【連載】Large House Satisfactionコラム番外編『新・大岡越前』第六章「ウチダさん、暴走」
※
「いやー。やっぱりなんか怪しいと思ってたんだよね」
尾行の末、盗人の盗賊宿を突き止めた忠相は、ことの顛末を伝え指示をとばすため、すぐさま奉行所に引き返し、部下たちを集めた。
「とにかく、泥鰌屋は凶悪な盗賊に狙われておる。きゃつらめ、大胆にも泥鰌屋の目の前の蕎麦屋をねぐらにしておったわ。配下の頭数は少ないが、いずれもその道では名のとおった血を好む外道のやつらよ。引っ捕らえるには万全の準備が必要である。そのためには…」
忠相は作戦の概要を伝えようとした。
しかしそれをさえぎるように、
「皆殺しですかー!!」
ウチダさんである。
「まかせてよ!オレ全部やっちゃうから!ぶっ殺しちゃうから!」
大興奮である。
「い、いや、そういうのはみんなでやろうよ。てゆーか殺さないから。引っ捕らえるだけだから…」
忠相は慌ててなだめたが時すでに遅く、ウチダさんは雷神の如き素早さで姿を消していた。
「困ったものだ…!」
またしても頭をかかえる忠相であった。
※※
数分後、変態医師・内田チャンケンの医院に突撃した筋肉同心・ウチダさんは、チャンケンを拷問にかけていた。
「おりゃあ!!おりゃあ!!おりゃあ!!」
ウチダさんが渾身の力でもって、先端を細くたてに割った太い竹竿をふんどし一丁のチャンケンに叩きつける。
「オッ。オッ。オッ」
チャンケンはよだれを垂らしながら、叩かれるたびに嬉しそうな悲鳴をあげている。
「このヤロー!もう証拠はあがってんだよー!泥鰌屋に押し込むのはいつなんだよー!吐けこのヤロー!」
ウチダさんはなにを勘違いしたのか、チャンケンが盗賊の一味だと思いこんでいた。
「しっ、知らんっ。ワシはと、盗賊の仲間なんっ。なんっ。か、じゃなんっ。いんっ」
「なに言ってるかわかんねーんだよこのヤロー!前から怪しいと思ってたんだよー!いいから吐けこのヤロー!」
「そ、そんっ。そんなっ。だかっ、らっ、知ら、なんっ。なんっ。オッ。サ、サイコー!」
「なにがサ、サイコー!だバカヤロー!押し込みはいつだコノヤロー!」
「いひっ、いや、モ、サ、サイコー!サイコー!」
チャンケンは突如痙攣し、どうやら果てたようだった。
「あっこのヤロー!!てめえバカヤロー!!いい加減にしろこのヤロー!!」
「サ、サイコー」
ざしゅ。
「ぎゃんっ」
▲絵:小林賢司 |
「全然ダメじゃん。しかしこの変態、実は盗賊じゃなかったのかも…?」
殺したあとに言ってもしょうがないことを言いながらウチダさんは懐紙で大刀の刃を拭った。
「ま、いっか。次いこ次」
全然よくない状態を残したまま、ウチダさんは占い師・西開眼の住まいに颯爽と向かった。
※※※
忠相は、ウチダさんが姿を消してすぐにメガネ同心・ぐっさんにウチダさんの行方を探らせた。
しばらくすると忠相のiPhoneにぐっさんから着信が入った。
「はいもしもし。越前守です」
「ああ、お奉行?こちらぐっさんです。今、俺の手下の岡っ引きがウチダさんの足取りをつかみました」
「そうかっ。どんな感じ?」
「そ、それが…。ウチダさん、医者の内田チャンケンの家に来たようです…。それで…」
「なに、チャンケンだと?そ、それでどうしたというのだ」
ぐっさんの歯切れの悪い口調に不安を覚えた忠相は、勢いこんで訊いた。
「く、首を斬り落とされたチャンケンの屍体が発見されました…」
「なんと…」
忠相は、顔が真っ青になっていくのが自分でもわかった。
続く。
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