【インタビュー】片平里菜、10thシングル「愛するたびに」で立ち返った自身の内面「まずは自分を愛さないといけない」

2026.04.08 19:00

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片平里菜が4月1日、記念すべき10thシングル「愛するたびに」をCDリリースした。アルバム『Redemption』以来、2年半ぶりのCDシングルには全4曲を収録。デビューから13年の成長も、新たな道を切り拓く挑戦も実体化した仕上がりだ。

曰く「今の自分自身を歌っていますし、これまでの私自身も抱きしめることができている」という4曲は、アコースティックな温かみを大切にしながら、バンドサウンドとしての豊かな表現力を感じさせるもの。片平里菜バンドによる表題曲「愛するたびに」は無駄な装飾を排除した前半から、後半部での壮麗なゴスペルアレンジへの移行が圧巻。BENBEによるアコーディオンとギターの響きを活かした「そんな夜を」は表現者として成熟した片平里菜の今が凝縮されているようだ。さらには、弾き語りツアーで培われた民謡ベースのサウンドや囃子詞を採り入れた「うたのふるさと」、弾き語り一発録りによる代表作のセルフカバー「女の子は泣かない room ver.」など、その音楽性は多岐にわたるが、彼女ならではの進化と変わらぬ本質を総括するような全4曲でもある。

片平里菜はライブを活動の主戦場として、ここ数年で47都道府県を3周している。2025年は自己最多&最長の13ヶ月73ヶ所のツアー<風の吹くまま>を完走。そしてリリースされる「愛するたびに」は、片平里菜がこれまでの活動で築き上げてきた人と人との関わりをより深く、よりしなやかに音楽に昇華した作品として届けられる。自分自身の歩んできた道のり、ファンとの10数年を、今ここで改めて肯定した全4曲には感謝と決意が詰まっているようだ。

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■まずは自分の心の環境が大事
■ラブソングを歌ってみようと

──今の片平さんを語るうえで、“弾き語りツアー”や“旅”は欠かせないトピックになっていると思います。そのきっかけはデビュー10周年を前に行われた<片平里菜 感謝巡礼ツアー COUNTRY ROADS 2022-2023>だと思いますので、改めてこのツアーを実施しようと思ったきっかけから教えてもらってもよいでしょうか?

片平:確かに<感謝巡礼ツアー>がきっかけですね。コロナ禍の緊急事態宣言で全アーティストが活動の仕方を模索している時期に、“もうちょっとで10周年を迎えるのか”と気づいて。10周年を前に自分が何がしたいかを考えていたんです。そこで思いついたのが弾き語りツアーでした。今までツアーはたくさんやってきましたけど、だんだん東名阪といった主要都市のみになっていたので、みんなが住んでいる街へ直接歌いに行きたいなと思って。

──会場を大きくするよりも、もっと細かく回りたいと。

片平:そうですね。ネガティヴな言い方になってしまいますけど、大きい会場でできなくなってきたというのもありましたし、正直なところどちらの気持ちもあったと思います。ただ、もともと一人旅も大好きだし、デビュー前には九州まで行く弾き語りツアーをしたんですが、それが楽しかったという原体験があって。“またああいうのやってみたいな”っていう純粋な初期衝動でもありました。

──実際にやってみていかがでしたか?

片平:コロナ禍だったこともあって、どれくらいお客さんが来るのか、未知数の中で飛び込んでいったんですが、“自分の街に来てくれるんだ!”って、待っていてくれた人たちの顔が見られてうれしかったですね。あと、各地でその地元のバンドやソロアーティストに出てもらっていたんですが、そこで「里菜さんに影響を受けて音楽を始めました」とか「学生の頃、よく聴いていました」と言ってくれる子たちと直接対バンする機会にもなって。私自身、とても勇気のもらえるツアーになりました。

──それをきっかけに、弾き語りツアーはライフワークのようになっていますよね。

片平:音楽を生業にして生きていくための選択でもありますが、それとは別に、一度行くとその場所で生まれる関係性があるんですね。たとえば、主要都市ではない地域では、どこも少子高齢化などの問題を抱えているから、“どうにかして街を盛り上げたい” “音楽を使ってお祭りをしたい”みたいなことを考えている人たちも多い。そこに寄り添っていると、自然と「また来るね」っていう話になるんです。そうやって新たな出会いと再会の繰り返しで、旅を続けているところはあります。

──各地で、その街の人の悩みや現状をすくい上げているんですね。

片平:それを意識しているわけではないんですけど、打ち上げとかで「今、この街の音楽シーンってどんな感じなんですか?」とか聞くと、「バンドより弾き語りのほうが盛り上がっているかな」とか「軒並みライブハウスが閉店してしまって」とか、自然とそういう話になっていきますね。

──そうやって各地で歌うことは、片平さんの音楽活動にどういう影響を与えていますか?

片平:ローカルに根付いている音楽や芸術、もっと遡って郷土芸能などの素晴らしさに改めて気づくことができるんです。もちろんチャートインしている音楽は緻密に計算されていてクオリティが高いし、素晴らしいと思うんです。だけど、ローカルに息づいている音楽には、日本人本来の精神性が根付いていて、それは宝だなと思う。そういうものって継承されなくなったらいずれ消えてしまうんですよね。形として継承はできなくても、そこから私がインスパイアされるのは、すごく尊いことだなと思います。

──初心を思い出したり、各地での音楽からインスパイアを受けたりしてきて、今の片平さんはどういう音楽を鳴らしたい、どういう活動をしていきたい、と思っているのでしょうか?

片平:やはりここまでの旅で感じてきたものや得てきたものはとてもヒントになっていて。今話したような民謡的なものには強く惹かれていますし、大衆に届くようなポップなものも大事だし、素晴らしいと思っているので、今はどっちもやりたいですね。それこそ、これまでに私を好いてくれていた子たちが好むような、「女の子は泣かない」みたいなポップソングも自分の一部なので、そういったものも大事にしながら。その一方で、今やっていきたいと思う民謡だったり、ポエトリーだったり、そういうものにも踏み込んで、自分の表現の土壌を豊かにしていきたいと思っています。

──そんな中リリースされるニューシングル「愛するたびに」は、資料によると「今度はまた心の内側を歌いたくなった」とのことですが、この心境の変化について教えてください。

片平:直近だと、2023年10月にアルバム『Redemption』、その前にシングル「予兆」をリリースしたんですが、この二作には社会的メッセージの強い曲がずらっと並んでいて。そういうものを歌い続けてきて、“次は何を歌いたいかな”と考えたときに、“表に向かってメッセージを発信するんじゃなくて、自分自身に立ち返りたい”という気持ちになったんです。結局、愛も平和も環境問題も、心から始まることなんですよね。自分の機嫌が悪かったら、それが周りに伝染してしまうように、まずは自分の心の環境が大事だなというところに立ち返ったのが今作で。前作から一転して、ちょっと内省的な、しかもラブソングを歌ってみようという気持ちになりました。

──内省的なものを歌おうと思ったときにラブソングを選ぶところが、片平さんらしいなと思いました。

片平:“誰もが愛し愛されたいんだけど、それが恐怖に変わって、その恐怖に支配される”みたいなことって多いんじゃないかなと思うんです。世の中を見渡しても、“平和な世界にしたい”という気持ちはみんな同じなんだけど、“また同じような気持ちになりたくない” “あんな悲惨な目に遭いたくない”という気持ちが根本にあるから、“攻撃される前に攻撃しなきゃ”とか“武装していかないと大事なものを守れない”といった不安や恐怖が強くなっているように感じます。

──確かにそうですね。

片平:だから、それを自分の内面と照らし合わせて曲を作りたいと思ったのがひとつ。それと、私が20代の頃にいっぱい歌ってきたラブソングと一緒に生きてきてくれた子たちに向けても歌いたいなと思ったんです。

──以前の片平さんのラブソングはどちらかというと“私とあなた”でしたが、「愛するたびに」はもうちょっと広い視点のラブソングだなと感じました。片平さんも「今だからこそ歌えるラブソングを作ってみようと思った」とコメントされていましたが、“今だからこそ歌えるラブソング”はどういったところに現れたと思いますか?

片平:おっしゃってくださった通り、“私とあなた”ではないラブソングですね。今までの恋愛や自分の中の愛情問題を振り返っている曲でもあるので、いろいろと経験しないと作れなかった曲だと思います。愛によって自分がどんな気持ちになってきたか……傷ついたり、寂しくなったり、失うのが怖かったり、逆に幸せだったり、楽しかったり。その感情を一つ一つ経験してきて、そのうえで、ちゃんと自分自身を愛するために歩いていきたいと歌う。それには、20代の頃よりも今のほうが説得力があるんじゃないかなと思います。

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