ナイキが DJアーティストとコラボレイトする ごく当たり前の理由
2001年、今や飽食の時代と言われ続けて久しい。インターネットの登場も手伝って情報過多にも拍車がかかり、流通も過剰の中にあって、文明から生まれる文化の真価も混沌としている状況にある。
他文化・異業種が歩み寄ってまた新たなムーヴメントが生まれることも日常の出来事とあって、自らの指針を勝ち得ることが、とても困難な時代と言えそうだ。
自ら何かを作り出す能力は非常に大事だが、21世紀の波を乗り越えてごく自然に時代を生きるために必要な能力は、今や“選択眼”と、その“取り扱い方”であることは、もはや否定のしようが無い。何を選び、何を取り込み、そこで何を表わすか…。自分という人間をアピールし、私という存在を主張する為の、ものを選び取る力=選択眼とそれを養う美意識が今、若者文化において最も強い興味の対象となっている。
そんな中、拡散と収束を繰り返しながら進化を遂げてきた音楽文化にも、ひとつの面白いムーヴメントが興ってきたのは周知のとおり。
そう、DJカルチャーである。
過剰なサウンドの断片から、敏感に嗅ぎ取ったエッセンスを武器に、組み合わせのコラージュ、素材の再構成といった破壊と構築のアートを音楽で実践し、高いレヴェルに昇華させた“新しい音楽の形”“新しい音楽表現の手法”として、DJサウンドは瞬く間に若者文化へ浸透していった。
情報過多の時代における、正しき自己の表現方法として、自然発生的に生まれたこのスタイルだからこそ、クラブ・ミュージック/ストリート・シーンの牽引的存在として若者文化をリードしていったのも当然の結果であり、音楽をも飲み込んでティーン・エイジ・カルチャーのフロンティア的位置に在するのも言わば自明の理である。
さて、一方で若者を中心とした文化を牽引してきたスポーツブランド、ナイキ。
大前提としてのハイ・クオリティ、妥協の無いプロ志向、その上で、革新的アイディアとそれを具現化する技術力…。とどめとして、常に一年先を走リ続ける“センス”。若者文化を牽引するに必要にして十分な条件を持って、ナイキがカルチャーを変革してきたのはご存知の通りだ。
が、それと同時に高いレベルで完成をみた各シューズなどは、多かれ少なかれ履く者を選ぶという個性をも生み出していく。そしてそれぞれを選択し、履きこなし、自らのアイテムとしてナイキを所有する…そこに“選択と自己主張の若者文化”が飛躍的発展を遂げた事実がある。
近年、奇しくもナイキが掲げてきたテーマは「表現してる?」。そう、ナイキだからこそ発することの許される“問いかけ”であり、実現してきたブランドだからこそ重みを持つ発言である。
そんなナイキが仕掛けてきたサブ・カルチャーが、なんと、DJアーティストとのコラボレイトであった。さすがというか、やっぱりというか、次代を牽引するブランドとして自らのスタイルが、音楽文化におけるDJサウンドと限りなくマッチしていることを、嗅ぎ取っていたということだ。
見方を変えれば、ナイキというブランドが、自らのシューズの持つコンセプトやそのスタンスを、DJアーティストの作品を通し表現するという偉業に手をかけたとも言うことができる。インスピレーションを発するシューズの“存在”を、サウンドとして再構成したアーティストはKen Ishii、DJ Krush、田中フミヤ、DJ Kenseiの4人。その音源は、12インチ・アナログ盤として、限定100枚のみ、懸賞として配布される。
コラボレイトから生まれるサブ・カルチャーが、メインストリームを走りごく自然に大きなカルチャーとして昇華されていく“文化の成長”が、今まさに繰り広げられようとしているのかもしれない。
文化が細胞分裂を繰り返す様を直視できる貴重な体験が我々の目の前に迫っているのだ。
 ▲街や雑誌で見かけるナイキ広告。あなたは表現してます?
|
 ▲Ken Ishii , DJ Krush, Tanaka Fumiya, Indopepsychicis (DJ Kensei) という、現在の日本のクラブミュージックシーンを牽引する4名のサウンドクリエイター達が、自己表現Self Expression というコンセプトをベースに、それぞれのシューズから受けるインスピレーションを基に制作したアナログ盤。キャンペーンにフィーチャーされているPresto/Cage/Escape/Fazeという代表モデルの名前がそのまま楽曲のタイトルとされ、日本が世界に誇るCreativity、Prestoのもつハイブリッドな革新性が見事に楽曲で表現されている。
Ken Ishii "Air Presto" Side A [6:46] Ken Ishii "Presto the Manifesto" Side B [7:00]
「Air Presto」は、タイトルどおりシューズのイメージをそのまま“跳ねている感じ”と表現した躍動感のある楽曲。
本人がイメージした「足が地面から離れたり、くっついたり」という微妙な動きでのニュアンスがしっかりと伝わってきて、アクションを起こしたときの動く鼓動がビートの重さとなっている。また、一気に疾走する速さも爽快。
「Presto the Manifesto」は金管楽器のような音の緊迫したイントロで始まり、迫りくるブレークビートが威圧感と魅惑的な空気を放って展開する。本人言わく「キャンペーンに使われたポスターの表情に近いイメージ」をしたようだ。
DJ Krush also featuring DJ BAKU "Cage" Side A [5:44] DJ Krush also featuring DJ KLOCK "2001 cage odyssey" Side B [6:44]
Cage=鉄の檻から感じることをイメージしたようだが、鉄の音というより、檻の中にあるものを音にしたようだ。 フィーチャーしている2人のDJの擦りとうわものが、それを不気味な感じで表現している。
「Cage」は、KRUSHが創りだす独特のビートに鳥のさえずりのようなエレクトロ音、さらにBAKU独特のエフェクターをかけた細かくて繊細なスクラッチが人の叫び声のように奇怪に絡んだ曲。
「2001 cage odyssey」は、未知なる領域に入り込んでいくような世界を、KLOCKの小技と共に深めの“間”と“ビート”で攻めていく。
DJ Kensei (INDOPEPSYCHICS) "Escape" Side A [6:00] DJ Kensei (INDOPEPSYCHICS) "Faze~ulirg remix" Side B [9:14]
最近のINDOPEの作品では見られなかった手法で曲を制作。サンプラーやドラムマシンのエレクトロ音でリズムを構成するのではなく、あえて生のドラムで仕上げてきた。“人間が叩いたリズム”の暖かさがよく伝わってくる。
「Escape」はゆったりと広がりのある仕上がりに。ジャズドラムのような実験的、且つムーディなビートとKenseiらしい繊細なエレクトロ音がたまらない。
「Faze~ulirg remix」も生ドラムで原曲よりもシンプルなミニマリズム的音構成。
FUMIYA TANAKA feels“Faze”
|
Fumiya Tanaka "Faze" Side A [8:09] Fumiya Tanaka "Escape remix" Side B [4:59]
いつもとはあえて違う今作のみの“スペシャル”を作りたかったと言うフミヤ。確かに“フミヤの作品”と心構えをして聴くとかなり驚かされる。特に微妙に絡んでいる細かいエレクトロ音の重なりはとても新鮮だ。
「Faze」は音の重なりがすばらしい。あえて、たくさんのエレクトロ音を効かせているが、耳障りなく、逆に曲全体にまとまりをだしている。後半、アップ・ビートに変化していき、一息つくところもまた、にくい。
「Escape remix」は、音を一回、自身が吸収し、吐き出しているように、曲をいろんなリズム展開で切り刻んでいるが、Kenseiが創った曲のイメージは壊していない。後半の展開はまさに“美”。
|