【連載】Hiroのもいもいフィンランドvol.152「日本語で「頑張って!」がセットリストに書かれてるフィンランド期待の新星The Vantagesインタビュー」

2025.10.06 11:04

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2年ほど前この【連載】Hiroのもいもいフィンランドvol.129(https://barks.jp/news/987829/)で紹介したことがあり、個人的に今注目しているフィンランドの若手ロックバンドThe Vantagesからこの秋セカンドEP『The Vantages II』がリリースになった。今年の夏フィンランド最大のメタルフェスTuskaに出演し、当時EP1枚しかリリースしてないにもかかわらず満員の会場を沸かせ、その時日本から観に来ていた人もいたようだが、このセカンドEPリリース記念ライブにも日本をはじめ、わかっているだけでもヨーロッパのいくつかの国からファンが集まったそうだ。今後国境を越えて大きく羽ばたいていく予感がするThe Vantagesのヴォーカルでソングライター、プロデューサーでもあるティム・ミッコラがインタビューに応じてくれた。

Pic:Iida Hannuksela

──2作目となるEP『The Vantages II』のリリースおめでとうございます。最初のEP『The Vantages』は2年前にリリースされましたが、バンドはいつどうやって結成されたのですか?

ティム:2018年のことだったと思うけど、トゥルクでアントンと同じ学校に通ってたんだ。アントンはトゥルクにずっと住んでて、俺は一時期トゥルクに住んでたことがあり、1度も話したことなかったんだが、ある日ランチタイムに一人で座ってたら、前にアントンが座ってきてピラミッド詐欺の話を聞かされそれがとても奇妙な話で、それをきっかけに話をするうちに友達になったんだ。自分で曲を書いたりしてて、それをアントンに見せたら俺達バンドを作るべきだと言われ、う~ん、様子みようってことで何年かが過ぎて行った。学校卒業した後ヘルシンキに戻ったんだけど、アントンもヘルシンキに引っ越して来て、スオメンリンナにあるスタジオで仕事してて、アントンはそこにインターンで来たんだ。2020年だったかな。アントンがついに俺を説得してバンド結成となった。アントンがベースにアレクシを連れてきて、他にミッコ、それからトゥオマス・アホネンが初代ドラマーだった。後で彼は子供ができて去ることになったけど、まずはそこからスタートした。どこにもリリースはしてないけど、その時試しに3曲入りのEPを作ったんだ。その中に最初のバージョンの「Leather Jacket」と「Danger」が入ってた。レコード会社などに送ってみたらとても興味を持ってもらえて、OK、じゃ続けようってことになり、それは2020年でちょうどパンデミックの時でライブもできなかったし、パンデミックが終わった後ライブできたらと落ち着いてゆっくり制作していった。

──作詞作曲はあなたがするのですか?

ティム:うん、そうだよ。

──通常曲はどうやって生まれますか?

ティム:たいてい同様のパターンで生まれるかな。まずは一人で始めるのが好きで、インストゥルメンタルで弾いてみて、いくつかパートができたら他のメンバーに送るんだ。それは一つが30秒だったり1分ぐらいだったりするんだけど、その中からみんながこれいいと思うのがあれば、そこから作り始め歌詞も曲に合わせて書いていく。ある程度長いのができてきたらメンバーとそれをアレンジしていくんだ。自分でプロデュースもしたりと、自分でいろいろやるよ。

──MVの多くもあなたが監督しているのですか?

ティム:そうなんだ。初めて自分が監督したMVが「Danger」で、初めてビデオの編集もやった。周りに専門家たちもたくさんいて、手助けしてもらえると思って自分でやろうって思ったんだ。もし記憶が正しければ「Leather Jacket」と「You」を除いて全部自分でやったかな。ビデオグラフィックの上手な人もいて、すべて自分でってわけじゃないけど、バンドのメンバーも含め周りにいる一緒に仕事する人たちは素晴らしくて、俺をとても信用してくれ、そこに俺はビジョンを持っている。彼らは俺をしっかりサポートしてくれて、いろんなことができるスペースを与えてくれ、自分はとても恵まれてると思うよ。

──1作目のEPに収録されている曲「Danger」を初めて聴いた時、一発ですごく気に入ったのですが、この曲はアークティック・モンキーズのアレックス・ターナーとVV(ヴィッレ・ヴァロ)、イギー・ポップに宛てたラブレターだという話を見かけたのですが、彼らから大きな影響を受けましたか?

ティム:あぁ影響は受けた。特にイギー・ポップの「Gimme Danger」って曲からインスピレーションを大きく受けた。最初のEPを作ってるときによく聴いてたんだ。「Danger」は俺たちの曲の中で最もHIMタイプの曲だと思う。ヴィッレとは知り合いで、アルバムも全部聴いてたし、こういう仕上がりになった。後で改めてきいてみたら雰囲気似てるなとは思った。アレックス・ターナーについては、俺アークティック・モンキーズの大ファンで、The Last Shadow Puppetsとかアレックス・ターナーの作品はよく聴いてて、このギターはかっこいいとか。曲が出来上がって聴いてみるとここのサビの部分はイギー・ポップみたいだとか、ここはHIMとかアークティック・モンキーズみたいだとかってあって、当時はとってもクールだって思ったんだ。

──新しいEPには5曲(Automata, Dramatique, Darker, Vanishing Point, Love/ Loss ) 収録されてますが、その中で個人的に特別な曲はありますか?

ティム:「Love/ Loss」って曲が個人的にとても特別で、このEPを制作してるときかなり鬱状態だった。長い間曲を書くことができないでいた時期があって、やっと少し良くなって最初に書いたのがこの曲だった。自分には素敵な彼女がいて素晴らしいバンドメンバーがいて、ちょうど引っ越した後で人生すべてが素晴らしくあるはずな時だったのに、なぜか心がついていけなかったというか、うまく説明できないんだけど、長く走って逃げてきてやっと安全な場所にたどり着いたはずなのに、過去のことがいろいろ思い出されてきて悲しい気持ちになっていた。この曲は彼女に宛てて書いたんだ。その時のお詫びの気持ちと彼女の強力なサポートに感謝する気持ちを込めて。とても辛くて苦しい時期だったんだけど、とても美しい曲だと思う。Tuskaで初めて披露して、その時彼女にも初めて披露となった。

──ライブでその曲の時だったかな?手に心臓を持って出てきたのは?

ティム:そう。この曲の時。最初はメタルフェスだから何かしなきゃってことで思いついたジョークだったんだけど、ちょっと詩的な感じで美しくこの曲に合ってると思う。

──観客に渡してましたが、あの心臓はいくつもあるのですか?

ティム:あれはメイクさんがスポンジを切ったりくっつけたりして作ってくれたんだ。作るのにすごく時間がかかるから今後はどうするか考えないといけないな。

──このEPをレコーディングするにあたって、予期せぬ出来事が続いたって話を聞きましたが?

ティム:そうなんだ。昨年EP制作に借りていたスタジオがあったんだけど、一部のレコーディングをはじめたところで、誰にも連絡なしにその建物全体の改装工事が始まったんだよ。連絡とったらスタジオのオーナーは2週間ぐらいかかると言ってたんだけど、2カ月たっても全く進んでなかったので契約を切って自分たちのトレーニングスタジオにすべてを移動してそこで始めた。順調に進み始めたときに今度は隣の部屋でラジエーターが故障して床が水浸しになり、長期でまた使えなくなり、最終的に自宅で続けることになった。確か「Dramatique」のヴォーカル部分はアントンのキッチンでレコーディングした。このEPほんとは昨年リリース予定だったんだけど、そういう出来事が重なりリリースが遅れてしまった。ただ遅れてよかったこともある。「Dramatique」と「Darker」の2曲はそのEPに収録予定だったものの、他の曲はまだ作ってる途中で、このサウンドはどこに持って行ったらいいか?とかその遅れてできた時間にじっくり考慮することができた。もしこの一連の出来事がなかったら「Love/ Loss」は生まれてなかったかもしれないし「Automata」や「Vanishing Point」もそうだ。それを考えると不幸中の幸いだったと言える。

──「Vanishing Point」には ”知らない、知らない、、、”とか日本語のささやきが聞こえるのですが、この曲はどうやって生まれたのですか?曲の中で誰が日本語をささやいているのですか?

ティム:あの日本語は俺と彼女のイーダがささやいてる。最初自分用にアート的な一部分を作ったんだ。最初は曲になる予定ではなくて、イントロで日本語のささやきを入れてみたりしてたんだけど、Tuskaフェスティヴァルに出演するのに俺たちにとっては初めて演奏時間が1時間と長かった。それでもっと曲が必要になったんだ。アントンと一緒にどうしようかってことで、古い曲の一部とかで何かできないかとか考えてみたりしたんだけど、よいアイデアが思いつかず、インストゥルメンタルの曲を入れてみたらどうかと提案したんだ。そこでこの出来上がってたアートの一部をベースにして一晩徹夜して作り上げたお気に入りの曲だ。この曲を書き上げる前気分が沈んでて、音楽が恋しいけどどうすればいいんだろう?って問いから始まって、”どこへ行くの” ”知らない、知らない”ってどこかへ消えていくような感情を表してる。実際は消えなかったけど(笑)。

──昨年秋スウェーデンのバンドCrashdïetのサポートでフィンランドツアーをしましたが、何か思い出はありますか?

ティム:あれはミニツアーだったけど、俺たちにとっては初めてのツアーだった。そのツアーの最終日ヘルシンキのOn The Rocks公演の時、バックステージに俺たちのツアーマネージャーがやってきて、Crashdïetのメンバーから最後の曲「Generation Wild」でステージに出て来いよと声がかかってると言われた。で、その前にしっかり飲んでおいてステージでさわげって。前夜彼らのヴォーカルと話してた時提案はされてて、この曲はシンプルだから合間に練習しておけよと言われてはいたんだけど。それで言われた通りしっかり飲んで彼らのステージに出たら歌が入るタイミングを間違えた(笑)。でもそれは面白い良い思い出になった。Crashdïetのメンバーはすごくいい人達だったよ。

──今年の夏フィンランド最大のメタルフェスTuskaに出演し、K-POPのカヴァー曲を披露しましたね。TuskaでK-POPを披露したのはあなた達が初めてだったのではと思うんですが、誰のアイデアだったのですか? K-POPとか日本のバンドとか聴いたりしますか?

ティム:俺のアイディアだった。TAEMINの曲「Move」をカヴァーしたんだけど、今年初め彼のフィンランド公演を観に行ったんだ。彼女がK-POPの大ファンで、俺もよく聴いてて、特にこの2年ぐらい。その曲が大好きでこの曲をカヴァーできるんじゃないだろうかというアイデアを持ってて、バンドに提案したところしばらく沈黙が続いた(笑)。俺達メタルバンドともいえるし、メタルフェスに出演しに行くんだってことを頭に置いて、どうやったらメタルなものにできるかをいろいろ考えてみたところ、Dimmu BorgirとかじゃなくてもK-POPをカヴァーしても別にいいんじゃないかってことになり、実際にカヴァーしたらとてもうまくいった。フルハウスでいっぱいだった会場の500人ぐらいいたメタラーたちが曲に合わせて踊ったり観客のウケはすごくよかったよ。最初自分で歌詞を英語に翻訳しようと試みて最初の一小節は訳してみたけど、韓国語はわからないし難しくてこれは時間がかかると思った。ちゃんとした歌詞にしたかったし。そしたらこの曲は最初は英語で書かれた曲だったってのに気がついて、オリジナルの英語の作詞をしたプロデューサーにインスタで連絡とって、自己紹介とともにメタルとは言わなかったけど(笑)フィンランド最大のフェスに出演するのでカヴァーしたいと伝えて、英語ヴァージョンの歌詞を送ってもらったんだ。結果とてもうまくいったと思う。K-POPはよく聴いてて、TAEMINとかSHINee、Aespa、Red Velvetとか好きだな。J-ROCKだとBUCK-TICK、それからHydeが好きでL’Arc-en-Ciel とか。さっきここに来るときにも聴いてた。古い日本のポップスもよく聴くことあって80年代の濱田 金吾とか。

──濱田 金吾はびっくりですが、”Japan”と聞いて一番に思い浮かぶのは?

ティム:”頑張って”。

──その日本語あなたのセットリストに書かれてますね。

ティム:そうなんだ。セットリストはメンバーそれぞれに違うイラストとかがプリントされてて、俺のにはハチワレとそれが書かれてる。タトゥにしようかと思ってる。”頑張って”って自分にいつでも声かけれるよう覚えておけるように。いい言葉だと思う。

──そのあなたのセットリストには「ちいかわ」のハチワレのイラストがはいってますが、どこで「ちいかわ」を知ったのですか?

ティム:彼女とアニメショップに行ってた時、彼女が「ちいかわ」があるって、それで知ったんだ。家でそのアニメの最初の10話を見たんだけど、その中の1話でハチワレがどすんと落ちて一人ぼっちで悲しい場面があって涙が出てきたんだけど、う~ん、なんていうか、人生大変な時もあるけど、こういうかわいいものに癒されたりもあったりで「ちいかわ」すごく好きなんだ。

──日本に行ったらどこに行ってみたいですか?ちいかわショップもあるようですが。

ティム:うん。そこ!それとちいかわパークにも行きたい。それからもちろん東京、京都、大阪、仙台、札幌とかあちこちまわってみたい。

──新しいEPがリリースされて、リリースライブがヘルシンキのOn The Rocksで行われたところですが、今後の予定は?

ティム:次はアルバム制作に入る予定だ。どういうとか、いつとかはまだ100%決まってるわけじゃないけど。これまでと少し違う感じになると思う。詳しく話すにはまだ早すぎるけど、今までのインディ・ロック系をキープしながら影響を受けたものなど加え少し変化をつけようかと思っている。このセカンドEPがそれを少し予示してるかもしれない。今年中にスタジオに戻る予定で、とてもわくわくしているよ。

──最後にBARKSの読者にメッセージもらえますか?

ティム:ハロー! BARKSの読者のみなさん。The Vantages ってバンドのティムだよ。新しいEP『The VantagesII』がリリースになった。聴いてくれると嬉しいな。日本で近いうち会えることを願ってる。グッバイ。

今年の夏出演したTuskaメタルフェスで楽しみにしていたバンドの一つで、他の出演バンドとちょっと雰囲気違うけど会場満員!昨年秋に観た時よりはるかに成長していたのがすごく印象に残った。9月になりセカンドEPがリリースされ、ヘルシンキのOn The Rocksであったリリース記念ライブに行ってきた。

彼らの出番が近づいてくると会場はかなりいっぱいになってきた。セカンドEPに収録されている「Automata」でスタート。途中「Danger」やれ!という声が飛んだもののそれは後のお楽しみ。「You」では観客のともしたスマホのライトが揺れ、そのあとのインストゥルメンタルの曲「Vanishing Point」でステージを一時降りたティムはスマホのライトに感動して涙がにじんだとインタビューの後に語っていた。「Love/ Loss」でステージに戻ったティムの手にはインタビューで話に出た心臓がのっていて、途中で最前の観客の手に渡される。この日もK-POPのTAEMINの「Move」をカヴァー。そして「Danger」はやっぱり盛り上がる!最後の方で押されて振り向いたら観客の真ん中でサークルピットが起こって、円形に走ってるではありませんか。彼らの曲で起こるとは思ってなかったけど、それぐらい観客は盛り上がっていたのだろう。

まだEP2枚しかリリースしてないというのに、日本やヨーロッパの国から観に来るファンがすでについていて、どこか魅かれるものを感じる彼らの今後に期待!

気になった方はSpotifyで聴いてみてほしい。特にゴシック系が好きな方は要チェック!この秋彼らのSpotify再生回数は1ミリオンを超えたそうだ。

文&ライブ写真◎Hiromi Usenius