――ブラジルからこのようなシンフォニックでラウドなロックミュージックが出てくることは、日本のファンにとって驚きだと思うのですが、ブラジルではこのようなヘヴィメタルはポピュラーなの?
キコ・ルーレイロ(以下、キコ):そうなんだよね。最初はそのことをよく聞かれたよ。ブラジルからのヘヴィメタルってセパルトゥラくらいしかいなかったからね。彼らの音楽性から判断されて、ブラジルの暗い面ばかりが取り上げられた。CNNのニュースでやっているような政治の不安定さとか貧しさとか第三世界的なことばかりを彼らは歌っていたからね。でも実際には、ああいう音楽だけじゃない豊かな文化を持っている国でもあるんだ。僕らの音楽は、もっと前向きな部分を目指している
――前のアルバム『リバース』はメンバーチェンジ後で大変な時期でした。今回は落ち着いてレコーディングができたのでは?
キコ:『リバース』も実はそんなに大変じゃなかったんだ。エドゥ、アキレス、フェリッペという新しいメンバーが見つかった時にはもう嬉しくて、その喜びの中で作ったアルバムだったからね。その喜びが伝わったと思うよ。その後ツアーでブラジル中を廻り、ヨーロッパ、日本、そしてアメリカとカナダやコロンビアなど、前のアルバムでは行けなかったところまで、このラインアップで行けたということで、お互いのことが人間的にも音楽的にも理解できた。だから、今回はさらにアルバムも作りやすかったし成熟度も増した。そして曲の内容も詞もコンセプトも高いレベルに達することができたよ。
――ニューアルバム『TEMPLE OF SHADOWS』は、ラファエルが考えた物語を基に作られたわけだけど、この中でラファエルが最も言いたかったことは?
ラファエル・ビッテンコート(以下、ラファエル):伝えたかったのは、物語の舞台になっている11世紀と現在の対照さ。ただ、それをあまりにも政治的だったり宗教的にはしたくなかったので、ストーリー仕立てにしてみた。かなりの部分が史実に基づいたものになっている。言いたいことは、11世紀に犯した人間の過ちを1000年後の今も繰り返したくはないということなんだ。
――このアルバムはテクニカル的にもかなり高度なものですが、演奏や歌ったりするのはどうだった?
キコ:確かに大変だったね。僕達の持っている演奏テクニックや曲作りのノウハウを最大限に引き出したかったからね。だからスタジオに入って録音するまでに、かなり練習が必要な部分もあったよ。でもそういう期間を経てきたので、今はちゃんと演奏できるよ。あとはバンドとして、よりタイトな演奏にするためのリハーサルは必要かな。
エドゥ・ファラスキ(以下、エドゥ):レコーディング前にも、このアルバムの曲は完璧に演奏しているから、ライヴでやるのも問題ないよ。もちろん、プロダクション部分で多少の工夫は必要になるけどね。
――シンフォニック・ロックというと、ウリ・ジョン・ロートとか、ラプソディとかが有名ですが、そういうバンドを意識することはある?
ラファエル:確かに意識していたアルバムはある。でもそれは’70年代のザ・フーの『トミー』やピンク・フロイドの『ザ・ウォール』、あとはクイーンズ・ライクの『オペレーション・マインド・クライム』とかかな。僕らは以前にも’96年の『ホーリー・ランド』なんかのコンセプト・アルバム的なものは作っていた。僕らがやるのは、ストーリーをベースにしているとはいえ、あくまで事実を踏まえたもの、あるいは人間の行動様式を踏まえたものなので、その中から生まれる教訓やメッセージを伝えることが目的なんだ。だから、夢とか存在しないモンスターを引き合いに出して、最後には何も残らないようなコンセプト・アルバムではないんだ。
エドゥ:ラプソディって名前が出たけど、こういう音楽を始めたのはアングラが先だし、オーケストラを持ち込んだのも僕らがずっと早いんだよ。
ラファエル:僕自身、ラプソディも彼らの作品も尊敬している。でもコンセプトのあり方が違うんだよね。
――このアルバムにはカイ・ハンセンが参加していますね。彼を起用しようと思ったのは?
キコ:曲が彼を求めたんだ。ハロウィンやガンマ・レイの音楽は大好きで影響を受けてるし。
ラファエル:カイには昔から助けてもらってる。1stアルバムは彼の個人スタジオを使わせてもらったし。それ以来、友達付き合いをしているので、感謝の気持ちは常に忘れないようにしたいし、それを人にも伝えたいと思う。
エドゥ:カイが人のアルバムに参加するときにはソロを弾いているけれども、歌で招かれてるケースってあまりないと思うんだ。シンガーである僕としては、彼と一緒に歌うということがすごく嬉しかったし、彼の歌を僕らのファンに聴かせることができてよかったよ。これはハンズィに関しても同じことが言える。ブラインド・ガーディアンというバンドのスタイルも素晴らしいし、ああいう強烈な声を持っている人に参加してもらえて嬉しかったよ。
キコ:ブラジルからはミルトン・ナシメントという偉大なミュージシャンにも参加してもらってるんだけど、彼が僕らに与えてくれた影響なんかを聴いてもらいたかったんだ。
――あれ? 「THE TEMPLE OF HATE」のギターソロってカイじゃないの?
ラファエル:歌だけだよ。エドゥと一緒に歌ってるんだ。
――7拍子のような変拍子が多用されていて、リフも複雑、ギターソロもハモリがあるけど、こんな複雑怪奇なアレンジって、どうやって構築していくの?
ラファエル:ごく自然にだよ。今まで培ってきた経験、そして長いツアーを経て出来上がったバンドの絆があってこそ可能なんだと思う。あらかじめ練りに練って作るというよりは、わりとその場のフィーリングでできたアレンジなんだよ。それをそのまま提示したカンジさ。
エドゥ:オーディエンスの質っていうのもあるんだろうな。僕らのファンはブラジルも日本もヨーロッパでもそうなんだけど、うんと洗練された難解なものを出しても分かってくれる人たちなんだ。メタル・ミュージックのオーディエンスって、自分でギターを弾いたりバンドを組んでる人が多く、非常に知的な人たちだって分かってるから遠慮なくできるっていうのがあるね。
――ドリーム・シアターなんかのコンサートでも、あの変拍子に合わせて手拍子をするオーディエンスにはビックリするものね。アングラのファンも同じでしょ。アルバムを擦り切れるほど聴いて覚えこんでしまってるんだよね。
エドゥ:そうだね。そうあってほしいし。
キコ:そういった意味では、バンド側も音楽的なレベルを高めていかないといけない。ドリーム・シアターというのは、音楽的にもマーケット的にも大きな変化を呼んだバンドだったと思う。要するに“音楽”というものに耳を向けさせたという。聴く側がバンドに対して、ちゃんと弾けるという演奏の力量を求めるきっかけになったバンドだと思うね。
ラファエル:今そういった演奏力と音楽的な高いレベルを誇れるバンドが少ないのは世界的なことだよね。それは新しい世代が、いかに音楽的に迷っているかの表われなんじゃないかな。
エドゥ:だからこそ、僕らがここでこういうアルバムを出すわけなんだよ!
――最後に、このアルバムの一番のアピールポイントを教えて。
キコ:70分間全部さ。それぞれの曲に持ち味があるからね。どれが一番っていうのは言えないな。
エドゥ:これはあくまで僕個人の意見だけど、古いものから新しい観念に移行していく狭間にあるアルバムなんじゃないかなと思うんだ。
ラファエル:クルセイダース(十字軍)のことに基づくストーリーなんだけど、これを聴きながらいろいろな夢を見てもらえるんじゃないかと思う。ただそれは夢だけの世界じゃなくて、歴史を踏まえたものであるということ。伝説とか神話プラス現実を投影したものなんだ。そこに僕たちが持っている音楽的なスキルも加わって、どの曲も皆に楽しんでもらえるものになってるんじゃないかなと思うよ。
取材・文●森本智