【インタビュー】SUGIZO、「ベートーヴェンもドビュッシーもみんなロクデナシのロッカーだね」

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■先生も「キミたち、ロクデナシでいいんだよ」って教えてあげるべき。
■(クラシックの)作曲家はみんなロクデナシだもん(笑)。



──なるほど。それと今回の作品たちを選ぶに当たって“ロマンティシズム”がひとつのキーワードになったということなんですが。

SUGIZO:そうですね。ベートーヴェンを筆頭にクラシックの作曲家、演奏家たちはみんなロマンティシズムの権化なんですよね。今でこそ学があって由緒正しくないとクラシックをたしなめないイメージがありますけど、言ってしまえば、みんなエロティックですよ(笑)。ベートーヴェンだって亡くなった後に発見された“不滅の恋人”への手紙が有名なように甘いラブレターを生涯かけてしたためるような人で、そういう激しい恋愛やとろけるような想いが「月光」にもなっているし、ドビュッシーだったら「夢」になっているんですけど、キレイなものだけではなく裏にはドロドロの愛憎も渦巻いていたと思うんですよ。ドビュッシーなんか、つき合った女性が何人、自殺未遂を図ったのかっていうぐらい。

──壮絶なわけですね。

SUGIZO:そうですね。人間が持つ感情に対して非常に本能的な人が多い。それを完全な音楽に昇華できる学と技巧を持っているからこそ、無限大のロマンティシズムが音になるわけで、僕はそこに憧れを感じます。さっき、ストラヴィンスキーの「春の祭典」の初演が大失敗に終わったという話をしましたけれど、再演は大成功をおさめるんですね。そのキッカケを作ったのは(ココ・)シャネルとの恋愛だと言われています。シャネルがパトロンになってストラヴィンスキーに別荘を貸し、彼は「春祭」を仕上げた。と同時期に彼女は有名な香水「5番」を作る。にもかかわらず、結局、2人は結ばれない。こんなにロマンティックな話はないですよね……。あの時代は素晴らしかったんです。ストラヴィンスキー、シャネル、ジャン・コクトー、ドビュッシー、サティらが集っていて。

──パリの芸術家たちが集まっていたサロンのことですか?

SUGIZO:そう。サロンから高純度のアートとロマンスが生まれていった。音楽が生まれてくる時代背景を紐解くのが好きなんですよね。それと、今回の作品は1つの物語を作るような気持ちで選曲しました。組曲を作るような感覚。例え好きな曲であっても、物語にそぐわないと思ったら外しましたね。

■リストは、いわば初代ヴィジュアル系
■超イケメンの長身の超絶ピアニスト。

──ベートーヴェンの「月光」に始まり、リストの「愛の夢」(より第3番)に終わる選曲には、どんな物語を描いていたんでしょうか?

SUGIZO:まずはLUNA SEAのライヴの象徴でもある「月光」から始まりたかったんです。クラシックに詳しい人でも、この始まり方は気持ちいいと思います。それと重要なのは16曲目に収録されているチャイコフスキーの「悲愴」第4楽章。彼の晩年最後の曲で、初演の数日後に謎の死を遂げてしまうんです。チャイコフスキーはゲイだったと言われているんですけど、同性愛は法的に罰せられてしまう時代の中、自分の本当のロマンスを隠しながら生きていたので世の中、社会に対しての不満、恨みがあったんでしょうね。そんな彼の最後の作品で究極のロマンティシズムを感じると共に人生の終焉を感じる楽曲。覚悟があって最期にふさわしいので、最初はアルバムをこの曲で終わらせようと思っていたんですけど、これで終わるのは悲し過ぎるなって。

──確かに陰りがあり非常に切ない曲ですね。

SUGIZO:なので、リストの中でも僕のフェイバリット曲である「愛の夢」を最後に持ってきたんです。この曲によってドロドロになって尽きた生命が昇天して救われるような気がしたんですよね。ちなみにリストも究極のロマンティストでしたよね。初代ロックスターって言われてるって知ってました?

──そうなんですか。知らなかったです。

SUGIZO:リストが生まれたのは19世紀初頭なんですが、ベートーヴェン以降、音楽は貴族だけではなく一般の人たちも楽しむものとなったじゃないですか。リストの場合はいわば初代ヴィジュアル系でバッチバチにキマった超イケメンの長身の超絶ピアニスト。ステージに出てくるだけで貴婦人たちは大盛り上がりで失神する人も続出、リストが客席に投げた手袋を取りあって乱闘するとか(笑)。

──(笑)まさにスターですね。

SUGIZO:交友関係も女性関係も派手で、弾くピアノの音ひとつひとつがロマンティシズムのカタマリ。悪く言うとキザなんですけどね。

──ナルシスティックなクラシック界のイケメンがリスト。

SUGIZO:そう。ショパンのほうが内省的ですね。でも、リストは超絶技巧派のピアニストなので誰も彼の域には近づけないんですよ。あと、凄いのはリストの曲は弾いてみるとすごく難しいんですけど、テクニックを誇示するわけではなく、あくまで美しい。たぶん、女性に訴えかけてるんですね。超絶技巧を誇示するために音楽を生み出していた訳ではない。あくまで美のために。その感覚が好きですね。

──偉人たちの伝説を聞くと、授業でSUGIZOさんみたいに教えてくれたら、もっとクラシックに興味を持ったのになぁと思います。

SUGIZO:(笑)そうだね。だから、先生も「キミたち、ロクデナシでいいんだよ」って教えてあげればいいんですよ(笑)。「ちゃんとしなさい」って言うからダメなんです。だって、作曲家のみんなロクデナシだもん(笑)。でも、偉大な天才なんですよね。

──そうなんですよね。歌詞があるわけではないから、この曲はラブソングなんだってわかりにくい部分もあると思いますが、子供たちはクラシックをどう聴けばいいんでしょうか?

SUGIZO:やっぱり、いろいろな表現に触れることじゃないですかね。映画やドラマも台詞があるから「愛してるよ」って言えばわかるけれど、バレエやパントマイムだったら言葉がないから“何を言おうとしてるんだろう”って想像するじゃないですか。わからなくても知性や感性は磨くべきだと思いますね。僕自身、詩人が好きでコクトーや(アルチュール・)ランボーや(ヘルマン・)ヘッセを愛読していましたが、最初はわからなくても何度か反芻しているうちに掴めてきたりする。そうやってアンテナを磨く作業はしたほうがいい気がしますね。

──実際、話を聞いていると表現者としてはロックミュージシャンとそんなに遠くないですもんね。

SUGIZO:僕からしたら、全員、超ロックですよ。ベートーヴェン然り、サティ然り、ドビュッシー然り、何と言ってもストラヴィンスキー然り(笑)。ジャズの世界に飛ぶと、僕が最も好きなマイルス(・デイヴィス)もそうだし、ジャコ(・パストリアス)もそう。チャーリー・パーカーもサッチモ(ルイ・アームストロング)もそう。世のカッコいいミュージシャンは僕にとって、みんなロックンローラーなんです。みんな、その時代の常識を壊して風穴をあけてきている。そしておこがましいですけど、僕もその系譜でいたい。音楽をやる限りは新しい方法論を発見したいし、風穴をあける存在でいたい。

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