由で、やっぱり日本と違うなって思ってたんですけど、なんか日本もそうなってきた。
HAYATO:お客さんと一緒に楽しむっていうかね。
──いい意味でオーディエンスに引っ張られる部分も大きかったんですね。ちなみにHAYATOさんは今月からグランドピアノをステージに導入されていますが、それに至った一番大きな理由はなんでしょうか?
HAYATO:やっぱりバラードとか、アコースティックな音で届けたい曲に関しては生のピアノが良くて…出したい音が出せるので。お願いして入れてもらいました。
──曲の広がり方が全然違いましたね。
HAYATO:もう演奏しててもね、気持ち良くて気持ち良くて。もう終わりたくないーってなりますね。
──(笑)。その辺も含めて、これまでとは完全に違うレベルに行ったなあというステージを今日演ったわけですが、このツアーの中で変わっていったところがあったとすれば、どんなところでしょうか?
HIRO:お客さんたちも、一音一音をしっかり受け止めてくれるというのが大きくて。それがすごく嬉しかったんですよ。その相乗効果で、音楽自体をここまで持って来れたのが大きいです。
HAYATO:僕は毎回ニューチャレンジができたことですかね。本当に音探しの旅というか…毎回違うアレンジを試したり。どのフレーズを弾いたら一番盛り上がるかな、っていうのを試したりして、一番反応のよかったものを今日演ってみたり。今日は集大成ですね(笑)。アドリブもだんだん楽しくなってきたし。これからもどんどん新しいトライをしてみたいなと思いますね。
──これだけのステージを演ったことで、これからさらに期待も高まると思いますが、これからの→Pia-no-jaC←はどんな場所を目指して行くんでしょうか?
HIRO:カホンっていう楽器は本当に底知れない深みのある楽器だとまた実感できたので、これからまたどんどんそれを掘っていきたいんです。それをまた皆さんの前で披露できる日がとても楽しみですね。
HAYATO:僕はまたピアノと向き合って……これからソロもあるんですけど、ソロでまた新しいスキルを身につけて、それを持って→Pia-no-jaC←としてパワーアップしたいと思ってます。
これまでの→Pia-no-jaC←の、ある意味で集大成を刻んだ今夜。それでも、彼らの音楽にまだ底知れぬポテンシャルを感じたことが、冒頭に述べた“希望”だ。これから彼らが向かう先には、どんな景色が見えるのだろうか。次に彼らが聴かせてくれる音楽が、ただひたすらに楽しみだ。
text:岡野里衣子
なお、昨年開催され大好評だった→Pia-no-jaC←とストリングスによるスペシャルコラボレーションライブ<ONE NIGHT STRINGS>の再演が決定となった。東京は豊洲PITにて9月19日(月・祝)、大阪はZepp Nambaにて10月8日(土)に開催となる。大阪での開催は今回が初となるものだ。
また、HAYATOによる初のソロライブ<HAYATO PIANO CONCERT>の開催も明らかとなった。キリスト品川教会グローリア・チャペルにて、全編グランドピアノのみ、マイクも通さず生のピアノ音をお届けするという初の試みとなる。
<→Pia-no-jaC←「ONE NIGHT STRINGS~AGAIN~」>
東京 豊洲PIT http://toyosu-pit.team-smile.org
OPEN 16:30 START 17:00
5,500円(税込・ドリンク代別)
[問]ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00~18:00)
https://www.red-hot.ne.jp
2016年10月8日(土)
大阪 Zepp Namba http://hall.zepp.co.jp/namba/
OPEN 16:30 START 17:00
5,500円(税込・ドリンク代別)
[問]サウンドクリエーター 06-6357-4400(平日12:00~19:00)
http://www.sound-c.co.jp
<HAYATO PIANO CONCERT>
@キリスト品川教会グローリア・チャペル http://www.gloria-chapel.com
OPEN 16:30 START 17:00
5,000円(税込)
[問]ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日12:00~18:00)
https://www.red-hot.ne.jp
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