【インタビュー】後悔と感情を音楽へ、『ハッピーエンドは未配達』に込めた八生の心情

2026.03.27 18:00

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2025年はドラマ主題歌などへの抜擢や、数々のフェスに出演するなど、活動のフィールドを大きく広げた高知県出身在住のシンガーソングライター、八生(やよい)。彼女が1stフルアルバム『ハッピーエンドは未配達』を完成させた。

2025年にリリースした既発曲6曲に加え、ライブのみで披露していた楽曲などを含む新曲5曲を加えた、まさに名刺代わりとも言える今作は、全曲が2024年前後に制作した楽曲だという。そこには音楽を作るきっかけとなった10代の頃に抱えた閉塞感や、楽曲制作を行っていた頃に抱えた感傷、今もこれからも変わらないであろう思考などもコンパイルされている。アルバムについて「少し前の自分がいる」と語る彼女は、過去の自分をどのように見ているのだろうか。

――2025年に八生さんが発表した楽曲は音楽性やテーマも様々で、アーティストとしての振れ幅の大きさを感じました。

八生:いろんな音楽性を試してみました。歌詞はクスッと笑えるような部分を入れたりしているものの、明るい内容ではない曲が多いなと感じます(笑)。今回のアルバム『ハッピーエンドは未配達』の楽曲も3~4年前に作った曲が主で、新しくても1年くらい前の曲なんです。だから発表されている曲に関しては「あの頃のわたしがいるな」という感覚なんですよね。

――“あの頃のわたし”を象徴する言葉が、アルバムタイトルの『ハッピーエンドは未配達』ということでしょうか?

八生:どの曲も光の中にいるような感覚ではない、“山あり谷ありの谷深め”やなと思ったんですよね。明るい印象を与える「大感謝祭!」や「ドリーマーズ」も陰の場所から光に向かって歌っているみたいだし、どの曲も手に届かないもの、戻らない、取り返せないものについて歌っているので、ないない尽くしであることをアルバムタイトルでもしっかり表現したかったんです。でも暗すぎるタイトルは嫌やな…と考えていたときに思いついたのがこれで。

――アルバムのジャケットも、家でハッピーエンドが届くのを待っている様子が捉えられています。

八生:このアルバムに収録されている曲を作っていた頃の3~4年前の自分は受け身だったんですよね。歌うことが好きで、歌を作ることが好きなので、音楽をやっているといつも原点回帰をしてしまうんです。だからしんどいことがあっても「ハッピーエンドはいつか勝手に手元に届くやろ」とも思っていました。今はもう少し能動的になったので、当時の自分はこんな感じでした、という意味合いが大きいです。

――八生さんのこれまでのインタビュー記事などを拝見していると、高校時代は曲作りにおいてかなり大きな要素のようですね。

八生:それこそアルバムに入っている「ユートピアで眠りたい」「しゅらばんばん」「オニオンスープ」は高校時代からの友人の失恋話が元になっているんです。お風呂に入っているときに友人から電話がかかってきて、「同棲している彼が出て行っちゃった」「こんなに眠たいのに寝れん」「同じお家やのにさ、まったく別の部屋になってしまったが」と言っていて。その話を元にしたのが「ユートピアで眠りたい」です。でも第三者からすれば、彼はクソ野郎なんですよ。そこに対する憤りはあって。

――その気持ちが曲になったのが「しゅらばんばん」でしょうか。

八生:そうです。「しゅらばんばん」はそのクソ彼氏に制裁を加えるつもりで書いた曲です(笑)。でも友人には、彼と幸せだったころの記憶がちゃんとあるじゃないですか。「オニオンスープ」や「ユートピアで眠りたい」は、友人の過去の幸せに浸りたいという気持ちや、今まで当たり前にそばにいた存在が自分の生活から消えていくという寂しさや苦しみをちゃんと書きたかったんですよね。

――八生さんは地元の友達が誰もいない高校に進学したがゆえに、本音を吐き出せる場所が日記しかなく、その日記にメロディをつけたことから楽曲制作を始めたそうですね。となるとそのご友人は、高校時代でどのような存在だったのでしょう?

八生:始まりはそんなに美しいものでもないんです。自然と隅っこに追いやられた人たちが、なんとなく一緒にいるようになるというか。でもわたしの周りにいたみんな、本当に優しかったんです。それなのにわたしは慣れない遠距離通学も影響していたのか常に情緒不安定で、毎日自己嫌悪に陥って、この友達にもめちゃくちゃ当たってしまったりもして。それから日記を書くようになって、とにかく人を傷つけないように静かに生きるようになって…。みんながみんな言いたいことを言えなくて、緊張状態の時期もありました。でも大人になることで、少しずつお互い歩み寄れるようになったんですよね。

――八生さんの曲は、ご自身の人生に関わりのある誰かのことを歌ったものが多いとも思います。「線」や「運命的ヒエラルキー」などに描かれている高校の同級生であったり、「大感謝祭!」は会社員時代に関わった人であったり。

八生:相手の顔がちゃんと浮かんでます(苦笑)。だからこういう曲は「もし本人に聴かれるならどういうタイミングがいいかな?」「本人に聴かれたらどう思われるんだろう、やばいかも」「もしかしてあいつのこと歌ってる?と気づかれるかも」みたいに、いろんな気持ちが湧き上がりながらも曲にしていて。

――それでも曲にするのはなぜでしょう?

八生:日記だけではこの気持ちを消化できなかったんですよね。歌が好きだし、この感情をちゃんと抑制するためにも曲として消化したかったし…あと間違いなく承認欲求もあると思います。恥ずかしさや「こんな歌詞を歌って大丈夫かな?」という思いを超えてくる、わたしの歌を聴いてくれ!という強い気持ちというか。

――そこには少なからず怒りの感情も関わっていそうですよね。

八生:そうなんですよ。「大感謝祭!」ですぐ怒る人のことを皮肉ってるし、怒りがいちばん嫌いな感情なのに、わたし曲のなかで怒ってるんですよ。だから怒りは嫌いなんだけど、大切にしたいものでもあるんだろうな…。すごく落ち込んでる時期に「なんでこんな目に遭わなあかんねん!」と思いながら曲を書き始めたから、強がりも含めて大切にしていかんと何かがなくなっちゃうような感覚があるのかも。「運命的ヒエラルキー」は思春期特有の攻撃性が思いっきり出ちゃってます。

――八生さんがよくおっしゃっている「地元でないと書けない曲がある」は郷土愛や豊かな自然という意味だと思っていたんですが、そういう過去がある土地に今も身を置いているという意味も多く含まれているのでしょうね。

八生:田舎において、友達の友達はだいたい友達ですからね(笑)。都会より濃密な人間関係があるからこそこういう曲ができるし、高校生の頃のあの感覚って消せるんかな…?と思うくらい自分にとって今も生々しく残っているんです。

――だからこそ「後悔後を絶たず」のような曲も生まれるんでしょうね。歌い出しの歌詞には未成年の頃の後悔が綴られています。

八生:後悔と一緒に生きていくことをテーマに作った曲です。人生は選択の連続で、やって後悔することもあれば、やらんでよかったと後悔することもあるのが人間らしさだとも思うんです。以前終末期の方が「死が近づくにつれて過去の後悔が浮き彫りになってくる」とおっしゃっていて、人間に最後に残るものは後悔なんやなと痛感して。だからこの曲は絶対にアルバムの最後にしたかったし、あとこのアルバムは全曲後悔がベースにあるなと思っていて。「しゅらばんばん」も、こんなふうに恋愛を終わらせてみたかった、制裁を加えてやりたかったという願望であり後悔なんですよね。

――八生さんの歌詞はとても生々しくて内観的ですが、メロディはキャッチーなので、このコントラストもギミックになっていると思います。

八生:シンガーソングライター人生において、ずっと聴かれる曲、歌われる歌を作っていきたいので、わかりやすいメロディは気にかけています。家に閉じこもって曲を作っていたときは「別に誰にもわかってもらわんでいいわ」ぐらいの気持ちで作っていたけれど、人前で歌うようになって「届けたい」という思いが芽生えてきたんですよね。自分が傷つきながらも「言ったらやばいかな」「嫌われるかな」「恥ずかしいかもな」と思うことまでしっかり歌っていくことで、心に残る歌になる気がしているんです。

――となると歌詞には胸の内に抱えている心情がダイレクトに表れていて、メロディにはMCなどでとても気さくにコミュニケーションを取る八生さんの姿が反映されているのかもしれませんね。

八生:なるほど。無意識のうちにそれぞれに表れているのかもしれない。いつも歌詞と曲はバラバラに作っていて、メロディは友達と会った後とか、好きなことをしているときとか、掃除しているときみたいに前向きなときに浮かんでくることがほとんどなんです。それで書きためたメロディのなかから「この歌詞にはどのメロディが合うんだろう?」と照らし合わせて、「こんな暗い歌詞なら音は明るめのほうがいいな」みたいにバランスを取ったりしていて。

――胸の内の本音も、相手に優しくしたいという気持ちも、どちらも八生さんの等身大だと思うので、音も言葉も擁した音楽だからこそご自分を表現できている実感があるのかなと、お話を聞きながら思いました。

八生:自分のことってあんまりわからないですよね。もともと明るい性格でもあるし、でも歌詞は自分の思っていることしか書けないから、そこは守っていきたいし。自分の中から出た言葉だからこそ、届くものもあると信じています。

――『ハッピーエンドは未配達』は、新しいテイストのアレンジにも挑戦していますよね。「ドリーマーズ」はニューミュージック風のシンセが印象的でした。

八生:制作チーム内で「心に染みる感じの音が合いそうだよね」という話になって、シンセをメインにしたアレンジになりました。わたしは何かにたどり着くまでの過程が好きで、それをしっかり書けた曲だと思っています。夢の途中で暗闇のなかを進むことになったり、憧れの人と自分を比べて劣等感に押しつぶされてしまったりすることって、とても苦しいけれど大切な道の一部だし、尊いと思うんです。わたしはまだ何にも到達できていないけれど、苦しみがあった先のゴールや成功のほうが眩しいだろうな…という望みがあって。そういう思いを歌詞にも音にも詰め込みました。自分にとって大切なことは、とことんやりたいんですよね。2番の歌詞にあるとおり、褒められてうれしかったことがわたしの原点で。この曲を歌うとそれを思い出せるんです。

――冒頭で『ハッピーエンドは未配達』は少し前のご自身がコンパイルされている旨をおっしゃっていましたが、いまの八生さんにとって今作はどのような位置づけでしょうか?

八生:リリースにあたりあらためて聴いて、自分もしっかり変わってきてるんだなと思っていますね。まだ1年前とはいえ感情の手綱が全然握れていない部分もあったんやなと思うし、暴れ馬みたいだなとも思います(苦笑)。でも「後悔後を絶たず」は今も変わらず同じように思うし、この先もこの感覚を大切に生きていたいですね。だから音楽を作り始めた過去の自分も、活動を重ねた自分も、一生涯大切にしたい自分も入れられたし、「八生はこういう人間です」というのをしっかり描けていると思います。だからここからどういうふうに変わっていくかも楽しんでいただけたらうれしいですね。今後、より良い制作をするためにも、もっと自分と向き合っていきたいです。

――八生さんは「何代にも渡って愛される音楽を作る」という目標もお持ちですものね。

八生:そうですね。気遣いすぎずにもっとなりふり構わずやってもいいのかなと思う反面、自分だけがいいと思うものじゃダメだなという気持ちはあって。だからひとつひとつ「自分がこういうものを取り入れるのはありかな?なしかな?」と見定めながら、人にちゃんと聴いてもらえる、歌ってもらえる歌を作ることが大切だと思っています。自分の心の中のドロドロとしたものを書いてはいるものの、聴いた人によって全然違う曲に聴こえるのかなとも思っているんです。

――人によって解釈が異なるのも音楽の面白さだと思います。

八生:あと音楽には「あのときはこんな曲だと思っていたけれど、いろいろ経験したうえで聴いてみたら捉え方が変わった」ということもあると思うんです。そういうふうに聴き続けてもらうには、とにかく多くの人に聴いてもらいたいし、届けたいんですよね。だからずっと家のなかに当たり前に存在するもののように、皆さんにとって「いつでもあなたのお家にありますよ」「実はここにあるんだよ」いう存在になれたらなと思います。

取材・文◎沖さやこ

八生 1st Album『ハッピーエンドは未配達』

2026年3月26日発売
CDアルバム VPCC-87327 ¥3,300(税込)
1.ユートピアで眠りたい
2.しゅらばんばん
3.大感謝祭!
4.ドリーマーズ
5.オニオンスープ
6.線
7.おまえらミュート!
8.東京迷子
9.ターミナル
10.運命的ヒエラルキー
11.後悔後を絶たず

◆八生 オフィシャルサイト