--'80年代に活動していた“マライア”は、清水さんのソロプロジェクトだったわけですか?
清水:ジャズシーンでキーボードの笹路正徳と知り合って、ジャズじゃない新しいことをしたいねって話をしていて、その後にヴォーカリストのジミー村川や渡辺モリオ、山木秀夫が集まったんです。みんな若かったんで、ジャズシーンを否定して、そうじゃない音楽を作ろうと思ってましたね。最初はマライアという名前で僕のソロアルバムを作って、それから1、2年してからパーマネントのバンドになったんです。最初にアルバム『Yen Tricks』を作ってから4年くらいの活動期間しかなかったんですが、『マージナル・ラブ』は、マライアの歴史のちょうど中間点にあるアルバムです。このころはプログレ(※01)プログレッシヴ・ロック。 ジャズやクラシックとロックを融合させて、今までいない新たな音楽を突き詰めようと、'70年代に生まれたロックの形態。キング・クリムゾンやイエス、ピンク・フロイドが有名。やニューウェーブ(※02)パンクとシンセサイザーやコンピュータなどを積極的に取り入れ、テクノ、スカなどと融合し洗練されたポップス寄りのロックの総称。 デュランデュラン、日本ではP-MODELやヒカシューなどが有名。も含めていろいろな音楽を吸収していた時期ですね。その後、音を削ぎ落としてシンプルなものになったのが『うたかたの日々』です。
--どこにもない音楽を作るっていうのが最も重要なことだったということですが。
清水:どこにもないものを求めても、どこにでもある音になっちゃうので、すごく矛盾だなとは思うんだけれども、気持ちはずっとそうでしたね。
--マライアは通好みの玄人受けするバンドでしたが、「マージナル・ラブ」はTVのCMに使われたことがありましたね。違和感を感じたことを覚えていますが。
清水:'80年代の初めでしょ。僕はCMの仕事もかなりやっていて、'87年には、僕がそれまでに作っていたCM音楽をつなぎ合わせた『ミュージック・フォー・コマーシャル』っていうアルバムをベルギーのクラムドディスクから出してるんです。そのころのCMが今と違うのは、商品というものをもっと精神的に見せるというアプローチがありました。商品を前面に出さないで、オブラートにくるんで商品の精神性を見せるというような。そこでは音楽が広範に意味を持つので、とても面白かったんです。その当時のヨーロッパは、もっと直接的に商品を押し出すCMが主体だったので、僕の商品に対するアプローチは驚かれました。現在では日欧でそれが逆転しているようですが。
--今、マライアを振り返ってみてどんな感じがしますか?
清水:『マージナル・ラブ』は好きな作品ですね。このアルバムあたりからよくなってきたと思うな。みんなでバラバラの音の断片を持ち寄って作ったんです。でもどうやって作ったんだろう。譜面にしたのかなぁ?いや覚えていったような…。すごかったんだなぁ(笑)。みんなでコツコツと積み上げていったんですね。
--これだけ腕の立つメンバーなのに、テクニックの応酬にならないで、極力弾いていないというのもすごいです。
清水:そこらへんはみんなロックの美学があって、深いところでカッコよさを分かってたんじゃないかな。
--マライア以降は、ジャズやフュージョンに対してはどういう考えを持っていたんですか。
清水:渡辺香津美バンドをやった以降は、「これはもう触われないな」って自分に決着をつけたような気がしますね。このころからジャズやフュージョン的な分散コード(※03)和音を構成する音を一つずつバラして演奏すること。 フォークギターやピアノでのアルペジオがこれにあたる。ルート(基調音)とテンションが別々に現われるので、通常とは違う響きを得ることができる。なんかが、全然面白くなくなってきた。フラストレーションが溜まってきてましたね。その後はずっとソロです。だから、マライアが最初で最後のバンドなんですよ(笑)。
--それからヨーロッパでの生活になるわけですね。
清水:それまでのことをきっぱり切って新たにスタートしたかったというのが大きかったんじゃないかな。'85年くらいからパリに4年、ロンドンに2年いました。向こうは自分のコンサートはもちろん、いろいろなフェスティバルにも出ました。パリでは忙しかったですよ。
--“サキソフォネッツ”の活動は?
清水:マライアと同時期の'83年に作った『北京の秋』が最初で、ジャズのアルバムというよりも精神的なコラージュというか、'30~'50年くらいのアメリカのバブリーな時代をくすぐりたいという気分で作ったものなんです。世間にはジャズアルバムとして認知されちゃってますけど。『スターダスト』『ラテン』と出して、サックスを吹いていますが、クラシックを焼き直したり映画音楽的だったり、そういう多様なアプローチを示したのが、サキソフォネッツというものなんです。 インタビュー●森本智
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