世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲（本人歌唱指導付き）」の第21回目。

今回は瀬川瑛子「萩の宿～令和ヴァージョン～」、川野夏美「秋萌え」、長保有紀「色々あります女です」、平松賢人「メラメラ」、真木ことみ「春を信じて…」を本人の歌唱アドバイス動画とともに紹介する。
（協力：日本クラウン）

■瀬川瑛子「萩の宿～令和ヴァージョン～」

テレビなどで見せる天然なキャラでも愛されてきた瀬川瑛子も今年で78歳。長身で今もなお若々しいビジュアルからは想像しにくいが、紛れもなく重鎮。20歳だった67年にデビュー。再来年には60周年を迎える。実はデビュー以来クラウン所属一筋の生え抜きでもある。

そんな長いキャリアを振り返るように、ニューシングルはこれまでにリリースしてきた100枚を超えるシングルの中から、2曲を再レコーディング。「萩の宿」は2006年にリリースした「帰らぬ夢」のカップリング曲としてリリースされていたもの。「春の海」は1989年にリリースされた80年代最後の曲。おそらく原曲のオケはそのままに、歌だけを録りなおしたものと思われる。瀬川の個性である少しクセのある音程の取り方はそのままに、年輪が刻まれたような歌唱を聴かせる。

なお、これらの曲を作った作詞家の里村龍一、星野哲郎、作曲家の船村徹、新井利昌、アレンジャーの丸山雅仁（両曲とも）の全員が故人となっているところに、過ぎ去った時間を感じる。

■長保有紀「色々あります女です」

1985年のデビューから今年で40周年を迎えた長保有紀。レコード会社をいくつか渡り歩きながらもほぼブランクなくここまで活動を続けてきた。演歌歌手は同じ作家の曲を続けて歌うことが多いが、長保の場合はかなりいろんな作家の曲を歌ってきたこともあって、ひとつの色に縛られていない自由さが面白い。

新曲の「色々あります 女です」は40周年記念曲にして、通算51枚目となるシングル。ノリのいい軽快なリズムに乗った明るい曲調だが、「色々あります」と男と女の関係を歌う歌詞は、ここまでの苦労の道のりを歌ってもいるようで、妙に沁みるものがある。

カップリングの「花は咲いたか」もコンサートではお客さんの手拍子を誘うであろう、明るい小唄調の曲。歌詞にある「花は咲いたか 男はまだかいな」はもちろん、江戸時代の有名な小唄のフレーズである「梅は咲いたか 桜はまだかいな」を拝借したもの。大ベテランの領域に入ったが、まだまだ女を捨てていないということか。円熟味を目指すよりもまだまだチャレンジしていってほしいと思う。

■真木ことみ「春を信じて…」

いつもは着物が多い真木ことみが洋服姿なのが新鮮。1年ぶりの新曲は、その装いからもわかるように久々となる歌謡曲調で、デビュー30年を超えて、今までとは違った魅力を見せてくれる1年になりそうだ。

作曲を担当したのはダミ声のピアノ演歌師、岡千秋。ザ・ニッポンな感じの王道の演歌を得意とする人という印象が強いが、「春を信じて…」は歌謡曲タッチで抒情的な曲。作詞を担当したのは真木の楽曲では常連のジャズシンガー浦千鶴子で、ほのかな希望を描いている。少しあっさり目の曲ではあるが、じわりと沁みるように伝わってくるいい曲だ。真木の歌はいつものコブシを封印して、アルトの声の艶で聴かせるのが珍しい。

カップリングの「悲しい倖せ」は、演歌調の曲ではあるが、こちらもあえて軽めのアレンジに仕上がっている。コチラは少しコブシを効かせてはいるが、曲調にあわせてニュアンスを使い分けているのは見事だ。

■川野夏美「秋萌え」

先月、Natsumi名義でポップス曲の「恋する夏みかん」を配信限定でリリースしたばかりの川野夏美。相変わらずキュートなルックスが魅力的だが、今回のジャケットはいつもの華やかさとは違った、大人っぽいメイクでシックな装いの秋仕様で、ジャケ買い必至。

もちろん楽曲も秋仕様。「秋萌え」はボサノヴァ調の歌謡曲。作詞の阿木燿子は言わずと知れた山口百恵の名曲の数々を生み出してきた大ベテラン。自立した女の裏にある弱さを描かせたら天下一品だ。「面影橋」は目白の旧田中邸に近い、今も都電が残るエリアを舞台にした春の歌。早春のノスタルジックでなんとも切ない情景を結木瞳が綴っている。どちらの曲も作曲は大御所の弦哲也。いつもの作風とはまったく違って、メジャーセブンスを使うことで、せつないムードの中にアンニュイな仕掛けを作り出している。これだけの大ベテランになっても新しさを求めていく姿勢には頭が下がる。どちらもひっそりと心に残る名曲だ。

■平松賢人「メラメラ」

名古屋のご当地男性アイドル・グループ、BOYS AND MEN、通称ボイメンのメンバーのソロ曲。これまでも2022年と2022年に地元のレーベルからソロ・シングルをリリースしており、ソロでは今回が3枚目にして、メジャーからの初リリースとなる。

平松賢人はもともと歌謡曲好きを公言しており、田原俊彦が憧れの存在だという。「メラメラ」は1990年前後くらいのダンサブルなアイドル歌謡といった感じの楽曲で、作曲を担当したのは80年代から多くのアイドルなどに楽曲を提供してきた和泉一弥。曲のエンディングのところで近藤真彦の超有名曲のフレーズが使われているのは、やはり歌謡曲好きならではの仕掛けというところだろうか。

今回はカップリング曲を変えた【タイプ A】と【タイプ B】が同時発売となる。【タイプ A】に収録の「雨も独り占め」は、チャールストンのようなリズムのショウビズ系の楽曲。【タイプ B】に収録の「愛を捧げたい」はちょっとラテンテイストのダンサブルなリズムに乗せて哀愁のメロディを歌う。どちらも80年代から90年代前半に田原俊彦が歌っていたようなタイプの曲なので、田原好きの平松は嬉しかったのではないだろうか。