【インタビュー】ACID ANDROID、yukihiroが語る7年ぶりアルバム『fade into black cosmos』の新境地と揺るがぬ本質「今この時点での、という意味では集大成と言っていい」

“待望の”という枕詞がこれほどにしっくりくる作品もそうないのではないだろうか。L’Arc-en-CielのyukihiroによるソロプロジェクトACID ANDROIDが8月6日、ついに5作目のニューアルバム『fade into black cosmos』をリリースする。直訳すれば“黒い宇宙に消える”。前作『GARDEN』から実に7年ぶりの時を経て結実した今作は、前作と同様に作詞作曲はもちろんのこと、シーケンストラックメイキングに自身のヴォーカルディレクション、アレンジ、レコーディング、ミックスに至るまで制作にまつわるほぼすべての作業をyukihiro本人が一手に担った究極のDIY作品にして渾身の傑作だ。
音源において唯一の生楽器となるギターを今回手がけるのは、10年近くライヴのサポートメンバーを務めるKAZUYA(Lillies and Remains)。さらに初の試みとしてKENT(Lillies and Remains)をvocal melody arrangementに迎え、新たな境地を拓いた作品ともなっている。
収録された全8曲中4曲は2023年に先行して配信リリースされた楽曲の新ヴァージョンであり、加えて2006年にシングルリリースされたライヴでも定番の人気曲が「let’s dance #2」としてリアレンジ。しかも、すべて英語詞として書き下ろされており、今作が初お目見えとなる新曲3曲と並んで、新鮮な聴後感をもたらしてくれること間違いなしだろう。
文字通り全身全霊を注いだ今作について、yukihiroにたっぷりと訊いたロングインタビューをお届けしたい。

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■途中からインダストリアルを意識するようになった
■でも、それがこのアルバムのすべてではない
──ご自身としてもようやく完成したというお気持ちなのでしょうか。
yukihiro:そうですね。アルバムを作ろうと思ってからは、ある程度時間もかかったので。
──作ろうと思ったのはいつ頃なんでしょう。『GARDEN』(2017年11月配信)のすぐあとくらい?
yukihiro:はい。当時はアルバムというよりは曲を作ろうと思い作業に取りかかりました。その後、2023年に4曲連続で配信リリースをした段階ではアルバムも見据えていたんですけど、次の作業に入るまでに少し時間が経ってしまって。
──2023年の時点でアルバムの全体的な形も見えていたわけですか。
yukihiro:今回入っている新曲もある程度はできていました。もう1曲候補曲はあったんですが、時間と体力が保たなかったです。
──「時間は気にしない」と言っても、それなりにデッドラインは意識されていたんですね。
yukihiro:ライヴもあるし、リリース日から逆算して、最後の制作期間内までに完成したものでアルバムと言わせてもらおうという感じでした。
──「アルバムというものが好き」だと、yukihiroさんが以前おっしゃっていた記憶があります。
yukihiro:そうでしたっけ? たしかにアルバムっていうのは、その時点での、そのアーティストの集大成みたいなものだとは思いますし、僕自身、それを聴くのは好きですね。
──では『fade into black cosmos』もこの7年間のACID ANDROIDの集大成になりますか。
yukihiro:今この時点での、という意味ではそう言っていいんじゃないかなと思います。

──先ほど「『GARDEN』リリースのすぐあとから曲を作り始めた」とおっしゃいましたが、それは曲が作りたくなったということでしょうか。
yukihiro:はい。ライヴをやりたいから、そのためには新曲があったほうがいいと思います。ACID ANDROIDに関してはライヴで使うトラックも自分で触れるので、活動があるたびに新たなアウトプットはしていますけど、新曲というのはそれとは違うものだなと感じます。
──やはり違うんですね。
yukihiro:既存の曲に手を加えるのと、何もないところから作る作業は違いますね。
──それにしても、ここまでの作品に仕上げるのは大変だったでしょうね。完成した作品をどう受け止めていらっしゃいますか。
yukihiro:今は“ここはこうすればよかったかな”って思ってるところですね。
──いつものルーティーンですね。気づいたら同じ作品のブラッシュアップ版ができていそう。
yukihiro:まさに、そんな気分です(笑)。
──性(さが)というか業(ごう)というか、実にyukihiroさんらしいです。
yukihiro:ACID ANDROIDの場合は、僕がほとんど全部自分でやってるので、どうしてもそうなってしまう部分はあります。
──他人に委ねていないからこそ、追求しようと思えばどこまでも追求できてしまう?
yukihiro:“こうしておけばよかったのかな”みたいなことはどうしても出てくるんですよ。とはいえ、やっぱり作品を出したい気持ちはあるので、追求し続けるのは一旦やめて、このタイミングには出そうと決めたっていう感じです。たぶん、このあともブラッシュアップ作業はすると思います。

──前作の『GARDEN』はかなりニューウェーヴ寄りの、しかもダークな方向に振り切った作品でしたが、今回はまたずいぶんとベクトルの異なる音像になっている印象を受けました。アルバムの全体像として思い描いていたものなどはあるのでしょうか。
yukihiro:曲を作り始めたときはそんなになくて、単純にアイデアを形にしていこうということだけでした。もちろん“こういう曲を作ろう”と思って作り始めてはいるんですけど、それが全体のコンセプトだったかと言われるとそうではなくて。ただ、途中からはインダストリアルを少し意識するようになっていきましたね。
──それは原点回帰みたいな感覚ですか。
yukihiro:そういうものではないと思います。別にインダストリアルがこのアルバムのすべてではないですし、ワードとして意識するようになったくらいですね。
──でも、かなり重要なキーワードですよね。ところで、今作には2023年の配信シングル4曲と2006年リリースのシングル曲「let’s dance」がそれぞれ“#2”として収録されていますが、それぞれリアレンジされているんですか。
yukihiro:全部の音を録り直したのは「let’s dance #2」だけですね。他の4曲に関してはギターは録り直していますけど、オケはほぼ元の音源を使っています。ただ今回は、今まで日本語詞だった曲も全部英語詞にしたので、歌も録り直しをしています。
──まさか「let’s dance」のニューヴァージョンを2025年のタイミングで聴けるとは思っていませんでした。以前からリアレンジすることを考えていらしたんですか。
yukihiro:今回のアルバムを全曲英語詞にしようと考え始めた時に、「let’s dance」も英詞にしてみようかなと思ったのがきっかけですね。今後もライヴでやっていく曲だろうし。だったら曲の雰囲気もアルバムに揃えようと思ってリアレンジしたんです。当時、生演奏だったものを打ち込みで作ってみたいという気持ちはあったので。
──なるほど。
yukihiro:「let’s dance」を作った頃は生演奏とシーケンスをどう融合するかを考えていました。1stアルバム『acid android』と次のミニアルバム『faults』は全部打ち込みで作ったんですけど、ライヴをやるようになって、バンドサウンドとしてどう成立させるかを追求し始めました。それを作品として形に残そうと思ったのが「let’s dance」と2ndアルバム『purification』でした。
──実際に「let’s dance #2」を打ち込みで作ってみていかがでした?
yukihiro:こうなるんだろうなっていう想像ができたからこそやろうと思ったところもあるので、個人的にはそんなに違和感はなかったですね。
──それでも雰囲気はずいぶん変わっていませんか。
yukihiro:そうなのかな……? でも今回の音源で使っている音はほぼ、今ライヴで使用しているオケに入っているものなんですよ。シンセや冒頭のギターフレーズを新たに足していたり、ギターソロも変わったりしていますけど、流れでこうなったという感じです。
──音源からギャングコーラスがなくなったこととか、かなり象徴的だなと思ったんですけどね。オリジナルに顕著だった攻撃性が抑えられたぶん、しっかり聴かせるサウンドに進化したという印象もあって。
yukihiro:ライヴではかなり前からカットしてやっているので、自分の印象はそんなに変わってないですね。







