【ライブレポート】黒夢「近くのヤツと手を繋いでくれ、男の友情だぜ」

ポスト

黒夢が11月19日、東京・Zepp DiverCityで男限定のライブを行った。

◆黒夢画像

これは<The second coming of 1996 『BOYS ONLY』>と銘打ち2日のみ企画されたもので、初日は4日前に名古屋ダイヤモンドホールで開催されている。開演前のフロアには、平日にも関わらず当然のように男で埋め尽くされていた。これから訪れる特別な時間への期待から殺気にも似た、張り詰めた空気が漂っている。

19時を少し回り、BGMが切り替わったのを合図に、フロア前方に人が押しかけていく。そして、サポートミュージシャンのK-A-Z(G)、YOUTH-K!!!(Dr)と、人時、清春が定位置に着き、1音ブッ放した瞬間、張り詰めていた空気は爆発する。オープニングナンバーの「FAKE STAR」のヘビーなサウンド、鋭いボーカルが叩きつけられ、観客はそれをエネルギーにして、腕を振り上げ、ブチ跳ねる。

「暴れろっ!」

ドスの利いた清春の煽りに続いて流れた「CLARITY」のイントロ、それを聴いた瞬間、名古屋とは曲目を変えてきたことに衝撃を受ける。2日のみのライブですら、変化を求める。1本1本が1日限りのもので同じ夜は訪れさせない黒夢のプライドの現れだ。人時が頭を激しく降りながらピッキングをして凶暴で極上のベースラインを弾く。清春がモニターに片膝をついて、ふてぶてしく歌う。浴びせかけられる音と歌が4日前よりもガッチリと噛み合い、鋭さと威力を増している。この修正力も手練れのミュージシャンならでは、だ。

堰を切った怒濤のごとく押し寄せる超絶高スピードナンバーの応酬。そこに裏拍をストロークするギターが響き、空気を変える。曲は、「HELLO CP ISOLATION」。スカの軽やかさとパンクのヤバさを同居させた音楽にオーディエンスが跳ねる。それに続いた「YA-YA-YA」の時だった。湧き上がる衝動をダイレクトに歌にしながら清春が、大きく体を前に折り、そして頭を振る。彼がギアを切り変えたことが観ていて分かった。声が凄まじさを増す。その変化はすぐさま人時に伝染し、サウンドがエグさを増す。観客を、有無を言わさず飲み込んでいく。

多くのミュージシャンが言う。「良いライブをするには、ステージ上でも冷静さが必要だ」。ライブ運び、体力&声の調子と相談しながらのペース配分…その計算が一つのショーを作り上げる。だがそれは一般論であり、そんなもの、火の入った黒夢には関係ない。

「ROCK'N' ROLL」を歌い終えた清春がモニターの上にうずくまり、その姿勢のまま「ひどく、後遺症に、犯されてる」と鬼気迫るテンションで言葉を発する。凶悪にして、この場においては何よりも最高の音楽に、ライブ序盤から止めどなく続くグラウンドサーフ、そして自然発生するウォール・オブ・デス…それらの行為は“こんなにもノッている”というオーディエンスのアピールから、身体の奥底から沸々と湧く熱に突き動かされたものへと変わっていた。自制心と羞恥心が飛ぶ、意識が薄れる、ただただ最高のサウンドに身体を預ける。その結果ある者は隣の人と身体を当て合い、ある者は数cm数mmでも黒夢に近づこうと前へと押し寄せる。フロア前方で人が一つの塊になって蠢いている。その様は、“野生”とか“本能”という言葉がピッタリだ。

清春がステージの床に倒れ込むようにして寝転び、仰向けになって叫びを上げた。それが本編の最後だった。



アンコールに応えて再び姿を現した清春が笑いながら言う。「名古屋の時、横で暴れる人時くんを見て骨が折れちゃうんじゃないかって思ってたんだけど、今日は俺も参加しました。こんなに激しく動くと明日鍼の先生必要だね」。普段のライブではほぼ弱さを見せない清春のこの言葉は、心を通わせた男連中への愛情の現れだ。

これを受けて人時がこう話す。

「昔じゃなくて今の自分たちが一番格好いいと思ってやってんだよね。だからステージに立つし黒夢をやってる。何が限界か分からないし、それを超えられるか分かんないけど、とにかく今日は真っ白になれたね」。

アンコールに入っても容赦なく届く、タフでヘビーでスピーディなナンバーたち。

「短いライブで格好いいのは当たり前。ウチらは3時間以上やっても格好いいんだ」。

清春が吐いた言葉に会場に居るすべての人間がうなずく。

ステージとフロア、心が通っているのは間違いがない。同じ価値観で格好いいものを共有している。そんな空気にあっても音楽の応酬においては、馴れ合いはなかった。

「お前らまだ帰んなよ!」

渾身の「Suck me!」を終えてステージ袖に戻る清春が放ったこの一言は、闘う相手に放ったかのように響く。「親愛なるDEATH MASK」はそんな清春の姿勢が凝縮されていた。SNSが発達し、ちっぽけな発言ですら過敏に言葉狩りに合う2014年において、この歌を堂々と歌う姿に心が震える。その闘う姿にロックの自由をもう一度確認させられる。

ライブは1曲を残すのみになっていた。時間は22時10分を回っている。揮発した汗が白い靄となって漂うZepp DiverCityで、オーディエンスに清春が話しかける。

「たぶんここに居る男は信じた音楽をずっと信じてるんだよね。これからのまだ長い付き合いになる気がする」。

そしてこう言葉を継ぐ。

「これからムカツク時、やりきれない時、キツイ時がまだまだあると思う。そんな時、俺らの音楽を信じていてください。絶対ヌケ道は見つかります!」

多くの黒夢のライブでラストに演奏されてきた「Like@Angel」が流れ始める。暴れ続けていたオーディエンスが足を止め、ありったけの声で歌い始める。この曲に歌われている、少年──世の中の歪みに信じるものを失い心を閉ざしかけた姿は、ここに居るひとりひとりなのだ。そんな連中に清春は、“合図を出してくれたお前らを連れて、飛び越えたい”と歌う。そのために俺は歌い続ける、と歌う。この想いにヤラれて、もう一度信じる心を取り戻したのなら、そして今夜のライブを見たなら、黒夢の音楽を信じることはやめられない、そう思う。

ステージでは清春と人時、K-A-Z、YOUTH-K!!!が手を繋いでいる。

清春の「近くのヤツと手を繋いでくれ、男の友情だぜ」という言葉にオーディエンスたちが手を繋いでいく。そして全員が繋いだ手を挙げる。

この時清春が言った。

「お前ら最高! 忘れるなよ、黒夢でした」。

その言葉に、この光景を、今夜のライブの一瞬一瞬を、忘れることはないと思った。忘れられるはずがないと思った。これは記憶の奥深くに、もしくは魂そのものに刻み込まれた、大切な宝物だ。

黒夢は20周年の最後の日である2月9日に向けて、12月9日から<BEFORE THE NEXT SLEEP VOL.2「毒と華」>というツアーに出る。「ロングツアーはこれが最後」と清春が公言していように、多くの土地で彼らのライブの見納めとなるだろう。彼らの音楽を信じているのなら、黒夢の一番格好いい姿を刻みに行ってみてはどうだろうか。そこには、大切なものが存在しているはずだ。



TEXT:大西智之
PHOTO:宮脇進、今井俊彦

<黒夢 The second coming of 1996『BOYS ONLY』>

2014.11.19 Zepp DiverCity TOKYO
1.FAKE STAR
2.CLARITY
3.LAST PLEASURE
4.FREE LOVE, FREE SEX, FREE SPEECH
5.MIND BREAKER
6.CAN'T SEE YARD
7.DISTRACTION
8.BAD SPEED PLAY
9.BARTER
10 HELLO CP ISOLATION
11 YA-YA-YA
~ 人時 BASS Solo ~
12.MASTURBATING SMILE
13.FASTER BEAT
14.SPOON & CAFFEINE
15.C.Y.HEAD
16.CANDY
17.ROCK'N' ROLL
18.後遺症
19.Sick
< ENCORE 1 >
20.Born to be wild
21.DRIVE
22.Suck me!
< ENCORE 2 >
23.13new ache
24.I HATE YOUR POP STAR LIFE
25.CHANDLER
26.カマキリ
< ENCORE 3 >
27.Unlearned Man
28.S.O.S
29.親愛なるDEATH MASK
< ENCORE 4 >
30.少年
31.Like@Angel

【黒夢公式アプリ】

清春(Vo)がプロデュースするスマートフォン向け音楽プレイヤーアプリ「黒夢公式アプリ」がリリースされた。このアプリは、iOS版およびAndroid版の2種を配信中。アプリを起動すると黒夢の最新情報を随時チェックできるほか、限定のオリジナル動画や、ファン同士が語り合えるコミュニティ機能が楽しめる。またスマートフォンに入っている楽曲を再生しながら、コメントやスタンプを投稿できる機能も搭載される。気になる人は早速ダウンロードしてみよう。
※現在システムトラブルのため、アクセスにくい状況です。

この記事をポスト

この記事の関連情報