【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.5「物語へ」

ポスト

藤井丈司連載第2回目は、『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』や『消されたマンガ』(共著)などの作者である、ばるぼらさんが登場。先日4月21日には赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』発売したばるぼらさんとの全5回に渡る対談のVol.5をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.4「ボカロ登場」

Vol.5「物語へ」
(対談収録日:2013年11月16日)

  ◆  ◆  ◆

2000年代前半かな、小説の世界で新本格、新伝綺、青春エンタ、セカイ系とかっていう
ブームが相次いであって。そういう文化も影響というか、下地にあると思います


藤井:それで残響ロックのDTMバージョンっていうと、やっぱりハチさんの「マトリョシカ」とか、じん(自然の敵P)さんの「ガゲロウデイズ」っていうのは、ものすごい物語だなっていう気が、俺はしてます。あとirohaさんの「炉心融解」と、この3曲。日本語のポップスでいい曲って、今はなかなか生まれないんだけど(笑)、ボカロにはいい曲あるぞっていう。歌詞がすごいし、アレンジのダイナミクスもすごいし、ちょっとこれは、J-POP負けてるな、みたいな。


ばるぼら:ええと、2011年だったぐらいに、シュールレアリスムを正しく理解するPことシュルるPさんが「ミクノポップからボカロックへ」ってことを言ったんです。

藤井:あぁ~、「ミクノポップからボカロックへ」。わかりやすい。

ばるぼら:そう、すごくキャッチーでわかりやすいタームだなと思いました。「ボカロック」というのが2009、10年ぐらいから流行り始めたっていう仮説。そこから基本的には今も続いてるんですけど、「カゲロウデイズ」とかに代表されるように、歌詞の内容がよりどんどん物語的になっていってるんですね。それがノベライズされるっていうのが今はいちばん成功してる感じ?

藤井:そうだね。「カゲロウデイズ」もそうだし、さっきのトラボルタPさんの「ココロ」もミュージカルになったし。「カゲロウデイズ」を作ったじんさんは、BACK HORNと乙一が自分が一番影響をいちばん受けた作家って言っててさ。あぁ、そこからきたんだ!みたいな。それは俺、すごいビックリした。

ばるぼら:そういう感じで言えば、2000年代前半かな、小説の世界で新本格、新伝綺、青春エンタ、セカイ系とかっていうブームが相次いであって。そういう文化も影響というか、下地にあると思います。実際に読んではいないかもしれないけど、そういうものが既に若者が読む小説としてあるっていうのが重要だと思いますね。

藤井:そうか。歌詞の世界観はそこにも……

ばるぼら:つながってる気がします。

藤井:それとボカロは、やっぱり動画のすごさ。ミク的な女の子がいて、そこに弾幕のように歌詞がばっと出てくるじゃないですか。漢字が圧倒的に多いでしょ? あの見え方がやっぱりすごいよね。それがやっぱり全然違うところだと僕は思います。 あれだけのスピード感を人間の肉体では、出せないじゃない? フラッシュアニメの話が前に出てきたけど、切り刻んでバキバキバキってやる、そういうスピード感のある絵を作れるのは、下地があったんだね。あとね、歌詞が出てこないと、何言ってるかわかんないんだよね(笑)。

ばるぼら:あははは。あれ、歌い手用にやってるっていうのもありますね。

藤井:でも、あの歌詞が出るのがすごくいいんだよね。あの言葉を見ながら音を聴く、その歌詞を歌ってるのを聴くっていうのは、たぶん日本人はすごい好きなの。

ばるぼら:それはある(笑)!

藤井:言葉を見てるのがすごい好きな民族だから。

ばるぼら:ほんとそう。だからPVに歌詞が出る文化っていうのはボカロの外にもだんだん広がってる。

藤井:なんか、歌舞伎っぽくていいんだよね。

ばるぼら:あははは!

藤井:舞があって、漢字が流れていって、音楽と声があるっていうのがすごい日本人的で、歌舞伎とか能とか、そういうものに何か近いなって、ちょっと偉そうな言い方ですけど、思うんですよ(笑)。

ばるぼら:あぁ~。それで思い出しましたけどルーツ的に筋肉少女帯は人気ありますよね、やっぱり。

藤井:あ、近いよね。

ばるぼら:近いですよね。筋肉少女帯やアリプロジェクトが80年代からやってきたものが、ゆっくりとJ-POPの世界に浸透していった印象。

藤井:そうそうそう、ビジュアル系と呼ばれたり。

ばるぼら:独特の「和」な精神性ってずっとありますよね。

藤井:あるある。

◆最近知っておもしろかった話は、カラオケで上位にくるボカロ曲っていうのは、
ほとんどがデュエット曲、ふたり以上が歌ってる曲だと


ばるぼら:たまに日本の音楽史のポイント、ポイントで登場するみたいな。

藤井:ほんとそう。ビジュアル系の人たちって、音楽がすごい「和」な感じがする。

ばるぼら:うんうん。あんなに洋楽に影響受けてるはずなのに、どうしてあんなに和に聴こえるんだろうって思う時がある。

藤井:やっぱり意識的に書いてるんだよ。ジュディマリのプロデュースをした時に、TAKUYAが「僕らはやっぱり曲がいいと思うんですよね」って言ってた。それは、ラルクとかジュディマリやGLAYとか、ビジュアル系と呼ばれるバンドの事を指していってたんだけどね。「日本人の好きなメロディを、ちゃんとバンドでロックで作れると思う」って言ってた。まぁこうやったら売れるっていうことも考えてただろうし、これがこの国では、やっぱりいいんだな、みたいな、それをロックでやると、なんか新しいじゃんっていうのを、97年くらいの話だけど、そんなこと言ってた。

ばるぼら:へぇ~、そんなことが。そうやって日本人が好きそうなメロディというのを、90年代にどんどんみんなが洗練させていったと思っていたら、90年代後半にR&Bとヒップホップが流行ったことによって、素人が歌って気持ちいいメロディが減ってくイメージです。そこでカラオケって売上落ちたんじゃないかと思う(笑)。

藤井:それと同時に桜ソングとか出てきてさ、大和の感じ、和な感じがさ。

ばるぼら:(笑)桜とか卒業ソングが増えたことで、日常や生活の風景を取り上げた曲が増えましたね。カラオケといえば、最近知っておもしろかった話は、カラオケで上位にくるボカロ曲っていうのは、ほとんどがデュエット曲、ふたり以上が歌ってる曲だと。

藤井:あ、そうなんだ。

ばるぼら:リンとミク、なんとかとGUMIとか、組み合わせは色々あるけど、とりあえずデュエット曲っていうのが多いみたいです。だから90年代のカラオケ文化はあくまで一人で歌ってたけど、それとはちょっと違う掛け合いの文化として、今またカラオケが復活してるんだなと思いました。ツッコミとボケがいるお笑いブームの影響……はさすがにないか(笑)。

藤井:でもあれはボカロ1個だと、モノトーンになっちゃうから2体っていうか(笑)、ふたつぐらい使うとハモったり、色変えたりするのにいいっていうかさ。カラーリングみたいなこともちょっとあると思うな。

ばるぼら:たしかに。さらに言うと、飽きさせない工夫というか、歌ってない空間を減らす、隙間を埋めるみたいな。

藤井:そうそう。それはわりと音楽的な作業なんだよね。

ばるぼら:っていうことを結果的にみんなが楽しめてるから、これまでにないおもしろい状況になってるなと思います。

藤井:2人組っていう。そうするとちょっとアイドルっぽくなるんだよね、曲もね。

◆物語を消費しやすい別の新しいフォーマットが出てきたら、
次の流行りになるかもしれないですね


ばるぼら:なるほど。しかし今日はもっと、ワタシはJ-POPっぽい話を聞くんだと思ってたんですが……(笑)。

藤井:どんな話?

ばるぼら:藤井さんがプロとしてっていうか、90年代にちゃんとヒット曲を作ってきた側としては、今の曲は全然ミックスがダメだなとか(笑)。

藤井:なんで(笑)。そんな大先生みたいなこと(笑)。

ばるぼら:でもアレンジとか気になったりするんじゃないですか? もうちょっとここはこうしたらいいんじゃないかなとか。

藤井:うーん……ある意味スピーカーで聴くもんじゃないっていうところで、ひとつ川は渡ってるわけじゃないですか。

ばるぼら:あはは。

藤井:そういう音楽じゃないって。だってさ、19世紀にはレコードはないじゃない? だから音楽を聴こうと思ったらコンサートホールに行くわけでしょ。それが20世紀はレコードになって家で聴けて、スピーカーで聞いていいかどうか、ということに変わっていくんだよね。で、テレビが出てきて、ロックンロールが出てきて、ビートルズが出てきて、それでまたテレビで見てカッコイイかという事になっていく。そして今は、スマホで、イヤフォンで聴かないとわかんない音楽、っていうところに川を渡っててさ、それはまた大きく違うと思うんだよね。

ばるぼら:ふむふむ。

藤井:そこでのアレンジ方法の正解とかっていうのは、まだ誰も見つけてないんじゃないかな。

ばるぼら:あぁ、完成形はまだ模索してるみたいな。

藤井:ただ、さっき言ったようなボカロックっていうのは、ひとつの答えだと思う。でもやっぱりアレンジ方法よりも、「カゲロウデイズ」のような、ああいう物語を作る人がどんだけ出てくるかだよね。出てこないと、さっきの、ある世代がいなくなっちゃったら誰もやんなくなっちゃったっていうことが、ボカロにも起こるような気がする。

ばるぼら:なるほど。今は物語さえあればなんでも聴くっていうリスナーがいるんじゃないかと思ってます。別に曲調が高速ボカロックでなくても、別の感じの曲でも、物語があったらずっと集中して聴けてしまう、とにかくドラマやアニメを見てるような意識で画面を見てる感じになってるんじゃないかと思って。だから物語を消費しやすい別の新しいフォーマットが出てきたら、次の流行りになるかもしれないですね。

J-POPじゃない音楽に影響を受けてる人がボカロで曲を
発表するとこうなるのかと思うと、まだまだ幅は広がるなと


藤井:それは絵かもしれないしね。要するにドラマとストーリーっていう、そこに音楽が乗って見てる人をどこに連れて行けるかっていう「乗り物」だからさ。乗り物っていう意味では新しいものが出てくるかもしれないけど、音楽とボーカロイドっていうだけで考えると、そんなに幅はねえだろうなっていう気がする。ああやって淡々と歌うわけじゃない? 淡々と歌って心に入るっていうことは、よっぽど歌詞が劇的だとか叫びみたいなものじゃないと、そのバランスが良くないわけさ。

ばるぼら:(笑)へぇ~、そっか。じゃあ、あとは最近聴いたオススメ曲でも……。

藤井:聴いてみようか。

ばるぼら:えーっと、まずこれ。



藤井:いいですね。踊れるボカロ。スライみたいだな。

ばるぼら:同じ作者の「大怪獣ニッポンゼンメツ計画」って曲もいいんですけど、これは動画もよかったです。最後にグッとくる。……他にはこれとか……。


藤井:すごい、エスニックで。これ、ボカロのプログラミングも素晴らしいね。

ばるぼら:J-POPじゃない音楽に影響を受けてる人がボカロで曲を発表するとこうなるのかと思うと、まだまだ幅は広がるなと。

編集:すごい。もう1曲教えてもらえますか?

藤井:でも今の曲で終わったほうが、妖艶でいい感じ……。

ばるぼら:(笑)。じゃ、エンディングっぽい感じの曲。



藤井:これは、人気ありそうだな。

編集:いいですね。

藤井:これはいい曲だ。写真撮りましょう。今日良かったね。

編集:新たな発見と、すごい勉強になりました。

ばるぼら:あはは。

文◎藤井丈司

■ばるぼら(barbora)
ネットワーカー。
「ばるぼらアンテナ」等、多数のサイトを主催し、インターネットについての情報等を収集・分析する。
インターネット及び1980年代以来の日本のサブカルチャーに詳しく、その後も、情報量の高い著書を続けて刊行。
4月21日には『Quick Japan』立ち上げ人として知られる赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』を発売した。


◆ばるぼら Twitter
◆藤井丈司プロフィール
◆藤井丈司Facebook
この記事をポスト

この記事の関連情報