amazarashi、新作「アノミー」を読み解くクロスレビュー
◆ ◆ ◆
尖った世界観が魅力のアーティストは、作品を作り続けることで成熟し、当初の魅力が薄れていくこともしばしば。でもこのamazarashiにはそんな心配は不要のようだ。社会学用語をタイトルにした「アノミー」の全6曲からは、現実に向き合い、聴く人にそれを突きつけていくという彼らの変わらぬ姿勢が伝わってくる。
冒頭のタイトル曲で彼らは、“終電後のホーム”や“風俗ビルの空き屋”に汚れた都会を見て、愛する理由も殺さない理由もなくなったと叫ぶ。このアノミー(社会崩壊による無規範な状態)にどう向き合うのか、リスナーにゆだねながらこのミニアルバムは幕を開ける。そして「ピアノ泥棒」では“ピアノを盗んででもこのくそったれ人生をやり直したい”ともがき、「おもろうてやがて悲しき東口」では大都会・新宿で感じた自分の弱さを見つめる。しかし最後には「この街で生きている」で“希望も苦悩も抱えてこれからも生きていく”と希望の光が差し込んでくる。
不満や怒りを持ち、もがき、絶望を感じても希望を見出して歩き出す。これは誰もが持つ“現実”そのものなのだ。だからリスナーはみんな心のどこかしらを揺さぶられ、共感させられてしまうのだろう。
そんな歌詞とともにamazarashiのサウンドのキーになるのがピアノだ。生のピアノは“歌わない”楽器だと言われているけれど、逆にそこを活かして感情を表現できる楽器。彼らはその使い方がうまい。冷酷で厳しい表情も、リリカルな感情も温かみも、ピアノで描き出している。
さらに、曲調が歌詞の世界と一体感を持っているのも見事なところ。抑えを効かせて始まり、サビでは言葉の感情とともに爆発的に盛り上がる。厳しい言葉が投げつけられているというのに、このサウンドの爆発はカタルシスとも言えるような爽快感さえ生む。しかし次の瞬間、突然のブレイクで虚を突かれ、リスナーは再び自分の現実と向き合わされる。このさじ加減も絶妙だ。自然な感情を自然に歌っているだけのようでいて、実は緻密に計算されているのかもしれない。
音楽としては決してとっつきにくいわけではなく、聴きやすさもある。だからすべての人に聴いてもらいたいが、聴きごたえはかなりのもの。心して聴いてもらいたい一枚だ。
(田澤 仁)
◆ ◆ ◆
そのあまりに文学的で反社会的、そして内向的な歌詞について言及されることの多いamazarashiであるが、では歌詞だけが楽曲のなかで突出しているのかというと、そうではないところがamazarashiの美点といえるのではないだろうか。
曲によって、そしてフレーズによってポエトリー・リーディング風、現代的なシャウト、また70年代フォーク的な字余り風と、さまざまな歌唱で特徴的な歌が唄われるが、そのバックを支える演奏と歌の調和が見事なのである。そこには、歌詞から単純に連想されるような暗く湿った趣は無い。あくまで爽やかで素直で美しい。
ピアノ、ギターの濁らない音色で奏でられる分散和音、ベースの音の選び方、ドラムスの奇をてらわないタイトなフレージング、そしてなんといってもアコギの効果的な入り方、どれをとっても歌詞におもねるのではなく、しっかりとした音を作りバックとして完成度が高い。
こういった刺激的で根源的な歌詞を唄うについて、その世界観に沿う重々しいバックだと、リスナーが辟易してしまうことが多い。それは過去の多くのバンドが陥ってしまった失敗で、“重い”“暗い”“難解”といった世界観が先走ってしまい、リスナー不在の自己満足に終わってしまうことがあった。
その点をうまくクリアしているのがamazarashiの卓越したところ。バックが必要以上の自己主張をしていない。といって単純なバック演奏に留まっていない。だからこそ、ヴォーカルが映える。言葉が立ち上がってくるのだ。清澄な音の上に立つ言葉の刃なのである。amazarashiが目指すロックの表現として、これほど理に適った手法はないだろう。
わかりにくい喩えで恐縮だが、70年代のプログレバンド、キング・クリムゾンの「ムーン・チャイルド」という楽曲があるが、その対比によく似ている。
歌詞の分析などは、他ライターさんにまかせて、言葉と演奏の紡がれ方を紹介してみた。リスナーの皆さんの感想はいかがだろうか。
さて、amazarashiのメインキャラクターであるテルテル坊主について。てるてる坊主とは、明日の天気を良くしてくれる法師の化身などではなく、明日の晴れのために捧げる“いけにえ”である、という説もある。amazarashiの世界観を如実に語っているようで興味深い。
(編集部 も)
amazarashi「アノミー」
2011.03.16 release
初回仕様+詩集封入
AICL2240 ¥1,529(tax in)
1.アノミー
2.さくら
3.理想の花
4.ピアノ泥棒
5.おもろうてやがて悲しき東口
6.この街で生きている
◆amazarashi オフィシャルサイト
◆amazarashiオフィシャルmyspace
◆amazarashi Twitter
この記事の関連情報
amazarashi、横浜アリーナで6年ぶりのコンセプトライブ<電脳演奏監視空間 ゴースト>開催決定。「君のベストライフ」MV公開も
amazarashiがニューアルバム『永遠市』をリリース、ホールツアーも決定
amazarashi、ライブツアー<ロストボーイズ>映像化作品発売決定
amazarashi、映画『ヴィレッジ』コラボ曲「スワイプ」渾身のMVフルver.公開
<サマソニ>にジェイコブ・コリアー、Original Love、鈴木雅之、PassCode、KANGDANIELら
amazarashi、横浜流星主演×藤井道人監督映画『ヴィレッジ』とのコラボソング「スワイプ」発売
amazarashi秋田ひろむによる6年振り弾き語りライブ<騒々しい無人>開催
amazarashi、新曲「アンチノミー」がアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」エンディングテーマに
amazarashi、アルバム『七号線ロストボーイズ』から「ロストボーイズ」Official Video公開