【倉木麻衣×BARKS連載対談】第七回(2009~2010年)「何か変化をしたい年だったんです」
■ライブはサポートしてくれる人たちがいることをより強く感じられる場所
■パワーとパワーを充電しあっている感覚になる
西室:第一回目は、月のゴンドラに乗ったんです。宙に浮いているように見える、マジックみたいな演出だったんですよ。
倉木:クレーンで高い位置に上がるんですけど、「どの高さまで行けますか?」って言われたんですよ。「怖くなったらストップって言ってください」って。クレーンが動いた瞬間に「ストップ!」って言っちゃいましたけど(笑)。
烏丸:もしかして高所恐怖所?
倉木:高いところは得意じゃないんです……。
西室:でもけっこう上まで行ってましたよ(笑)。
倉木:それは心優しい照明さんが周りを暗くしてくれて、怖くないようにしてくださったんです(笑)。そういう陰ながらのバックアップもあって、いいライブができたなと思います。
西室:この年は幕張メッセ2DAYSがあって、ホール・ツアー(<10th ANNIVERSARY MAI KURAKI LIVE TOUR 2009 "BEST">2009年7月25日~12月21日)があって、ツアー中にまた全然違うハロウィン・ライブがあって。今、何のライブをやっているのかわからなくなるという(笑)。
倉木:アジア各国にも行きましたしね。でもいろんなスタイルでライブができたことによって、見えてくるものがあるんですよ。“これができたなら、次はもっとこういうふうにできるんじゃないか?”って。やってみて良かったなと今は思ってます。特にハロウィン・ライブは、1年目よりも2年目のほうが、スタッフも私もさらにクオリティの高いものを作れたんじゃないかなと思います。達成感がハンパなくて、男性スタッフもうれしくて涙を流すぐらいだったので。
西室:ギリギリまでこだわって作りましたから。
倉木:そういう年だったなぁと思いますね。
烏丸:定型のライブにとらわれない、枠にはまらないものを始めた時期ということになりますかね。それはデビューから10年たって期が熟した、ということですか。
倉木:そうですね、もちろんデビューしてからのいろんな経験があったからこそ、2009年と2010年の間にそういうことができたと思うんですけども。ああでもないこうでもないと言いながら作っていくプロセスの段階で、スタッフのみんなも一緒に上を向いていることが、この1~2年の中でものすごくできたと思うんですよ。絆もより深まったし、そういう意味でも“アーティスト倉木麻衣の確立”ということになると思います。
烏丸:この年は音楽業界的にもいろんなことがあって、調べてみると、セツナソングが流行っていたり、洋楽だとレディ・ガガがブレイクしたり、アニメでは「けいおん!」が流行ったりしたんですね。僕ら的に衝撃だったのは5月に忌野清志郎さんが亡くなられて、6月にマイケル・ジャクソンが亡くなるんです。そういう時代の出来事の影響を、倉木さんも受けていたりするんですかね。
倉木:自分では意識はしてないですけど、いろんなところから情報が入ってきますから、自分のフィルターを通して形にしていくということで、何かしらの形で時代の影響は音楽の中に入っていると思います。ただ私にとって、今言われたマイケル・ジャクソンが亡くなったということは本当に大きな影響がありました。ちょうどリハーサルをやっていた時だったんですけども、ニュースを聞いた瞬間にリハどころではなくなってしまって、家に帰っても涙が止まらなくて。自分が歌手になろうと思ったきっかけを与えてくれた尊敬するアーティストの方が亡くなったということは、自分の心の一部がなくなってしまうぐらい、一瞬無気力になってしまったことはありました。でもリハーサルをやってライブもしないといけないので、モチベーションを上げていくことが大変だった時期でもありました。
烏丸:なるほど。
倉木:ただ音楽的なものに関しては、セツナソングが流行っていた時期だとは思うんですけど、私としては、10周年ならではの勢いのある今を伝えたいという楽曲が多かったように思います。
烏丸:倉木さん、本当にブレないですよね。時代の流行りが変わっていっても、アーティストとして自分の音楽を突き詰めることにすべてのエネルギーを使って、変な意味で周りからの影響を受けない。そこがすごく頼もしい気がしますね。
倉木:私が音楽を発信する源になっているのは、ライブに来てくださる、私の歌を聴いてくださるファンのみなさんなんですね。だからその時その時、今感じているものをみなさんにお届けしたいという気持ちでやってこれたんだと思います。2009年頃は、その思いをより直接伝えたいと思う気持ちが強くなっていった時期でもあるので、曲も必然的に気持ちを上げていくようなものを選曲していたんだと思います。
烏丸:たとえばライブで新しいことにチャレンジすると、お客さんの表情や受け止め方の変化が、手に取るようにわかりますよね。そういう喜びが、新しくチャレンジすることの源になりますか。
倉木:それもあります。やった!という達成感と、みんなの喜びが大きな原動力になっていることはあるかな、やっぱり。歌手の人はみんな、きっとそういう思いを感じているんじゃないかなと思いますけど。そしてライブはひとりでは絶対できないので、自分ひとりではなく、サポートしてくれる人たちがいることをより強く感じられる場所でもあるんですよ。ライブは、パワーとパワーを充電しあっているという感覚になるので、欠かせないものになってます。
烏丸:充電しあっているという言葉が自然に出てくるあたり、倉木さんらしいなという気がしますよね。たとえば一生懸命働いたあとはすごく疲れて消耗して、お休みをもらって充電して、というのが普通じゃないですか。ライブをやってること自体が充電につながるというのは、なかなか言えないと思いますよ。
倉木:もちろん体力的な部分では、ものすごく疲れるんです。だけどその疲労感が、メンタル的に、みんながものすごく応援してくれたことでここまでやってこれたという思いに変わる瞬間があるので。心の栄養みたいなものを充電しあってるのかな?という意味で、充電なのかなと思います。特にそれは、この2009年と2010年を経て、その思いがどんどん強まってきているという感じですね。
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