泉谷しげる『昭和の歌よ、ありがとう』をリリース、「このアルバムは彼女たちに対するラブレター」
泉谷しげるが、8月7日にニューアルバム『昭和の歌よ、ありがとう~美女は歌い、野獣は吠える~』をリリースする。
◆泉谷しげるコラボレーション画像
カバー&コラボレーション・デュエットアルバムと銘打たれたもので、八代亜紀から森高千里まで様々な女性アーティストとデュエットを聞かせる作品だ。カバー楽曲は昭和歌謡の名曲群ではあるものの、その実、中身は泉谷しげる流が貫かれた一点の曇りもなきロック作品だ。そのスピリットは、以下のオフィシャルインタビューの断片から、容易に伺うことができるだろう。
◆ ◆ ◆
▲八代亜紀 |
▲大竹しのぶ |
▲中村 中 |
▲夏川りみ |
「若ければナンパしてたと思う人を選びました。最初は(スタッフが持ってきた)この企画、やりたくなかった。フォークロックのオレが、なんで昭和の歌謡曲をうたわなくちゃいけないのか。やりたくないから断られることを前提に人選したんだけど、みんなOKしてくれた(笑)。無理難題は言ってみるもんだなと。だから彼女たちの歌い方も無理言って変えちゃった。キスの時の唇の味じゃなくて口の中の味がするようなものにね。歌謡曲をうたっている人の中には、「自由にうたっていたら今の自分はなかった」って言っている人もいますから。制約された中から出る色気がいいんですよ」
生々しい色気を出すために、どんな制約をかけたのか。まず女性演歌の大物、八代亜紀とうたった「夜につまずき」に触れてみたい。この曲は約30年前、ビートたけしの作詞、泉谷の作曲で、たけしのファーストアルバムに収録された知る人ぞ知る作品だが、バックの演奏が八代本来のキーに合っていないと感じた。
「自由にうたわせないというのはある意味、本線じゃない不得意なところでやるってことだから。キーは下げませんでした。でも、旦那(事務所社長で夫の増田登さん)も旦那だよね。「ヘタにうたえ」だって(笑)。「メロディーなんかいいんだよ。ぶっ壊しちゃえ」みたいな(笑)。有名じゃない曲をあてがわれて、レコーディングの打ち合わせでオレと旦那と両方から攻められて、心が定まらないうちに「ハイ、うたって!」だもん。でも、それは当時の歌謡曲が置かれていた状況そのもの。あの時代の空気を感じないとオリジナルには勝てませんよ」
聴いた感想を言うと、うたい出しのところは「これが八代かよ?」と思うくらいに意外性のある声が聞こえてくる。しかしそれは、罵倒や無理難題を消化し、八代が下した結論としての歌声だ。コラボ(共同作業)であり、バトル(闘い)でもある。ちなみに、ドラムは特別参加で森高千里が叩いた。その森高は、「悲しくてやりきれない」をうたっている。2児の母になりながら、未だに美声と美貌を保つ絶世の美女は、泉谷に一体何をされたのか。
「おまえにだって悲しいことくらいあるだろ、落ち込め!って言ってやりました(笑)。「好きにうたっていいよ」なんて言ってちゃロクなもんができない。好きにうたわせないことが大事ですね。昭和の歌に自由なんてなかったんだから。(作詞/作曲家の)先生から曲をあてがわれ、いろいろな注文もつけられ、もがき苦しんだ末に完成したものだからこそ、凄みがあるんです」
たしかに、この曲ではこれが森高か、というくらい高音の澄んだ美声はどこかに消え失せ、悲しげなかすれ声が聞こえてくる。途中、まるでやる気のないような泉谷の「歌詞の朗読」も入る。
「オレが大好きなフォーク・クルセダーズの作品です。この曲は(北朝鮮に絡む政治的な理由から)直前で発売自粛になった「イムジン河」の代わりに急遽、部屋に缶詰にされ、作らされた曲なんですよ。本人たちはイヤイヤ出した作品で、心情がそのままタイトルになっている。当時の彼らが抱えていた悔しさを出したかった」
聴いていて、ひとつ気づいたことがある。泉谷は思わぬ課題を突きつけて、彼女たちの頭を抱えさせ、普段では聞けない歌声を引きずり出して好き放題やっているように見えるが、実は自分に対しても不自由さを強いている。
「女性のキーに合わせてうたっているんで、オレにとってはかなり低い。苦しいったらありゃしない。でも、このアルバムは彼女たちに対するラブレターですから。彼女たちが目立てばいい。年齢を重ねてきて、昔より今の方が色っぽくていいじゃないって思わせたい。美しくなるチャンスはいくらでもあるんだってことを、今の女性たちにも伝えたいね」
いかにしてオリジナル曲に勝負を仕掛け、美女たちの存在感を際立たせるか。荒くれ者の泉谷が見せるやさしさが隠し味だ。目立たないようにソッと出てくる泉谷のボーカルも、あれこれ想像するのが楽しい。何より単純に「やっぱり昭和の歌はいいわ」と思える。レコーディングの様子を撮ったDVD付きだが、臨場感が伝わってくるので必見ですよ、これは!
◆ ◆ ◆
泉谷しげるが口説いたのは、大竹しのぶ、カルメン・マキ、クミコ、佐々木秀実、手嶌葵、中村 中、夏川りみ、夏木マリ、森高千里、八代亜紀という面々だ。昭和という時代がもっていた「希望」「絶望」「明るさ」「暗さ」…、昭和を背負った名曲が唸りを上げる。
ここでは、デュエットといえども、男女が交互に歌ったりハモッたりするわけでもない。歌の心情と空気感を二人の歌声から絡みだすように、うなり、ためいき、つぶやき、笑い声も曲にもつれ込む。全十曲十色のアレンジは、女も男も必死に生きた昭和、夢も希望もあった昭和、翻弄され泣かされた昭和を十編のドラマに仕立て上げているのだ。
CDには、レコーディングドキュメントを収録したDVD「昭和の歌よ、ありがとうレコーディングクロニクル」には、プレミアムなレコーディング風景が収められている。
『昭和の歌よ、ありがとう』
2013年8月7日
WTCS-1034 CD+DVD¥3,800(税込)
1.黒の舟唄(大竹しのぶ×泉谷しげる)
2.涙のかわくまで(カルメン・マキ×泉谷しげる)
3.ヨイトマケの唄(泉谷しげる×佐々木秀実)
4.花~すべての人の心に花を~(手嶌 葵×泉谷しげる)
5.ざんげの値打ちもない(クミコ×泉谷しげる)
6.生きてるって言ってみろ(中村 中×泉谷しげる)
7.悲しくてやりきれない(森高千里×泉谷しげる)
8.胸が痛い(夏木マリ×泉谷しげる)
9.夜につまずき(八代亜紀×泉谷しげる)※ドラム:森高千里
10.見上げてごらん夜の星を(夏川りみ×泉谷しげる)
DVD:昭和の歌よ、ありがとう レコーディングクロニクル
◆『昭和の歌よ、ありがとう』フェイスブック
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