「明日からは、自分のために。」新垣の言葉に高橋、涙にむせぶ ── モーニング娘。高橋愛 卒業公演

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気づけば、そこにはいつも高橋愛がいて、卒業と加入を繰り返すモーニング娘。があった。

破壊と再構築。定められたシステムの中で、モーニング娘。は、いつ、いかなる時も、日本のガールズグループの中で最高レベルのライヴパフォーマンスで我々に夢を見せてくれた。彼女たちならステージで魅了してくれる、と、我々がいつも信じて疑わなかったのは、思えば、「モーニング娘。には高橋愛がいる。」という安定感、安心感があったからにほかならない。

そして高橋は、そんなファンの期待や、スタッフや関係者、そしてメンバーからの信頼を150cmちょっとの華奢な体で背負って、この4年4カ月もの間、歩いてきた。

「自分のことよりも、みんなのことを考えてこの10年間頑張ってきたから、明日からは、自分のために、前に進んで行ってほしい。」という、同期・新垣里沙の言葉こそ、モーニング娘。のリーダー・高橋愛を最も端的に現しており、多くの人が心から願っていること。彼女は、モーニング娘。のメンバーやハロー!プロジェクトの仲間たちはもちろん、スタッフ一人ひとりに目を向け(そのスタッフがモーニング娘。に直接関わっているか否かは関係なく)、敏感にシグナルを察知し、そして、人知れず励まし続けてきたという。「過去に高橋に救われたことがある。」という関係者からの声は、実際、記者の耳にも届いている。

そんな高橋愛が率いてきたモーニング娘。だからこそ、過去のどのモーニング娘。にも負けないもの=強い絆があった。たとえば、亀井絵里とジュンジュン、リンリンが卒業する直前の8人体制のモーニング娘。は、“史上最高の8人”とも称された(詳細は、2010年12月の記事「亀井絵里、ジュンジュン、リンリンの卒業と、モーニング娘。という名の“家族”の絆」を参照)。

いろいろな“数字”がもてはやされる音楽業界ではあるが、数字を見ていているだけでは見えてこないもの。それが、モーニング娘。の中にはある。言ってしまえば、多くのハロー!プロジェクト外のアイドルたちがモーニング娘。のコンサートを見学したり、“数字を持っているアーティスト”が、お忍びで彼女たちのライヴに訪れる理由は、もちろん同じ世界でライバルでありながらも、モーニング娘。というグループが自分の中で憧れだったという部分もあるだろうし、モーニング娘。のエンターテインメントをお手本にしたいと考えるところもあるだろう。しかし、モーニング娘。の持つ、一朝一夕で作り上げることのできないものから生まれる何かを目の当たりにして、それに惹かれ、同時に、少しでも吸収したいと思うところもあったはずだ。

そんなモーニング娘。から、高橋愛が卒業した。後を任されたのは、最後の5期メンバーであり、サブリーダーとして高橋を支え続けてきた新垣里沙だ。「ガキさん、先に卒業しちゃうけどごめんね。でもガキさんなら、新しいモーニング娘。を作ってくれると信じています。」と、高橋は卒業にあたっての手紙の中で新垣に期待を寄せた。

モーニング娘。に一番近いところで、誰よりも深くモーニング娘。を愛してきた新垣と、そして、モーニング娘。に一番近いところで、誰よりも長く、モーニング娘。を愛してきたつんく♂プロデューサーによる、これからのモーニング娘。。高橋が育てた絆を引継ぎ、この12人は、どんなふうに形を変えながら、多くの人に夢や希望、愛を与え、我々を魅了してくれるのだろう。

夢はみなけりゃ始まらない── 。次の夢は、今、始まったばかりだ。

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ところで、関係者や報道陣なら周知のことだが、日本武道館には関係者用の無線LANが設置されている。当然、このアクセスポイントにはパスワードがかけられていて、一般は利用することができない。

「ai_believe」── 公演が行なわれた2日間。このフレーズが、同アクセスポイントのパスワードだった。これまで、日本武道館でいくつかライヴ取材を行なってきたが、このようなパスワードは、今回の公演が初めてだと記憶している(たいていは、ランダムなアルファベットの組み合わせがパスワードとなる)。所属レコード会社の関係者も、武道館のこの粋な計らいには驚いていた。

多くの人の目に触れることはない些細なことかもしれないが、これもまた、ファンを越えた多くの人が高橋愛を愛し、卒業を惜しみつつも祝福していたという、ひとつの形だ。

text and photo by ytsuji a.k.a 編集部(つ)
◆モーニング娘。 オフィシャルサイト
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