【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.4「ボカロ登場」

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藤井丈司連載第2回目は、『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』や『消されたマンガ』(共著)などの作者である、ばるぼらさんが登場。4月21日には赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』発売したばるぼらさんとの全5回に渡る対談のVol.4をお届けします。

◆ 【月刊BARKS 藤井丈司連載対談『「これからの音楽」の「中の人」たち』】第2回 ばるぼら編Vol.3「イヤフォンで聴け」

Vol.4「ボカロ登場」
(対談収録日:2013年11月16日)

  ◆  ◆  ◆

アイドル動画のブームが2007年に起きた。
その後に初音ミクがようやく登場する


藤井:同人音楽、同人マンガ、SF同人誌、同人ソフトやゲーム、DTPからウェブデザイン、ケイタイ文化、イヤフォン(笑)、声優、フラッシュアニメ。わりと下地が揃ったところで、ニコ動と初音ミクが出てくるっていう。2006年、7年でしたっけ。

ばるぼら:まぁ2006年12月とかですけど、でも変わるのは2007年春からですね。

藤井:YouTubeの日本語版がニコ動と同じぐらいで。

ばるぼら:そうそう。最初はニコニコ動画も、単なるネタ動画とか、違法アップロード曲とか、そういう感じだったんだけど、ちょっと変わってきたのは「IDOLMA@STER」というアイドルプロデュースゲームが2007年1月にXBOX360で発売されてからかなと思います。アイマスの動画、とくにMAD動画、勝手に、本来の映像を切り刻んで、全然違う文脈をつくるのが流行った。MAD動画はYouTubeではすでに流行ってたけどニコニコ動画に移ってきた。

藤井:切り刻むってどういうこと?

ばるぼら:編集で、おもしろい顔をしてるところだけ何回も繰り返したり、関係ない映像を挟んだり、単純なのはそういうことですね。本当は違う曲の映像なのに、別の曲にピッタリあわせて踊ってるように作り変えたり。勝手にセリフを当てて、全然そんなこと言ってないんだけど、そういう風に言ってるように見えるっていう勝手字幕的なものとか。

藤井:あぁ~。

ばるぼら:で、ちょうど同時期にPerfumeが売れ始めてて、Perfumeの動画も流行るんですね。いろんなところでPerfumeの音楽が使われていたり、Perfumeのビデオすげえ、とか、そういう風にみんな言っていた。「IDOLMA@STER」とPerfumeの流行っていうのは、けっこう並行してた気がします。そういうアイドル動画のブームが2007年に起きた。その後に初音ミクがようやく登場する。

藤井:なるほど、「IDOLMA@STER」っていうのも大きいね。

ばるぼら:大きいですね。

藤井:でなきゃ出てこないもんね、あんな風に、いきなりぼんってさ、ネギとか(笑)。

ばるぼら:あはは(笑)。で、2007年8月31日にようやく初音ミクが発売されて、で、もう翌月には既にヒット曲が出てくる。

藤井:へぇ、1ヵ月?

ばるぼら:もういきなりみんな、“なんだこれ!?”みたいになるんですよ。「みくみくにしてあげる【してやんよ】」がいちばん最初のブレイク。

藤井:そうなの?

ばるぼら:あれが1ヵ月で100万再生とか、すごいことになったんです。



藤井:当時でも、再生数で競い合ってるんですか。

ばるぼら:やってました。YouTubeにも最初からありましたから。

藤井:でもそれがおもしろいよね。今やもうそれがセールスの代わりの数字になるんだもんね。

ばるぼら:だから見る人も意識して、この動画を600万再生までしてあげたい!みたいに「支援!」とか(笑)、いろいろ書いて再生数を上げていくみたいな。それで、「みくみく~」が出て、あの曲がまたDTM的にはまだ練られてない、デモテープっぽい感じがするんですよ。終わり方も唐突だし。

藤井:「アレンジが入ってない」っていうか。

ばるぼら:そうそう。で、さらに曲調が往年のJ-POPっぽいんです。で、これなら作れるんじゃないか、みたいなことをみんな思ったんだと思うんですよね、あのタイミングで。そんな風に誘発させる感じがあった。

ヴォーカルだけ使って勝手にオケを当てるっていう、
アンダーグラウンドなリミキサーの人たちが登場し始めるんです


藤井:それが流行った。で、同人音楽みたいなことをやってた人とかいろんな人が集まって、これならできるよって。

ばるぼら:できるよ、みたいな感じ(笑)。今まで別の場所で曲を作ってきた人、muzieでもいいし、YouTubeで適当に公開してた人でもいいし、フラッシュとかで使われてたような音楽、ウェブに公開してた人たちみたいな、ニコニコ動画に投稿してみるとやけに人気が出るみたいな(笑)。

藤井:やけに反応があるなっていう(笑)。

ばるぼら:やっぱダイレクトに反応があるっていうのは、今までのサービスでは起きなかったことですから。

藤井:それまでないよね。そういう反応があったりコメントがきたりするっていうのは基本的にないんだよね。

ばるぼら:だからコメント欄っていうのはありますけど、わざわざみんな書き込まないじゃないですか。

藤井:そんな簡単に書ける感じじゃないよね。敷居が高い感じ。

ばるぼら:わざわざ感想を書くっていうモチベーションはないみたいな(笑)。

藤井:面白いねー。

ばるぼら:ないんだけど、あのニコニコ動画のコメント、弾幕って言うんですけど、流れてくる。あれだったらなんとなく自分もおもしろいし。

藤井:すぐ消えちゃうし。

ばるぼら:そうそう、ちょちょっと書きたい、みたいな。それでコメントの敷居が下がったっていうのもあると思うんですよね。

藤井:参加できるしね、画面の中に。

ばるぼら:だから弾幕、カラフルなキレイなのがふわーって流れていくみたいな。

藤井:で、8888!みたいな。

ばるぼら:で、歌詞職人っていう、いちいち歌詞を打ってくれる人とかいるし(笑)。

藤井:へぇ~。

ばるぼら:だから最初ニコニコ動画が出てきた時って、あのコメントがウザいっていう人が多かったんですけど、やっぱりあれ込みでおもしろいみたいな風に。

藤井:いや、そう思います。ビックリしたもん。

ばるぼら:だからちゃんとあれに乗っかれる人、乗っかれない人みたいなのは……。

藤井:もうひとつのハードルだよね。

ばるぼら:ハードルがあったと思いますね。

藤井:さっきのボカロ面白いっていう話と同じなんだよね。イヤフォンで真面目に聞かないとね、ちゃんと越えないと面白がれないんだよね。

ばるぼら:そうそう、おもしろがり方がわからない、みたいな人はたくさんいたと思う。っていうのが2007年ぐらいかな。あと2007年ぐらいにネットレーベルっていうのも流行り始めてた。昔からあることはあったんですけど、本格的な流行はこの頃から。最初は電子音楽/エレクトロニカっぽいレーベルが多かったんですけど、徐々に一風変わったダンスミュージックが増える。

藤井:ハードコア?

ばるぼら:そうそう、ハードコア・テクノ、ガバ、J-CORE的なのもあるし、2006、7年ぐらいから、J-POPを勝手にリミックスする文化が台頭する。

藤井:切り刻んで。

ばるぼら:そう。J-POPってよくカラオケがカップリングに入ってるじゃないですか。そのおかげでヴォーカルが抜きやすい。逆相でぶつけるとヴォーカルだけ残る。

藤井:なるほど。

ばるぼら:そういうソフトをみんな使うようになったり。それでヴォーカルだけ使って勝手にオケを当てるっていう、アンダーグラウンドなリミキサーの人たちが登場し始めるんですね。

藤井:そんなことして、やってたんだ(ちょっと驚く)。

その頃からようやくまた音楽が近くなってきた
感じがします。意識のうえで


ばるぼら:そうそう。だからtofubeatsも最初はそれで有名になったんですよ。「The Endless Polyrhythm Lovers」って曲。んでさらにさらに付け加えると、2004年ぐらいからMP3ブログっていうのが海外で流行ったんです。とにかくMP3をどんどんアップするブログ。今まではすごいめんどくさい場所で掲示板とかにお礼を書きながらダウンロードしてたけど、もう単に、普通にどんどんアップしちゃおうよ、みたいな流れになる。

藤井:要するに曲が貼ってあるブログなの?

ばるぼら:ダウンロードリンクが張ってあるブログ。アルバムまるごと、昔の激レア音源とか、まるごとどんどんアップする人っていうのが増えてくる時期なんです。そのフォーマットみたいなものがネットレーベルの画面ともちょっと似てるんです。ネットレーベルがアルバムをリリースするみたいな感じ、ネットだけで流通が完結してる感じ。もうジャケットも画像で、MP3がZIPの中に入ってるっていうスタイルが、みんなに根付いていく時期だった。どんどんネットで音楽を聴くっていうことがイージーになっていくんです。

藤井:うんうん。まぁタダになっていくと。

ばるぼら:タダになって、しかも聴きやすい。

藤井:簡単にね。何もしなくて、クリックするだけで聴ける。

ばるぼら:しかもみんなストリーミングを張るようになってきて、もうダウンロードすらめんどくさい、みたいな(笑)。

藤井:聴ければいいよと。

ばるぼら:YouTubeにアクセスしたらもういきなり始まるじゃん、みたいなレベルになっていって。

藤井:それで言うと、やっぱりYouTubeの影響力って大きいんだね。あれで、ポチッで見れるんだからさっていう。全部そうなってほしい。ポチッでご飯も出てきてほしい。お湯も出てきてほしい(笑)。

ばるぼら:(笑)。だから、その頃からようやくまた音楽が近くなってきた感じがします。意識のうえで。なんていうか、2000年代前半ってCCCD(コピーコントロールCD)っていう、パソコンで音楽聴くのめんどくさいみたいな時期がありましたよね。

藤井:音悪いんでしょ?みたいな。あれが、印象良くなかったんだよね。

ばるぼら:CDプレイヤーでしかCD聴けないんですか!?みたいな、音楽聴くのめんどくさいねって感じの時に、ポンとすぐ流れるYouTube、MP3ブログ、ネットレーベルが出てきたことで、またちょっと意識が音楽に向かっていく感じがしました。そういう文化もあったという話ですね。ちなみにネットレーベルっていうのはインターネットで音楽を発表していた人たちのうち、初音ミクにいかなかった人たちなんです。もちろん両方やってる人もいることはいるんですけど、初音ミクとは違う独自の音楽文化をネットレーベルはネットで今築いてる。だから2007年に初音ミクを取るか取らないかっていうのが、DTMをやってる人たちの意識にたぶんあったと思うんですけど。……で、ようやく初音ミクの話ですけど(笑)。

藤井:ここまでくるのに何分かかったんだろう?

自分はプロデューサーであるという視点は、初音ミクっていうものを
どういう風に見せれば面白いかっていう発想だったと思う


ばるぼら:(笑)だから初音ミクも、初音ミクっていうキャラクターをどう生かそうかってみんな考えてたと思うんですよね。初音ミクっていうのをまずアイドルと見立てて、自分たちがプロデューサーであるという意識って、「IDOLM@STER」とちょっと近いと思うんですよね。

藤井:俺が秋元康だと。

ばるぼら:俺が中田ヤスタカだと(笑)。自分はプロデューサーであるという視点は、初音ミクっていうものをどういう風に見せれば面白いかっていう発想だったと思うんですね、一番最初は。でも途中から、Supercellの「メルト」っていう曲とか、あと、bakerさんの「celluloid」っていう曲もそうなんですけど、初音ミクっていうものをアイドル視しないで、初音ミクを単に歌い手として見る、架空の存在として見るっていう視点が増えるんです。



ばるぼら:それまでは電子の妖精とか、SF的な発想で初音ミクが見られてたけど、もっと身近なキャラクター、別にどんな性格を与えてもいいっていう風にみんなが気付くっていう時期が2007年末ぐらいかな。で、2008年はそうやって初音ミクアイドル派と、初音ミク何でもいいじゃん派とごちゃまぜになってた時期な気がします。

藤井:そうなってやっと歌手扱いが始まるわけだ。

ばるぼら:それとあわせて、最初はDTMと相性のいい打ち込みのダンスミュージック的なアレンジの曲が多かったけど、だんだんギターロックっぽい音になっていく。

藤井:残響っぽくなるよね?

ばるぼら:うん、そうですね。

藤井:9mmとかさ、アジカン、そういうロックの初音ミク版みたいな。

ばるぼら:そういうノリが入ってますね。

藤井:それがすごいいいんだよね、日本では。すごくいいと思う。

ばるぼら:やっぱりダンスミュージックっていうのはリフに向かうので、曲の構造が。でもリフを楽しむっていうのはちょっとだけ大変というか、耳が慣れてないと退屈に聴こえるものだと思うんです。

藤井:作るのも難しいんですよね。

ばるぼら:うん。だからやっぱり展開が多い曲のほうがおもしろいはず。とくに今ボカロのメインリスナー層である小中高校生には。って考えると、ギター曲のほうがまだ展開を作りやすいのかな。

藤井:そうだね、ギャギャ! シーン……っていうのがね(笑)。

ばるぼら:淡々と進むエレクトロニックな曲調よりも、ブレイクがいっぱいあるロック的な曲調にだんだん変わっていくんです。

藤井:漫画っぽいんだよね、あれは。ダダーン!っていって(大音量でギターが鳴る感じ)、シャリーン(小さく音が鳴る)っていう音のダイナミクス。漫画っぽくなるんだよね、、DTMでロックっぽく作ると。

人間の歌手だったら、これを最後まで淡々と
歌えと言われたら、わりと難しいです


ばるぼら:これはワタシの印象ですけど、例えば今までずっと筒美京平さん的な歌謡曲、イントロからアウトロまで違和感なく流れるような曲をみんないいものだと思ってたけど、90年代以降の小室哲哉さんのように、ブロックごとに作ったような曲調、サビとAメロとBメロがバラバラな曲に、J-POP自体がだんだん変わっていった感じがするんです。

藤井:こんな転調歌えないでしょって(笑)。

ばるぼら:(笑)って当時は思ってたけど、ああいう風なカラオケで挑戦したくなるような曲って小室さんは言ってましたけど。

藤井:まぁ、言い方ですよ(笑)。

ばるぼら:言い方(笑)。全然バラバラのものを1曲にしてる感じ、っていう方が、みんな展開が多くて飽きない。ジェットコースターっぽい感じ。上がったり昇ったりで、ずっと真っ直ぐじゃない。

藤井:そういう構成の妙で言うと、僕はトラボルタPさんっていうボカロPがすごい好きなんです。日本のポップスってABCを2回繰り返してDがあって、最後にCを繰り返して終わるっていう、わりと決まりきった形になってるんだけどね。トラボルタPさんの「トエト」って曲は、構成を考えてみたら、Hぐらいまであるんだよね。

ばるぼら:あははは。

藤井:1番でAからEぐらいまであって、2番はAから始まるんじゃなくてちょっと違うものがあって、またBとかCとか出てくるんだけど、最後Hぐらいまでいって終わるっていう。こういう構成を、人間の歌手だったら、これを最後まで淡々と歌えと言われたら、わりと難しいです。ひと幕の短い映画、短編映画みたいなものがボカロって出来るんだなっていうのはすごいもんだなって思った。ちょっと「トエト」を聴きますか。



ばるぼら:へぇ~、なるほどね。

藤井:人間が歌ってて、パーツが5つ以上あると、歌として認識するのに人間の脳は疲れちゃうんだよね。話が多すぎるっていうか、まぁ言葉もまた、音のシーンも変えていかないといけないし、ちょっとややこしくなるんですよ。だから、なんでこんなにいっぱいあるの? 削ろうよ、みたいになってく(笑)。

ばるぼら:あははは。

藤井:やっぱABCでしょっていう。五七五じゃないと面白くないっていう。俳句だから、要するにABCっていうのは。

ばるぼら:ふむふむ(笑)。

文◎藤井丈司

次回。連載対談、ばるぼら編の最終回となるVol.5「物語へ」をお届けいたします。

■ばるぼら(barbora)
ネットワーカー。
「ばるぼらアンテナ」等、多数のサイトを主催し、インターネットについての情報等を収集・分析する。
インターネット及び1980年代以来の日本のサブカルチャーに詳しく、その後も、情報量の高い著書を続けて刊行。
4月21日には『Quick Japan』立ち上げ人として知られる赤田祐一氏との共著第2弾『20世紀エディトリアル・オデッセイ』を発売した。


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