世紀を越えて響く本物の“魂”
10年以上のキャリアを総括する |
■世紀を越えて響く本物の“魂” |
M01●「Are You Gonna Go My Way」 M02●「Fly Away」 M03●「Rock And Roll Is Dead」 M04●「AGAIN」 M05●「It Ain't Over 'Til It's Over」 M06●「Can't Get You Off My Mind」 M07●「Mr. Cab Driver」 M08●「American Woman」 M09●「Stand By My Woman」 M10●「ALWAYS ON THE RUN」 M11●「Heaven Help」 M12●「Is There Any Love In Your Heart」 M13●「I Belong To You」 M14●「Believe」 M15●「Let Love Rule」 M16●「Black Velveteen」 1st.『『LET LOVE RULES』』 2nd.『MAMA SAID』 3rd.『自由への疾走』 4th.『サーカス』 5th.『5』 | 個性とは如何なるものなのか。 最近、音楽ビジネス/マーケットがますます多様化する中で、そういった命題について考えさせられることが多い。人が何かを表現するとき、たいていは何かを媒介にして一つの形を作り上げる。こと音楽に関しては、歌詞として表出される歌であり、音階を奏でる楽器ということになるだろう。それらを統合したものが、普段、我々が耳にする楽曲である。とはいえ、音符どおりに打ち込んだ単なる音というだけでは、人々の心を動かさないことは、誰もが経験則として知っている。 たとえば、カラオケに行って、大好きなロック・チューンを歌おうと思ったのに、バックの演奏があまりに原曲の迫力とかけ離れていてガッカリすることは少なくない。俗っぽいのは承知だが、“音”の持つ本来の魅力とのギャップを感じられる例としては、最も身近なものである。 では、生演奏ならすべてクリアされるかと言えば、これがまたそうでもない。結局、奏でる人、歌う人の気が込められているかどうかが重要で、そこで初めて、音符の羅列を超越した世界が提示される。 十人十色とはよく言ったものだが、誰かが誰かに完璧になりきることはできない。字でも絵でも同じで、必ずその人なりの個性が出てくるものだ。ただし、その個性が人を惹き付けるほどのものに昇華されているかどうかは別問題。歴史に名を残すアーティストに共通するのは、究極に突き詰めた個性なのだ。 他民族国家のアメリカでは、混血は珍しいものではない。レニー・クラヴィッツも例外ではなく、ロシア系ユダヤ人でテレビ・プロデューサーの父とバハマ出身の黒人で女優として活躍した母を持つ。両親の仕事柄、幼少時から比較的ショウビズの世界にも近い環境で育ったようだが、その一方で出自を考えれば、華やかな世界とは対照的な生活空間をもその目で見てきたことは想像に難くない。物事には異なる二つの面が存在する。 音楽には小さな頃から馴れ親しんでいた。ティーンエイジャーになると聖歌隊で歌ったりもしているが、カーティス・メイフィールド、ジャクソン5、ジョン・レノン、ボブ・マーリー、ジミ・ヘンドリックスなどにも傾倒。ハイスクール時代にはギター、ベース、ドラムなど多様な楽器を会得し、後のレニー・クラヴィッツ・サウンドの基礎は着々と固められていく。セッションなどを経て、いわゆるプロ・ミュージシャンへの道を模索するようになったのはこの頃だ。 今でこそ、レニー・クラヴィッツと言えば、アメリカを代表する世界的なミュージシャンだが、デビューは簡単ではなかった。 自主制作した音源をレコード会社に売り込む毎日。彼のルックスからくるイメージはもちろん、時代的な背景もあるのだろう。ブラック・ミュージックとはかけ離れた彼のロックは、当初、ほとんど相手にされなかったのだ。そんな折りに、新たにスタートしたヴァージン・アメリカとの契約が成立。'89年11月、1stアルバム『LET LOVE RULES』を発表した。ほぼすべてのパートを自身で担当するマルチ・ミュージシャンぶりも、すでにここからスタートしている。25歳のことである。 周知のとおり、広く注目を集めたのは2ndアルバム『MAMA SAID』('91年)以降。シングル・カットされた「It Ain't Over 'Til It's Over」の大ヒットが躍進の起爆剤でもあった。加えて、マドンナに提供した「Justify My Love」やヴァネッサ・パラディのプロデュースといったコラボレート分野での才能も開花させ、音楽シーンにおける確固たる地位を築く。 そういった活動が布石となり、3rdアルバム『自由への疾走』は全世界で700万枚という驚異的なセールスを記録。印象的なギター・リフで始まる、オープニングを飾るタイトル・トラックは、'90年代を代表する1曲だ。 '95年には、これまでにないほどのシンプルな作風を見せた『サーカス』をリリース。一つ一つの音は深みを増し、よりロック色を強めたかに思えたが、待望の5thアルバム『5』では、ファンクの要素を色濃く感じさせる内容に。 ただし、それ以上に、アナログにこだわりを見せていた彼がデジタル・レコーディングを敢行したことが大きく取り沙汰された。もちろん賛否両論が渦巻いたが、「音楽とは自由なものである」といった基本に立ち返れば、その選択は真っ当である。 ある意味では、彼が幼い頃に見た近隣の世界の表裏に通じるものでもあり、音楽を通した原点回帰の1枚だったと考えてもいい。 先頃リリースされた、初のベスト盤となる『GREATEST HITS』は、10年以上のキャリアを総括できるアルバムだ。もちろん楽曲ごとに多少の色の違いはある。しかし、一度聴いただけで彼の作品であることが判別できるほどの一貫した“個性”が全編を支配しているのもわかるはず。言葉で言い表すならば、“魂”ということになるだろうか。形をなぞっただけのソウル・ミュージックではないからこそ、共鳴し、心に響いてくる。単に“Love & Peace”の概念で括ることができない“血”の匂いを感じさせるのも特徴だ。 本作に収められた新曲「Again」が、現時点での彼ということになるが、過去の楽曲と並べても何ら違和感がない。激しい音を叩きつけたり、優しく囁いたり、そして軽快なリズムで踊らせてくれるレニー。現在は新作に向けたスタジオ作業をスタートさせているという。本物の魂は21世紀にも変わらぬ形で届けられることだろう。その普遍性をどう味付けしてくるのか、ミュージシャンとしての新たな挑戦にも期待したい。 文●土屋京輔(00/11/01) |
■Lenny Kravitz Special「プロモーション・ビデオ特集」 |
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