【イベントレポート】鈴華ゆう子、自身が宗家を務める“吟道鈴華流”の幕開け「私にしかできない道があるのではないかと信じています」

2026.05.18 18:00

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和楽器バンド、華風月のボーカルであり、現在はソロシンガーとして活動を続けている鈴華ゆう子が、自身が宗家を務める「吟道鈴華流(ぎんどうすずはなりゅう)」の幕開けとなる<吟道鈴華流 創流記念大会>を開催した。

鈴華ゆう子は母親が自宅でピアノ教室を開いていたこともあり、幼い頃からピアノを始めとする音楽に触れてきた。5歳の頃には詩吟(吟晟詩吟会)と剣詩舞(日本壮心流)も学び始め、詩吟では2011年にコロムビアレコード全国吟詠コンクールで一位を獲得。音楽大学器楽専攻に進学し音楽教員の免許も取得している。このような経歴を活かし、2013年には和楽器と洋楽器を融合させた和楽器バンドを結成して10周年の節目で活動休止するまで、同バンドでの活動をメインに、ボーカリストとして活躍してきた。

そして“日本のかっこよさを世界へ”という思いを持って、2025年に元の流派から独立、初代宗家・鈴華慶晟(けいせい)として詩吟の新流派「吟道鈴華流(ぎんどうすずはなりゅう)」を創流した。鈴華によると、「伝統を大切に受け継ぎながらも、時代に寄り添い、新たな表現として広げていくことを志す」流派だという。

吟道鈴華流にはすでに多数の門下生が入門しており日々稽古に励んでいるそうだが、今回その門下生やこれまで鈴華がお世話になった方々と共に、多くの人に吟剣詩舞の魅力を伝えるために<吟道鈴華流 創流記念大会>が開催される運びとなった。

詩吟、剣詩舞というと、伝統芸能であり敷居が高いものだと思う人も多いと思う。かつては日本で100〜200万人が嗜んでいたという詩吟だが、時代とともに規模は縮小。私もそうだが、和楽器バンドのライブで鈴華が歌ったことで初めて耳にしたという人も多いと思う。それぐらい詩吟や剣詩舞は、いまや特に若い層には馴染みのないものになってしまっている。だが詩吟や剣詩舞は、江戸の昔から紡がれてきた大切な日本文化のひとつ。この火を消さず、次世代へ繋いでいくことが早急の課題でもある。

そんな吟剣詩舞の現状に一石を投じようとしているのが、まさにこの鈴華ゆう子という存在だ。70代がメイン層の詩吟界において、若くして自身の新流派を創流したのもそうだし、和楽器バンドのファンに詩吟の魅力を伝えてきたのもそう。そしてそこからさらに一歩踏み込んで、吟剣詩舞を「エンターテインメント」に昇華し、より多くの人に門戸を開いたのが今回の<吟道鈴華流 創流記念大会>だった。

<吟道鈴華流 創流記念大会>の幕が開けると、そこには水色の着物を着た鈴華が。普段の和ロックな装いとは違い、正統派で威厳ある美しさだ。そしていぶくろ聖志と神永大輔の演奏にあわせ「事に感ず」という詩吟が披露された。和楽器バンドの「暁ノ糸」にも使用されている、ファンにとっても大切な詩だ。ライブで披露されるのとは違う、宗家としての詩吟に感動。詩吟のことがわからなくても、その声の張りや伸び、表現力には圧倒されてしまう。

続いては、吟道鈴華流門下生による詩吟が発表されていく。そもそも詩吟の大会を見るということが初めてなので、どう見ていいのか、どのように会が進行していくのか不明で少々不安を覚えていたのだが、なるほど不思議なもので、見ているうちにだんだんと面白さがわかってくる。

鈴華の立ち上げた流派だけあって、門下生の中にはこれまでに和楽器バンドのライブで見かけたことのある顔もちらほら。詩吟を始めて1年未満という門下生ばかりというが、立ち振る舞いや発声に“鈴華っぽさ”が滲み出ている女性や、シンガーソングライターとしても活動している19歳の女の子、渋みのある声を響かせる妙齢の男性など、色々な世代の方がステージで真剣に詩吟を披露している姿というのは心を打たれるものがあった。今回販売されたパンフレットには丁寧な意訳も載っており、どういう詩を声でどう表現しているのかもわかるし、吟じているそばで華麗な剣詩舞も披露されているので目にも飽きない。

加えて合間には、公益財団法人都山流尺八楽会大師範、有限会社邦楽ジャーナル代表執行役であり和楽器バンドのメンバー・神永大輔とその門下生による尺八の演奏や、鈴華の公私とものパートナーであるいぶくろ聖志による13弦箏でのソロ楽曲披露、鈴華のソロライブでもお馴染み津軽三味線奏者・匹田大智のソロ演奏なども行われ、耳も楽しい。

初めて鈴華が詩舞を学んだ先生や壮心流宗家の舞、他流派の宗家による詩吟など、来賓演舞はさすがのひとこと。詩吟や剣詩舞の細かいことはわからないながらも、手足の先に至るまでの細部にこだわった舞や、お腹の中にまで響いてくる声の圧に驚かされた。初めて体験した世界ながら、こういう場で腰を据えてじっくりと味わってみると、なかなか興味深いものだと感銘を受けた。

すべての演舞が終わると、式典へ。吟道鈴華流 創流に際し、公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会 専務理事 池内賢二氏、日本壮心流剣詩舞道 宗家三世 入倉昭星氏、吟亮流 宗家 鈴木吟亮氏らによる祝辞が贈られた。どの方も、鈴華がこの業界に新しい風を吹かせてくれることを確信、そして吟道鈴華流が創り出すこれからの発展に大きな期待を寄せているようだ。それに応えて鈴華も丁寧な挨拶を。自身の詩吟、剣詩舞との出会いから音楽を支えてくれた父との別れ、それをきっかけに音楽制作の道に進むことができたというエピソードも語られた。そして「私にしかできない道があるのではないかと信じています」「これからもひとつひとつ新たなものを生み出し表現することをやめずに、みなさまのお力を借りながらこの世界を育てていきたい。そして日本、世界、次世代に伝え、広げていきたいと思っている所存でございます」と強く宣言した。

そしていよいよ、ここから“鈴華だからこそ”できる吟剣詩舞ワールド『構成演舞 × ライブパフォーマンス』の始まりだ。鈴華のナレーションで幕が開けると、白く輝く衣装を着た女神のような姿の鈴華が堂々と立っていた。そこへ壮心流 東京支部長 入倉昭鳳演じる侍が、戦で傷ついた体を引き摺りながら現れる。ミュージカルのような構成で、ここまでの詩吟の大会とは雰囲気が一変する。「願わくば、家族よ、愛するものたちよ、どうか健やかであれ」と言って倒れた侍の祈りを受けた鈴華が歌い始めたのは、自身が歌で生きていくことの決意と、平和への願いを込めたソロ曲「SAMURAI DIVA」。荘厳で壮大なこの歌に、周りの観客もぐっと息を呑んだのがわかった。ボーカリストとしての鈴華を知る人、宗家としての鈴華を知る人、どちらもが歌で感動を交差させた瞬間だった。

この『構成演舞 × ライブパフォーマンス』のテーマは、「祈り」。なぜ争いが起こるのか、そして平和を祈る人々の心を軸に、詩吟と剣詩舞、歌で展開されていく。まずは戊辰戦争で江戸城を無血開城に導いた勝海舟と西郷隆盛を称えた「両英雄」を吟詠と剣詩舞で披露。勝と西郷を表現した相対する舞が面白い。

英雄繋がりで、源氏の弓の名手・源義家を描いた「八幡公」を壮心流の5名が猛々しく舞えば、源平合戦の終幕「壇の浦を過ぐ」へ繋いでいく。そして源平合戦の勝者である源氏の鎌倉幕府打倒のきっかけを作った楠木正成の物語へ。壮心流 入倉親子が楠木正成と息子の別れを描いた故事「桜井の別れ」の場面を演じ、没入感満載のまま「和歌・君がため」が舞われる。諸行無常を感じさせる一幕だった。

張り詰めた空気の中、匹田大智と書道家の美帆がステージに登場。鈴華の最新ソロアルバム『SAMURAI DIVA』収録の詩吟EDM「SHIGIN BEATS-大楠公-」にあわせ、匹田は津軽三味線を弾き、美帆は白い艶やかな着物を翻して「祈」という字を書道パフォーマンス。和の気宇壮大な一面を味わう。

場面は幕末へ。薩長同盟の成立に尽力した坂本龍馬と中岡慎太郎が、新政府設立に向けて語らっている。途中には鈴華演じる、色っぽいお龍も登場。しかし突然刺客が現れ、凶刃に倒れた2人。夢半ばで倒れた2人を讃えた「坂本龍馬を思う」を岳精流 日本吟院六郷岳精会 副会長 堤 龍美が吟じた。演技シーンが入ることで、詩吟はとても伝わりやすくなることを知った。

篠笛の迎田優香を迎え、平家の笛の名手・平敦盛を描いた「青葉の笛」を鈴華が吟じ入倉昭鳳が剣舞で表現する。「青葉の笛」とは、源平合戦の物語のひとつ。源氏の熊谷直実は、一ノ谷の戦いの前夜、平家の陣から聴こえた笛の音に心動かされた。翌日平家の若武者を見つけた熊谷直実はその首を討つが、その若武者が前夜の笛の主であったことを知り、世の無情を感じ出家するという話だ。敵であろうが、味方であろうが、優れた芸術や芸能は相手の心を打つ。それが平和への祈りへ通じる──そんな思いが込められていたように感じる吟詠だった。

切ない笛の音で締めくくられると、鈴華はピアノの前へ。華風月の3人で、「月に照らされ、風に揺れる華」が奏でられた。鈴華の優しい歌声と入倉昭星による優雅な舞で、ここまで剣詩舞で表現されてきた諸行無常の世界が温かいベールに包まれていくような感覚を覚えた。

しっかりとした構成と展開が続く中、ここで一旦コメディリリーフ。入倉昭鳳と小西昭楽が演じる侍が、“姫”を探している。早く見つけないと“奥方”を怒らせてしまう!と焦る2人の後ろには、豪華な打ち掛けを着た“奥方”鈴華が。観客にペンライトをつけて探すのを手伝うよう依頼しているうちに、奥方のもとに“姫”が戻ってきた。実はこの“姫”、なんと鈴華の実娘。あどけなくてとても可愛い“姫”の姿に、会場がほっこり。そこへ尺八を持った虚無僧……もちろん神永大輔が現れ、いぶくろ聖志も登場して華風月の面々でインスト曲「悠久の地」が奏でられる。が、尺八は神永一門のお弟子さんたちが吹き、神永は尺八を2つに割った状態で指揮をするというカオスな状況。

演奏しない神永にツッコむいぶくろ聖志と神永のコントのようなやり取りが繰り広げられ、神永が“尺八の奥義”として忍術・火遁の術のようなポーズを取ると、黒い衣装を纏った鈴華と、くの一風の衣装でキメた11名の子どもダンサーズが登場。忍者モチーフのアニメ「ニンジャラ」のエンディングテーマ「ケサラバサラ」が始まった。キレキレのダンスとアッパーなサウンドで、会場は大盛り上がり。

続いては声楽の秋山佳子、石川雅子、ピアノの冨田真衣による日本歌謡曲メドレー。この3人、吟道鈴華流の講師でもある。再び神永といぶくろが登場し、その演奏にあわせて入倉昭鳳と白布を纏った鈴華が「双魚譜」を舞う。2人の完成された舞はとても優雅で美しい。そのまま神永といぶくろの演奏をバックに、吟道鈴華流門下生で「弘道館に梅花を賞す」の合吟。華風月の曲と鈴華ソロ曲、詩吟と剣詩舞、一見あわないような曲が自然な流れで違和感なく続いていく。構成の妙だ。

今度は匹田の津軽三味線と壮心流から入倉兄弟と指導助手 長澤美心も加わり、華風月の楽曲「深紅」。優しくもエモーショナルな楽曲の世界観を舞が補完していく、見事なコラボレーションだった。そして壮心流よりさらに6名が加わり、和楽器バンドの「反撃の刃」へ。豪華な編成で、とてもかっこいい。詩吟を楽しみにきた人々をも魅了したことだろう。

ここから公演はラストスパートへ。死生観を描いた「巡り巡る」が、詩吟の深い世界観を味わった後ではとても心に沁みる。思えば詩吟は美しい情景や風情、歴史観や人物を節にのせて歌うもの。ずっと歌い継がれてきたものだけに、そう感じるのも間違っていないのだと思う。

舞台上で鈴華が早着替えで赤×黒の着物にチェンジし、みんなで盛り上がる「百年夜行」「千本桜」で公演の締めくくり。アンコールは華風月の最新曲「江戸時空列車」だった。門下生も、壮心流の面々も、子どもダンサーズも、全員舞台に登場し、会場全体を巻き込んで最高の空間を作り出した。「新たな幕開けを祈って!」という鈴華の言葉通り、大団円で<吟道鈴華流 創流記念大会>の幕が閉じられた。

なお、この<吟道鈴華流 創流記念大会>は、総合演出、構成、音楽監修、司会台本に至るまで鈴華本人が手がけ、『構成演舞 × ライブパフォーマンス』には入倉昭鳳が構成、脚本、演出に参加しつつ鈴華が総合プロデュースしていた。 “日本の誇る伝統芸能「吟剣詩舞」を、「難解で敷居が高いもの」として閉じ込めるのではなく、誰もが楽しめる「エンターテインメント」へ昇華させたい。そして、多くの方に吟剣詩舞の魅力を生で体感していただきたい”という鈴華の思いは、その言葉通り今日この場に体現されていた。

次世代へ日本が誇る伝統芸能を伝えていく──。ここまでのことができるのであれば、鈴華はその使命を達成することができるだろう。そしてその道を一緒に追ってみたいと期待できる一夜だった。吟道鈴華流、これからも日本の伝統芸能のひとつとして、大きくなっていってほしいと思う。

取材・文◎服部容子
写真◎上溝恭香