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「みんなとっても静かだわね」
Jewelはセットを開始してまもなく、中野サンプラザを満杯にした観客に向かって言った。
「でも、それはいいことよ」
その通りであった。
観客は無関心だから静かだったわけではない。それどころか、Jewelは既に観客を虜にしていたのだった。彼らは最新アルバム『This Way』をサポートするためのミニ・ツアーの一環として行なわれた、Jewelの数年ぶりの東京公演の間ずっと、うっとりとしたまま釘付けにされていたのである。
東京での2回のコンサートの2日目、アラスカ生まれの彼女はターコイズ・ブルーの飾りを付けた白のスモックと、お揃いのターコイズ色のブーツを着てステージに登場するや否や、観客の心を鷲掴みにしてしまった。Jewelは短く「ハロー」と言っただけで、『This Way』からセレクトした楽曲でセットをスタートさせたのである。
彼女の声は水晶のように澄み渡り、新バンドも絶好調で、Jewelは最後のツアー以降の3年近い年月で錆びついてしまってはいないことを証明して見せた。観客に『This Way』の世界を案内しながら、彼女はカントリー風の「Till We Run Out Of Road」や扇情的な「Jesus Loves You」といったナンバーで優れた解釈を示したのである。
セットの中盤でエレキギターを置いたJewelは、親密なソロのアコースティック・ナンバーへとなだれ込み、観客からのリクエストを受けたり、さらには聴衆の中にいた女性をステージに招き上げて歌詞の通訳をさせたりもした。だが、バンドがステージに戻ってきたとき、オーディエンスはすでにロックする準備を整えていたのである。Jewelが「スタンドアップ」と促すと、観客は一斉に立ち上がり、踊ったり手拍子したりしながら残りのセットを楽しんだのだった。
Jewelは1stおよび2ndアルバムからの客受けするナンバーで終盤を盛り上げ、「When Who Will Save Your Soul」で締めくくった後、アンコールに応えて2度ステージに戻ってきた。最後は一人でスポットライトの中に立ち、ヨーデル調の歌唱でカーテンを下ろしたのである。
レコーディングとツアーからの長期休暇にもかかわらず、彼女は日本で忘れられていないことを証明して見せた。オーディエンスは彼女を古い友人のように歓迎し、ショウが終わるころにはその感覚はお互いに共有されていたようである。「この東京にまた来れて演奏できたのはとってもクールなことだったわ」と彼女が熱く語ったとき、愛情に溢れた聴衆からは拍手喝采が浴びせられたのだった。
ショウの前に行なわれたインタヴューで、Jewelは極東をツアーすることについて話している。「東京は本当に圧巻ね。私は何もない空間がずっと拡がっているアラスカ出身だから、全然違う場所に来るのはとってもショッキングなことなのよ」
彼女は学生時代から日本の文化に興味を持っていたにもかかわらず、国中を探索して回るためのオフをまったく取ることができなかったと、ツアーで来日するアーティストに共通する不満を漏らした。「一日のオフさえ無かったの。田舎の方に行ってみたかったんだけど、朝から晩までインタヴュー漬けで、終わったらショウが始まるのよ」
デビュー作「Pieces Of You」のスマッシュ・ヒットからほぼ7年--27歳になったJewelは信念と一貫性を持ってキャリアを追求し続けている。「それはハードなジョブだわ。私がいる業界はとっても競争が激しいし」と彼女は言う。
「私は曲が書けるし、それがヒットしなかったとしても、それはかまわないの。でも自分が誇れないような形でヒットが出たとしたら、どうしていいかわからなくなってしまうわね」
この歌姫がそんな心配をする必要はまったくなさそうだが。
By Dan Grunebaum/LAUNCH.com |