ガイ・ベリーマン(B、以下ガイ):もちろんプレッシャーはあった。少し疲れたのはたしかだよ。新作は全身全霊を込めて作ったし、いいものを作った自負ももちろんありはするけど、こればっかりは人々がどう判断を下すか。それを見てみないとわからないよね。
この大出世作に続く新作のレコーディングはガイのこの発言からもわかるようにかなりの苦しみを予想させる。実際、発売自体も、当初の予定からは数カ月ズレこんだ。この労作で彼らは何を目指したのだろうか。
ガイ:音楽的にインスパイアを受けたのは、デヴィッド・ボウイの’70年代の作品であったり、クラフトワークだったりね。意外かもしれないけど、こうしたアーティストの影響を僕らなりに注いでみたつもりだよ。
ジョニー・バックランド(G、以下ジョニー):とにかく、良い曲、これがすべてだよ。しかも、前作よりも確実にスケール・アップさせなくてはならない。それは使う楽器を増やしたり、音数を増やしたりとか、そういうやり方じゃなくてね。
こうやってでき上がったサウンドは、これまで以上にスケール感のアップしたプログレッシヴなものとなった。そして、彼らがかねてから敬愛していた、エコー&ザ・バニーメンなど、80’sのニュー・ウェイヴ・インディ・ギター・バンドからの影響がメロディにもより濃厚に現れてくるようになった。もう彼らのことを、世間一般で言われるところの、「UK叙情派」の域で止めるのでは失礼な、そんな次元にまで到達している。実際、コールドプレイが成功した後、イギリスからは次々とメロディアスなバラードを武器にするバンドが商業的な大成功を果たす例が出て来ているが、彼らはそうしたバンドとの差別化を図りたかったのだろうか?
ガイ:“UK叙情派”? そんなものがあるのかい(笑)? 別にキーンやスノウ・パトロールやアスリートといったバンドが僕らの成功に倣って真似したなんてことは思わないな。どのバンドも全部自分らしさを持った良いバンドじゃないか。少なくとも僕には、コールドプレイのようには聴こえないな。
成功を果たした後でも、彼らはいたって謙虚である。昨今、キラーズのブランドン・フラワーズがブレイヴァリーを「僕らの成功の真似をして売れた」と攻撃したり、オアシスのリアムがフランツ・フェルディナンドやブロック・パーティーなどの新世代バンドを口汚く罵ったりする舌戦がロック界の話題になっているが、彼らにはそんなことは全くお構いなし、といったところだ。そんな彼らは、今のロック界について、どう思ってるのだろうか?
ジョニー:やっぱり、みんなも言っているように、フランツ・フェルディナンドやキラーズは素晴らしいバンドと思うよ。僕らがデビューした時って、よく“不毛の時期だった”みたいなことを言う人がいるけど、僕らが出て来た時だって、シガー・ロスやフレーミング・リップスみたいな優れたバンドはいたよ。ウケるバンドのタイプがちょっと変わったってだけで、いつの世も良いバンドというものは出て来ていると思うんだよね。
周囲がどうであろうと、関係ない。自分たちの目指す道。彼らはただそれだけを信じて進むだけ。その姿勢が、今日の彼らを作り上げている。そう言っても過言でないと思う。では、『X&Y』のテーマとは?
ジョニー:“X”っていうのと“Y”っていう2つのものがあるとするよね。世の中というのは、そういう異なるものが合わさって何かを生み出すんだ。あるいは、あるものにはXって要素がある一方で、Yという側面もある。そういう物事の真理を表現した作品だね。
“硬”と“柔”。“聖”と“俗”。コールドプレイの音楽を“X”と“Y”にたとえると、まさにそういうイメージであるように思う。きれいなサウンドなのに、密かに攻撃性やエッジが。神聖な雰囲気の楽曲なのに、どこかに人間くさいストレートな心情が。そこがコールドプレイ最高の魅力なのだが、歌詞について、今回はどうだろう。過去に「イエロー」や「サイエンティスト」のように、結婚式ソングの定番となりつつある名ラブ・バラードを生んだ(特に前者はブリトニー・スピアーズのお気に入り)彼らでもあるが。
ガイ:たしかに“純愛系バンド”みたいに指摘されることは多いんだよね(笑)。今回もそれにあたる曲は数曲あるけど、今回のアルバムはもっと普遍的な人間の部分を歌っていると思うんだ。そして、アルバムが出た後、彼らには大きなフェスティバルが待っている。グラストンベリー、そしてフジロックへの出演だ。
ジョニー:とにかくベストを尽くすだけ。それだけだよ。でも、すごく楽しみだよ、これからがね。
取材・文●沢田太陽