増田勇一の『今月のヘヴィロテ(7月篇)』
6月に続き、7月もなかなかの豊作だった。とはいえ今月もやはり、脈絡があるようなないような複雑偏食系セレクション。日常のBGMがその人の精神状態を物語るのだとすれば、7月の僕はえらく混乱した状態にあったということになるのではないか、と思う。
●ザ・ドレスデン・ドールズ『ノー、ヴァージニア』
●ソウルフライ『コンクァー~征服~』
●スカーズ・オン・ブロードウェイ『スカーズ・オン・ブロードウェイ』
●クリプトシー『ジ・アンスポークン・キング』
●ゼブラヘッド『フェニックス』
●リヴィング・エンド『ホワイト・ノイズ』
●the Underneath『MOON FLOWER』
●iLL『ROCK ALBUM』
●REV THEORY『LIGHT IT UP』
●BLIND MELON『FOR MY FRIENDS』
ピアノ+ドラムスという変則的編成の男女デュオ、ザ・ドレスデン・ドールズの新作は、前作『イエス、ヴァージニア』の続編とも言うべきものだが、この作品のみを独立したものとして聴いても充分に楽しめる。こうした「単なる音楽じゃなくて、芸術なんです」的なタイプの人たちというのが、僕は本来、体質的に苦手だったりもするのだが、このアルバムについては素直に「素晴らしい!」と言いたい。ある意味、とてもポップな1枚だし、僕にとってはこれが「今月の精神安定剤」だった気もする。
カヴァレラ・コンスピラシーとしての作品が出たばかりなのに、早くもソウルフライの新作を投げつけてきたマックス・カヴァレラの底知れぬ創造性と熱意にも圧倒された今月は、彼らの『コンクァー~制服~』をはじめ、ヘヴィでアグレッシヴな作品に浸っている時間が長かったように思う。
スカーズ・オン・ブロードウェイは、言わずと知れたシステム・オブ・ア・ダウンのダロン・マラキアン(g)とジョン・ドルマヤン(ds)による新バンドだが、システムの不在を寂しく感じている人たちの欲求不満の何割かはこの作品できっと解決されるはず。あまり意外性はないけども、だからこそ逆に、「システムをやりたくないわけじゃないんだな」ということがよくわかる。この作品ではギターに加えヴォーカル、ベース、キーボードも担当しているダロン自身、「単なるソロ・プロジェクトやサイド・プロジェクトとは見て欲しくない。これが今の俺にとってはシステムであり、照準を定めているものなんだ」と語っているとか。
カナダ出身のエクストリーム・メタル・バンド、クリプトシーについては、これまであまり熱心に聴いてきたわけじゃないのだが、さすがに20年近い歴史を持つヴェテラン、通算6作目のオリジナル・アルバムにあたるこの作品も説得力充分である。ドラムのなかに頭を突っ込んでみたいという異常な欲求にかられてしまう重厚な爆裂作だ。今作でのヴォーカリスト交代劇については支持者たちの間でも賛否両論あるはずだが、僕はわりと肯定的。ある意味、聴きやすかったと言ってしまったら乱暴すぎるだろうか?
ゼブラヘッドについても、正直、これまで“大好き”だったことは一度もなかった。ライヴは確かに楽しいけども、作品を繰り返し聴く気にはなりにくい、というのが本音だった。が、さすがにこのバンドの脳天気さというのは、芸のないお馬鹿タレントのそれとは違って、技術やセンスを伴ったもの。実は80年代メタルが好きな人たちこそいちばん楽しめたりするんじゃないだろうか。曲によってはナイト・レンジャーみたいだったりするし。
オーストラリア出身のリヴィング・エンドの2年半ぶりの新作、『ホワイト・ノイズ』を最初に耳にしたときの印象は「これがあのリヴィング・エンド?」。もはやパンクでもロカビリーでもない。もっと大きな意味での“ロック”作品に仕上がっている。ぶっちゃけ、このバンドについても、これまではあまり自分とは縁のない存在だと思っていたが、まさか第5作にしてこんなにツボを突かれることになろうとは。
日本産作品のなかで特に印象的だったのはthe UnderneathとiLL。TRANSTIC NERVEとしての10年のキャリアを持ちながら新たな出発点を迎えた前者は、僕自身にとっていちばん新しいフェイヴァリット・バンドのひとつと言ってもいい。ダークネスとヘヴィネス、メロディの調和、美学めいた匂いと躍動感のバランスが絶妙だ。そして元スーパーカーのナカコーこと中村弘二による後者も、納得の出来。これをココロからロック・アルバムと呼びたいかどうかは聴き手次第だろうが、とにかく気持ちのいい浮遊感を堪能できる。
そして最後の2作品は輸入盤で購入したもの。どちらもアメリカ本国では、ちょっと前に発売されている。ニューヨークを本拠地とする若手5人組、REV THEORYの作品は、あくまでハードではありつつも過剰なヘヴィさとは無縁で、メロディ・センスに光るものを感じさせる1枚。随所に80~90年代的センスが感じられ、スキッド・ロウあたりを彷彿とさせるところもあれば、ストーン・テンプル・パイロッツ的な匂いのする楽曲も。ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの前座とかで観てみたかったな。
そして、故シャノン・フーンの後任ヴォーカリストを迎え、長いブランクを経て再始動したBLIND MELONの、この4月にアメリカでリリースされていた新作をようやく入手したのだが、これがまた素晴らしい。勢いあまって2006年にリリースされていたライヴ・アルバム『LIVE AT THE PALACE』(シャノン在籍時代の音源)も今さら購入してしまった。
今月はさらに、5月に無料ダウンロードで入手した挙げ句、結果的にやっぱり“盤”でも購入してしまったNINE INCH NAILSの『THE SLIP』も当然ながらよく聴いたし、8月に日本盤が出るベック、エクストリームの新作もヘヴィ・ローテーションだった。
そして、いよいよ日本発売が実現することになったビータリカの作品も。あ、そうだ。アタマのなかでビータリカがエンドレスで鳴り続けてしまい、それをかき消すためにクリプトシーを聴いたこともあったような気がする。なんて邪道な音楽の聴き方をしてるんだろうね、まったく。
増田勇一
●ザ・ドレスデン・ドールズ『ノー、ヴァージニア』
●ソウルフライ『コンクァー~征服~』
●スカーズ・オン・ブロードウェイ『スカーズ・オン・ブロードウェイ』
●クリプトシー『ジ・アンスポークン・キング』
●ゼブラヘッド『フェニックス』
●リヴィング・エンド『ホワイト・ノイズ』
●the Underneath『MOON FLOWER』
●iLL『ROCK ALBUM』
●REV THEORY『LIGHT IT UP』
●BLIND MELON『FOR MY FRIENDS』
ピアノ+ドラムスという変則的編成の男女デュオ、ザ・ドレスデン・ドールズの新作は、前作『イエス、ヴァージニア』の続編とも言うべきものだが、この作品のみを独立したものとして聴いても充分に楽しめる。こうした「単なる音楽じゃなくて、芸術なんです」的なタイプの人たちというのが、僕は本来、体質的に苦手だったりもするのだが、このアルバムについては素直に「素晴らしい!」と言いたい。ある意味、とてもポップな1枚だし、僕にとってはこれが「今月の精神安定剤」だった気もする。
カヴァレラ・コンスピラシーとしての作品が出たばかりなのに、早くもソウルフライの新作を投げつけてきたマックス・カヴァレラの底知れぬ創造性と熱意にも圧倒された今月は、彼らの『コンクァー~制服~』をはじめ、ヘヴィでアグレッシヴな作品に浸っている時間が長かったように思う。
スカーズ・オン・ブロードウェイは、言わずと知れたシステム・オブ・ア・ダウンのダロン・マラキアン(g)とジョン・ドルマヤン(ds)による新バンドだが、システムの不在を寂しく感じている人たちの欲求不満の何割かはこの作品できっと解決されるはず。あまり意外性はないけども、だからこそ逆に、「システムをやりたくないわけじゃないんだな」ということがよくわかる。この作品ではギターに加えヴォーカル、ベース、キーボードも担当しているダロン自身、「単なるソロ・プロジェクトやサイド・プロジェクトとは見て欲しくない。これが今の俺にとってはシステムであり、照準を定めているものなんだ」と語っているとか。
カナダ出身のエクストリーム・メタル・バンド、クリプトシーについては、これまであまり熱心に聴いてきたわけじゃないのだが、さすがに20年近い歴史を持つヴェテラン、通算6作目のオリジナル・アルバムにあたるこの作品も説得力充分である。ドラムのなかに頭を突っ込んでみたいという異常な欲求にかられてしまう重厚な爆裂作だ。今作でのヴォーカリスト交代劇については支持者たちの間でも賛否両論あるはずだが、僕はわりと肯定的。ある意味、聴きやすかったと言ってしまったら乱暴すぎるだろうか?
ゼブラヘッドについても、正直、これまで“大好き”だったことは一度もなかった。ライヴは確かに楽しいけども、作品を繰り返し聴く気にはなりにくい、というのが本音だった。が、さすがにこのバンドの脳天気さというのは、芸のないお馬鹿タレントのそれとは違って、技術やセンスを伴ったもの。実は80年代メタルが好きな人たちこそいちばん楽しめたりするんじゃないだろうか。曲によってはナイト・レンジャーみたいだったりするし。
オーストラリア出身のリヴィング・エンドの2年半ぶりの新作、『ホワイト・ノイズ』を最初に耳にしたときの印象は「これがあのリヴィング・エンド?」。もはやパンクでもロカビリーでもない。もっと大きな意味での“ロック”作品に仕上がっている。ぶっちゃけ、このバンドについても、これまではあまり自分とは縁のない存在だと思っていたが、まさか第5作にしてこんなにツボを突かれることになろうとは。
日本産作品のなかで特に印象的だったのはthe UnderneathとiLL。TRANSTIC NERVEとしての10年のキャリアを持ちながら新たな出発点を迎えた前者は、僕自身にとっていちばん新しいフェイヴァリット・バンドのひとつと言ってもいい。ダークネスとヘヴィネス、メロディの調和、美学めいた匂いと躍動感のバランスが絶妙だ。そして元スーパーカーのナカコーこと中村弘二による後者も、納得の出来。これをココロからロック・アルバムと呼びたいかどうかは聴き手次第だろうが、とにかく気持ちのいい浮遊感を堪能できる。
そして最後の2作品は輸入盤で購入したもの。どちらもアメリカ本国では、ちょっと前に発売されている。ニューヨークを本拠地とする若手5人組、REV THEORYの作品は、あくまでハードではありつつも過剰なヘヴィさとは無縁で、メロディ・センスに光るものを感じさせる1枚。随所に80~90年代的センスが感じられ、スキッド・ロウあたりを彷彿とさせるところもあれば、ストーン・テンプル・パイロッツ的な匂いのする楽曲も。ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの前座とかで観てみたかったな。
そして、故シャノン・フーンの後任ヴォーカリストを迎え、長いブランクを経て再始動したBLIND MELONの、この4月にアメリカでリリースされていた新作をようやく入手したのだが、これがまた素晴らしい。勢いあまって2006年にリリースされていたライヴ・アルバム『LIVE AT THE PALACE』(シャノン在籍時代の音源)も今さら購入してしまった。
今月はさらに、5月に無料ダウンロードで入手した挙げ句、結果的にやっぱり“盤”でも購入してしまったNINE INCH NAILSの『THE SLIP』も当然ながらよく聴いたし、8月に日本盤が出るベック、エクストリームの新作もヘヴィ・ローテーションだった。
そして、いよいよ日本発売が実現することになったビータリカの作品も。あ、そうだ。アタマのなかでビータリカがエンドレスで鳴り続けてしまい、それをかき消すためにクリプトシーを聴いたこともあったような気がする。なんて邪道な音楽の聴き方をしてるんだろうね、まったく。
増田勇一
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増田勇一
Dresden Dolls
Soulfly
Scars On Broadway
Cryptopsy
ZEBRAHEAD
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the Underneath
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