【インタビュー】大柴広己、デビュー20年目に刻む新たな始まりの『JUNK HOPE』完成「これは未来に繋がっていく希望」

2026.05.05 17:00

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■ずっと砂場で遊んでて休み時間が終わらない感覚
■でも自分の目の前には立派な砂の城ができてる

──いい話です。

大柴:アルバムのキーになるのが「僕とギターと星空と」という曲で、これがまさにこのアルバムを作る時の心境というか、自分は高校生の時に友達が全然いなかったんですね。そこで本当に思うことは、ギターという楽器に出会ったことへの感謝で。格闘技をやっていて左手を骨折して、挫折してギターを始めて、そのギターが僕に音楽と人を連れてきてくれた。高校の時に初めて親友になったのがショーヘイという奴で、落第してるから一つ年上なんですけど、ある時、音楽の授業で発表会みたいなことがあって、みんなは流行りの曲を歌ったりしてたんだけど、俺だけ自作曲を歌ったんですよ。当然「何だこいつ?」みたいな空気になるじゃないですか。しかもギターも歌も全然うまくないし。でもその時、ショーヘイが話しかけてくれて、「大柴くん、めちゃくちゃいい曲だったよ。将来はプロのシンガーソングライターになるの?」って言われて、「うん、なる」って。「だったら俺、めちゃめちゃ応援するわ」って、そいつが僕のホームページを全部作ってくれたんですね。それがきっかけでいろんな人に知ってもらえたし、そいつと一緒に車中泊しながらツアーの真似事をしたりとか、楽しいことがいっぱいあったんです。

──まさに親友ですね。素晴らしい。

大柴:まだ誰も持ってないDATレコーダーで、僕がストリートでやってるライブを録音してくれたり、一眼レフのカメラでアーティスト写真を撮ってくれて、僕が17歳の時に初めて自主制作CDみたいなものを作ったり。誰も友達がいない中で、色恋がどうとか文化祭がどうとかじゃなくて、“将来どうして生きていくのか”を初めてちゃんと相談できた友達だったんです。彼は今、ホテルに備え付けのインフォメーションシステムを開発して、年商6億円の企業の経営者になってます。

──そのすべてのきっかけを作ってくれた、ギターへの思いと自伝的な心境を綴ったのが「僕とギターと星空と」。今回のアルバムは自伝的な内容が多くて、「希望の鐘」もそうですし、リード曲の「笑ってくれよ」も、歌うたいの覚悟をまっすぐに歌う曲になってます。

大柴:ミュージシャンって「そんなのなれるわけないよ」と必ず言われる仕事だと思っていて。未だにうちのおかんが、近所のおばちゃんとかに「あんたの息子さん音楽やってんの?」って聞かれて、こっちからすると「あんたの息子さん、ちゃんと仕事してんの?」って言われてる感覚なんですよ。でも世の中的に言うとそれがフラットな意見というか、誰もがなれる職業ではないですし、ミュージシャンにさせてくれてる人がいないと成り立たない仕事でもあって、しかも常に更新していかないと保てないものなので。「笑ってくれよ」は、自分は歌を書き続けて、それを残していって、いつか誰かが自分の歌を歌ってくれれば嬉しいし、そうやって誰かに繋いでいくものでありたいと思うのと、「なれるわけないよ」と笑われるのがミュージシャンという仕事ならば、俺は全力で笑われるような生き方をしたいし、“笑ってくれよ、俺は違う意味でちゃんと笑えるように歌を残していくから”という気持を込めて描いた歌です。

──決意の歌ですね。

大柴:こうやって話すとわかってもらえるんですけど、わかりづらいテーマだとは思います(笑)。でも「笑ってくれよ」ができて、このアルバムを作ろうと思ったので、すごく大事な曲ですね。それをBRAIN BREAKSという、自分のゼミ生が組んだ9人編成のファンクバンドがあるんですけど、そこで最初に歌ってもらったら全然違う歌に聴こえて、“ああ、なるほど”と思ったんですね。“歌を紡いで残してゆく MY LOVE”という歌詞を、藤木陽音というボーカルの子が歌うとすごく立体に聴こえるというか。自分のために作った歌なんですけど、“この子もたぶんそうやって生きていくんだろうな”みたいな未来が見えて、すごく面白いと思ったので、セルフカバーするような感覚で歌ってみました。

with 1962 Fender Jazzmaster

──なるほど。

大柴:自分のことを歌うというよりは、自分に起こったことを客観的に歌う歌として、それの最たるものが「きくちくん」という歌なんでうけど、“誰なんだよ”って思うじゃないですか(笑)。これはplaneというバンドの菊地佑介くんのことで、知らない人にとっては“なんのこっちゃ?”なんですけど、全部planeの歌詞なんですね。“平和そうに見えるこの世界で”とか、“はなればなれ”とか、“どいつもこいつも”っていう歌い出しの曲があったりとか、全部そうなんですよ。

──それ、知ってる人はたまらないですね。

大柴: “飲みすぎて人を困らせて”とか、“上手に嘘をつく”というのも彼のことで(笑)。

──それ、本人が怒ってきませんか(笑)。

大柴:本人に電話で「「きくちくん」って歌出すからね」って言ったら、「やめてよー。でも聴くよー」と言ってましたから、本人公認です(笑)。また音楽やりたいって思ってるみたいですよ。これはすごく個人的な歌で、“お前だけ聴いて泣けよ”という歌です。僕の中ではラブソングです。

──「世の中さん」は?

大柴:「世の中さん」は……僕は、みんなが就職活動をしている時期に、自分の道を歩いていくと決めてここまできたんですけど、小学校ぐらいから何も変わっていない感覚があって、休み時間が終わらないんですよ。普通は休み時間の終わりに、キンコンカンコンっていうチャイムが鳴って教室に戻るのに、僕だけずっと砂場で遊んでて、パッと振り向いたら誰もいない。チャイムが鳴ったのか鳴っていないのかもわからないけど、周りには誰もいなくて、でも自分の目の前にはすごい立派な砂の城ができてるんですよ。その感覚がずっと続いてるんですね。

──そうか。だから歌詞に“授業が始まるチャイムの音”が出てくる。

大柴:チャイムなんか、鳴るわけないんですよ。だってもう、鳴り終わってるんだから。だけど未だに“いつかチャイムが鳴ってこの時間が終わるのかもしれない”という感覚があって、休み時間が続いているような気がするんですね。音楽は仕事だけど仕事じゃなくて、楽しいことを自分の好きな人と一緒にしたいという感覚を持ち続けてると、一生ずっと遊んでるという感じで、“これでいいのかな。でもこれがいいんだよな”と思いながら20年経ってしまうのは、自分でもすごいと思うんですよね。

──すごいと思います。

大柴:未だに「はい、休み時間は終わりです、みんな席について」と言われるのを待っている自分がいて、“この時間はいつまで続くのかな”みたいな感覚はずっとあります。社会というものを経由せずに、自分が見えている世界の中でずっと戦ってきて、社会から逸脱している感覚はないけれど、自分は正しい道を歩いてきたんだという感覚も実はなくて。世の中ってどういうものだっけ?と振り返った時に、すごく不思議になっちゃうんですよね。

──問いかけがいっぱい出てくる歌ですよね。当たり前って何だっけ、好きになるって何だっけ。

大柴:精神年齢が10歳ぐらいで止まってるみたいなことを言ってるんですけど。でも、本当にそうなんですよね。