salyu、10thシングル「iris ~しあわせの箱~」インタビュー

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――10月に発売した「LIBERTY」に続く、2ヶ月連続のシングル・リリースになりますね。

Salyu:実は制作に取り掛かったのも完成したのも、今回の「iris~しあわせの箱~」が先なんですよ。今年の頭にアルバム「TERMINAL」を出してから、私の中で“新たなスタンスで制作を試みたい”という切り替えがあったために、なかなかリリースを思い切ることができなくて。ようやく6月くらいから具体的に動けるようになった頃に、このコラボレーションのお話も頂いたんです。

――“ニンテンドーDSソフト『レイトン教授と悪魔の箱』の主題歌を”というオファーを聞いたときは、どんな感想を持ちました?

Salyu:一言で言うと、“え! すっごい嬉しい!”っていう、驚きに満ちた喜び。ゲームは好きだし、子供の頃から身近にあった娯楽の一つで、ゲーム音楽への憧れも抱いてましたから。レイトン教授シリーズの第1弾『レイトン教授と不思議な町』にも挑戦しました。まだクリアできてないですけど(笑)。

――となると、よけいに“ゲーム内容とシンクロする作品を作りたい”という想いは強くなりますよね。

Salyu:そうですね。ゲーム会社の方たちと最初に顔合わせをしたのが6月の末で、そのときに“今回は「映画級」というコンセプトを掲げているので、既に存在する曲を使うのではなく、シナリオを自由に解釈した上で物語の一つの支点として機能する楽曲を作っていただきたい”と言われたんです。シナリオや簡単な絵コンテとかの資料も頂いて、深く作品に関わる環境を用意してもらえたんですが、同時に“8月いっぱいで完パケしてほしい”ということも言われて。

――2ヶ月しかないじゃないですか(笑)。

Salyu:だから“うわ、大変だ!”と思って、その日の内にシナリオを読み、胸に刺さる文章には線を引いたりして。翌日には歌詞の叩き台になる散文――作文のようなものが出来ました。プラス、ゲーム会社サイドからの要望もいくつかあったんです。まず、子供から大人まで楽しんでもらえる作品にしたいので、英語は使わないでほしいということ。他にも、イギリスを舞台にしている作品なのでヨーロッパの象徴としてアコーディオンの音色を取り入れてほしいとか、エンディングに流すのでエンドロールの途中で曲が終わらないように5分から8分の長さでとか、タイトルに“しあわせの箱”という言葉を入れてほしいとか。やっぱり作品に対する愛情が深いぶん、こだわりもハンパじゃないんです。そこで、幾人かの尊敬しているアーティストに、“こういう話があるので良ければ簡単なデモを作ってほしい”と相談したり、何人かの作曲家さんにお願いしたりして曲探しをするなか、最終的に全てを満たしているなぁと思ったのが、この松本良喜さんが作った曲だったんですね。そこからサウンド・プロデューサーの渡辺善太郎さんに、“ストリングスを入れたい”という話をして、アレンジを進めていきました。

――では、シナリオから歌詞に反映させていこうと一番考えたのは、どんなことでした?

Salyu:ストーリーを通じて一番自分が向き合い続けた感情というかテーマが、“悲しみ”というものだったんですね。叩き台の散文の中にも、“悲しみは悲しみとして、最後はちゃんと悲しみに還してあげるべきだ”というフレーズがあって。『レイトン教授と悪魔の箱』は出会いあり、別れありの普遍性ある愛の物語で、そこから“悲しみというものは乗り越えたり解決したりする類の感情ではなく、向き合い続けるべき感情なのだ”という問題提起を感じたし、私自身もそこに共感をして言葉を綴っていったんです。

――鉄道が舞台の一部となっている物語なだけに、“車窓”とか“鉄路”というような言葉も登場しますけれど、私が一番強く感じたのも、“別れ”という悲しいシチュエーションの中にありながら通じ合える何かでしたからね。“失わずには前に進めない”っていうフレーズには、特にグッときましたし。

Salyu:あ、嬉しいです。「iris~しあわせの箱~」は別れを歌った歌だけれど、“別れというのが悲しみという感情で終わってしまっていいんだろうか? いや、いけない”っていう視点から、まず始まっているんですよ。中でも“今でも息衝く痛みは 記憶 それ以上の何か 誓いそのもの”っていう部分は、自分にとってすごくリアリティのある大切な言葉で。“過去”というのが現在とは交われない幻想であることは否定できないけれど、“記憶”というのは今の自分をここに至らしめる軌道であり、今の自分を生かす細胞であり、自分がココにあるために必要な誓いみたいなものであるっていう感覚……すごく思い入れがあるのに抽象的な説明で心苦しいんですけど(笑)。

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