【ライブレポート】大柴広己、デビュー20周年&新作発売記念ワンマン<たった一人っきりで歌う>に原点と新たな門出「20年後、希望に繋がってました」

20年間の人生のすべてを、90分で見せることはできない。しかし20年の年輪を重ねた歌と言葉の力は、たとえ1曲でも伝わるはずだ。6月9日、東京・調布市せんがわ劇場、大柴広己デビュー20周年と新作リリース記念ライブ。その身一つとギター1本で臨む、ここが原点にして新たなスタート地点。
「大柴広己です、よろしくお願いします!」
デビュー時から愛用するTRUTH TN-35BB CUSTOMをかき鳴らし、1曲目「ヒロイン」から喉のリミッターを外してのびのびと歌いまくる。「ジェラシックボーイ」はグッとアップテンポ、「誰かのために働けば」はさらにスピードを上げ、アコギの既成概念にとらわれない目にも止まらぬ高速ストローク。「イエー!って言え!」「20年だからもっと手拍子ちょうだい!」と、注文の多い店主のリクエストにすべて笑顔で応える優しい観客。ライブ会場のような路上のような居酒屋のような、ひとことで言えば居心地がいい。

「今日は新しい歌も懐かしい歌も関係なく、2026年6月9日、最先端の大柴広己を見せに来ました」
明るく饒舌な、しかし人生のペーソスの滲むMCは彼の大きな魅力だ。「高校生の時に僕のCDを初めて買ってくれた方」を目ざとく客席に見つけ、「あの時、よう見つけましたね」と話しかける。「まったく売れなかった」という20年前のデビュー作『ミニスカート』を経て、「1日1日を必死で生きてきました」とつぶやく。「今日は1曲1曲が感慨深いです」と言いながら、20年後に歌う「ミニスカート」は、時を超えて瑞々しい恋と青春の香りがする。
最新アルバム『JUNK HOPE』からの「世の中さん」は、終わらない休み時間のように音楽を続けてきた、自身の胸の内をさらけ出したビターな味わい。そして「人生で一番しんどかった時期に書いた曲」という「ランドリー」は、軽快な曲調の中に途方もない悲しみを詰め込んだ、ヤケッパチにも聴こえる歌とギターがとんでもない迫力を生む曲。

「“ミュージシャンは選ばれし人間だ”とずっと勘違いしていました。でも、わかりました。ちゃんと働けるあなたはすごいです」
プライドの高さゆえに失敗を繰り返した若き日を、すべて笑いと教訓に変えるトークが冴える。「人の5倍くらい物覚えが遅い。だから人より諦めも遅い。大柴広己、今から日本を代表するシンガーソングライターになります!」と、その場のノリで言い放ったように見せて、どこかで本気で信じてる。言霊は確かにある。
「ランドリー」と同じテーマを持つ「さよならミッドナイト」も、20年間の大柴史に残る代表曲。「人生で一番しんどかった時期に書いた曲」を何度も人前で歌い続ける、シンガーソングライターとはなんて因果な存在だろう。大柴広己はそれを20年間、やり通してきた。
「音楽はいつだって誰だって始められる。引退もない、一生できる。俺なんか、音楽やってなかったらただの犯罪者(笑)。本当に音楽やっててよかったなと思います」

「今までで一番いいライブしてます。そして、明日からもっといいライブすると思います」──アカペラを交えて切々と、叫ぶように歌い上げる「よくばり」は、バラードシンガー・大柴の底知れぬポテンシャルの見せどころ。そして音楽仲間の友人に捧げる愛と励ましの歌「きくちくん」は、フォークソングシンガー・大柴の親しみやすさを前面に、満場の手拍子とともに陽気に楽しく。
「20年前、売れることしか考えてなかった大柴広己へ。残念ながら、今の俺は思ってるほど売れてない。だけどお前が思ってる100倍以上、人のことを幸せにしてるぞ」
勢いに乗って歌いだした「素晴らしい日々」の途中で、弦が切れるハプニングが起きたが、すぐにサブギターに持ち替えてリカバリー…どころか、さらにスピードを上げて「コノユビトマレ」に突入、謎の「管楽器の口真似」で笑わせながらぐいぐい盛り上げる。「立てや!前に来い!」と観客をステージ前に詰めさせ、「写真に撮ったら(観客が)いっぱい入ってるように見えるやろ!」と煽る。やれやれまた始まった、という顔をしながらもニコニコと、手拍子とコーラスでライブを一緒に作り上げる観客が頼もしい。ステージ上と下と、心理的にも物理的にも距離が近い。


大柴のもう一つの顔、ボカロP・もじゃの代表曲「妄想疾患◾️ガール」でさらにブチ上がり、「音楽楽しいね。お前らも音楽やれ!」とけしかける。確かに音楽はいつでもいくつでもできる。しかし「35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人」を歌いながら客席に突っ込む大柴、謎の“水泳パフォーマンス”を観客に強要して苦笑いを誘う大柴、喉の血管も切れよとばかり吠える大柴を見ていると、これはできないと引き下がるしかない。大柴広己の音楽は大柴広己にしかできない。
「ギターが僕に音楽を連れてきてくれました。そして音楽がたくさんの人を連れてきてくれました」
ギターとの出会いが音楽の始まり。万感を込めて歌う「僕とギターと星空と」は、友達としてのギター、音楽としてのギター、人生としてのギターに捧げる感謝の歌。深夜に独り部屋で爪弾くような、シンプルなコードと美しいメロディのバラード。ラスト、ゴスペルのようなクラップ、全員が声を合わせる“♪ラララ”のコーラス、この日一番の一体感がそこにあった。

「会場の人が、“あと2曲ぐらいやったらいける”と言ってくれました(笑)」
開演から90分を過ぎて音出し制限時間ぎりぎり、しかしこの会場も大柴広己の歌ならもっと聴きたいと思ったのかもしれない。アンコール1曲目に「指先」を歌う前に、「ケリをつけたいことがあります」と語りだす。「デビューアルバムにどうしても入れたかったのに外された曲。代表曲なのに歌えなかった曲。今ならわかる、覚悟が足りなかった。だけど今なら行ける」
“♪左の指先を向こう側に伸ばした、その先への道のりを、希望と名付けてみる”──歌い終えた大柴が、「自分で歌っててびっくりした!」と叫ぶ。まるで20年後の今日を予想していたかのような「指先」の歌詞の中に、迷い道のように見えて、振り向けばまっすぐな1本の道だった20年を見る。「20年後、希望に繋がってました。ありがとうございました」──最後の最後、ギターも持たずアカペラで届けた「JUNK HOPE」の優しさが心に沁み入る。20年の年輪を重ねた歌と言葉の力を出し尽くした、1時間40分。

裏話をしよう。3日前にもらっていた“予定のセトリ”は当日と全然違ってた。「指先」もなかった。「JUNK HOPE」はエレクトリックギターを弾いて歌う予定だった。未来は予定できない。わかっているのは、今日が一番で、明日はもっと良くなること。そう信じること。2026年6月9日、東京・調布市せんがわ劇場。その身ひとつとギター1本で臨む、ここが原点にして新たなスタート地点。
取材・文◎宮本英夫
撮影◎WILDCAT_LAB
■<大柴広己 弾き語りワンマンライブ 〜たった一人っきりで歌う〜>
2026年6月9日(火) 東京・調布市せんがわ劇場 セットリスト
01.ヒロイン
02.ジェラシックボーイ
03.誰かのために働けば
04.ミニスカート
05.世の中さん
06.ランドリー
07.さよならミッドナイト
08.よくばり
09.きくちくん
10.素晴らしい日々
11.コノユビトマレ
12.妄想疾患◾️ガール
13.35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人
14.僕とギターと星空と
encore
en1.指先
en2.JUNK HOPE

■9thアルバム『JUNK HOPE』
2026年4月28日(火)配信開始
配信リンク:https://zula.link-map.jp/links/eKy_iDmp
▼収録曲
1 ええぇぇぇぇああぁい
2 希望の鐘
3 UN HAPPY WORST DAY
4 僕とギターと星空と
5 世の中さん
6 よくばり
7 キクチくん
8 YOMOSUE feat.憂現歌
9 笑ってくれよ







