映画『20世紀少年』 トリビュート・アルバム大特集 コラム
70年代前半、ロック界に巻き起こったのが、派手な衣装やケバいメイク、中性的なルックスを売りにしたグラムロックのムーブメント。そしてその中心的存在だったのが、マーク・ボラン率いるT.Rexだ。
T.Rexの代表曲といえば「20th Century Boy」や「Get It On」などだが、彼らは最初からこんなサウンドだったわけではない。1968年のデビュー時は、なんとアコースティック・ギターとパーカッションのデュオだったのだ。しかもその理由が音楽的なものではなく、前身のバンドの過激なライヴが暴動を引き起こしてバンドは解散、その混乱の中で機材一式を失ったためだというから驚きだ。
ブギーを基本とするギター・リフ、変則的なコード、ユニークなハーモニーなどが特徴のT.Rexサウンド、いわゆる“ボラン・ブギー”が完成したのは、バンド名をT.Rexに改めた1970年頃。ここで放ったアルバム『T.Rex』が大ヒットし、ラメのスーツをトレードマークにしたマーク・ボランは、一気にグラムのカリスマ・スターへと駆け上がる。アルバムもシングルも立て続けにヒットするし、日本公演を含むワールドツアーも大盛況、さらにはあのリンゴ・スターが監督したライヴ映画『ボーン・トゥ・ブギー』が制作されるなど、絶頂期のT.Rexの勢いはすごかった。
しかし絶頂期は本当に短かった。73年の後半には早くも人気に陰りが見え始め、その後一気に低迷してしまう。T.Rexは活動を続けていたが、1977年9月、マーク・ボランは自動車事故で死亡。嵐のごとく過ぎ去っていったグラムロック・ブームの後を追うかのように、T.Rexの歴史もあっけなく幕を閉じてしまったのだ。
結局のところ、グラムロックのムーブメントが盛り上がったのは、70年代前半の数年間にすぎない。しかし、グラムロックはその後の多くのアーティストに影響を与えている。シンプルなビートを追及したサウンドはその後のパンクに影響を与えたし、80年代のニューウェイヴやLAメタルの中性的なメイクや衣装は、まさにグラムロックの再来だ。そして現在に至るまで、グラムロックに影響を受けたと明言するミュージシャンは実に多い。その中でもとりわけ名前を挙げられるのがT.Rex、そしてマーク・ボランだ。今も脈々と受け継がれているグラムロック、それを創り上げたのが彼らなのだ。
独自の世界観、独特の雰囲気で大ヒットした『20世紀少年』。この作品に多大な影響を与えているのが、言うまでもなくT.Rexの「20th Centuy Boy」だ。タイトルの『20世紀少年』はこの曲名を直訳したものだし、作品中でも印象的な場面でこの曲が登場する。1973年に発表されたこの名曲は、当時10代だった原作者の浦沢直樹氏の多感な心にさぞかし深く突き刺さったのだろう。
「20th Century Boy」はもちろんT.Rexの代表曲だし、グラムロックを代表する名曲でもある。とても数多くのミュージシャンにカヴァーされているけれど、切り裂くような歪んだギターサウンドで始まるこのオリジナルバージョンが、やはりもっとも魅力的だ。シンプルで明るく、うねるようなへヴィさ、そしてちょっとひねくれた陰りもあわせ持った独特の雰囲気は、そのままマーク・ボランの魅力といってもいいだろう。
今回発売されるシングルには、この曲のオリジナルバージョンとともに、LAのDJ、Morgan Pageによるリミックスバージョンも収録。さらに「20th Century Boy」の直前にリリースされて大ヒットしたシングル曲の「イージー・アクション」も収録されている。絶頂期のT.Rexサウンドにどっぷりとひたれる1枚だ。
『Tribute to Twentieth Century Boys』は、『20世紀少年』の時代背景を象徴する名曲を集めたトリビュート・アルバムだ。『20世紀少年』のストーリーが展開するのは、60年代から2010年以降まで幅広い時代に渡る。つまりこのトリビュートアルバムは、ロックが一般的なものになった60年代から現在に至るまでのすべての時代について、それぞれの時代を代表する名曲を『20世紀少年』の世界観というユニークな視点から集めたアルバムなのだ。
映画主題歌の「20th Century Boy」のT.Rexはもちろん、60年代のサイケ・ポップのゾンビーズ、70年代の究極のポップグループ10ccやロキシー・ミュージック、80年代はエヴリシング・バット・ザ・ガール、新しいところでは2000年代のジェシー・マリンなど、ちょっぴりマニアックな選曲だが、どれも聴き覚えがあるハズのヒットナンバーばかり。聴けば、その曲がよく流れていた頃の想い出も鮮やかによみがえってくるハズだ。
さすがに時代を代表する曲ばかりが集められているだけあって、聴きごたえは十分。リアルタイムに聴いてきた大人のリスナーはもとより、当時を知らない若い世代でも十分に楽しめるだろう。そしてもちろん、『20世紀少年』の原作のマンガを読むときのBGMに最適なのは言うまでもない。
映画『20世紀少年』あらすじ
1969年夏、小学生ケンヂと同級生のオッチョ、マルオ、ヨシツネ、モンチャンたち同級生と空き地の原っぱに秘密基地を作る。秘密の遊び“よげんの書”には、悪の組織、世界征服、人類滅亡計画やそれを阻止する正義の味方が書かれ、彼らは空想のなかで楽しむ。1997年、“ともだち”と呼ばれる教祖と謎の教団が出現。かつてケンヂたちが作った“よげんの書”そっくりの事件が頻発。ケンヂたちはその計画を阻止するために立ち上がった。そして2000年12月31日、“よげんの書”に書かれた人類が滅亡する日、ついに「きょだいなかげは、とうきょうにすがたをあらあしました」と書かれた予言どおりになってしまうのか。