【インタビュー】終活クラブ、疾走・恋愛・詩情の3曲で示す幅と強度「こういう終活クラブもいるんだと伝えたかった」

2025.06.18 19:00

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2025年4月から6月にかけて3ヵ月連続デジタル・シングル・リリースを行った終活クラブ。彼らがそこで提示した3曲は、疾走感とダンス・テイストを融合させた「インターネットやめたい」、瑞々しさを湛えたラブソングの「恋」、エモーショナルなサマーソングの「幽霊」と、それぞれ異なるテイストでいながら良質なものが揃っていることが印象的だ。

また、リスナーの心を掴む歌詞や楽曲のエモーションを増幅させるメンバー達のプレイ、ポップなアートワークなども注目といえる。メジャー・フィールドに活動の場を移した1年を経て、さらなる進化を遂げている現在の終活クラブについて、バンドの中心人物である少年あああああ(Vo, G)に語ってもらった。

──まずは、今年の4月から6月にかけて3ヵ月連続でデジタル・シングルをリリースすることを決めた経緯などを話していただけますか。

少年あああああ:僕らは2024年に1st EP(「終活新布教盤」2024年5月)と2nd EP(「ハイパー005」2024年10月)をリリースをしたんですけど、それは配信ではなくてCDを出す前提でのリリースだったんです。CDにこだわって、4曲入りのEPを2枚出しましょうということになった。それでCDを出したんですけど、プロモーションとしては基本的にリード曲しかフィーチュアしないじゃないですか。そうなると、終活クラブというのは陽気なバンドというか、アップテンポで4つ打ちで踊れる…みたいなイメージがついてしまうんじゃないかという危惧が生まれたんです。そのEPの中にはもちろん明るい曲と暗い曲があって、陽も陰も伝えないといけないのに、表側の表紙の部分しか実際には伝わっていないんじゃないかと。なので、今回の3ヵ月のリリースは、アップテンポのいつもの終活クラブ、終活クラブとしての挑戦になるラブソング、そしてこれも終活クラブのお家芸でもありますが、ちょっと寂しくて詩的な曲という3種類をリリースして、お客さんに「こういう終活クラブもあるんだ」ということを分かってもらいたいという意識のもとに制作に取り組みました。

──終活クラブは多面性を持ったバンドですので、今回のリリースは大正解だと思います。それに、「こういう曲を作りましょう」と決まった時に、それに沿っていて、なおかつ上質な楽曲を作れることを証明したともいえますね。

少年あああああ:時間はちょっとかかってしまいましたけどね。4月に「インターネットやめたい」というアップテンポの曲を出したわけですけど、本来はそこにラブソングを持っていきたかったんです。なので、レコード会社にも「ラブソングを書きます」と言っていて、納品したのが「インターネットやめたい」だったという(笑)。

──おおお……(笑)。ですが、「次は、ちゃんとラブソングを書きますから」といって、納得してもらったんですね。

少年あああああ:そう(笑)。「現在進行形のラブソング」というのは今までなかったんです。過去を思い出す恋愛ソングみたいなものはありましたが、現在進行形で前に転がっていくようなラブソングはなかった。1番近しいところが2ndアルバム(『終活のてびき』2024年1月)に入っていた「推定時速500km」という曲ですけど、それは現在進行していくものをすごく高いところから見ているという構図の曲だったんです。当事者として、そこに自分がいるという目線の曲は書いたことがなかった。でも、2025年は挑戦の年にしようと自分の中で決めていたので、今年正月くらいからずっとラブソングを書く、ラブソングを書くと発信し続けていたんです。急にラブソングを出して、お客さんがビックリしないようにしておこうと思って(笑)。これまでとの温度差に、風邪をひかないように…という(笑)。

──それくらい、新たな挑戦だったんですね(笑)。では、ここまでの話を踏まえつつ今回リリースされた3曲を順番に見ていきましょう。第1弾として4月16日にリリースされた「インターネットやめたい」は、疾走感を放つダンサブルなナンバー。

少年あああああ:この曲は、今年の1月くらいに書きました。本当に「インターネット、やめてぇ」と思っていた時期で、それが劣等感として、めちゃめちゃ表れた曲にはなっていますね。メジャーにきてからの自分にとっての1年間は悩むことの連続だったんです。どういう曲が受け入れられるんだろうというところで、自分達らしさを保ったまま、より円を広げていかないといけないじゃないですか。僕はそういう書き方というのはあまり意識したことがなくて、自分を表現することしか考えてこなかった。なので、より伝わりやすいものを作れないかなと思った時に、「実はみんな、インターネットは、やめたいんじゃないかな」と思ったんです。実際のところはインターネットをやめたいと思っている人は、そんなにいないと思いますけど(笑)。

──どうでしょうね。インターネットは無くてはならないものですが、息苦しさを感じている人も多いような気がします。ですので、この曲に共感するリスナーは多いと思いますし、歌詞にリアリティーがあって「本当にインターネットに疲れているんだな」ということが伝わってくるのもいいなと思います。

少年あああああ:この曲の歌詞は基本的に全部実話で、僕は小学校の時にパソコンを買ってもらって、怪しいサイトを見て、架空請求書が届いたことがあるんです(笑)。家族に、「これ、あんた何かやったの?」と聞かれた時に「わかりません、わかりません」と言ったけど、どう考えても僕なんですよね。最終的に、父親が「俺かもしれない」といって払ってくれたんですけど、この曲のリアリティーのひとつとして、「やっぱり、お前だったんか」ということが、親がこの曲を聴いて分かるという(笑)。だから、いきなり謝罪から始まっているんです。

──ご両親の心中が…(笑)。ただ、少年あああああさんの実体験なわけですが、こういうことになってしまったという話はよく耳にします。

少年あああああ:ですよね(笑)。インターネットをやめたいと思って記憶を遡ったら、小学校の時から「やめたい」が始まっていたなという感じの始まり方なんです。そこから始まって、高校生になって、バンドマンになって…という流れになっている。それこそ高校生になって携帯で2ちゃんねるを見まくって、そこは悪口の温床で、それが面白いと思ってしまったことによって思想が歪んでしまって現実で問題が起こるという。インターネットの弊害ですよね。それに、インターネットの基本姿勢の「騙されるほうが悪い」という考え方は、相当ヤバいと思うんですよ。お爺ちゃんお婆ちゃんにまでそれを求めるじゃないですか。それは本当にヤバい。そういう思いも込めた歌詞になっています。

──時代の殺伐さを、あらためて感じます。ただですね、結構シニカルなことも歌っていますが、少年あああああさんが歌うとヒリヒリ・ビリビリした嫌な感じがしないというのは強みといえます。

少年あああああ:それは意識しています。ただの悪口にならないようにというか。悪口ではなくてどちらかというと「こいつ卑屈だな」という捉われ方をしたいんです。誰かを傷つけるために曲を書いているわけではないので。

──それが奏功して、重かったりしんどかったりする曲ではなく、笑い飛ばすような曲になっています。

少年あああああ:インターネットは本当にやめたいと思っているけど、やめることはできないわけですよ。ただ、そういうものっていっぱいあるじゃないですか。ダイエットしたいと言いながら、やらないとか。そういうふうに、「やりたい!やめたい!」と思いながら何も変わらないことはすごくカジュアルにどこにでも存在していて、そのひとつとしてインターネットをやめたいという気持ちがあるというところで、明るい感じの曲になったなと思います。

──いいところに落とし込まれました。「インターネットやめたい」の音楽面についてもお聞きしたいのですが、この曲はテクノ・テイストを活かしていることが印象的です。

少年あああああ:そこに関しては、終活クラブの音楽にはちょっとのダサさが絶対に必要だろうというか。この曲で活かしているテクノの要素は、100カッコいいものではないですよね。でも、僕が言っていることも100カッコよくないですし、ある程度のコミカルさみたいなものは絶対に終活クラブらしさに必要なものだと思っているんです。それで、アルペジエータとか電子ドラムの音とかを入れてみたらバッチリはまりました。

──インターネットというワードに呼ばれてテクノが出てきたわけではない?

少年あああああ:基本は楽曲に呼ばれて入れました。リード・ギターの石栗とリアルタイムで、いろいろはめてみたんです。FXをいろいろはめてみたり、アルペジエータを試してみたり、打ち込みで作ったループを流してみたりという感じで。そういう中で、アルペジエータは縦横無尽な感じになって1番はまるし、インターネットをイメージさせるよねということになりました。

──EDMではなくテクノにいくというのはセンスがいいなと思います。さらにですね、この曲はサビの途中で半音キーが上がるアレンジになっていて、それもいい味を出しています。

少年あああああ:それは、サビの後半にいくに連れ、ひいては曲の後半にいくに連れ「インターネットやめたい」という言葉がより伝わるように、より強く言えるようにするにはどうしたらいいんだと考えまして。それで、「もう、キーを上げてしまえ」と思ったんです。そうやって、どんどんインターネットをやめたくなっていく心持ちを表現するという。なので、1サビはここから始まって半音アップ、ラスサビはそこから始まってさらに半音上がって…という構成になっています。

──そういう仕掛けを理論ではなく、感覚で活かしているというのが最高です。

少年あああああ:ありがとうございます。感覚といえば、この曲のギター・ソロの前とか、たまらなくないですか?

──たまらないです(笑)。「研究によれば 現代で流行る曲に ギターソロなんかいらない」という言葉を遮るようにソロが入ってくるんですよね。

少年あああああ:そう(笑)。そこは、リード・ギターの石栗と話していたのが、僕が「いらない」と言うから、「いらな…」くらいで入ってほしいということでした。おそらく世界中のギタリストは、そのタイミングでソロに入りたいでしょう?という(笑)。

──入りたくなります(笑)。「インターネットやめたい」はいろいろ遊んでいて、それが独りよがりではなく、楽曲のいい個性につながっていますね。さらに、全体的にリズムを出しつつ柔らかみがあるというボーカルも聴きどころです。

少年あああああ:この曲の歌録りは、わりとスムーズでした。最近の歌録りはわりと一択で、特にアッパーな曲はそうですけど、マイクの向こうにお客さんがいるイメージで歌っているんです。目の前にお客さんがいたら、自分はこういうふうに歌うだろうなという歌い方をする。僕は間違いなく、どの曲もお客さんに向けて歌いたいので。「インターネットやめたい」は間違いなくそういう歌い方をしました。

──歌の録り方にもスタイルを持たれているんですね。では、続いて5月14日にリリースされた「恋」に、いきましょう。先ほど話してくださったように、「恋」は今までの終活クラブにはなかった現在進行形の恋が描かれた1曲です。

少年あああああ:この曲の歌詞を書くのは結構大変でした。自分の中のイメージ的にラブソングというのは、より大衆受けがするものというか、そういう商品タグが付いているものだと思い込んでいたので、質問箱を使ってお客さんに「恋愛の話を聞かせてください」といって情報収集してみたりしたんです。だけど、激重すぎて参考になりませんでした(笑)。どの話も重いんですよ。それで、自分の中でラブソングを書くなら、どういうラブソングを書きたいかなと思ったんです。「恋」というものは形がないじゃないですか。形がないし、そもそも存在するかも分からない。そういう中で、「ああ、君はここにいたのか」と気付くという曲を書きたいなと思ったんです。なので、この曲は最後に、恋というものに気付いて終わるというものになっています。そういう曲にしたいというのがあったので、書き始めた時点で最後に出てくる「これがぼくの恋だ」という言葉はありました。

──表現したいことが明確だったんですね。それに、10代の少年を思わせるピュアな恋心というのも素敵です。

少年あああああ:そこは意識しました。あまり手垢がついていない感じをイメージして書きましたね。この曲は「春の匂い」という言葉で始まりますが、春の匂いがすると、学生の頃をうっすら思い出しませんか?

──思い出します。

少年あああああ:ですよね。「それが今も残っているよな、自分には」と思って。春の匂いが教室からスッと抜けてきて、その匂いが思い出になる正体を君が持っているという、そういうイメージです。

──ロマンチックですね。そして、お話をうかがっていて思ったのですが、ラブソングというものは他人が経験した恋ではなくて、自身の恋を綴ったほうが普遍性のあるものになるような気がします。

少年あああああ:そうだと思います。「恋」には「恋をノートに書く」という言葉も出てきて、僕は中学生とか高校生の時に、この曲の歌詞とはちょっと違いますけど、いつもノートを持ち歩いていて、そこに思いついた歌詞とかを書いていたんです。なので「ノートに書く」というのは自分にとって秘密で特別なことで、この曲はそれがそのまま出ています。

──ご自身を描くことで、多くの人が「分かるなあ…」と感じる歌詞になっていますよね。そうなると、アーティストはいかに自身の内面をさらけ出せるかということが重要で、それをちゃんと実践されていると言えますね。

少年あああああ:僕は、自分の内面をさらけ出すということに対して抵抗はないです。「恋」は今までの終活クラブにはなかったラブソングだけど、めっちゃ好きだと言ってくれる人が多いんですよ。なので、この曲を書けて良かったなと思います。

──挑戦した甲斐がありましたね。そして、ラブソングは今後も沢山書いていくことになると思いますので、常に恋していてほしいなと思います。

少年あああああ:たしかに(笑)。でも、「ラブソングなんか書けないよ」と終活クラブのスタッフの人に言ったら、「あああああさんは、コロッケが好きですよね。コロッケに向けて曲を書けばいいじゃん」と言われました(笑)。

──おっ?…その方、凄いですね。

少年あああああ:そうなんですよ(笑)。それで言うと、僕はずっと音楽へのラブソングを書いているんです。ずっと、そのことで悩んでいるし。だから、なるほどね…と思いました。

──その考え方は盲点でした。そして「恋」は歌詞にマッチして、楽曲も瑞々しさに溢れていることは見逃せません。終活クラブは世界観を作るのが抜群に上手いわけですが、それはデモの段階で作り込むのでしょうか? それとも、メンバー皆さんで話しながら作っていくのでしょうか?

少年あああああ:「恋」で言うと、元々はもう少し遅いテンポで作っていたんです。でも、今回アレンジャーとして the band apartの木暮(栄一/Dr)さんに参加していただいて、小暮さんのアイディアでテンポをちょっと上げたらめっちゃ良くなった。より前向きな感じが出たんですよね。今までは自分達の中だけでアレンジして自分達らしさみたいなものを煮詰めていくという作業をしていたけど、今回初めてアレンジャーさんを入れさせてもらって一緒に編曲していくということをして、第3者目線で聴いて、ここはもっとこうしたらいいのにという提案をもらって、アレンジャーさんというのはこういう意味があるんだなということを実感できました。

──外部の血が入ることを嫌がるバンドさんもいて、それを批判するわけではありませんが、アレンジャーさんと一緒に仕事をすると勉強になりますよね。

少年あああああ:勉強になりました。たとえば、今回の「恋」は、音として結構盛り盛りなんですよ。だけど、わりとスッキリして聴こえる。今までは最近の音楽の傾向を踏まえて引き算することばかり考えていたけど、こんなに盛ってもスッキリ聴こえるというのもあるんだなと思って、そういう面でも勉強になりました。結果この曲はそのアプローチがすごく合っていて、終活クラブの中で1番ポップな曲になったなと思います。

──いい機会になりましたね。では、「恋」のレコーディングは、いかがでしたか?

少年あああああ:それこそ今までにない柔らかさみたいなテイストで歌ったりしたというのは、ありますね。この曲はもうちょっと語りかける感じで歌いたいと思ったので、読み手として歌った印象というか。それを意識してレコーディングした感じではあります。

──柔らかみのある歌声が、楽曲の世界観をより深めています。続いて、3ヵ月連続リリースを締め括る「幽霊」(6月11日)は夏感を湛えたエモーショナルなナンバー。

少年あああああ:この曲で伝えたかったことは、全くストレートじゃない文章というか、歌詞を読んだ人が想像するということに主体を置きました。「インターネットやめたい」は、誰が読んでもインターネットをやめたいんだなと分かるじゃないですか。「恋」も誰が聴いても、ラブソングだなと分かる。それとは違って、解釈をちょっと必要とする曲を3曲目に持ってくるべきかなと思ったんです。それは自分の強みでもあるので。そういうところから着手して、あとはリリースが夏前で、今までちょうど夏前に夏の曲を出せるタイミングがなかったんです。なので、夏前に夏の曲を出したいと思ったというのもありました。自分にとっての夏は、どちらかというと思い出のほうが強いんですよ。昔は夏がきたら海にいくとか、外に飛び出していくといったことがあたり前だったけど、今は室内でビカビカの空を見て、「昔は夏が嬉しかったんだよな」と思うことが自分の夏になっている。だったら、やっぱりなにかを思い出す曲を書きたいと思ったんです。

──「幽霊」というタイトルですが、やはりこの曲もご自身のリアルが基盤になっているんですね。

少年あああああ:そうです。で、解釈を必要とするということが前提にあったので、Aメロの「軒先で呼ぶ声が 風鈴のように」というところは、本来だったら「風鈴のように軒先で呼ぶ声が聞こえる」のが幽霊ですよね。だけど、それを逆に書いたんです。そこで、まず読み手として、この曲は解釈が必要なものなんだなというのを分かってもらおうと思って、そこから始まるようにしました。声が聞こえたわけじゃなくて、実際は風鈴が鳴っているだけだということは火を見るよりも明らかだけど、それが自分のことを呼ぶ声に聞こえたという。

──つまり、なにかを思い出しているということですね。「幽霊」の歌詞も秀逸で、まずは去っていってしまったことに対する喪失感をテーマにしていながら、なにを失ったのかは書かれていません。

少年あああああ:そう、具体的なことは一切書いていません。

──そのため聴き手が、それぞれの思いを重ねることができる曲になっています。もうひとつは先ほどおっしゃったように、解釈が必要であると同時に夏の様々な情景がコラージュされていることで、抒情的かつ哲学的な歌詞になっています。

少年あああああ:それは、めちゃくちゃ意識しました。単に寂しい心情を綴るだけでもなく、いろいろな夏の情景を描くだけでもなく、両方を重ね合わせるという。それに、Bメロでいろいろな情景を書いていますが、シーンがパタパタと切り替わっていって、それが夏の思い出なのか、今目の前にあるものなのかも分からないという感覚を表現したかったんです。なので、この曲は高画質なものをひとつも入れていないんですよね。高画質なものは最後に出てくる「線香とライター」というところだけ。そこだけが鮮明で、それ以外はうっすらと自分の中にあるものを表していて、なのですごくボヤッとしているものを書いていて、それは思い出のようだよね…という。

──いろいろな技巧を活かすことで、この曲は「去ってしまった人=幽霊」とも取れるし、「夏の思い出=幽霊」とも取れるものになっていて、文学的な香りがします。

少年あああああ:そういうものにしたくて、はっきりしたことは言わないようにしました。ただ、自分の夏の終わりというか、この曲としての夏の終わりは「線香とライター」に象徴されるように、お盆で終わりという設定には一応しているんです。

──そうなんですね。私は「線香とライター」というのはお墓参りの象徴で、ここで「死」を表していているのかなと思いました。

少年あああああ:そういうふうに解釈してもらっても、全然構いません。

──いろいろなインスピレーションが湧いてくる歌詞は素敵だなと、あらためて思います。そして、先ほども言いましたが、この曲は楽曲自体も夏を感じさせるものになっていて、やはり世界観作りの巧みさを感じます。

少年あああああ:この曲は、小細工みたいなものをあまり入れないみたいなことを、リード・ギターとも意識して作っていきました。なんていうんだろう…リード・ギターとしては、わりと事足りないというか、あまり派手に出していない。ストリングスとかがわりと印象的に入ってくるようになっていたりして、そういったものが主役という感じのアレンジになっています。

──そのとおりですが、アウトロで「ギュワギュワ」いっているギターはインパクトがあります。

少年あああああ:そこは、気持ちがグワングワンいっていることを表現しています。だって、この曲最後に嘘をついて終わっていますから。「またね 君の幽霊 忘れたりしないぜ 全部忘れてしまってもね」と言っていて、「またね」というのも嘘だし、「全部忘れてしまっても」というのは完全に忘れてしまって思い出すこともないということじゃないですか。そうやってめっちゃ嘘をついているんだけど、自分にとっての夏はそういうものだという。それに対する最後の惜別の念みたいなものをギターで表現しようという話をして、ああいうギターを弾いてもらいました。

──余韻が残る終わり方が絶妙です。総じて言いますと、今回の3曲はそれぞれテイストが異なっていながらどれも良質で、終活クラブの幅広さが味わえる3ヵ月連続リリースになりました。

少年あああああ:最近、終活クラブを知って、「この3曲全部好きだわ」となった人は、遡って終活クラブを聴いても好きになってもらえると思います。自分達らしさを継承したうえで、いい塩梅でキャッチーなものを作れたなという手応えはありますね。

──同感です。もうひとつ、冒頭で「メジャーにきてからは、悩むことの連続だった」とおっしゃいましたが、メジャーで活動してきた1年間の中で感じたことなどを、もう少し話していただけますか。

少年あああああ:自分は、なにも知らなかったなと思うのが1番大きいですね。今までは自分が書きたいものを、どうクオリティー高く表現するかということをメンバー全員でやっていたんです。そこだけに集中していて、販売するにはこういう苦労があるとか、こういう問題があるとか、予算がこれくらいで…とか、そういった現実的なところは考えてこなかった。メジャーではそれを頭に入れたうえで、どうしたら届くかなということを考えないといけないわけですよ。だって、人気が出なければ、普通に契約は終わってしまうじゃないですか。それは、嫌なんです。せっかく力を貸してくれたのに…というのがあるから。だから、「この人のために、がんばろう」ということがめちゃめちゃ増えました。前は自分がいい曲を書ければいいかなと思っていたのが、よりいろんな人に届きやすいものを…と考えるようになったんです。たとえば、販売の人や営業の人とかが「こんなにいい曲なんだから、もっと多くの人に聴いてほしい」と思ってもらえる曲を書きたいとか。そういう思いが生まれて、だからこそ悩んだんです。僕は放っておかれると、なにかを作っている自分のことを描いた曲しか書かないので、そうじゃなくて、もうちょっと間口を広げて、聴いてくれた人が「この主人公は自分かもしれない」と思えるような曲を書こうということも思うようになりました。そういう意識が生まれた結果、やっぱり曲を書くペースは少し落ちましたけどね。そんな1年でした。

──「売れたい」だったり「有名になりたい」といった心を否定するわけではありませんが、「この人のために」と思ってがんばるというのは美しいです。今後はそういうピュアな心持ちのミュージシャンが篤い支持を得る時代になっていく気がしていますし。

少年あああああ:そう信じたいですね。メジャー2年目ということで、これからますます悩むことが増えていくと思いますが、僕は後悔したくなくて終活クラブというバンドをやっているので。後悔することがないように、全力で取り組んでいきます。より届くように試行錯誤して、悩んでいる過程で書いた曲とかはアルバムに収録したりして、ちょっと遊んでいきたいなと思っています。せっかくなので、メジャーを楽しみたいという気持ちがあるので。

──頼もしいです。そして、今後の終活クラブの動きとしては、6月29日に<終活クラブメジャー1周年記念公演 「終活座新潟大祭」>と銘打ったライブが新潟LOTSで行われます。

少年あああああ:このライブはBRADIOをゲストに招いています。BRADIOをブッキングさせていただいた経緯として、僕らは2021年の1月にライブを始めて、その時は超コロナ禍だったんですよ。BRADIOのベースの(酒井)亮輔さんは新潟出身で、コロナ禍で新潟に帰ってきていて、僕らの初ライブを観にきてくださったんです。その時の打ち上げでめっちゃ酔っぱらって「BRADIOと対バンできるようになります」と言ったんですけど、、6月29日はそれを叶える日です。図には乗っていないですよ。図には乗っていないけど、やっと声をかけられるくらいの規模感になってきたな、自分達は…ということで胸熱なライブなんですよね。ただ、BRADIOは本当に凄いバンドで、間違いなく良いライブをするじゃないですか。そこで大事になってくるのは、自分達らしさを全面に出すことだと思うんです。なので、自分達が初ライブを観てもらってからの4年半の間にやってきたことを、そのまま出すライブをしようと思っています。ある意味、夢が叶う日になるので、新潟の方はもちろん日本中の方に立ち会ってもらえると嬉しいですね。ぜひ、皆さんに遊びにきていただきたいです。

取材・文◎村上孝之

<メジャー1周年記念公演「終活座新潟大祭」>


2025年6月29日(日)
@新潟LOTS
OPEN/START16:15/17:00
¥4,000 22歳までの学生は、当日学生証提示で¥1,000学割キャッシュバック
出演:終活クラブ、BRADIO

終活クラブ◆オフィシャルサイト