【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.16「無料ではなく、無償。Foo fightersからのメッセージ」

ポスト


無償の愛から生まれたものは、見返りを求めないとされます。人が想いを込めた何かを他の人に届けたいと願っても、その何かが有料の場合には販売者と購入者という立場になり、購入者が欲しいと思わない限り誰にも届くことはありません。それはたとえ無料であっても同じことではありますが、ある一定の垣根は確実に取っ払えるでしょう。

先月末からカウントダウンが表示されていたFoo Fightersのオフィシャル・サイトfoofighters.comをチラチラ気にしながら迎えた11月23日。自らの音楽を無償ダウンロードという形で人々に届けるという彼らの企ては、これまでの無料ダウンロードの先例とは一線を画すものになりました。

過去にあった多くのものは宣伝を目的とした先行無料ダウンロードでしたし、まだ記憶に新しいAppleとタイアップしたU2のアルバム・ダウンロードもその目的はやはり企業側とミュージシャン側の双方利益が一致したプロモーションの一環としてのものでした。

ところが、今回フーファイがやっているのはその後にリリース予定などがあるわけでもなく、ただ単純に「5曲丸ごと全部あげる」ということです。


音楽で飯を食べているプロ・ミュージシャンである彼らが、自ら音楽を無償で提供するとした目的とは一体何なのか。それは、彼らのオフィシャル・サイト上でデイブからのメッセージとして記されています。以下はその要約です。

元々この企画はツアーに来てくれたファンへのお返しとして、ツアーが終わる時期に彼らの愛を込めた音をギフトとして贈りたいという意図から始まっていたものであったこと。
しかしながら、11月13日にパリで起きた襲撃事件後に新たな意図が加わり、時折この世界に起こる暗闇の時にいても、自分たちの放つ音が一筋の光を誰かにもたらすことが出来るかもしれないという想いでいること。
そして、今、もう一度しっかりと、希望と癒しは歌でつないでゆくもので、音楽は人生であるということ、音楽はけして奪われるものではないということを再認識するために行ったアクションであるということ。
(Ako Suzukiさんによる全文日本語訳はこちらから https://www.barks.jp/news/?id=1000121813)


表題曲のタイトル“Saint Cecilia”は音楽の神という意味です。彼女と我々の命への祝福と感謝を音に乗せてファンに届けたかったということに加えて、非道な殺人事件に際して「音楽は負けないし、俺らも負けないし、お前ら音楽ファンも負けるなよ」という、ダメージを受けた音楽ファンやミュージシャンらに対する注意喚起とも取れるこのメッセージ性の強いアクションはある種のショック療法のような気がします。

また、このダウンロード・サイトには、各ダウンロード方式を選択するボタン以外にもうひとつのリンクが控えめに貼られています。そのリンク先は、SWEET STUFF FOUNDATIONという病気や障がいに苦しむミュージシャンやレコーディング・エンジニアとその家族をサポートする目的で設立されたチャリティ団体です。


今年の12月31日までにこのサイトを通じて寄付された全額すべてはパリで被害に遭った人々、並びに事件によって亡くなったEODMのツアー・クルーであるニック・アレクサンダー氏の家族へ寄付されるとのことで、クレジットカード、またはeCheckを用いて10ドルから寄付できます。

「寄付をしてくれ!」とは書かずに、無償で音楽を提供すると同時に友人でもあるEagles of Death Metalやスタッフ、その家族のサポートとなる寄付金を募るサイトへ導く道を用意したフーファイ。この行為は投げ銭感覚での寄付を尋ねているようにも受け止められ、実にフーファイらしいやり方だなと感じます。

せっかくの彼らからのギフト、私はありがたく受け取りました。そして、その控えめなメッセージもきっちり受け止めて、ドネーションにも参加しようとカードでの決済で試みているのですが、何故かエラー続きで完遂できていません。気長にトライしてみます。尚、フーファイからのギフトは現在も配信中ですので、受けとりたい方は彼らのオフィシャル・サイトへ飛んでみてください。

約4年前にZeppツアーが発表されるも、デイブの喉の調子が悪いという理由で開催直前に全公演キャンセルして以降、一体いつになったら来日してくれるのかと待ち続けていましたが、今夏、7年ぶりにFuji Rock Festival出演でようやく来日。折れた足を物ともせずに、笑いあり感動ありのパワフルなステージを魅せてくれましたよね。今回の無償ギフトにも、またすごいことをしでかしたなと驚いたわけですが、毎度のことながらファンを大切に、そして仲間を大切にする彼らから放たれるメッセージにはとても勇気付けられます。



◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
この記事をポスト

この記事の関連情報