Album of the Year -年間最優秀アルバム- 『Midnite Vultures』 Beck 『The Marshall Mathers LP』 Eminem 『Kid A』 Radiohead 『You're The One』 Paul Simon 『Two Against Nature』 Steely Dan | 今年度のグラミー賞レースの行方には罵詈雑言ラッパー、Eminemの存在が大きな影を落としており、結果がどうなれ“Eminem圧勝!”あるいは“Eminem惨敗!”といったかたちの報道が行なわれるだろう。 そうした状況のため、全米録音芸術/科学アカデミー(NARAS)の投票メンバーがEminemのアルバム『The Marshall Mathers LP』に賞を与えるだけで済ませてしまうと予想したくなる。 第43回グラミー賞の受賞式は2月21日(水)にロスアンゼルスのStaples Centerで行なわれるが、Eminemが受賞する可能性は高い。このラッパーは昨年のグラミーでも受賞しており、しかもその後、ポップス界の最もホットな存在に成長したからだ。さらに彼のプロデューサーのひとりであるDr. Dreも最優秀プロデューサーにノミネートされている。これはアカデミーがEminemのアルバムをシリアスに受けとめている証であり、このノミネーションはパブリシティ用のポーズではないようだ。 それでも、アカデミー会員の多くはEminemが年間最優秀(アルバム)賞を獲ることを嫌がるだろう。このラッパーの口汚い言葉と怒りのメッセージには、女性、ゲイ、親たちの多くが頭を痛めているからである。 だがEminemの最優秀賞獲得を阻むためには、他の誰かが彼より多くの得票を集めなければならない。 Beckの『Midnite Vultures』や、Radioheadの『Kid A』が最優秀賞に輝くのは難しそうだ。アカデミーはオルタナティヴロックが特にお気に入りというわけではないからである。 Steely Danの『Two Against Nature』とPaul Simonの『You're The One』は強力な候補作だろう。問題は両者がともに同じ類の投票者、つまりスマートで洗練されたポップミュージックを好むベビーブーム世代(およびそれ以上)のファンの多くにアピールしている点である。そうしたオーディエンスの票がまっ二つに分かれて、結果的にはEminemが魚夫の利を得るというのが当初の予想であった。とはいえ、アカデミーにおけるポップ志向の中年投票者のブロックの大きさを考えると、たとえ20通りに分かれたとしてもハードコアラップに引きつけられる層よりも数が多い可能性があるのだ。 それではSteely DanとPaul Simonの、どちらがより強力な候補になるだろう? これは難しい。 Simonは確かにより有名で伝説的な存在である。彼はグラミー賞で、最優秀アルバム賞を4回受賞する最初のアーティストになることを狙っている。Simonは現在までに3度の受賞でFrank Sinatra、Stevie Wonderと並んでいる。この部門でのSimonのノミネートは7回目だが、これに匹敵するのはSinatra、George Harrison、Paul McCartney(各8回のノミネート)とBarbra Streisandのみだ。 だがSimonのアルバムを支持するには弱い面も見られる。今回の彼は年間最優秀ソング、最優秀プロデューサー、ベストポップアルバム、ベスト男性ポップヴォーカルといった他の主要部門にノミネートされていないのだ。特にベストポップアルバムにノミネートされなかったのは悪い兆候である。『You're The One』はこのカテゴリーに入る作品だが、投票者はSteely Dan、Don Henley、Madonna、Britney Spearsのアルバムを選んだのだ。 直接投票部門のノミネーションはアカデミーの投票メンバー全体によって決定されるが、年間最優秀アルバム、レコード、ソングおよびベスト新人の“4大”部門は、約25名の業界関係者からなる選考委員会によって、各部門の得票上位20候補からノミネートを選んで決められる。 つまりSimonのアルバムは、この委員会(パネル)の手によって最優秀アルバムの最終候補に残されたのである。グラミー賞が委員によるパネル制度を採用してからの6年間で、各部門でのメンバー全体による直接投票から漏れた作品が最優秀アルバムの候補に残ったケースはこれが4回目だ。同パネルはやはりスーパースターのリリースであるMichael Jacksonの『HIStory: Past, Present And Future, Book 1』とPaul McCartneyの『Flaming Pie』、そしてルーキーの作品であるJoan Osborneの『Relish』を最終候補に残したのだった。 これらの作品はいずれも年間最優秀アルバムはもちろんのこと、他の部門でも受賞することはなかった。 Simonのノミネーションに弱さが感じられたため、Steely Danのほうに注目が集まることになった。幅広く評価されているこの2人組は、以前ベストアルバムの部門に2回ノミネートされたものの、一度もグラミーを受賞したことはない(加えてメンバーのDonald Fagenもソロ作品で2回ベストアルバム部門にノミネートされたことがある)。さらに彼らの巧みなポップサウンドにはジャジーなバックグラウンドがあり、これが多くのグラミー投票者に強くアピールするだろう。 だがSteely Danにもいくつかの弱点はある。彼らのアルバムは昨年春にピークを極め、8月にはアルバムチャートのトップ200から姿を消している。これに対して9月にリリースされたSimonのアルバムは、今もチャートに留まっている。それにSimonのアルバムはWarner Bros.が発売しているが、Steely Danの作品はWarnerの関連会社であるGiant Recordから出ているのだ。レーベルが自社の作品をサポートするレベルを考えてみれば、Warner陣営の人々が今でもチャートに残っている自社直売の作品を差し置いてまで、すでにチャートから落ちてしまった配給契約レーベルの作品をプッシュするだろうか? ノミネーションでの弱さを考えると、Simonが勝つことはあるだろうか? あらゆる点で初めてのケースになるのだ。最終選考では予備選考のときよりもはるかに多くの人々が投票することになる。そして59歳になる伝説のスターが、Eminemの最優秀賞獲得を阻む最大のチャンスを得るのを見ることになるだろう。 勝敗は僅差になるだろうが、私はSimonの勝ちに賭けよう。 今回のグラミー賞の対象期間は1999年10月1日から2000年9月30日までの1年間で、受賞式は2月21日にロスアンゼルスのStaple Centerで行なわれる。 【その他の主要部門編】へ |