オープニングを飾った変幻自在のポップチューン“Jenny & The Ess Dog”からして、『Terror Twilight』や『Brighten The Corners』といったPavementのアルバムに入っていても不自然ではないような曲。控えめな性質のMalkmusとしては、5月から12月までのはかないロマンスをストレートに語る話法が非常に目新しい。サイケデリックに弾む“Phantasies”では、Pavementの代表曲に顕著だったイメージと関連性の奇妙な並列が再び浮上している。では、曲のタイトルが違うことを除けば、いったいPavementとどこが変わったのか?
何曲か聴くうちに答えが見えてくるのではないか。彼の新しいバンドには、Pavementにはなかった、そこはかとないルーズさがある。名盤『Slanted And Enchanted』を出した頃から、“オルタナティヴの先駆者”なる肩書きを負わされたPavementは、真剣にそれを突き詰めることを余儀なくされたといっていい。そして今、Jicksというニューバンドを得たMalkmusは、重荷を下ろしてほっとしているように見える。バンドがいきなりダーティなグルーヴに突入して、ギター兼キーボード奏者のMike Clarkeがカウベルを叩きまくり、ドラマーJohn MoenとベーシストJoanna Bolmeのリズム隊がコケージャン風ファンクを展開する“The Hook”では、それが強く感じられた。また、Fairport Conventionの“Tale In A Hard Time”とCreedence Clearwaterの“Lodi”を、思いきり自由に、しかも十分な敬意を払って、意欲的にカヴァーしたのにも驚かされた。