【インタビュー】柴田淳、15周年記念 アーティストとしての軌跡を辿る 後編
■「Love Letter」という曲に私の“恥”がしっかり入っています
■恥が入れられた曲は手応えも感じられる曲でもあるんですが(笑)
――ビクターに移籍したのもターニングポイントですよね。
柴田:はい。移籍するまでしばらくはリリースがなくて、1年くらい空いて「花吹雪」っていうシングルを出したんですけど、凄い時間が経ってしまったのに、ファンの方はずっと待っていて下さって、全然リスナーが離れて行っていませんでした。それは本当にうれしかった。だから、『月夜の雨』というアルバムを作るにあたって、ものすごく気合が入りました。少しくらい移籍して何か殻を破りたかったので、職業作家になった気分で、なりきっていろんな曲を書いたんですが、出来た後で計算しすぎだったんじゃないかっていう罪悪感が湧いてしまって。今聴くと、いいアルバムだと思うんですけど、当時は“魂売った”じゃないけど、媚を売っているようなものを作ってしまったんじゃないかと。その後に、『親愛なる君へ』というアルバムを作るんですけど、これを作った時にすごい大恋愛をしていたんです。
――おぉっ!
柴田:その人が聴いたらどう思うかなぁなんて思いながら曲を書いていました。この作品はロブ・フィスターという海外で活躍しているエンジニアさんをわざわざ日本に呼んでレコーディングしたんですけど、これは大成功でした。マスタリングの相性とその人のミックスの相性が絶妙に良くて。この時の音が私は一番好きです。その後、『ゴーストライター』を作るんですけど、この時は“誰も信じられない、どこに行けばいいんだろう?”っていう感じになってしまって。仕事は順調なんだけど、プライベートに絶望を感じていた時に“私、幽霊みたい……”と思って、『ゴーストライター』というタイトルにしたんです。精神的にフワフワしていたから、アルバムの世界観的にとても暗いんですよ。特に「Love Letter」という曲に私の“恥”がしっかり入っています。恥が入れられた曲というのは、手応えも感じられる曲でもあるんですけど(笑)。
――柴田さんが言う“恥”には愛を感じます(笑)。8枚目のアルバム『僕たちの未来』では、ミックスをオーストラリアでやっていますね。
柴田:はい。『親愛なる君へ』では、ロブをわざわざオーストラリアから呼んだから、今度は私たちが行きますっていうことで、音源だけを持って、ロブのプライベートスタジオでミックスをしたんです。でも、ロブが東京に来てくれるならいいけど、外国でやるのは難しいんだなって思いました。英語と日本語のヴォーカルの置き方って私は違うと思ってるんです。英語を話すロブにそれを説明してもなかなか理解してもらえなくて。ロブにとってオーストラリアはホームなので、アウェーな立場の私たちの意見も通らなかったりしたので、結局、東京に戻ってからマスタリングで音を大幅に作り直したんです。
▲ビクター時代:左上から、『月夜の雨』『親愛なる気味へ』『ゴーストライター』『僕たちの未来』『あなたと見た夢』『バビルサの牙』
――さらにひと手間かかった作品なんですね。
柴田:はい。その次の『あなたと見た夢 君のいない朝』では、『親愛なる君へ』の時の大恋愛が大失恋に変わったんです。その時、“この感情を垂れ流しにはできない。この大失恋は一生モノだ”と思って作品に込めて。その失恋からもう何年も経ってますけど、思い返しても、あの時の体験は作品に残しておいて良かったなと思います。あんな大きな衝撃はなかったし、しかも、この3年ですっかり癒えちゃっていて、あの時の感情はもう思い出せない(笑)。
――時間の力ってすごいですね。
柴田:うん。だから、現実問題、リアルなものを作品として作らなければならないから、恥を出して書いておいて良かったなと思いました。時間が経つと恥も恥じゃなくなっちゃうんですね。その時は大失恋の真っ只中で、いろんなことが麻痺していました。恥も何も全部わからずに出していて。“よくわからないけど、私、こういう気持ちなの”っていうことを書くわけですよ。それを客観的に聴いた人に“こういうことなんですね”って言われて、初めて私はそこで涙が出たんです。
――『バビルサの牙』の時には柴田さん自身が空っぽになっていましたよね。
柴田:そう! 大失恋と対峙したくなくて、1年間に全国ツアーとビルボードツアーをやって、さらにDVDにライヴCD……とんでもない数のタイトルを1年の間に出したんですよね。そうやって忙しくすることで、自分の心と向き合うことから逃げてしまって。でも来るんですよね。もう逃げられなくないという時が(笑)。結局、長く逃げていた分反動となって、心も体も壊れることになったんですが、そんな私が壊れた時に作ったのが『バビルサの牙』です。
――歴史ですね。
柴田:ねぇ。この作品は本当に痛々しいから今でも聴けない。これは自分がかわいそうで、今でもジャケットを見るだけで涙が出てきてしまう。まだ思い出したくない。
――まだ生々しいんですね。
柴田:きっとそうなんでしょうね。どこがどうっていうよりも、そこから出てくるのが“かわいそう”っていうオーラなんですよ。だけど、その後に、リハビリを兼ねて、“間違いだらけかもしれないけど、全部一人で弾き語りするライヴをやります。私が作った学芸会です。それでも良かったら来てください”って、ファンクラブの人たちだけを呼んで、小さなハコだけで14公演をやったんです。そこで、ファンの方達に直接会うことで、徐々に感覚を取り戻して、曇っていた目がどんどんクリアになってきたんです。それで立ち直って来たのが今年の春くらいかな?
――割と最近じゃないですか。
柴田:そうなんですよね(笑)。ベストが出たのはいいけど、15周年なのに、2015年は夏のイベントはいくつか出演させてもらいましたが、ワンマンではファンクラブのライヴだけで、他に一回もライヴをやらず、2016年もライヴがないのはどうなんだって思っていたら、1月11日にパシフィコ横浜でライヴが緊急決定したんです。奇跡的にパシフィコ横浜がとれて、C.C.KING(ベース・松原秀樹、ギター・田中義人、キーボード・森俊之、ドラム・玉田豊夢)というすごい人たちのスケジュールも合ったという。これはもうやるしかないでしょうということで。いきなりキャパ5千人のところでやって感覚を取り戻せるかなぁ(笑)。この日は祝日でおやすみですし、特別なライヴになると思うので、たくさんの人に観に来て欲しいですね。
取材・文●大橋美貴子
『All Time Request BEST ~しばづくし~』
初回盤(2CD+カレンダー「しば暦ごよみ」) : VIZL-909 / \4,000+税 / 全29曲収録
通常盤(2CD) : VICL-64478~9 / \3,300+税 / 全29曲収録
Loppi・HMVアニバーサリー盤(2CD+グッズ「(ぽるちー手ぬぐい)付」) : NZS-727 / \4,000+税 / 全29曲収録
※ローソン・ミニストップ店内 Loppi で受付中
DISC 1
1.ぼくの味方
2.隣の部屋
3.未成年
4.それでも来た道
5.月光浴
6.あなたとの日々
7.片想い
8.夢
9.後ろ姿
10.ちいさなぼくへ
11.愛をする人
12.ため息
13.ピンクの雲 ※インディーズ曲
14.心がうたうとき ※インディーズ曲
15.パズル ※インディーズ曲
DISC 2
1.HIROMI
2.Love Letter
3.花吹雪
4.救世主
5.あなたの手
6.十数えて
7.雨
8.マナー
9.哀れな女たち
10.キャッチボール
11.道
12.今夜、君の声が聞きたい
13.月夜 ◆新録 セルフカバー
14.声 ◆新録 セルフカバー
ライブ・イベント情報
2016年1月11日(月・祝) パシフィコ横浜 国立大ホール
http://www.pacifico.co.jp/index.html
■プレイガイド先行 : 2015年11月28日(土)~
■一般発売 : 2015年12月5日(土)~
問:ディスクガレージ050-5533-0888(平日12:00~18:00)
【インストアライブ情報】
ミニライブ&握手会
日程:11月29日(日)
会場:HMV&BOOKS TOKYO 7Fイベントスペース
時間:17:00スタート
http://www.hmv.co.jp/select/hmvbooks
【アートワーク展開催】
<柴田淳「All Time Request BEST ~しばづくし」発売記念アートワーク展を開催>
会場:HMV&BOOKS TOKYO 7Fにて11/19~開催します。
CDブックレット&初回限定盤付属のカレンダーにて、人気スタイリスト風間ゆみえとの初となるコラボレーションが実現。風間ゆみえがとらえた、柴田淳の“女性らしさ”が美しいアートワークの数々とともに表現されている。“大人の女性のフェミニティ”が見事に演出された見ごたえ十分なCDジャケット、ブックレット、カレンダーが完成。今回、HMV&BOOKS TOKYOのオープンに合わせ、そのビジュアルの魅力がたっぷりと詰まった2016年カレンダー“しば暦(ごよみ)”から選りすぐりのカットをパネル化し特別展示。
http://www.hmv.co.jp/select/hmvbooks
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