ほろ苦い現実をウィットとポップなメロディで包み込むBNL 【後編】

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ほろ苦い現実をウィットとポップなメロディで包み込むBNL― ロング・インタビュー【後編】

 

 


 

 

前編】からの続き

――現在のあなたがたを批評家は理解していると思いますか? 彼らは新作を気に入ってくれているのでしょうか?

STEVEN:今回のレコードに関しては、これまでのどの作品よりも良いレヴューが出てるんで興奮しているよ。別にレヴューのためにやっているわけじゃなくて、自分たちのためにレコードを作っているんだけど、文字の読めるミュージシャンだったらロックジャーナリストに対してある種の親近感を覚えるものなのさ。僕らがキレちゃうのは、音楽とは何の関係もないクールなポーズにとらわれているときだよ。それはまったく音楽とは別のものだからね。だけど音楽的な意味で、僕らは批評家のパズルや用語集にピタリとはまったことは一度もないだろうな。僕らが自分たちのイメージを違った方向に曲げたときに批評家に伝わらないのは、何か問題があるんだろうといつも考えている。だけど、今のところ新作が気に入られているのは、いいことだね。

ED:このレコードに対する初期のレヴューを見たときにはシビレたね。レヴューを読むなんて初めてのことだったけどね。それで「うん、僕が新作について思っていることにかなり近いよ」なんて感じで、とてもいい気分だったよ。だって自分たちの目的が批評家に理解されるなんて素晴らしいことだし、とても誇りに思えるからね。友人や仲間も読んでくれているし。これからの反響が楽しみではあるけど、どっちにしてもハッピーでいられるように努力するつもりさ。


――あなたがたのバイオでは、歌詞が自立しているのでそれ以上説明する必要はないし、これまでよりもずっと明瞭なものになっていると書かれてありましたが、どういう意味なのでしょうか?

STEVEN:作ったレコードを振り返って、いつも「うへぇ、あの歌にはまったく意味がなかったな」なんて考えるのさ。僕が曲を作るときには自分が書こうとしていることについて非常にクリアなアイデアを持っていて、それはひとつのストーリーであることが多い。たいていの場合まるで背景でストーリーが進行していて、僕は単にそれを絵に描いているみたいに考えているんだ。今回のレコードでは、歌が完全なストーリーを伝えてくれるなら、感情や意見を単に語るよりも、実際に意味を持たせることができると思った。ある意味ではずっと会話っぽいものになっているんだよ。

ED:僕らは曲のテーマとはかなりの距離をとっていると思う。いつも曲と個人の間に距離を置いていて、「he」「she」「they」を多用しているんだ。視点は常にかなり外部からのものだったけど、今回のレコードではもっとパーソナルなI/you/we的なテーマを多く取り上げて、これまでほど裏に隠しているということはないと思うよ。僕はあいまいさ(ambiguousness)が好きなんだ。「ambiguousness」なんて言葉があるかどうか知らないけど、今はそう言っておく。歌が何についてのものかすぐにわかるのは好きじゃないんだ。今度の作品では少しは簡潔明瞭に、たぶんずっと胸を打つみたいな感じにしようと思ったんだ。

僕らは自分たちの言いたいことを言おうとしているだけだが、それでもさらに読み込む部分は残っているね。歌の中には多くのサブテキストが含まれているけど、各曲のメインの焦点はずっと明瞭なものになっている。これまではテキストとサブテキストのバランスは半々だったから、その歌が本当は何を言おうとしているのか分かりにくかった。まるで複数の思考の流れが存在していたようなものだけど、新作ではメインのほうにずっとシフトさせようと試みたのさ。それでもサブテキストは残っているけど、メインフォーカスはかなりクリアになっているよ。



――つまり、あなたがたがある意味で成熟して、スタイルにこだわらなくなったということでしょうか。バンドの新しいイメージ戦略はどのようなものですか?

STEVEN:自分たちを強力に打ち出していきたい。様々な音楽的スタイルによる実験にせよ、曲作りのスタイルにせよ、詞のスタイルにせよ何でもね。

ED:その点は確かに考えているよ。リスナーのイメージがどうなるかとか、ラジオがそれをどう見るのかとか、批評家はどうとか、僕らは分析し過ぎるんだ。僕らはいつでもこの雑誌はこんなことを言いそうだとか、あいつはこんなふうに言うだろうとかジョークにしてるくらいだけど、ラッキーなことに僕らはそれだけの仕事をやり終えたという自信があるからなんだよ。レコードのミックスを終えるまでは、そんな話はできやしない。どっちにせよ、それが僕らにとって最良の方法なんだと思うな。

僕らは作るはずになっているレコードを作らなくちゃいけない。ずっと以前に僕らはそのときどきに僕らがいる地点のスナップショットを作るように決めたのさ。油絵を描くのじゃなくってね。それを何度も何度も考え直したり、やり直したりすることはしないよ。曲はスタジオに入るひと月前に作った曲だし、トラックはライヴで演奏していたとおりのトラックだ。レコードに入っているほとんどすべてがライヴ演奏だし、リードヴォーカルの多くも基本トラックを録るときに入れたヴォーカルのままだよ。こうしたダイレクトな手法のおかげで、今回のレコードにはエネルギーが溢れていると思う。Don Wasは自分たちのミステイクを愛するのを学んだり、ちょっとした失敗やかすかな息継ぎの音がサウンドに命を与えてくれるということを徹底的に教えてくれたんだ。何かをきれいに取り除けば、それだけ熱気も失われてしまうということなんだね。



――Brian Wilsonがあなたがたの曲「Brian Wilson」をカヴァーしたのには、ブッ飛んでしまいませんでしたか?

STEVEN:以前は僕らの曲がカヴァーされるなんてことは、バーのバンド以外ではまったくなかったよ。ミュージシャンがバーへ行くとね、カヴァー専門のバンドがいて、レパートリーの1曲を演奏してくれるような店があってさ、それでも僕にとっては非常にエキサイティングなことだった。それからどこかのカラオケマシンで「Call And Answer」を見つけたときも興奮したな。でもBrian Wilsonが僕らの「Brian Wilson」という曲を歌うというのは、ちょっと馬鹿げているけど素晴らしいことだよ。彼は僕らが『Maroon』を作っているスタジオにやってきて、それを聴かせてくれたんだ。世界中で最もクールな出来事だと思ったね。

ED:あれは僕が経験したなかで最もポストモダン的で、奇妙な出来事だったよ。何よりもBrian Wilsonが「Brian Wilson」をカヴァーしているのを聴くだけで充分奇妙なことさ。Steveのほうを見て「18歳の時にこの曲を初めて演ったときから、いつかBrian Wilsonがこの歌をカヴァーしてくれるってもちろん思ってたよな」って言ったのを覚えてる。そしたらDonがこともなげに言ったのさ。「ああ、Brianならスタジオに顔を出してくれることになっている。君たちに聴いてもらいたいそうだよ」。あれは僕らが「Tonight's The Night I Fell Asleep At The Wheel」に取り組んでいた日で、その歌は新作で最もPet Sound的なBeach Boys風の作品だったから、まさにぴったりだったね。

それでBrianがやってきて例のトラックを聴かせてくれたんだ。曲が終わったときに彼が僕の目をまっすぐに見て「クールだったかい」って訊いたのを覚えているよ。僕は「Brian Wilsonが僕らの曲の彼のヴァージョンはクールかと訊いてる」って思った。Brian Wilsonが彼についての自分たちの曲を演奏しているのを聴くことよりクールなものなんてあるのだろうか? とても目のくらむような経験だったよ。彼は「食べ過ぎちゃだめだよ」って言いながらスタジオを出ていった。シュールな光景だったね。夢を見ていたのかもしれないけど、証人もいたんだ。フォトグラファーが写真を撮るときに「スマイル」って言ったけど、誰も笑わなかったよ。それで彼が「スシと言って」と言ったら、Brianは「スシが食えるのか?」だって。とってもおかしかったね。


――確かに世界中で最もクールな出来事にちがいないでしょう、素晴らしい。

STEVEN:それじゃ次のレコードでは新曲の「Leonard Cohen」に期待してもらおうか!


――現在の成功によってあなたがたと周りの人々との関係は変化しましたか? 楽しくなくなったとか、ビジネスライクになったとか。

STEVEN:僕らは仕事をしているときには1日24時間、週7日間ずっと一緒にいるから、ロードを離れたときはあまり付き合いはないんだ。だってツアーに出ているときには、現実の生活で必要としている他の友人や家族に会うチャンスが全然ないからね。だけど、僕らのお互いの関係はたぶんこれまでよりもずっと快適なものになっている。僕らは前よりお互いを信頼しているし、尊敬しあっている。グループでの役割や立場もずっと固まってきているし、僕らの関係はもっと簡単なものになってきているよ。

ED:バンドの力学という点では、時を経るにしたがって次第にシフトしているね。これで12年も続けてることになるけど、僕らはオリジナルの音楽を一緒に作ろうという、若者らしい勢いや興奮でバンドをスタートさせた。だから長期間にわたって前進してこれたんだ。僕らはかなりの成功を収めたけど、祖国のカナダでは相当なものなんだよ。最初のレコード『Gordon』は(カナダでの)プラチナ9回分を売り上げたのさ。僕らは必死に働いたし、ずいぶんツアーもやった。長い間これを続けていると、まるで仕事みたいになってくるんだ。会場に出勤してタイムカードを押してからショウを始める。終わったら家庭をともに築きつつある家族のところに戻って、友人たちを電話でつかまえようとするのさ。ライヴで演奏するのは楽しいし、レコード作りもいつも楽しんでいるけど、バンド以外の生活を見つけだそうと苦労している感じもあると思うな。バンドで活動していくのは消耗する作業だからね。

それから過去数年間は、僕らが自分たちのやっていることを再確認するプロセスだったね。特に『Stunt』を作るとき、僕らは話し合って「2人がお互いのことを気に入っていて、うまく一緒にプレイできているのは本当に幸運なことだ。だから確実にこのバンドをヘルシーでサポートしあえる場所として維持していこう」って確認したんだ。誰かがくだらないことをしたら、後の4人が忠告することになるだろう。同じようにみんなが互いを助け合って、お互いの結束を固めているのを知れば、それはあるべき素晴らしい姿だと思うことだろう。僕らは自分たちのやっていることの喜びを再び祝福し、再評価することを学んできたと思うんだ。こんなバンドに参加できているのは非常に特別なことなのさ。本当なら浮世離れしてしまったり、バンドが崩壊してしまうような成功が、僕らの結束を固めてくれたんだ。僕らにとって絶好のタイミングで成功が訪れたということだね。



――昔からのカナダのファンは、あなたがたのアメリカや他の国での成功を悔しがったりしていませんか?

STEVEN:カナダの人達がアメリカでの成功に憤っているという感じは、思っていたほどないみたいだね。他のアーティストが祖国を後にしてアメリカで大成功を収めると、カナダ人が「あいつらがクイーンズストリートあたりのクラブで演奏してたのを覚えているぜ。器のわりにビッグになりすぎたね」なんて言うのを見てきたよ。僕らはカナダで大成功を収めたけど、露出過剰のせいで忘れられてしまったようなものさ。小さな国だからメディアでの露出場所もアメリカよりずっと少なくて、テレビをつけるたび、新聞や雑誌を開くたびに僕らがいるって感じになってしまったんだ。こんな間抜けな顔でいつでもしゃくにさわるくらいばかばかしい感じだと、見るほうはすぐにうんざりしてしまうのさ。だからみんな僕らのことを忘れたんだろう。僕たちがブレイクし始めたとき、特にカナダのメディアは非常に懐疑的だったよ。でっちあげか希望的観測だと思ったんだろう。実際にブレイクしたら、カナダではいつでも道で呼び止められて、お祝いの言葉をかけてくれたのさ。素晴らしいことだよね。カナダの人達は僕たちの成功を心から誇りに思ってくれているんだ。

ED:確かにカナダには「Tall Poppy Syndrome(出る杭は打たれる)」みたいなことがあって、『Gordon』がヒットしたときは僕らもそれで苦しんだものさ。アメリカ進出を試みたときには、ちょっとしたバッシングもあったと思うけど、こっちでブレイクし始めてからはカナダの人が誇りに思ってくれているという感じがわかってよかったよ。ストリートの人々のなかに入っていけばわかるんだ。『Born On A Pirate Ship』を作ったあとで人込みに出かけたら、「まだ一緒にやっているのかい? 解散したと思っていたよ」なんて言われたのさ。ほとんどの時間をアメリカでの仕事に費やして、キャリアを築こうとしていたから、さんざんそんなふうに言われたけど、この数年は「君たちはカナダの誇りだ、頑張れよ」みたいなことしか聞かないね。つまりカナダ人は、21歳にしてミリオンヒットを飛ばした若者に充分な距離を置いて接してくれたんだと思うな。「こいつらは頑張っているしカナダ人なんだから、祝福してやろうじゃないか」と言えるくらいの距離をね。


――自分がカナダにいるのかアメリカにいるのか、混乱してわからなくなってしまった場合、アメリカにいるんだと知らせてくれるものは何でしょうか?

STEVEN:朝起きたときなら、ホテルか誰かの家にいるかということだろうね。まあ、ホテルの部屋にいるとしたら、シャンプーでも石鹸でもシリアルの箱でも身の周りにある製品をチェックするんだ。それで裏側にフランス語が、表に英語が書いてあれば、カナダにいるとわかるのさ。全部が英語で書いてあればアメリカにいるということになるね。

ED:ときどき妻が電話で僕を起こして「今日は何をやっているの? どのホテルにいるの?」とか聞いてくるんだ。照明が消えていて電話に書いてあるホテル名が読めないときには、どこにいるのかわからなくなってしまう。その数分間はとてもうろたえてしまうよ。真夜中に目が覚めて、バスルームに行こうとしてクローゼットに入ってしまったこともあったな。ときどき何をやっているのかわからなくなるんだ。ツアーはそれくらいクレイジーなことだけど、僕はお酒も何にもやらないから、泥酔や酩酊とは関係ない。しらふでもそれだけ消耗してたり、ジレンマに陥ってたりするのさ。

僕らは自分たちが演奏する場所に触れておこうと思って、1日のうち最低でも30分は、外へ出て街を歩いてみる。そうやって自分たちがいる街のフィーリングをつかんで、演奏を聴かせる予定のオーディエンスとつながりを持つのさ。街に着いてすぐにステージに上って、「ハロー、クリーヴランド!」なんてやるのはいやだからね。ツアー生活はペースが速く、クレイジーで消耗するものだけど、朝には狼狽していても夜になれば自分がどこのステージにいるのかは理解しているよ。



――やってみてもかまわないけれども、適切な方向とは思えない音楽的なスタイルはありますか?

STEVEN:バンドの外でならミュージカルみたいなものは考えてもいいけど、グループでやるには自己耽溺的すぎると思うな。レコードとしていい作品にはならないだろうし。特に僕らみたいにかなり民主的なバンドでやっていると、自分だけのことはできなくて、いつも妥協をするというのが善し悪しだね。適切なミュージシャンを雇うか、全部自分でプログラムすれば、思い描いた通りのサウンドを作れるかもしれない。そういうことも可能だろうけど、それではバンドじゃなくなってしまう。それでは意味がないし、自分以外のパーソナリティがないということになる。だから善し悪しなんだよ。


――新たに築いた富で派手な買い物はしていますか? それとも、もしもの時に備えて貯めておくタイプですか?

STEVEN:ロックスターらしい買い物をいくつかしたよ。大型のラッパースタイルのSUVとかね。それは単に環境問題が嫌いだから、できるだけ多くの排出物を空中にまき散らしたいからだよ。あまりオフロードでは乗ったりしないから、ほんとはそんなサイズやスペックは必要ないのさ。環境問題が頭にくるから、できるだけ破壊しようとしているんだ。それから道楽でいくつか買い物をしたけど、Jay-Zの近所の分譲豪邸とかに住んだりみたいなことはしていないよ。


――「If I Had A Million Dollars」がテレビ番組でかなり大量にオンエアされていますが、それについてどう思いますか? この曲の人気や使われ方について意見はありますか?

STEVEN:あれは僕らが18、9のときに書いた曲で、もう11年も経つ古い歌だからおかしいよね。そんなにないことだけど、アメリカで誰かが僕のことに気付いたとしたら、おそらく近づいてきて「Chickity China, the Chinese chicken」なんて「One Week」のフレーズを歌うんだ。でもカナダで街を歩いていたら、みんな車の窓を降ろして「If I Had A Million Dollars」を歌うのさ。あの曲はラジオでヒットしたわけでもないのに、誰でも知っているんだ。あんなノヴェルティソングだから、他のもっとシリアスな曲と比べてみようとするのさ。恥ずかしくなっちゃうけど、そうも言ってられないのは、あれほどインパクトのある曲は他にないからだね。つまり、僕らには特別な歌なんだ。誇りに思っているよ。あの曲をテレビ番組や映画なんかに使いたがる人がいるのは、親しまれている曲という面が大きいのと、彼ら自身が気に入っているからだと思うな。あの歌が大衆に与えたフィーリングを自分たちの番組や映画に盛り込みたいんだろう。けっこうなことだよ。

ED:そうだね、「ファイナルアンサー?」みたいな番組にはぴったりの曲だからな。最初に使われたのは「Reege!」だよ、知ってる? あの歌は僕らの代名詞になって、長年の間ファンの多くにとっても重要な意味を持っていたんだ。これまでのすべてのショウで演奏してきたし、曲の使われ方にもかなり注意を払ってきたよ。目的が良いものだったら、チャリティでもたくさん使ってもらったしね。例えば病院が資金集めをするときとか。あとはRegisのゲームショウみたいに笑えるものだったら使用を許可してきた。でも、僕らの「too legit to quit」のファンは曲を売り渡してるように思うだろうから、難しいところだよ。

僕らが最初に音楽を売り渡したのは、'88年か'89年にステージ横で自分たちの作った曲のカセットを誰かに6ドルで売ったときのことさ。自分たちの音楽がどこに流れていって、それがどのようにはね返ってくるかを決断するというのは、絶え間のない闘いなんだ。だけど結局のところ重要なのは音楽で、ファンがその内容を評価してくれるのさ。僕らのファンにはVonda Shepardを聴くよりも、コマーシャルで僕らの曲を聞いてほしいね。別にVonda Shepardをけなすつもりはないよ。彼女にはブルースの感覚があるんだけど、これ以上ファンクには染まらないでほしいんだ。とにかく、僕らの曲が流れるのはいいことだよ。

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