【インタビュー】kein、“妄想による炎症”がコンセプトのMajor 2nd EP『delusional inflammation』リリース「メジャー感みたいな要素を」

──話題は前後しますが、2曲目に収録されている玲央さん作曲の「幻想」についてのお話もうかがって参りましょう。大変ベタな表現ではありますが、この曲には疾走感が色濃く漂っていて、ロックの醍醐味というものが凝縮されていますね。
玲央:自分が聴いて育ってきた90年代の音楽の中でも、それこそ抜け感のある曲ってやっぱり圧倒的にエイトビートが多いんですよ。そこに対する自分としてのこだわりをかたちにしたのがこの曲で、Bメロに関しては眞呼さんに「言葉数の多い語り口調でお願いします」とオーダーを出させてもらいました。あと、サビのコード進行なんかも今まで自分では使ったことがないパターンにしてあります。
──それはたまたま今まで使ってこなかったものですか? それとも、敢えて避けてきたものになるのでしょうか?
玲央:意図して避けてきたものですね。なんといいますか、今思うと若い時って抜け感とかメジャー感というものに対する抵抗が大きかったんですよ。でも、ここまでにいろいろな経験もしてきて、誰かにやらされるとかではなく、自分の意思として「より多くの共感を生む」ために、このくらい振り切った曲を書くのは良いことでしかないなという気持ちに近年やっとなれたんです。歯が浮くようなことでも自信を持ってやればカッコいいんだ、っていう風に思えるようになったんですよね。この曲は自分にとって、その手始めとなるものとして作ることが出来ました。

──「幻想」でのストレートなエイトビートをかたちにしていく時に、ドラマーとしてSallyさんが大事にされたのはどのようなことでしたか。
Sally:玲央さんからの要望で、この曲では8分の刻みを全部キッチリ均等に重くしっかり出していくっていうことを重視しました。たとえるなら、D’ERLANGERのTetsuさんみたいなドラミングを意識してますね。
玲央:TetsuさんがBUCK-TICKを叩くみたいな感じ、にしたかったんですよ(笑)
──なるほど、とてもわかりやすいです。
Sally:こんなに一生懸命8分をで叩いたのは初めてかも、っていうくらい頑張りました(笑)
──そうした一方、この「幻想」はイントロがベース始まりとなっております。攸紀さんはベーシストとしてどのように臨まれた楽曲だったのでしょうか。
攸紀:デモの段階からベース始まりではあったので、一音だけ弾いているのが一番しっくりきたんですよ。だから、基本的にとてもシンプルなんです。そのかわり、四拍の中でどこの音を長く鳴らしたいかっていう部分はちょっと意識しました。

──相当に率直で明解なサウンドを持つこの曲には「幻想」というタイトルがつけられております。眞呼さんはこの曲の中でどのような世界を描きたいと感じられたのですか。
眞呼:憶測と思い込み、それで成り立っている世界についてですかね。
──歌の途中に入ってくる〈いつかやると思ってたんだ〉というあの台詞も含めて、この曲は聴かせ方がどこか演劇的ですね。
眞呼:あの語り口調の部分は玲央さんの声なんです。最初はやって欲しいと言われていたんですけど、ちょっと私はどうやっていいかよくわからなかったのと、詞を書いた時に一応メロディーもなんとなくラップ調で作ってしまっていたので、玲央さんに「どんな感じが理解するためにちょっと歌ってみてくれない?」とお願いしたところ、それがとても良かったのでそのまま使わせてもらいました(笑)
──あの玲央さんが発されている声の部分は、主人公の別人格になりますか。
眞呼:別人格ではないですね。あれは集団の発している声というか、その先頭に立っている人の声です。
──なるほど。なお、この詞の中では“炎症”という言葉が幾度も使われておりますので、これも『delusional inflammation』というタイトルとの関連性が深いのでしょうね。
眞呼:何かを起こして、炎症が起こらないことっていうのもありますからね。それが体にいいことだったりすれば、という話ではあるんですけど。でも、本来的には異物が体内に入ってくれば炎症が起きるわけじゃないですか。要するに「この薬はいいものです」とされていても、身体がそれを拒絶して炎症が起きることっていうのもありうるので。結局みんなが「これは効く」って感じてるものが妄想である可能性も充分にあって、しかもそれが「炎症を起こす副作用もありますよ」というものなんだとしたら、それが絶対的にいいものだとは限らないんじゃないか、みたいな。
──身近なところでは、風邪などでの発熱時には解熱剤を飲まない方が症状を早く緩和することになるという話もありますよね。炎症反応である熱をまずは出すだけ出し切ってしまった方が、むしろ長引かないですむということのようなのですけれど。
眞呼:人間の身体にはもともと自己治癒能力っていうのが備わってますからね。それを阻害するような薬がいいものだという話も、妄想といえば妄想なのかもしれませんよ。物理的なことだけに限らず、頭の中の考えとか思想とかについてもきっとそうです。広く「いいこと」とされている何かが、全ての人にとって必ずしも正しいとは限らないですから。この曲からそういうことをいろいろ考えてもらえるといいのかな、と思います。

──4曲目の「晴レノチアメ」はこれまたaieさんの作られた楽曲となりますが、こちらは非常にアグレッシヴで攻めた曲となっておりますね。
aie:玲央さんの作った「幻想」とは真逆の、それでいて前作とも違う暴力的でスピード感のある曲が欲しかったんです。で、これも僕にとっては『EDEN』ではないけどLUNA SEAリスペクトの脈絡で出来た曲ですね。ライブが見えるような曲にしたいっていうことをSallyちゃんに言ったら、速攻でどんな雰囲気なのかわかってもらえました。
玲央:僕もこれはいかにもaieさんの作るアップテンポでビート感のある曲だな、っていう印象が強かったです。それだけに、僕としては過去のaieさんの曲にはなるべく寄せないように意識したところもありますよ。
aie:曲の中でLUNA SEA寄りにしたい派と、寄せないようにする派がお互い引っ張り合ってるからなー(笑)
玲央:そういうせめぎあいが1曲の中に入ってるのがkeinなんだと思います。
攸紀:ただ、昔のkeinだったらこのビートは使ってなかったでしょうね。それをすんなり受け入れられたところにバンドとしての成長が見られるし、このバンドはやれることの幅も広がってるんだなってあらためて感じました。
──そうした「晴レノチアメ」は、先ほどの「斧と初恋」に続いて女性目線で書かれたシのように感じられるのですが…
眞呼:これは曲タイトルを「晴レノ チアメ」って読んでもらうとわかりやすいかも。
玲央:血の雨ってことですね。

──そういうことでしたか。コピーライティングという面では〈愛されないと不安になる〉〈愛されてると不安になる〉というフレーズたちが素晴らしく秀逸だと感じます。
眞呼:ほんとですか?誰かライティングでお仕事くれないかな(笑)。
──曲調としてはライブ映えしそうなこの曲に、眞呼さんがこれだけドラマティックな歌詞をつけることになられた理由は何だったのでしょうね。
眞呼:これは映画から受けたインスピレーションをもとに生まれた詞なんですよ。
──ここに出てくる少女と「斧と初恋」の彼女に関連性はありますか?
眞呼:あるんですけど、同じ人っていう風にとらえてもらってもいいし、とらえなくても大丈夫です。言葉では説明しにくいんですが、どちらも私が女子モードになって書いてたのは確かですね。
──その場合、歌う時にもスタンスはストーリーテラーとしての視点ではなく、やはり女子モードとなられるのでしょうか。
眞呼:そこも女子です。女子になったことはないので本当の女子の気持ちまではわからないですけど(笑)、モードは間違いなく切り替わってますね。
──さて。ここまでいろいろとうかがって参りましたが、今作の最後をしめくくるのはMVも制作されている「波状」です。すなわち今作においてのリードチューンでもあると思われますが、作曲者である攸紀さんとしてはいかなるビジョンのもとにて作られたものだったのでしょうか。
攸紀:根本にあったのは、これまでに自分たちが作りあげてきたkeinというバンドに対しての想いです。自分としては20年前のkeinについて振り返りながら作った曲でもありました。歌詞を書く眞呼さんに曲を渡す時には、ある程度の景色が見える状態にしておきたいという気持ちが常にあるんですけど、そこもこの曲は特に強かったですね。
──曲を渡された際の眞呼さんは、それをどのように受け止められたのですか。
眞呼:デモの段階でこんなにも空気感が出せるものなんだな、って感じました。純粋に凄いなと思いましたね。
──aieさんの「波状」に対する見解もぜひ教えてください。
aie:僕はこの曲を、“凄くやる気はあるんだけどとにかくお金がない女子高生”っていう設定で弾きました。というか、この曲だけじゃなくて今回は全体的にもそうだったかな。使うのは町のスタジオに置いてあるようなアンプで、ディレイも持ってないから人力で全部やるみたいな。要するに、これから楽器を始めてみようっていう若い子たちに対する応援歌なんですよ。この作品は。
玲央:僕は女子高生設定とかなかったですけどね(笑)。曲としては空気感をさらに足したいっていうことで、ギターソロ的な盛り上がりの部分では僕とaieさんが左右で好き勝手に弾いてますし、一瞬ブレイクはさんだあとのサビにも意外とたくさんの本数を入れてます。そして、僕は女子高生がまず持っていないヴィンテージのアコギとかもほんのり弾いてますよ(笑)。
──「波状」からは何重にも色が重なった水彩画のような、奥深い響きを感じます。
Sally:ドラムもこれは普通に叩くとミディアムテンポの短調なエイトビートみたいになっちゃうので、いろんな表情を出しながらドラマティックな感じで叩いていきました。特に中間部は一気にガーッと行ってますし、それ以外のところでは引いたりとか。歌の存在を意識しながらプレイしていくようにしてます。
──「波状」は歌詞表現も実に感情表現が繊細ですね。
眞呼:人の内面と情景を描きたかったんです。
──それもまた妄想のひとつ、と言えるのでしょうか。
眞呼:そうかも。その人の内面がどういう風になってるかなんて、外側からはよくわからないですからね。だけど、この詞はそれとはまたちょっと違う視点で見てもらってもいいのかなとも思います。妄想による結果が「こうなってしまった」あるいは「大切な人が炎症を起こしていた」というケースもあれば、妄想によって誰かが助かる、妄想でこの人を助けられる、失わなくて済む、という状況になることもあると思うので。「波状」というタイトルは、ひとつの結果として最後につけることになりました。
──もはやEPの概念を超越するくらいの濃い密度に仕上がったMajor 2nd EP『delusional inflammation』をリリースしたあと、keinは7月に<kein TOUR 2025 「delusional inflammation」>に臨んで行くことになります。さまざまな新曲たちをまじえながらのライブは、このバンドにとって意味深いものになっていきそうですね。
玲央:昨年出した『PARADOXON DOLORIS』と今回の『delusional inflammation』を合わせると、書き下ろしの曲たちが新たに10曲揃いましたからね。おのずと本編のメニュー自体もこれまでとはかなり様変わりしていくことになるはずです。そして、バンドにとっては来年以降の活動にもつながっていくような、ひとつの起点となるツアーにしていくつもりで臨もうと思ってます。
取材・文◎杉江由紀
写真◎尾藤能暢
2nd EP『delusional inflammation』
2025年7月9日(水)Release
詳細:https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=46471
配信リンク:https://king-records.lnk.to/delusional
【初回限定盤】(CD+Blu-ray)

KICS-94204/価格:¥5,500(税抜価格¥5,000)
収録内容
CD
1.斧と初恋(lyrics : 眞呼 / music : 攸紀)
2.幻想(lyrics : 眞呼 / music : 玲央)
3.幾何学模様(lyrics : 眞呼 / music : aie)
4.晴レノチアメ(lyrics : 眞呼 / music : aie)
5.波状(lyrics : 眞呼 / music : 攸紀)
Blu-ray
1.「波状」Music Video
2.「波状」Music Video Making
【通常盤】(CD only)

KICS-4204/定価:¥2,750(税抜価格¥2,500)
収録内容
初回限定盤CDと同内容
・『delusional inflammation』初回限定盤 対象 購入特典
タワーレコードオリジナル特典:ステッカー(78㎜×56㎜)

メーカー特典:シリコンリング

詳細URL:https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16354/
※メーカー特典の対象店舗はこちらからご確認ください
<kein TOUR 2025 「delusional inflammation」>
2025年7月11日(金)アメリカ村DROP
OPEN 18:30/START 19:00
INFO.YUMEBANCHI(大阪) TEL 06-6341-3525
2025年7月12日(土)NAGOYA JAMMIN’
OPEN 17:00/START 17:30
INFO.ズーム TEL:052-290-0909(平日12:00~18:00)https://www.zoomep.co.jp
2025年7月20日(日)SUPERNOVA KAWASAKI
OPEN 17:00/START 17:30
INFO.ディスクガレージ https://info.diskgarage.com/
【チケット料金】
スタンディング¥6,600(税込)
※入場時ドリンク代別途必要 ※3歳以上チケット必要
【チケット一般発売】
イープラス:https://eplus.jp/kein/
ローソンチケット:https://l-tike.com/kein/
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/kein/ ※一部公演対象外
『delusional inflammation』発売記念サイン会
詳細URL:https://www.kingrecords.co.jp/cs/t/t16333/
開催日時&会場
7月10日(木)19:00 タワーレコードNU茶屋町店
7月13日(日)13:00 タワーレコード名古屋パルコ店
7月19日(土)13:00 タワーレコード新宿店
対象商品
2025年7月9日(水)発売『delusional inflammation』【初回限定盤CD+Blu-ray】(KICS-94204)
価格¥5,500(税抜価格¥5,000)
※通常盤(KICS-4204)は対象外となります。予めご了承ください







