【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.149「コロナ禍を経て再び、子連れでフェスろう!(6)<朝霧JAM2025>編」

2025.12.23 12:43

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「親になっても諦めない。子連れでフェスろう!」当時母になりたてだった私が当時の意気込みそのままをタイトルに据えてコラムを書いたのは2015年の秋、今から11年も前のことです。これまでに5回寄稿しましたが、2018年を最後にぷっつりと途切れていました。

当初の構想としては、日本全国の音楽フェスを息子と共に全制覇することを目標に掲げ、それぞれのフェスやその道中での実体験をしたためたレポートをこの場で幾つも重ねて行くつもりでしたが、そんな思いとは裏腹に、2019年から2020年にかけてコロナ・パンデミックが発生。コロナ禍中も音楽フェスが途絶えたわけではなく、仕事で関わってもいましたが、コロナの影響を大きく受けて一変した生活を送る中では身も心も懐も余裕がなくなり、目的達成できぬまま、コラムの書き始めの頃は0歳児だった子どもは11歳になりました。やり場のない悔しさが今も心にあります。

5年前の異常事態を振り返ってみると、目に見えないウイルスが蔓延し、外出や遠出もはばかられる中で、日々不安に苛まれながらも生き抜くために必死でした。スーパーに子連れで来るなという風潮がある中で「子連れでフェスろう!」と言ったり実行することは非常に難しく、加えて、予期せぬ天変地異による様々な変化や思想、主張に触れ、何が正解かわからぬまま恒久的に残るかもしれない言葉を残す執筆という行為が怖くもなり、元々筆が遅いのに、さらに遅くなったというのもありました。そうこうしていると、エンタメ業界も他業種同様に復活し、海外アーティストの来日もインバウンドも過去最大と言われる規模にまで拡大中で、その好調によって自分の生活も仕事も落ち着きを取り戻し、ようやく心にも余裕が生まれるまでに回復! この5年は長くもあり短くもあった複雑な時間でした。

時を経た2025年。秋に開催された<朝霧JAM>での取材中に、京都からやってきた家族に出逢いました。4歳児は初、妻は3回目、夫は8年ぶり6回目、子どもが生まれてから初めて朝霧に参加したという3人家族。夫の「コロナも落ち着いて、8年ぶりに来てみて、やっぱり朝霧は子どもを連れてきやすい。いいフェスだなぁって思いました」という声を聞いた時、そういえば…とこのタイトルコラムの存在を思い出しました。以降、過去のコラムを読み返したり写真を眺めたりしながら、7年ぶりにコラムのテーマ「子連れでフェスろう!」について考えを巡らせていました。

台風とコロナの影響により、2019年から4年連続で開催ならずとなった苦難を乗り越えて再開してから3年目、そして今年で25周年を迎えた<朝霧JAM>。今回は珍しく富士山があまり顔を出してくれなかったものの、秋のほどよい爽やかな朝と、焚き火のぬくもりがちょうどいい夜に豊かな音楽が溢れる高原では例年どおり穏やかなで贅沢な時が流れていました。自然の中で音楽に満たされて身も心も整っていくあの感覚は本当に気持ちのいいものです。

今夏の<FUJI ROCK FESTIVAL>もそうでしたが、今年は前述の京都ファミリー同様にコロナ禍以降、子連れでのフェス参加を再開したというファミリーが多くありました。そのうちのほとんどの家族が「そろそろ子どもを連れて行っても大丈夫かなと思って」と話していたのが印象的で、それは子連れファミリーもようやく安心して音楽フェスに参加しやすくなったことの表れであり、ニーズと時代に合わせたフェス側の変化の裏付けでもあるように映りました。

近年の<朝霧JAM>では日帰りをはじめ、温泉施設やホテルなどでの宿泊プランも充実している他、キャンパーの聖地ふもとっぱらではオートキャンプが復活、その他にも近場の温泉施設と会場を結ぶ往復シャトルバスが発車するなどの魅力的なプランが幾重にも用意され、音楽フェス+αの楽しみ幅が広がっています。一方で、地産地消にこだわった美味しいフードやマルシェ、キャンプなどの変わらない面もありつつ、キッズランドエリアにベーグルサンド屋が初出店するなどの進化もありました。また朝霧高原の特産品である牛乳、そして酪農について考える機会を設けて地域社会や産業に貢献する姿勢も一貫していることに加えて、朝霧JAM実行委員会内の有志ボランティアスタッフ朝霧JAMS’のおもてなしの精神が随所に見られる運営によって癒しの空間を創り上げているのも<朝霧JAM>の不変の魅力に映ります。

コロナ以前と比べると、アウトドアフェスも気軽に楽しめる時代となりました。富士山とおいしいご飯、そして世界の音楽とどこまでも広がる大自然。おもてなしの精神が宿る音楽野外フェス<朝霧JAM>は子どもにも大人にも優しいフェスでした。

文◎早乙女‘dorami’ゆうこ
写真◎宇宙大使☆スター