【詳細レポ】氷室京介「I Will Never Say Goodbye」

氷室京介が5月23日、東京ドームにて4大ドームツアー<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>のファイナル公演を開催した。計7公演全30万人超を動員した同ツアーは、ライヴ活動無期限休止を発表した氷室京介最後のツアーであり、この日はその最終日となる。先ごろ公開した速報レポートに続いて、詳細レポートをお届けしたい。
氷室京介は2014年7月13日、全国ツアー<25th Anniversary TOUR GREATEST ANTHOLOGY -NAKED->の山口・周南市文化会館公演にて、ライヴ活動の無期限休止を発表、その翌週の横浜スタジアム公演を最後にステージから退くことが告げられた。迎えた横浜ライヴ当日、「耳の不調が理由」とした無期限休止であることが語られるも、落雷による公演中断や自身の怪我によるコンディションの不十分さから、「このリベンジをどこかで必ずもう1度、演らせて欲しいと思います」と宣言。そして2015年末、35年のステージ活動にピリオドを打つべくライヴ日程が発表となった。
リベンジにして最後のライヴツアーが、<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>だ。2016年4月23日および24日の京セラドーム大阪公演を皮切りに、4月29日のナゴヤドーム、5月14日の福岡ヤフオクドーム、5月21日および22日、23日の東京ドーム公演まで、計7公演全30万人超を動員する大規模4大ドームツアーにて有終の美を飾る。また、ツアータイトルに冠された「LAST GIGS」はBOØWYのラストライヴと同名であることが、最後というリアリティを色濃く増幅させていた。
2016年5月23日、開演予定時刻の18時を少し回った頃に場内が暗転、ステージが幕を開ける。結論から言えば、ライヴの主役が氷室京介であったことに間違はいない。しかし、この夜はオーディエンスのため、すべてのファンのためにあった。なんど氷室が客席にマイクを向け、なんどオーディエンスの歌声が大音量の演奏をかき消したことか。「THANK YOU!」という言葉をなんど笑顔で連発したことか。この日、この場所に参加しているという事実を楽しみ、この夜の一瞬一瞬を刻み込むことに神経を研ぎ澄ましたオーディエンスと氷室が作り出したサンクチュアリは、ピュアに光り輝いてあまりに美しかった。
ライヴは、1988年のソロ始動から現在まで、氷室京介のツアー史を振り返るステージ映像の数々がLEDヴィジョンに映し出されるという始まり。その映像が“HIMURO KYOSUKE”ロゴに移り変わり、大声援が響き渡るとヴィジョンがステージ上の氷室をとらえた。「最後の夜だぜ!騒ごうぜ!」という第一声に続いて鳴らされた1曲目は、客席のボルテージをのっけからレッドゾーンに叩き込んでしまった名曲「DREAMIN’」だ。以降もBOØWY時代のナンバーを連打する序盤に5万5千人の大合唱が止まない。疾走するユニゾンリフがドームを揺らした「RUNAWAY TRAIN」、ニューウェイブサウンドに乗る淫らな歌詞がシュールでありエモーショナルな「BLUE VACATION」。3曲を立て続けに披露した氷室がこう語った。
「気持ちいいぜ! 今日のライヴは35年の歴史の中で、みんなに聴いてほしい曲をたっぷりと用意しているので、最後までじっくり楽しんでくれ」
<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>は、1981年のBOØWY結成から1988年のソロデビューを経て、2016年に35周年を迎える氷室京介を支えてきたファンに応えるべく準備が進められていた。これは、“BOØWY時代からソロまで自身が歌ってきた全楽曲を対象にリクエストを募り、その結果をセットリストに反映させる”という本人の意向によるもの。「TO THE HIGHWAY」から「BABY ACTION」への流れはBOØWY時代のライヴ<ROCK’N ROLL CIRCUS TOUR>や<LAST GIGS>を彷彿とさせ、その並びにファンは思わずニヤリとしたはずだ。続く、アルバム『JUST A HERO』をフィーチャーしたセクションには氷室自身の思い入れの深さがあった。
「俺にとってはもしかしたら最後のベスト盤になるかなということで、メチャクチャ気持ちを入れて、新しく録り直した曲も収録したアルバム『L’EPILOGUE』が1位になりました。このベストには、2011年の震災復興支援ライヴ<KYOSUKE HIMURO GIG at TOKYO DOME “We Are Down But Never Give Up!!”>でも演ったBOØWYのアルバム『JUST A HERO』の曲がたくさん入っているんだけど、その新しく録り直した曲も含めて聴いてもらいたいと思います」
こう語った氷室は、「『JUST A HERO』というアルバムをなぜ気に入っているか」について続けた。「ライヴハウスからバンドが大きくなっていく過程で、ちょうどブレイクするタイミングくらいに作ったアルバムなんだ。年齢的にも大人になっていく頃で。それまではガキの集まりみたいに、新宿LOFTでやって楽しければOKっていう間柄から、それぞれにプロ意識が生まれた時期だった」
1986年3月にリリースされた『JUST A HERO』はオリコンチャート5位を記録し、アルバムを引っ提げたツアーファイナルでは初の武道館公演を大成功に収めた。今も語り継がれる名言「ライヴハウス武道館へようこそ!」はこのときに生まれた言葉であり、彼らの当時の状況とスタンスを象徴していた。サウンド面ではシンセやデジタル機器を積極的に導入、緻密で入念な独自の世界観を構築したアルバムが『JUST A HERO』だ。「それまでの俺は、「曲ができたからアレンジしてくれ」ってメンバーに渡してたんだけど。『JUST A HERO』からは初めてギターとベースと打ち込みを重ねて、自分の曲は自分でデモテープを作った。そのときに自分でデモテープを作ってなかったら、今こうして歌っている俺はいなかっただろうと思うと、自分にとっては凄く好きなアルバムで。何曲か演ろうと思っているので、聴いてください」
「ROUGE OF GRAY」「WELCOME TO THE TWILIGHT」「MISS MYSTERY LADY」といった美しいメロディを取り巻く音楽的完成度の高いナンバーが、東京ドームの夜をアクティヴな躍動感とクールな肌触りを以って染め上げる。続いて演奏された「“16”」までの9曲全てがBOØWY時代のナンバーだったセットリストにオーディエンスのテンションの高さも凄まじい。その熱量を感動的なほど麗しく塗り替えたのがバラード「IF YOU WANT」「LOVER’S DAY」。どちらもソロ楽曲だ。両曲の間には、日テレ『NEWS ZERO』の主題歌として起用された経緯も含めて「IF YOU WANT」が、自身の歴史の中でもプライオリティが高い楽曲であることが明かされ、一方の「LOVER’S DAY」は、ベスト盤『L’EPILOGUE』のタイトルが意味する“終章”も含めた今のシチュエーションを受けて、「気持ちを話すよりも歌で伝えたい」と披露されたナンバーだった。

また、このMC中には「耳のコンディションもあって、聞き苦しいところもあるかもしれないけど、二度とない最後の空間なんで」という言葉もあったが、とんでもない。時おり左耳のイヤモニを付けたり外したりする仕草はあったものの、ピッチの乱れなど皆無に等しい。リズムのキレや感情をそのままなぞる抑揚は実に心地好く、氷室本来の甘く伸びやかでハスキーなトーンやファルセットを駆使した両バラードが心に染み入る。さらにはBOØWY時代を代表する「CLOUDY HEART」が届けられると、そのスタイリッシュなシルエットに加えて、フロントマンとしての天性の資質が浮かび上がるなど、中盤のバラードセクションはヴォーカリストとしての表現力とカリスマ性の高さを改めて証明するシーンとなった。そして、「LOVE & GAME」「PARACHUTE」といったナンバーで再びドームを温めた氷室は、注目される“<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>以降”について、冗談交じりに、しかし確信を持って触れた。
「いまの「PARACHUTE」はGLAYのTAKUROくんが詞を書いてくれた歌で。昔からTAKUROくんの才能には結構やられてるところがあってね。このツアーが始まる前にL.A.で、B’zの松本とTAKUROと3人で焼き肉を食いに行ったんだよ……なに笑ってるんだよ! 焼き肉ぐらい食うよ(笑)。そのときにTAKUROくんが「休止後どうするんですか?」って真顔で訊くんだよね。あんまり真面目に訊かれると、俺は冗談で返したくなるタイプだから、「ま、ゆっくりアルバムでも作って。俺の場合もともとゆっくりだから、これ以上ゆっくりになるとほとんど引退に近いんだけど(笑)。今まで以上にゆっくり作って、60歳くらいになったらアルバムでも出すか」と。「タイトルは……60歳だし、日本語のアルバムタイトルって付けたことないんで、『還暦』にして。一曲目はやっぱり「“60”」だな。60と書いてSIXTY。二曲目はこれも漢字のタイトルで「年金」」ってバカなことを言ってたら、TAKUROくんが、「お願いだから最後のライヴで、それは言わないでください!」ってダメ出しされたという(笑)。……ま、そんな感じで、時間をかけてアルバムでも作ろうかと。これはマジの話です」
この発言にドームが沸きに沸いて拍手と嬌声が鳴り止まない。それを遮るように「次も思い出深い曲を一発。このへんから、後半、ベキベキに行きたいんで」という言葉に導かれ、タテノリの激しさにドームが震えた「BANG THE BEAT」へ。ステージ両翼までいくつもの火柱が吹き荒れた「WARRIORS」、ステージ中央で氷室と並んだDAITAのギターソロが高々と響き渡った「NATIVE STRANGER」とエモーショナルな空気が会場を包み込んだ。

火柱や銀テープなど必要最低限の特効はあったものの過剰な演出は一切ない。5万5千人のドームを1つにしたのは、息もつかせず繰り出される楽曲のパワーであり、それを余すところなく会場に響かせた氷室京介の力量と許容量の深さだ。ライヴで演ったら盛り上がらずにはいられない「ONLY YOU」「RENDEZ-VOUS」「BEAT SWEET」の流れは圧巻。「このまま行くぜ!」と叫んだ氷室に続けて、DAITAが鳴らした“Cの和音”一発は「PLASTIC BOMB」の始まりを告げる狼煙であり、ファンの狂喜乱舞がこれに呼応して場内に歌声がこだまする。ちなみに、ステージ後方をリアルライヴビューイング席として開放した3DAYSは見渡す限り埋め尽くされて、これほどまでに人がステージを取り囲んだドームライヴは見たことがない。そのそこかしこから聞こえる大合唱が全てのオーディエンスの感情をさらに昂ぶらせていくようだ。本編終盤は「WILD AT NIGHT」「WILD ROMANCE」といった代表曲が盛り上がりに拍車をかけて最高潮へ。
「最後に、素晴らしい本日のみなさんへ、俺の25年の歴史がこの曲から始まったっていうやつを一発贈りたいと思います」と披露された本編ラストチューンは「ANGEL」。御存知の通り、ソロ第一弾シングルとして1988年にリリースされた同曲は、“眠れぬ魂が 何かを求めてる”“今すべてを賭るから”という歌詞にソロ始動時の想いがうかがえるナンバーである。一方、“ONE WAY SO FAR AWAY”という一節には25年の氷室の歩みがオーバーラップして心が奮えた。同曲ラストではそれを支えたファンへ拍手を贈るようにステージを去った。
鳴り止まないアンコールに応えて、再び登場した氷室はまず、この夜のオーディエンスに感謝の言葉を伝えた。「東京ドームは俺の大好きな場所なので、区切り区切りで何回もやらせてもらっているんだけど。今日のドームは本当に最高だね。そっちやこっちに行くと(ランウェイの上手下手。リアルライヴビューイング席付近)、ライヴハウスの熱さが伝わってきて、最後に1粒で2度美味しい感動を味わわせてもらって感謝してます。“リベンジ”をお願いしてから1年半くらい。みんなを待たせちゃって悪かったけど、これで、自分の中で気持ちの整理がついたかなと。12歳くらいの頃……俺たちは変わったやつだったんで、まともなオトナなれるのかなって凄い不安になってた時期があったんだ。まぁ、まともなオトナじゃないかもしれないけど(笑)、こうしてたくさんの連中にエネルギーを送ってもらえるような人生の35年間、本当に!本当に感謝してます!」
興奮冷めやらぬアンコールは、それまでの熱狂を引き継ぐような激しいナンバーではない。「The Sun Also Rises」は氷室ひとりにスポットライトが当てられたまま演奏され、「魂を抱いてくれ」が雄大なスケール感と美しい余韻を残す。シンプルで力強いミディアムナンバーに聴き入り、歌詞のひと言ひと言を噛みしめるように身体を揺らすオーディエンスの姿が印象的なシーンとなった。一転、DAITAとYTによる灼熱のギターバトルが燃え盛った「IN THE NUDE」、「懐かしいやついくぜ! NO! NO! NO.N.Y.」との煽りから、<BOØWY LAST GIGS>最終日のラストナンバーとしても知られる「NO.N.Y.」へ。5万5千人の大合唱が高々と響き渡り、「THANK YOU! 東京ドーム!」と叫んだ氷室は笑顔のままステージを降りた。
二度目のアンコールは、「今夜は死ぬまで終わんねぇぞ!」という氷室の言葉から、「VIRGIN BEAT」「KISS ME」といったシングルチューンや初期の名曲「ROXY」が圧倒的な質感を描き出して、ステージから目が離せない。そのラストは、客電が点けられたまま披露された「SUMMER GAME」だった。5万5千人が拳を振り上げ、最後の力を振り絞るような光景と歌声には晴れ晴れとした爽やかさすら感じてしまったほど。おそらくここに居たファンのほとんどが、ステージ上にマイクを置いて氷室が立ち去ったことや、“客電が点けられたまま”という演出に最後の曲だと覚悟していたはずだ。
ところがである。途切れることがない拍手と歓声が、やがて驚嘆に変わった。三度ステージに登場した氷室は「THANK YOU!」と告げて「SEX&CLASH&ROCK’N’ROLL」へ。同曲の中盤では、各メンバーのソロ回しパートが加えられ、ステージ上も客席も氷室を中心としたバンド演奏をじっくりと心ゆくまで楽しむことができた。そして、35年間に幕を閉じたナンバーは「B・BLUE」。そのエンディングで、大きく両手を広げ、客席を見渡しながらなんども頷いた氷室は、オーディエンスに投げKISSをしてステージから姿を消した。バックステージの氷室を追うヴィジョンは客席の映像へと移り変わり、ファンから氷室へ向けたメッセージのひとつひとつを浮かび上げる。
その映像を笑顔で見つめるファンや精根尽きて呆然とするファンの姿を観ていると、<BOØWY LAST GIGS>東京ドーム2DAYSで氷室が発した「俺達は伝説になんかならねえぜ」という言葉が頭をよぎった。ソロをスタートした氷室はアルバム『Memories Of Blue』でBOØWYのセールスを更新。<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>は東京ドーム3DAYSをはじめとする全7公演の巨大ドームツアーとなった。加えて、BOØWY時代の2公演を加えた計14回の東京ドーム公演は、男女ソロアーティストとしては前人未到の快挙を成し遂げたことになる。積み上げられた記録をことごとく塗り替えてきた現在進行形にして有言実行の生き様は、ファンの心に深く焼き付き、多くのミュージシャンに勇気と希望を与えたはずだ。
映像の最後に映し出された「I Will Never Say Goodbye, Till We Will Meet Again. My Love.THANK YOU ALL FANS」というメッセージ。優しくも力強い言葉に氷室京介の35年が重なった。この日のMC通り、彼はいつの日か新しい音源を届けてくれることだろう。信じて待ち望む人たちのために。
取材・文◎梶原靖夫(BARKS)
2016年5月23日 <KYOSUKE HIMURO LAST GIGS>【セットリスト】
01. DREAMIN’
02. RUNAWAY TRAIN
03. BLUE VACATION
04. TO THE HIGHWAY
05. BABY ACTION
06. ROUGE OF GRAY
07. WELCOME TO THE TWILIGHT
08. MISS MYSTERY LADY
09. “16”
10. IF YOU WANT
11. LOVER’S DAY
12. CLOUDY HEART
13. LOVE & GAME
14. PARACHUTE
15. BANG THE BEAT
16. WARRIORS
17. NATIVE STRANGER
18. ONLY YOU
19. RENDEZ-VOUZ
20. BEAT SWEET
21. PLASTIC BOMB
22. WILD AT NIGHT
23. WILD ROMANCE
24. ANGEL
~Encore1~
25. The Sun Also Rises
26. 魂を抱いてくれ
27. IN THE NUDE
28. JELOUSYを眠らせて
29. NO.N.Y.
~Encore2~
30. VIRGIN BEAT
31. KISS ME
32. ROXY
33. SUMMER GAME
~Encore3~
34. SEX&CLASH&ROCK’N’ROLL
35. B・BLUE
<KYOSUKE HIMURO LAST GIGS公演概要>
4月23日(土) 京セラドーム大阪
4月24日(日) 京セラドーム大阪
4月29日(金) ナゴヤドーム
5月14日(土) 福岡ヤフオクドーム
5月21日(土) 東京ドーム
5月22日(日) 東京ドーム
5月23日(月) 東京ドーム
◆【速報レポ】氷室京介、<LAST GIGS>で「最後の夜だぜ! 騒ごうぜ!」







