──そもそも、アコーディオンという楽器を選ばれた理由を教えてください。
coba:僕が近寄って行ったのではなく、向こうから近寄って来たんです(笑)。父親が大のアコーディオン好きで、給料の何年分かをはたいてイタリア製の楽器を買って。僕は週末ににそれを弾く父の姿をずっと見ていました。3歳からピアノを習い始めていた僕は、小学校一年の頃には小さなミュージカルを作曲して、父親参観日にクラスの皆でそれを発表したり、なにか行事がある度にピアノ演奏や伴奏で駆り出されていました。かなり音楽に目覚めた子供だったんですね。そして4年生の誕生日に父がアコーディオンを初めてプレゼントしてくれました。それが直接のキッカケです。
──音を聴いた時に、すぐに魅せられてしまったんですか?
coba:初めて持った時にピーンと来ました。アコーディオンはピアノやオルガンと違って、身体に密着させて演奏する楽器です。それで実際に音を出してみると、身体に直接ヴァイブレーションが伝わるんです。そういう経験をしたことがなかったので、すごくショックでした。
──アコーディオンは弾きこなすには非常に難しい楽器だと思うんですが。練習は大変だったのではないですか。
coba:子供のころ弾き始めて、ずっと独学でした。周りに先生はいなかったので。あとは時代と共にですね。高校の頃にプログレッシヴ・ロックが流行って、コピーバンドを4つ程掛け持ちしていました。名古屋のヤマハにMini
moogが1台だけ置いてあって、そこに毎日毎日音を出しに通いつめるという妙な高校生でした。それくらいキーボードには狂いました。イエス、ピンク・フロイド、EL&Pといったプログレバンドのコピーをアコーディオンでも演ったりしていました。うちには最初ピアノがなかったので、土日は学校に忍び込んでずっとグランドピアノを弾いたり、だからかなり達者に弾ける子供ではありました。
──他の鍵盤楽器と一番違うのはどういうところですか。
coba:うーん、アコーディオンを鍵盤楽器だと思ってはいけないと思います。むしろ管楽器に近い。鍵盤が付いた管楽器と認識するのが一番正しいのではないでしょうか。僕のアルバムをお聴きいただければお分かりになると思いますが、鍵盤楽器と吹奏楽器両方の表現を持ち合わせているんです。自らの肺をもって、空気を操りながら音を発生させる、生き物のような楽器ですね。
──スコットランドのバグパイプに近いのでしょうか。
coba:似ていますね。ただあれは、基本的に空気を押し出すだけなので、細かい抑揚をつけることは困難です。凄腕プレイヤーはおられますが、そこまでいくのには相当な熟練が必要な筈。でも種属は同じかもしれませんね。ルーツと言う意味では中国で2000年前に生まれた笙がリード楽器の元祖で、アコーディオンのルーツと言われています。
──アコーディオンの音色が人の心を揺さぶるのはなぜだと思いますか?
coba:匂いの強さかな。調律師の手によって微妙に調整されたリードの独特の粘っこさが人の琴線をくすぐるというか、心に爪を立てるというか。その技が一流であればあるほど心を引っ掛けるんだと思います。ブルーチーズに似ていて、匂いが強くて人を放っておかない。それを味わうために、わざわざワインを買ってきたりしてね(笑)。嫌いな人はニガテかもしれないけど、好きになっちゃうとたまらなくなる。そんな音を作り続けていきたいです。
取材・文●森本 智