会場の幕張メッセ国際展示場は、中央の飲食テントなどがある広い休憩スペースを中心に、左右にDJステージとLIVEステージが配置された構成。客に無料で配っていたルミカ(例のぼ~っと光る棒)の灯りがそこかしこで目立って華やかな雰囲気。
 ▲Buffalo Daughter (pix: Yuki Kuroyanagi)
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そんな中21時頃からLIVEステージに登場したのは日本代表、バッファロー・ドーター。所属レーベルだったグランドロイヤルの倒産もものともせず、傑作アルバム『i』をリリースしたばかり。それだけに注目のライヴだったが、エレクトロというよりもむしろロック魂を感じさせる熱いステージで、長く伸びた髪の毛を振り乱し、ギターソロを弾くシュガー吉永、ステージを転げ廻るムーグ山本など、過去の<FUJI ROCK FESTICAL>などでみせた、どこか抑制されたストイックなパーフォマンスとは別人のようだった。
最後に「 みなさんエレクトラグライドを楽しんでってください」と山本が言い残し終了したが、こういった性格のイベントのほうが彼等を燃え上がらせるのか?
 ▲Howie B (pix: Sumie)
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ほぼ同時間帯に、DJステージでプレイしていたのは、ビョークやU2との活動で知られるハウィーB。ダウナーなブレイクビーツやドラムンベース風のトラックにエキセントリックなフレーズが被る淡々とした出だし。徐々にテンポがあがりフロアも熱を帯びると、エフェクトで一気にテンポやピッチを変更してしまうという、やや底意地の悪さを感じるDJプレイだった(本人は喜々としていたが)。
 ▲Plaid (pix: Sumie)
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22時半頃からLIVEステージに登場したのは、インテリジェンス・テクノのオリジネイターであり、現在のエイフェックスのように、ロック系のミュージシャンからもリスペクトされていた“BLACK DOG”の進化系ユニット、プラッド。教会音楽のような荘厳な音響から、他に比較のしようのないミドルテンポの重厚なグルーヴへと移るサウンドはレコードで聴くよりずっとポップで、それまで抱いていたリスニング対応というイメージを覆す。繊細なメロディとシンクロして流されるVJ画像も“あなたは、なかなか幸せを感じないほう?” などといったスピリチュアルなメッセージが和訳付きで表示され印象的だった。
 ▲Fatboy Slim (pix: Yuki Kuroyanagi)
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そして、0時をまわる頃、いよいよDJステージに登場したのはスマイル伝道師こと、ファットボーイ・スリムのノーマン・クック。LIVEステージよりさらに広いDJステージのフロアを立錐の余地もなく埋めた観客は大盛り上がり。終始微笑みを浮かべながらハウス中心のトラックを巧みにミックスしていく様は、DJとしてスキルの高さも伺わせる。お得意のスマイル・マークをモチーフにしたCG映像がステージ両サイドに映り、ここぞというところでは自分の曲やケミカル・ブラザーズの新曲を巧みにインサート。さらに、“konnichiwa(コンニチワ)”と書きなぐったレコード・ジャケットを掲げてクラウドのレスポンスを上昇させる。そしてラストでケミカル・ブラザーズの「The Private Psychedelic Reel」をかけた時に、彼と肩を組んで登場したのはなんと他ならぬケミカル・ブラザーズの2人だった!
 ▲Darren Emerson & Fatboy Slim (pix: Sumie)
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さらにアンダーワールドの「Born Slippy」が鳴り渡ると次のダレン・エマーソンが登場。ここにファットボーイ、ケミカル、アンダーワールドという誰も予想していなかった3ショットが完成!! 本当にどこまでもサービス精神旺盛だ。
ちょうどファットボーイ・スリムと重なる時間帯の深夜1時過ぎからのLIVEステージではエイフェックス・ツインがプレイ。過去の来日公演では、ハリボテの家の中に引き篭もったまま最後まで顔を見せなかったり、終始ソファーに寝そべって、やる気なさそうにPower Macのタッチマウスに触れるだけといった人を喰った(それでいて音は壮絶な)ライヴを披露してきた変人、リチャード・D・ジェイムスだが、今回はPower MacやVAIOなどのラップトップ・コンピュータを操作しながらの至極まっとうなパフォーマンス。
 ▲Aphex Twin (pix: Yuki Kuroyanagi)
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しかし、それが逆に不可解でならなかった。途中デリック・メイなどの曲が流れたことで気づいたのだが、今回はどうもライヴというよりもDJに近いセットらしい。LIVEステージでの出演のためか、ターンテーブルではなく、PCによるプレイでDJとライヴの中間的スタンスといえるかもしれない。
エイフェックスのような音楽でDJとライヴの境界線は曖昧だが、ライヴ・モードのリチャードは内向的で、DJモードのリチャードは客を煽りまくる快楽主義者。そう考えると今回のひたすらアゲるアシッド・ハウス中心の選曲はDJ寄りのセットということで合点がいく。過去に観たライヴのインパクトがあまりにすさまじかったため、このDJモードは少し残念だったが、途中ダレン・エマーソンを観に行った後は、ビキビキのアシッドからノイジーなドリルンベースに移行し、後半はフジロック出演から消息不明だった盟友、スクエアー・プッシャー(=トム・ジェンキンソン)が現れ、リチャードに変わりプレイしたらしい。まさか最後にそんな展開が待ち受けていようとは、見れなくて本当に残念!!
 ▲Darren Emerson (pix: Sumie)
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そのDJステージのダレン・エマーソンは、アンダーワールド脱退後も志向は変わらずプログレッシブ・ハウス中心のプレイ。ファットボーイからの引きついだ「ボーン・スリッピー」のスケールそのままの壮大なサウンド・スケープで、途中レディオヘッドなども違和感なくセットに加える手腕はさすが。しかし、安定感ではピカ1だったものの、新機軸にはやや乏しく単調な印象を受けたのも事実だった。
 ▲Mouse On Mars (pix: Yuki Kuroyanagi)
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ダレン・エマーソンとは対象的に、新作『Idiology』などレコードとはまったく違うスリリングなライヴを展開したのが、“オハヨウゴザマ~ス”という素っ頓狂な日本語で早朝4時にLIVEステージに登場したマウス・オン・マーズ。ドラム、ベース(&サンプラー)、シンセ&サンプラーという3人編成によるバンド演奏は、とにかくアグレッシヴ。同じく生演奏が主体だったバッファロー・ドーターが、キャリアを感じさせるしなやかなグルーヴだったのに対し、M.O.M.のそれは、よりアストリート的に肉体の限界に挑むような直線的ビート。特にドラマーの技量がすさまじく、寸分の狂いもなく繰り出される圧倒的な手数の多さに大歓声がわき起こる事もしばしばだった。複雑なエレクトロニクスを展開するアルバムとは別物の、ライヴ・ユニットとしての魅力を十二分にアピールしていた。
この後、7時半を過ぎるまでDJステージでローラン・ガルニエがプレイ。前半のテクノの王道を行く選曲から、トランス、ドラムンベースなどを違和感なくスムーズにつなぐスキルはさすが。後半にいくにつれ徐々にアッパーになる構成は、彼の作品と同様にツボをおさえた気持ち良さで、さすがヨーロッパのトップDJという貫禄だった。
嬉しいハプニングも続出で、パフォーマンス的にも見所が多かった<electraglide 2001>。そのブッキング能力の高さには感嘆するばかりだが、来年も開催された場合にアドバイス。食事、トイレは会場の環境的に厳しいものがあるので、なるべく事前に備えておいたほうがいい。加えて、出演者が良いだけに体力的にもハードになりがちなので体調の管理は必須。
あと、できればアーティストの出演時間が被らない方法を考えて欲しいんですけど、無理ですか? SMASHさん。
文●尾田和実(01/12/09)
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