【インタビュー】ACIDMAN、日本武道館ワンマン直前に語る「みんなの想いがひとつになる。そんな経験って日常生活ではほとんどない」

■すごく、くるものがある
■これが本当の涙だなって
──それくらい、ステージ上の約2時間に集中しているんですね。
大木:会場入りのことは覚えているんですけどね。武道館に着いて、車から降りて会場に行くときにもいつも手を合わせるんですけど、そういう空気感とか楽屋の感じとかは覚えてるんです。だけど、ステージに立ったときのことはほとんど覚えてない。
──部分的にも?
大木:2013年の<LIVE TOUR “新世界” in 日本武道館>のときかな。まさに「新世界」という曲をやるときに、通常ではあり得ないというか、未だに原因のわかってないトラブルがあったんです。鳴るはずのない「FREE SATR」イントロの“♪タタタタタタ”っていうギターのループがギターアンプから鳴って。スタッフに来てもらっても原因がわからない。でもなぜか鳴っている、という不思議な現象が起きました。
──魔物が住んでますね、日本武道館(笑)。
大木:で、演奏を止めて。これは自分でも良くやったなと思っているんですけど、「“新世界”という曲は、世界が生まれ変わるという曲なので、こんなんじゃ世界が生まれ変わらないから、もう一回やります」と言ったら、会場がウワーっと湧いたんですよね。それは覚えているんです。あの瞬間、よくその言葉が出たなという、それはすごく印象深いんですよね。
──では、初の武道館公演となったのが5thアルバム『green chord』(2007年)ツアー時でしたが、初めての武道館のことも……?
大木:それも全然覚えてないんです。今回のYouTubeで最初だけ観たんですけど、やっぱり自分がやっていたように思えませんでした。違和感でしかないんですけど、ただ、映像を観てめちゃくちゃカッコいいバンドだなと思いました。自分じゃないように観ているので、こんなカッコいいことを昔からやれてるんだというのは、改めて映像で観て嬉しかったです。

──ようやく日本武道館に立つ、立てるんだっていう想いはなかったですか?
大木:なかったですね。いつか武道館を、というのはほとんど思ったことがないので。やれるならやりたい、ありがたいという感じでした。いよいよ立ったなとか、夢のステージに来た、というわけではなかったです。ただ、そこから少し虜になっていったというか。覚えてはないけど、すごく良かった感覚はあるので。絶対もう一回やりたいね、という気持ちはありました。
──個人的に印象的だなと思うのは、これは日本武道館公演に限らずですが、ライブ中に大木さんが涙を見せる瞬間なんですよね。あれはきっと、ふいに溢れるものがあるんだろうなと思いますが。
大木:そうですね、武道館だけでなくても今のツアーでもそうなんです。感極まるって……もちろん僕自身感情豊かな人間で、普段からよく感動するし、よく泣くんですけど、大人になると日常ではそんなに涙を流すことがないじゃないですか。歳を重ねて涙腺は緩んできてはいるけど、涙なんてそんなに人前で流すもんじゃないと思っているし。だけどやっぱりこういう場所で、いろんなお客さんのエネルギーをもらうと、悲しいから泣いてるのでもないし、喜びで泣いているのでもないんですけど、ただすごく、くるものがあるというか。これが本当の涙だなと思って。なるべく隠しながらも、やっぱり無理なときは無理で。という感じで、今回は本当に泣きたくないです(笑)。
──そうなんですね(笑)。
大木:これは本当にネタではないんです。涙を流すと、とんでもなく体力を使うから、次の曲がめちゃくちゃしんどくなるんです。声とか喉とか鼻とかが不調になる。すごく歌いづらくなるので、味わいたくないんですよね。今回の武道館は冷静にやりたい。
──とはいえ、理性でどうにかなるものではないので難しいですね。
大木:そうなんですよね、不思議なもので。
──あの瞬間、観客も同じ感覚を味わっているところがあると思うんです。会場内の空気も感情的な密度が上がるというか、共鳴し合う感覚があって。
大木:本当にライブってそういうものだなと思うんです。僕も狙ってやっているわけじゃないし。想いがひとつになるというのはそういうことで。アート作品の醍醐味というか。みんなの想いがひとつになる、そんな経験って日常生活ではほとんどないと思うので。とても特別な、スピリチュアルな瞬間なのかなと思います。

──日本武道館でどういう気持ちになるのかも楽しみです。ちなみに、YouTubeに無料公開した過去6回の日本武道館ワンマン映像を見て思ったのですが、ACIDMANは、ライブハウスのような小さなステージでも日本武道館のような大きなステージでも、3人が描くトライアングルの配列というか、ステージ上の3人の距離感って変わらないですよね。
大木:ステージが大きかろうが小さかろうが、3人の距離を変えることはないです。それを変えると音の聴こえ方も変わってしまうので。ステージ上の音って足元のモニターからの音も聴いているんですけど、ドラムとかベースアンプのスピーカーからの生音も聴いているので、物理的な距離感が大切なんですよ。でも今は、イヤモニを使用しているので、そこまで影響はないと思いますが、7年ぶりに武道館のステージに立ってみて、リハーサルで狭いと感じたら、それぞれの距離を広げる可能性はありますね。
──もうひとつ、7年前の日本武道館公演は、大木さんがステージ上手、佐藤さんがステージ下手、ステージ中央奥に一悟さんという配列でしたが、今回の武道館公演は、ステージセンターに大木さん、下手に佐藤さん、上手に一悟さんという現在形のトライアングルになるわけですよね。
大木:たしかにそうですね、真ん中に立つ武道館のステージは初めてだ。お客さんにもその景色を楽しみにしてほしいかも。
──ちなみに、大木さんをセンターにした現在のトライアングルのアイデアは?
大木:マネージャーから「大木さん、どうして真ん中で歌わないんですか?」って言われて、「たしかに…」って思っちゃったんですよ(笑)。
──でも、一般的にトリオバンドの配列って、以前のACIDMANの形ですよね。
大木:そう。なんででしょうね。それってただ、4ピースバンドのボーカルの位置が抜けただけの形じゃないですか。よく考えたらトリオバンドって、今の僕たちの形が新しいというか、正解のような気がしてるんです。なぜなら、今の形のほうがめちゃくちゃやりやすいんです。たとえば以前の形だと、僕の位置からベーススピーカーが遠い。ところが今の形であれば、右からベースの生音、左からドラムの生音がバランス良く聴こえるんです。そもそも4ピースバンドのボーカルは、そういうバランスの良さがあって、当たり前のようにセンターにいるわけで。
──理に適ってますね。
大木:どう考えてもボーカルはセンターのほうがいいに決まってるのに、トリオバンドのギター&ボーカルだからってギターの位置で歌ってたわけで。だから今回は、ステージ上から観る景色も違うかもしれませんね。楽しみだ。ま、余裕がないのでステージが終わったら覚えてないかもしれないですけど(笑)。







