【ライブレポート】やっぱりBAND-MAIDはハードロックバンドだ

5月10日はメイドの日。カレンダーにはそんなことなど書かれていないが、ご主人様お嬢様(ファンの呼称)のあいだでは常識レベルでそれが認知されているし、その日が何曜日であろうと他の予定を入れずにおくことが当たり前になっている。1年前のこの日、BAND-MAIDはZepp Hanedaで<THE DAY OF MAID>の名のもとに恒例のお給仕を行なっていた。そして今年の同じ日にはLINE CUBE SHIBUYAにて、待望の<BAND-MAID TOUR ’25>が開幕を迎えたのだった。
待望の、という言い方をしたが、彼女たちは去る2月にはSAIKI(Vo)のプロデュースによる番外編お給仕(ライブ)を、さらに3月から4月にかけてはお盟主様限定(ファンクラブ限定)という形式ながらアコースティックツアーを実施してきた。だから時間的な意味においてはそんなにも久しぶりではないわけだが、そうした特例的なテーマや縛りを伴う機会を経ていたからこそ、通常モードのお給仕がどのようなものになるのかが気になっていた。そして最初に結論を述べてしまえば、2時間弱に及んだこの日のお給仕の一部始終を見届けて筆者が何よりも感じたのは「やっぱりBAND-MAIDはハードロックバンドだ!」ということだった。

開演定刻の18時に会場内は暗転し、それと同時に手拍子が自然発生。ハードな感触のSEに乗って5人がステージ上の配置に就くと、勿体をつけることなく「Zen」が炸裂する。BAND-MAIDにとって2025年の幕開けを飾る曲となったこの「Zen」は、従来のテクニカルで情報量の多い疾走チューンとはひと味違ったストーリー性に富み、しかも、バンド自体にどっしりとした重心の低さが身についているからこそメロディの良さが際立つ、という相乗効果の素晴らしさを感じさせてくれる。
この曲に初めて触れた時にはバンドのそうした進化を感じさせられたものだが、そんな感慨に浸っているまもなく、MISA(B)のベースがぐいぐいと次の曲へと繋げていく。「DICE」だ。耳慣れた楽曲なのに、これまでとは何かが違っていた。違和感をおぼえたわけではないし、楽曲自体の姿かたちが変わっているわけでもない。バンドが前進を続けていくのと足並みを揃えて、過去の楽曲もまた成長を遂げていることが伝わってきたのだ。そして3曲目は、多くの人を束ねる力に富んだ「Protect you」。会場を埋め尽くしたご主人様お嬢様は、すでに一体感のなかにいる。

こうした冒頭3曲の畳み掛けるような展開を経たところで、すでに筆者は満足感を味わい始めていた。ただ、意外だったのは、その先にはきっと山あり谷ありの目まぐるしい場面転換が用意されているのだろうと想像していたのに対し、ハードな質感のアッパーチューンが引き続き繰り出されていったことだった。壮大な物語性を伴った『Epic Narratives』の流れを経たうえで、ミディアムテンポの楽曲に重きが置かれた番外編お給仕、繊細さを求められるアコースティックツアーといった機会を通じて、自分たちの楽曲や演奏のあり方を改めて噛み砕くかのようなプロセスを通過していただけに、落差が大きく多様性に富んだ選曲によるドラマティックな演奏プログラムになることを、筆者は勝手ながら想像していたのだ。
それに対し、5人が実際にステージ上で繰り広げているのは「これでもか!」とでも言わんばかりの勢いで続く波状攻撃だった。フェスなどの場で短い時間枠での演奏を強いられる場合にはそれも効果的だろう。しかしお給仕全編を通じて“攻め”モードが続くというのは、あらゆる面で説得力を増しているBAND-MAIDの魅力を伝えるうえでは有効とはいえないのではないか、と感じた……のはごく一瞬だけだった。というのも、次から次へと繰り出されるキラーチューンの扇動力に、自分自身がまんまと乗せられてしまうからだ。
そういえば番外編お給仕において、彼女たちはまさに必殺技の連続のようなメドレーにも挑んでいたが、この夜の演奏内容はあのメドレーをフルサイズで展開しているかのようでもあった。もしかするとあの時点ですでに、こうしたお給仕のあり方を想定していたのかもしれない。そしてふと気付かされたのは、苦手意識のあるものを克服できたときに得意技の威力も増すことがあるのと同様のポジティヴな変化が、バンド内に起きているのではないか、ということだった。それ以上に「足腰の鍛錬によって、スピードだけでなく持久力も増す」というのに近いのかもしれない。それによって、これまで大きな枠の中では同傾向のものとみられていた楽曲たちの、各々のキャラクターが色濃く発揮されるようになっているのだ。

しかもBAND-MAIDのフルサイズのお給仕には、敢えて意図的に緩急を設けようとせずとも、確実に“緩”の局面が訪れる、この夜の場合は10曲目の「Different」が終わった直後にその場面が巡ってきた。「盛り上がってるか、渋公!」とご主人様お嬢様を煽ったSAIKIは、「信じられないくらい暑い。ちょっと休みたい」と言い、小鳩ミク(G, Vo)は「なかなかハードなセットリストですっぽ」と相槌を打つ。そこからは攻撃モードとは真逆のユルいやりとりと自由気まますぎる振る舞いが続き、お馴染みの“おまじないタイム”へと移っていく。中盤にこの時間が設けられている以上、その前後にどんな曲たちを並べようと、BAND-MAIDのお給仕は彼女たちならではのキャップを伴ったものになるのだ。

そして小鳩がボーカルをとる「Brightest star」からスタートした後半も、アグレッシヴではありつつも、このバンドならではの色鮮やかさと緩急を伴った流れが続いていった。誤解を恐れずに言えば、いつ、どの曲で演奏が終わったとしても、その曲がクライマックスになっていたように思う。しかし実際には、彼女たちは燃えさかる炎に油を注ぎ続けるかのようにして、最高潮を塗り替えていったのだった。ことに「Unleash!!!!!」から始まった最終ブロックの4曲は圧巻だったし、最後の最後に、この夜の会場に居合わせていた誰もが楽しみに待っていたはずの場面が巡ってきた。一心不乱にギターをかき鳴らすKANAMI(G)と、雷鳴のようなビートを轟かすAKANE(Dr)。そう、「Ready to Rock」である。
彼女たちの最新シングルであり、TVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』のオープニング主題歌であるこの曲は、これまで以上に世間の目をBAND-MAIDに向けさせる新たな起爆剤になったのではないだろうか。このアニメにおいては、楽曲提供のみならず、物語の中での登場人物たちの演奏シーンにメンバー達の動きがモーションキャプチャーで採り入れられ、しかも劇中の演奏はすべてBAND-MAIDによるものとなっている。そこでの経験がいかに有益だったかについては以前のインタビュー記事の中でも語られているので是非お読みいただきたいところだが、それこそ同番組を切っ掛けにBAND-MAIDに興味を持ち始めた人がお給仕で実際にこの演奏シーンを目にしたならば、アニメの世界が現実のものになったかのような感覚を味わうことになるのではないだろうか。

同時に興味深かったのは、リリースからまだ1ヵ月と少々しか経っていなかったこの曲をお給仕の場で味わうのは、もちろん初めてのことであるはずなのに、ずっと長きにわたり自分を励まし続けてきてくれた大切なアンセムが、満を持して披露されたかのような興奮をおぼえたことだ。TVアニメ『ロックは淑女の嗜みでして』のオープニング主題歌として、そのアニメの内容とのリンク具合の絶妙さも相まって注目を集めているこの楽曲は、まさにこの局面で生まれるべくして生まれたものだったのではないだろうか。言い方を変えれば、この曲自体が生まれるべきタイミングの到来を待ち続けていたのかもしれない。
ステージを去る間際、SAIKIの口からは「ありがとう、渋公。また会えて良かった!」という言葉が聞こえてきた。そして終演後にバックステージを訪ねると、5人は「暑い!」「汗が止まらない!」などと言いながらも、みんな満足げな笑みを浮かべていた。そして、勝手ながら筆者が感じたのは、こんなBAND-MAIDを観るために、これまで彼女たちのお給仕に足を運んできたのかもしれない、ということだった。

そしてもちろんこれは、到達点ではなく通過点でしかない。このツアーはこの先も季節の移り変わりを飛び越えながら続いていく。この日の終演後には、ツアーの最終ラウンドにあたる3公演の開催についても発表された。そこに到達するまでの過程の中で、この先も彼女たちのお給仕のあり方は更新され続けていくことだろう。しかしこの時点でハードなロックバンドとしての彼女たちの芯がいっそう太いものになっていることを実感できたことが、筆者にとっては何よりも大きな収穫だった。
取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

「Ready to Rock」
2025年4月4日(金)配信リリース
配信URL:https://band-maid.lnk.to/Ready_to_Rock
<BAND-MAID TOUR 2025>
第一弾日程
5月10日(土) 東京 LINE CUBE SHIBUYA SOLD OUT
5月17日(土) 広島 CLUB QUATTRO SOLD OUT
5月18日(日) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM SOLD OUT
5月25日(日) 静岡 浜松窓枠 SOLD OUT
5月31日(土) 新潟 LOTS SOLD OUT
6月20日(金) 大阪 ゴリラホール
6月21日(土) 大阪 ゴリラホール. SOLD OUT
6月28日(土) 宮城 仙台GIGS
第二弾日程
7月12日(土) 東京 豊洲PIT
7月26日(土) 北海道 札幌ファクトリーホール
8月2日(土) 熊本 B.9 V1
8月3日(日) 福岡 DRUM LOGOS
8月8日(金) 愛知 DIAMOND HALL
8月9日(土) 愛知 DIAMOND HALL
第三弾日程
10月24日(金) 大阪 なんばHatch
11月1日(土) 神奈川 CLUB CITTA’
12月7日(日) 東京 東京ガーデンシアター
・チケット
第一弾日程:チケット一般発売中
第二弾日程:チケット最終オフィシャル先行(5/22(木)12:00〜6/1(日)23:59まで)
第三弾日程:お盟主様最速先行チケット抽選受付(5月10日(土)21:00〜5月25日(日)23:59まで)
https://bandmaid.tokyo/contents/869736
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