さんに、このメロディにこのコードで、みたいに、ピアノの鍵盤押さえて“この音なんですけど”みたいな(笑)。だからあたしにしかない感じなんで、それをどういう風に伝えていいやら。アレンジャーさんも大変ですよ(笑)。いつもやってる方なので、楽しんでくれてますけど。
──結構抽象的に、“青いそらにパーっと”とか。
持田:言いますね。
──そのタイプですか。
持田:そのタイプ。あはは(笑)。
──「water(s)」って曲がすごく気になったんですけど、これは最初からこういうアレンジですね。
伊藤:最初ディレクターがアルバム用にピックアップしてくれた、作曲家さんの曲の一つなんですけど、フレンチ・ポップぽくて、まあアルバム曲だし変化球で、持田が歌ったら面白いんじゃないの?って着眼点で。
──ヴォーカルのレコーディング全般としてはいかがでしたか? ヴォーカルのリズムが素晴らしいと思うんですが。
持田:スムーズでした。今回は。風邪をひくこともなく、いつもいい状態で。曲によって、結構迷い込んでしまうこともありましたけど。ただ体調による部分も大きいですね。ほんとに調子悪いときは、こんなに駄目なもんかねってぐらい駄目だし。出やすいタイプだと思います。
──伊藤さんはヴォーカリスト持田をどうとらえていますか? そもそも楽曲のテンポ設定が素晴らしいですよね。
伊藤:ミディアムからスローの曲は、歌はそんなにはねてない、自然に遅れるぐらいが合うみたいなんですよ。「ファンダメンタル・ラブ」とか「life cycle」とかアッパーな8ビートの曲は特定のフレーズだけ前のめりにしてるんですけど、言葉がよく聞こえるポイントがあるみたい。実は全部タイミング良くプレイするとつまらなく聴こえるということがあるんです。
──リスナーは気づかない部分ですが、そういう細かなこだわりを感じることができました。
伊藤:作る上ではそういう細かいこと言わなくても、さらっと出てくると、“これいいかも”って。そういうときが一番いいですよね。あんまり言って、“うーん”て、考えちゃって、尻込んじゃっても困りますから。
持田:そういうタイプなんです。あはは(笑)。
伊藤:やっぱ体で覚えるじゃないけど、勘でそうつかんでくれる人のほうが、うまい表情を作れるんですよね。
──歌詞はすんなりできたそうですが、一番試行錯誤を繰り返した部分はどの辺ですか?
持田:うーん……、とりあえず書くときは自分の思うことをばーっと書くんです。言葉選びは響きとかハマリもあるし、メロディと合わせて歌ったときの響きもあるし、そこから変えていったり、好きな部分を残したりですね。発音はすごい意識して書きます。内容はある程度はっきりあるから、やっぱり聴こえ方ですね。
──曲ごとにいろいろなヴォーカル・スタイルを取っていますが、そのスイッチが入るというか切り分けというのは、何がポイントになるんでしょう?
持田:うーん……、歌詞のテーマは大きいですね。書いてるうちに“そこに行く”みたいな感覚。呼ばれるものがある感じで。その歌詞は、アレンジの中で触発されることもあるし、音たちの表情で導かれることもあるんですけど、やっぱり詞の内容ですね。
──ヴォーカルの録音はレコーディングの最後に行なうと思いますが、ヴォーカリストが最後に世界観を注ぐことによって曲が大きく変わることがありますか?
伊藤:そうですね。歌詞のウェイトもやっぱりリスナーにとっては大きいじゃないですか。それは感じますね。
──最後にアルバムが完成したその手ごたえは?
伊藤:時間的にはやっぱタイトな中でギリギリまでやってたんですけど、制作の中でいい曲ができたりすると、追われてる中で勝手に一人でニヤニヤしてたり、“いいのできるわ、これ!”みたいな。自分で作っててうれしくなっちゃうアルバムだったんですよ。仮にもプロなんでセールスも意識しなくちゃいけないのでしょうけど、一曲一曲集中して、取り組めた作品なので、すごくいいのができたなあと思います。
持田:年が明けてから新録曲を録り始めたのに、よくこんなせかせかもせず、イライラもせず、いい精神状態でできたなぁって思います。すごく心に気持ちいい一枚になったと思います。普段、いい意味でも悪い意味でも、アルバムができると、聴くときに一曲一曲、スピーカーの前で、がっちりすごくマジメに聴いてしまうんですよ。今回はそういうんじゃなくて、すごく心地よく聴けてしまう一枚でした。だからすごくうれしいです。
──自己分析するとそういう形でできたのはどうしてだと思いますか?
持田:多分、去年からの気持ち。そうですね、こう、“人っていいな”っていう。そういう気持ちでいられたことが大きいと思います。