【インタビュー】ASH DA HERO、ギターレスのミクスチャーロックバンドが完全無欠な理由「海の向こうを沸かせてきた俺たちの自信たっぷりな現在進行形」

ASH DA HEROが9月17日、前フルアルバム『HUMAN』以来2年ぶりとなる3rdフルアルバム『HYPERBEAT』をリリースした。2024年9月にギタリストが脱退。あいだにライブ会場限定コンセプトアルバム『New Chapter』を挟んでリリースされた最新作『HYPERBEAT』は、危機的状況を幾度も乗り越えてきたASH DA HEROらしく、逆境を木っ端微塵に打ち砕いた痛快なナンバー全13曲を収録した。
ギターレスを謳う現体制ゆえ、このアルバムにギターサウンドは存在しない。しかし、メンバー4人がその穴を補って余りあるサウンドを構築したという意味では、個々の役割は以前よりも明らかに増大している。とりわけ、ベーシストのSatoが超越したベースとギターの境界線が凄まじい。ベーシストとしての使命を徹底的に果たしながら、ベースでギター的フレーズをギターの音域で再現してしまった。「Folie à Deux」イントロのフレーズなどは、まさしくそれだ。曰く「ギタリストとしての活動歴はない」とのことなので、この1年間に重ねた鍛錬は尋常でなかったはず。ちなみに彼のベース本体には現在ギター用ピックアップも埋め込まれているなど、そのサウンドメイクも目を見張るものがあるので、詳細は今後もお伝えしていきたい。
また、<LuckyFes’25>のステージにラッパ我リヤやGASHIMAをゲストとして迎えたことも話題となったが、アルバムに収録された「倍返し(feat.ラッパ我リヤ)」や「Supercritical(feat. GASHIMA)」がもたらしたものは、ASH DA HEROの音楽的な充実ぶりだ。楽曲バリエーションは豊かに広がり、サウンドはソリッドに研ぎ澄まされた。
そしてASH DA HEROは現在、<ASH DA HERO “WORLD TOUR” 2025>を開催中でもある。2025年3月よりスタートした同ツアー中に制作されたアルバムには、世界へとステージを広げる彼らの経験も、各国で味わってきた試行錯誤も、そのすべてが肥やしとして楽曲に昇華された。完全無欠なギターレスのミクスチャーロックサウンドが、ここに完成したかたちだ。ワールドツアーの喜怒哀楽、アルバム『HYPERBEAT』の革新度について、メンバー4人にたっぷり訊いたロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■ワールドツアーは武者修行
■前とは全然違うバンドになった
──4人体制になったASH DA HEROがさらに大きく進化したフルアルバムが完成しました。改めて、5人から4人体制になった経緯から教えていただけますか?
ASH:2024年9月、バンド結成3周年のライブを境にギタリストが脱退しまして。新しくギタリストを入れるか入れないか問題を含め、喧々諤々ありながら、当時は新しいギタリストをじっくり探す暇もないぐらいにスケジュールがめちゃくちゃ詰まっていたんです、嬉しい悲鳴なんですが。フェス出演も間近に迫ってたし、音源の納期も迫っていて、すぐに決断しないといけない状態だった。なので、メンバーはもちろんスタッフともいろいろ話して、ギターレスの4ピースサウンドに挑戦することを決意したんです。
──“令和最強のミクスチャーバンド”を掲げながらギターレスを選ぶという選択は、最悪を最高に変えてきたASH DA HEROらしい決断です。
ASH:未知だし、実験的だけど、俺たちは絶対そっちにかけたほうが面白いと思ったんです。その先にワールドツアーが待ち受けているなか、“ギターがいないのに激しいロックを鳴らして、しかもそれがミクスチャーロックで、DJまでいる”というのは、世界的に珍しいし、いいアピールになるんじゃないかと。ギターレスを逆手に取っていこうと、みんなの意思を固めて、4人で前に進む決断をしました。

──実際、現在<ASH DA HERO “WORDL TOUR” 2025>で各国を訪れているわけですが、その手応えは?
WANI:タフな戦いですね。
ASH:各国めっちゃいろいろ経験し難いことがあったからね。
WANI:それぞれの国で、文化や言語もまったく違うので、自分たちの常識がまったく通じないんですよ。そういうなかで、メンバーやスタッフと力を合わせて、来てくれた人たちを最大限に盛り上がらせるライブを作っていく感じです。
──各国でライブ環境的な違いも大きいんですよね。
WANI:ドラムセットは日本から持って行かずに、現地調達なんですよ。「このシンバルはありますか?」とか機材のこともそうだし、サウンドチェックも英語で伝えなきゃいけないから、スマホの翻訳アプリを使いながら意思疎通したり。でも、ライブが始まれば、どの国のお客さんも情熱的でした。特に南米は。
ASH:本当にすごかったね。
WANI:びっくりするような熱量だった。

ASH:歓声のデカさだけでいったら、俺は韓国が世界一だと思うな。ワールドツアーの前哨戦として去年末にソウル公演をやったんですけど。イヤモニを突き破って歓声が聞こえてきたからね。そんな経験は初めてだった。それに、たぶん韓国スタイルだと思うんですけど、有志を募って自分の推しバンドのデカいフラッグを作ってくれてたり。通販で買ったであろうASH DA HEROのグッズを揃えて、そのコーナーを作ってくれてたり。日本に近いのに、日本とはちょっと違う熱狂の仕方なんですよね。
──それぞれ特色があるんですね。
ASH:どの国もいろんなスタイルがあるんだけど、俺のなかで一生忘れないであろう極めつけは、アブダビかな。
──UAE(アラブ首長国連邦)の首都ですね。
ASH:アブダビは野外だったんですけど、ステージに上がって客席を見たら、客席にでっかいヨギボーがたくさん並んでて、お客さん全員寝てたんですよ(一同笑)。
WANI:リハのときにも、もちろんヨギボーが置いてあったんですけど、まさか…と思ったら、本番が始まってもしっかり置いたままで。
ASH:その上にみんな寝転がって、完全にチルってるんです。でも、子どもも大人も次第にみんなが前に集まって来て、最終的にはフロアがパンパンになって盛り上がりましたよ。

──大成功ですね。しかし久々にしびれる経験だったと。
ASH:いや、久々じゃなくて初めてですよ。お客さんがヨギボーで寝てるところで過去にライブをやったことはないんで(笑)。これを読んでるバンドマンのみんなに問いたい。「客が寝てるフロアでのライブを経験したことがあるか?」って。
Dhalsim:僕は昔、京都ミューズでお客さん0人のライブを経験したことはあるけど、それよりもアブダビはきつかった。
ASH:しかも、アブダビにはお祈りの時間=プレイングタイムがあるから「その時間までにはライブを終わらせてください」と言われてて。
Sato:プレイングタイムの2分前ぐらいに終わったんだっけ?
ASH:そう。ギリギリで終わった感じ。しかも始まったのもギリギリ。
WANI:リハ前のドラムセットを組むときがちょうどお祈りの時間だったんですよ。音を立てちゃいけないから、めっちゃ慎重に緊張しながら組み立てました。
ASH:本当に独特だったな。たぶん現地に行かないと分からない世界が、そこにはたくさんあって。“僕らはこれまでなんて狭いところで生きてきたんだ”って痛感させられますよね、ああいう光景を目の当たりにすると。

Dhalsim:僕はどこに行ってもずっとビールばかり飲んでました。
ASH:「トランジットで寄った空港のビールがぶっちぎりで美味しかった」って言ってなかった?
Dhalsim:そう! 行く先々でその国のビールを飲んでやろうという、個人的な裏テーマを持ったツアーだったんです。ブラジルに行くときにトランジットで寄ったスイスのビールが過去イチ美味しかった。
ASH:スイスの空港でビール買ってたよね? Dhalsimってメンバーのなかで一番財布の紐が固いんですよ。そのDhalsimがすごい数のビールを買ってた。
Dhalsim:美味すぎて(笑)。日本と比較すると、スイスの物価はめっちゃ高いんですよ、1本5000円とか。でも美味いからいいかって。
Sato:さっきのお祈りの話もそうですけど、各国の皆さんが大事にしているものに触れることができて、すごくいい勉強になりましたね。ライブのエンジニアさんにしても、その国の基準って日本のエンジニアさんと全然違うんですよ。“こういう感じなのか!?”っていうのを知ることができたのも貴重な体験で。自分のなかの普通をぶっ壊せました。ちょうどこのバンドが変化する真っ只中に開催してるワールドツアーだから、自分のなかの当たり前だった価値観がこの1年で相当変化しましたね。

──その変化とは? ギターレスバンドとなって、Satoさんに掛かる比重は倍になってる印象もあります。
Sato:冒頭の話に戻るんですけど、バンドからギターがいなくなったことで、完全に全員の守備範囲が変わりましたね。それぞれ新しい取り組みが必要になった。そんな状況のなかで、毎月どこかの国に行ってはライブをして。インプットが増えるたびに、バンドがアップデートを繰り返していく。それに合わせて、どんどん自分を作り変えていかなきゃいけなかったんですよ。本当にこの1年をかけて、自分も、ASH DA HEROも、別のものになっていったなという感じがしてます。
──ほかの誰にも似ていないバンドになってます。
Sato:今思うと、ワールドツアーは武者修行なんですね。どんな環境でも、正しくASH DA HEROをぶっ放して、みんなを巻き込んで、俺たちのライブはこうだよってところまで持っていく。そのために必要なことはなんなのか、毎回みんなで作戦会議をしてたので、すごくバンドとしても鍛えられたと思う。意識の変化も含めて、前とは全然違うバンドになったんじゃないかなって、僕は思ってます。







