パリのCD店で最もプッシュされていた日本アーティストは、KOKIA

ポスト
KOKIAが洋楽カバーアルバム『Musique a la Carte』を9月15日に発売した。水が流れるように歌う「ムーンライト・シャドウ」(原曲:マイク・オールドフィールド)、母親の子守歌のように温かい歌声の「この素晴らしき世界」(原曲:ルイ・アームストロング)など収められた14曲は異なる色で満ちている。新アルバムについてKOKIAに聞いた。

KOKIAに会いたいと、インタビューを依頼したのは7月。GACKTのヨーロッパ公演を見に訪れた仏パリのCD店でKOKIAの作品に出合ったことがきっかけだった。CD店には欧州最大の日本文化紹介イベント<ジャパン・エキスポ>(毎年7月上旬に開催)に出演したX JAPAN(YOSHIKI、TOSHIのみ)や、過去に欧州でライブを行なったことがあるthe GazettE、今春欧州ツアーを開いたLM.Cなどビジュアル系のシングル、アルバムが陳列されていたが、最も多いスペースを割かれていたのがKOKIAだった。2006年から毎年欧州での公演を展開した実績、包み込むような声が欧州でも高い支持を集めているのだという。

最新作をカバーにしたのは「聴き手の生活に溶け込むようなアルバムを作りたかったから」。KOKIAがつむぐメッセージは人の心に深く入り込み、一対一の関係性を作ることが多いが、今回は「世界で愛されている曲を、原曲に込めた思いを膨らませ、包み込むように」と制作を進めた。

「明日に架ける橋」(原曲:サイモン&ガーファンクル)、「手をとりあって」(原曲:クイーン)など選曲した14曲はどれも思い入れが深い。「特に好きな曲は「ハレルヤ」(原曲:レナード・コーエン)。小学生の時にラジオで聞いて衝撃を受けた。当時は曲名が分からなかったけれど、大人になってまた出合って。私にとって大切な曲。日本の人にたくさん聞いてほしい」と願う。

カバーを作る中で「伝えたいことに終わりはないのだと気付いた」と話す。「作詞、歌、音、思いも無限。この要素の組み合わせも無限。歌う冒険家です」と大きな瞳を輝かせた。「自分にしか見えない風景があると思っています。その景色を声、響きとして残していきたい。声の色の中に感情を入れて、思いを届けたい。国を越えて、歌、声を伝えたい」と力を込める。

「歌には力がある」と信じる。その思いは2007年7月に起きた新潟中越沖地震で、被災したファンから「外は戦争が起きたみたいにガレキの山だけれども、KOKIAさんの音楽で励まされている」というファンメールが届いたことでさらに深まった。KOKIAはすぐ、頑張ってほしいと祈りを込めた「私にできること」という楽曲を制作しファンに返信。同曲は地元の災害放送でも流されて、被災者たちを励ました。ほどなくして復興コンサートへの出演依頼が届いた。

KOKIAは「東京から行った人間が歌って帰るというのは浅い気がして最初は断ったんです。でも依頼者から『励まされている人を、あなたのその目で見て』と言われ、柏崎に行くことを決意しました。そして柏崎でみなさんの笑顔の裏にある悲しさや辛さに触れて、傷ついた心を一瞬でも和らげられればと思い作ったのが「Lacrima(ラクリマ)」。明日食べるのも大変な人に、音楽は力を発揮できるのか不安でしたが、柏崎のみなさんとの交流する中で解消した。迷いながらも歌を届けていきたい」と語った。

9月23日には東京六本木STB139でアルバム発売記念ライブを開催。10月8日からはロシアを皮切りに7カ国を周る欧州公演をスタート。12月11日には「サントリーホール/ブルーローズ」でコンサートを開く予定だ。

取材・文:西村綾乃
この記事をポスト

この記事の関連情報