多くの作品を重ねていく過程で辿り着いた“素の強さ”=『ITSELF』

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多くの作品を重ねていく過程で辿り着いた“素の強さ”=『ITSELF』


「特に変な先入観無しにポンと音から楽しんで欲しい」

インタヴュー映像


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マイカデリック インタヴュー映像
今回はダースレイダー(左)と真田人(右)2人のMCに話を訊きました。

収録曲「ROWPOWER」「破壊と創造」「SHARPEN'S YOU UP」についての話で、さらにマイカデリックの奥深くまで迫ってます!


ダースレイダー、真田人の2MCとDJオショウからなるマイカデリックのレーベル移籍第一弾となるニュー・アルバム『Itself』。デビュー以来、矢継ぎ早に作品をリリースしてきた連中だけに、一年半というブランク(アルバム制作に費やす時間として一般的なサイクルだけど)は何か意味を感じさせるし、従来のイメージを覆すかのようなシンプルなアルバム・タイトルとジャケット周りのアートワークはその思いを確信へと導くのに十分なファクターとなるだろう――しかも、アルバムの帯には「ちなみに、変態ラップ やめました」との一文がある。

僕らも商品になって初めて知ったんですよ。デザイナーのモックロックがアルバムを聴いた感想として、このフレーズを載せたいと思ったらしいんです。まあ、誤解されやすいですからね、僕ら。文章にすると楽なことってあるじゃないですか、“ああ、マイカデリックね”って片付けられることが多かったかなと思って。結成当初から“暑苦しい奴らね”とか、そういう枠に入れられてきた、苦渋の歴史に対する反抗声明です。ジャケットにしても、今まで敢えて情報過多にしてきたんだけど、ウチら的なイメージとしても簡単にいこうよっていうのがあって。『Itself』っていうタイトルにしても、アルバムが出来ていく中で、何となくシンプルにしようって言ってたよね。特に変な先入観無しに、ポンと音から楽しんで欲しいなって」(ダースレイダー)
何かのタイトルを付けるということがどうしても出来なかったんですよ。こういうアルバムにしようって作ったアルバムでもないし。本当に最後の最後までアルバムのタイトルが決まってなくって、そこから考えたから。それで3人で話したときに『Itself』っていうタイトルが上がって、“オシャレじゃん!”みたいな感じですね」(真田人)

真田人のコメントにもある通り、確かに『Itself』からは予めの着地点を想定して制作されていったような感触は極めて稀薄であり、衝動に任せて作られていった曲を単に一枚のアルバムとしてまとめ上げたような、そんな生々しい手応えが濃厚だ。ビートのヴァリエーションの多さはその裏付けにもなるだろうし、その様はあたかも、彼らがヒップホップの自由度の高さに改めて驚き興奮し、喜びを感じているようでもある。
初期衝動っていうのは凄く欲しくて、パンクな感じというか、“コレやりてぇ!”というところでやるみたいな。ビートの選び方にしてもみんなが“これだ!”というところでやろうって。俺自身もいろんなリズムにラップを乗っけたいなぁと思ってて、こういうビートでラップしたら面白いかな、みたいなことを常々考えていたんですよ。今まではスキル的な面でそれをトラックにするのが難しかったのが、こうやると'50年代のジャンプR&B風になるみたいな、そういう感じがわかってきた。で、それを真田人に聴かせたら"面白そうだね"みたいな話になったから更に膨らませて、みたいな感じですね。だから、全体的に大上段に構えてガーッと振りかぶる感じというのは今回余りないです。普通に肩の力抜いてる感じがするんですけどね」(ダースレイダー)

これまでマイカデリックが“変態ラップ”をやってきたのだとしても、今回のアルバムで彼らが"変態ラップ"をやめたという印象を受けることはない。が、それでもアルバムの随所からは、どこかすっきりとしたニュアンスを聴き取ることができる。

別に“変態ラップ”をやめてはいないと思うんですけど……なんていうのかな、プレゼンの仕方が変わったんですね、多分。ここはこれくらいのパワーでやった方が逆にちゃんと言ってることが聴こえるとか、ここは少し言葉を抜いた方が面白く言えるみたいなのが身に付いてきたというか。だから、意識してすっきりさせようと思ったのではなくて、体が覚えてきたなみたいな。元々計算して音を組み立てるタイプではないし。俺個人に関して言えば、常々ファンキーなものを作りたいというのがあって、その結果、最初の頃作ってたのは、細々と再発されてるようなマイアミのファンク・バンドみたいな、ゴチャゴチャしたやつだったんですよ。それはそれで好きなんですけど、今回はオハイオ・プレイヤーズも入れてみましたって感じですかね」(ダースレイダー)
最新アルバム

『ITSELF』

Happy House
2003年04月23日発売
VICL-61107 2,730(tax in)

1 ハイパーヘビー級
2 アン ドウ トワ
3 激空間プロラップ
4 52年度通信カーリング部同窓会 feat. アルファ
5 マハラジャ
6 BBQ feat.Q, 人間太鼓腹, HEAVY-Q a.k.a. DJ PLATINA
7 SHARPEN'S YOU UP
8 地球最後の日
9 しゃくなげスタイル
10 RAWPOWER
11 BRUSQUE BLUES
12 Z斬 feat. HUNGER
13 月夜の晩に君さえいれば・・・
14 破壊と創造
15 M&M feat.MANKIND MARKER

アルバムの音像に加え、こうした発言の数々を踏まえると、確かにマイカデリックは変わったと言えるのかもしれない。そして、その変化の核心へと更に迫るならば、多くの作品を重ねていく過程で彼らが辿り着いたのは「素の強さ」ということになるのだろう――ここで話は、またアルバム・タイトルの『Itself』へと立ち返る。

今回は“こう見せてやれ!”みたいな、そういう下心が無いのかもしれない。例えば、初めてのデートの時とかって“俺はこういう男だぜ!”みたいなのを見せようとするじゃないですか、俺はこういう人だって。そういうの無しに、いつもの状態ででかけた感じ。"こういう自分たちに見られたい!"みたいなのを、音にしてもライヴにしてもあまり狙わないみたいな……まさに『Itself』な感じなんです」(ダースレイダー)

取材・文●高橋芳朗

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